Special Talk | 特別対談

AIは人材派遣サービスをどう変えるのか?-キャリアアドバイザーが期待するマッチングの未来-

※文中の会社名は、掲載当時の情報です。

人材派遣サービスのキーマンともいえるキャリアアドバイザー。登録スタッフの要望と企業の採用条件を日々チェックし、最適なマッチングを提案する重要な役目を担っています。

マッチングは決して簡単ではありません。人材を募集する企業や求職者は膨大な数に上り、お互いの条件がぴたりと一致することは稀だからです。特にエンジニア業界は技術の進化が早く、キャリアプランやスキルセットも日々変わっていきます。キャリアアドバイザーはそうした変化にもついていかなければいけません。

そんなキャリアアドバイザー業務に革新をもたらすと考えられているのがマッチングAIです。パーソルテクノロジースタッフ株式会社は2019年3月より独自開発AIの導入を発表しており、今後のサービスの拡充を図っています。

今回は、当社のキャリアアドバイザーである石井邦明さん、松浦和美さん、そして登録スタッフである小林 司さんにお越しいただき、AI導入によって人材派遣の現場がどう変わっていくのかについて語っていただきました。(以下、敬称略)

働き方の多様化でマッチングは高度化している

  • ――まずは自己紹介をお願いいたします。

    松浦 :「キャリアアドバイザーの松浦です。2006年に入社し、オフィスワーク派遣を担当していました。1年ほど前からITやWEBクリエイティブ領域のご支援をしております」

    石井 :「同じくキャリアアドバイザーの石井です。私はもともとキャリアアドバイザーだったわけではなく、PHPのエンジニアとして勤務していました。その後、採用業務をお手伝いしたことをきっかけに、エンジニアの管理業務などを担当するようになり、2007年ごろからキャリアアドバイザーとして業務を行っています。エンジニアだった経験を生かして、キャリアアドバイザーとしてもWEB開発業務領域に特化したご支援をさせていただいております」

    小林 :「小林と申します。求職していた頃は石井さんにサポートしていただいていました。現在、ご紹介いただいた企業に勤務しております。私はもともとJavaScriptのエンジニアで、現在の業務内容もそのスキルを活かしたものです」

  • ――キャリアアドバイザーという業務について教えてください。

    石井 :「シンプルにいえば、求職者の方と人材を募集されている企業様をマッチングする仕事です。たとえば企業様から『JavaScriptを書けるエンジニアを探してほしい』というご要望があれば、そのスキルをお持ちの求職者の方をご紹介し、ご成約に至るまでをサポートします」

  • ――登録から成約までの期間はどれくらいかかるものなのでしょう。

    石井 :「ご登録後は打ち合わせを行い、職場見学会などを通じて条件の合う企業をご案内いたします。理論上は1〜2日で決まるということもありえますが、登録スタッフ様(求職者)と企業様の条件がお互いに100%マッチすることは稀です。条件が厳しい方もいらっしゃいますし、じっくり時間をかけて探したいという方も多いです。ですから、アベレージでいうとやはり2週間ほどはかかりますね」

    松浦 :「登録スタッフ様と企業様、それぞれの条件を照らし合わせて歩み寄れる部分を探し、交渉をするのが私たちキャリアアドバイザー、または企業様を担当している営業の役割になります」

  • ――たしかにスキルセットがマッチしていれば即OKかというと、そんなことはありませんよね。小林様の求職時の条件はどんなものでしたか?

    小林 :「エンジニアとしてのスキルを伸ばせる職場であること。それと、個人的な希望で週3日勤務にしたかったので、そういった働き方の融通が利く企業を希望していました。現在は希望通りの条件で勤務することができています」

    石井 :「現在は働き方が多様化しており、小林様のように週3日や4日といった勤務体系を希望される方も増えています。企業様としてはやはりフルタイムをご希望されることが多いのですが、今回は小林様のご要望が通ってご就業いただくことができました」

  • ――登録スタッフ様の条件をすべて満たせるのが理想でしょうけれど、とはいえ希望をかなえるのが難しい場合もありそうですね。

    石井 :「そうですね。自分自身のことですからよくわかっているつもりになりがちですが、実は希望する条件が矛盾していることもあるのです。たとえば、体調を崩しているので無理はしたくない。一方でエンジニアとしてスキルアップしたいしチャレンジもしたい……。その結果、まだ体調が完全ではないのに負荷のかかる職場を希望されてしまうこともあります。こうした矛盾は、自分のことだからこそ気づきにくく、人から指摘されて初めて気づくことが多いです」

    小林 :「たしかにエンジニアとしてはつい、スキルアップすることに目が行きがちですよね。テクノロジーの世界は技術の進化が早く、のんびりしていると置いていかれるという恐怖がありますから」

    松浦 :「キャリアプランは本当に人それぞれで、パターン化はできません。だからこそ、登録スタッフ様一人ひとりに向き合い、仰っていることの本質を引き出すことが大事なのです」

AIに期待するのは工数の削減と先入観のないピックアップ

  • ――人材業界ではAIマッチングの導入が進みつつあり、パーソルテクノロジースタッフ株式会社でも2019年3月より独自開発AIの導入を行っています。キャリアアドバイザーのお二人は、AIについてどんなことを期待されますか。

    石井 :「私たちキャリアアドバイザーは登録スタッフ様に適した仕事を見つけてご案内するわけですが、この“適した仕事を探す”というところに膨大な工数がかかっています。もちろん、探すのも重要な仕事なのですが、AIが過去のマッチング事例などを学習してサジェストしてくれると、その部分の工数を削減することができます。その分、私たちは登録スタッフ様とコミュニケーションして、より深くご要望を掘り下げることができるでしょう」

    小林 :「ご支援いただいていたときから、石井さんにはしっかりとコミュニケーションをとっていただけていましたが、とはいえもっと充実するのは嬉しいですね」

    松浦 :「AIの恩恵は工数の削減だけではありません。これまでキャリアアドバイザーは、Excelやシステムに登録されているデータ、および営業から見聞きした情報などをもとに、『あの企業様があの登録スタッフ様にマッチするのでは?』とアナログな作業でピックアップしていました。石井のように経験豊富なキャリアアドバイザーであれば、『一見すると条件に合わなそうだけど、実はぴったりなのでは』といった“ひらめき”を駆使したマッチングもできるのですが、新人キャリアアドバイザーがいきなりそのレベルのサービスを提供するのは難しいです」

  • ――キャリアアドバイザー自身の経験がものをいう領域ですね。

    松浦 :「その点、AIは過去の膨大なマッチング事例を学習した上でサジェストしてくれますから、“経験豊富なキャリアアドバイザーによるひらめき”と同等のピックアップが期待できるのではないかと思います。そうやってAIが出してきた候補をキャリアアドバイザーの考える候補と合わせてご提案できると、より登録スタッフ様のキャリアの可能性が広がるのではないかと思います」

  • ――AIは新しい視点をくれるので、個人の先入観にとらわれずに、さらに自由な発想ができそうですね。

    松浦 :「たしかに人間である以上、先入観は絶対にあります。先入観を持つことは必ずしも悪ではなく、だからこそ強い思いを持ってご支援できる部分もあると思いますが、それによって選択肢を狭めてしまう可能性は否めませんね」

    石井 :「自分ではそんなつもりはなくても、きっと私たちも何かしらの先入観に引っかかっているのだと思います。だからこそ、先入観を持たないAIの判断は、キャリアアドバイザーにとっても新鮮な驚きと成長をもたらしてくれると思います」

    松浦 :「そうですね。『こんな視点があったのか!』と思わされますね。」

  • ――逆に求職者の方も先入観はありそうですね。

    小林 :「山のようにあると思いますよ。実際、自分ひとりで仕事を探していたときは視野が本当に狭かったと思います。フラットに見ているつもりでも、どうしても知名度のある有名な会社に惹かれることは多いです。そういったバイアスを自分自身の力で乗り越えるのは、なかなか心理的なハードルがありますよね。また、エンジニアはどうしても経験のあるプログラム言語に引きずられがちです。実際は他に考えるべき軸がたくさんあるのですが、なかなか目がいきません。そういった部分をサポートしてくださるのがキャリアアドバイザーの方です。AIがバイアスを取り除いてくれて、さらにキャリアアドバイザーの方とのコミュニケーションの時間が増えるのはまさに一石二鳥で嬉しいことです」

今後はより“線のキャリア”を意識したサービスへ

  • ――今後、AIの精度が上がるにつれて、キャリアアドバイザーの仕事も変わっていきそうですね。

    石井 :「これまで若干、オペレーションよりになっていたところをAIに任せることで、本来の仕事により注力できるようになるでしょうね。時間がないとどうしても『次の仕事を探す』という“点のキャリア”でしか考えられない部分がありますが、今後はもっと『将来どうなっていきたいか』という“線のキャリア”を意識した上でのご支援ができるようになると思います」

    松浦 :「キャリアコンサルタント的な領域まで踏み出せるようになるのかなと思います。そもそも私たちは登録スタッフの方にお仕事をご紹介して、それで終わりだとは考えていません。就職後のサポートも含め、長くお付き合いすることで、その後のご活躍も支援していきたいと考えています」

  • ――AIにより“人の良さ”が失われるようなことはありませんか?

    石井 :「それはないでしょう。AIによりサービスレベルのアベレージは大きく引き上げられるでしょうけど、最終的にAIをどう活用してご支援するのかという部分はキャリアアドバイザーが担います。その意味ではやはり属人的な部分は残るし、私はむしろそれを生かしていきたいと思います」

    松浦 :「人にはAIにはない“想い”があり、それがキャリアアドバイザーの武器でもあります。AIと人の力の相乗効果で、今後もしっかりとご支援を続けていきます」

※本文中に記載の社名・部署名等は取材時点のものです(2019年5月7日時点)

  • WEB系システムエンジニア

    小林 司

    ECサイト等のWEBサービスの設計・開発を主に担当し、特にデータ設計を得意としている。仕事とプライベートの両立のため、エンジニアとしてのスキルアップを続けながら週3日勤務できる職場を希望している。

  • パーソルテクノロジースタッフ株式会社
    人材開発部 CA企画グループ
    国家資格 キャリアコンサルタント

    松浦 和美

    2006年 インテリジェンス(現パーソルテクノロジースタッフ)に入社。これまで事務派遣領域、ITエンジニア領域におけるキャリアキャリアアドバイザーや内勤営業として従事するほか、若手キャリアキャリアアドバイザー向けの研修企画~運用などにも携わる。2017年、経営統合によりパーソルテクノロジースタッフへ社名変更を経て、今回のプロジェクトでは、テストデータの検証やシステム導入後の現場活用を促進するための役割として、現場向けの研修やタスクフォース推進などを行う。

  • パーソルテクノロジースタッフ株式会社
    人材開発部 首都圏IT第1グループ ブランドエバンジェリスト

    石井  邦明

    2007年、テンプスタッフ・テクノロジー(現パーソルテクノロジースタッフ)にWEB開発エンジニアとして入社し、複数のプロジェクトに参画。プロジェクトが区切りとなったタイミングで、人員の足りなかった社内業務をサポートしたことをきっかけに内勤へシフト。 その後エンジニアの採用業務、管理業務や、企画部門などを経て、2012年からWEB開発領域に特化したキャリアアドバイザーとして従事。現在まで述べ1,000名を超えるエンジニアのキャリアをご支援。