ゲーミフィケーションとは?仕事や教育に活かすためのやり方と成功事例

ゲーミフィケーションとは、サービスの提供や企業研修といった広範なビジネス分野、あるいは教育分野など、非ゲーム環境にゲーム要素を取り入れ対象者を熱中させることで、コミュニケーションや行動を促進したり、学習や作業のモチベーションを高めたりと、ロイヤルティの強化を図るためのアプローチです。
本記事では、ゲーミフィケーションの概要や導入時に活用したい手法、やり方を解説。さらに導入の参考となる事例を「ビジネス」「企業研修」「教育」の切り口からそれぞれピックアップして紹介します。
POINT
- ゲーミフィケーションとは、本来はゲーム要素のないものにゲームの要素や考え方を取り入れ、対象となる人のモチベーション管理やエンゲージメントを高める、心理学に根差した手法
- 一時的なモチベーションアップだけでなく、習慣化された行動へと導くにあたっても有効
- ビジネスや研修、教育など、さまざまな分野で用いられている
Contents
ゲーミフィケーションとは

ゲーミフィケーションとは、さまざまなサービスや教育、仕事など、本来はゲーム要素のないものに「ゲームの要素や考え方」を取り入れ、対象となる人のモチベーション管理やユーザーエンゲージメントの向上を図る手法です。
ここでいう「ゲーム要素」とは、条件をクリアするごとに「ブロンズ」「シルバー」「ゴールド」のように階級が上がるバッジ制度の採用や、ポイントなどリワードシステムを導入してインセンティブがもらえるといった要素を指します。
これらをマーケティングや組織作り、教育オペレーションなどに組み込むことで、対象者とのコミュニケーションや関係性の強化が可能に。結果、対象者の能動的な行動変容を促せる、というアプローチです。
ゲーミフィケーションの意味
ゲーミフィケーション(gamification)は「日常のさまざまな要素をゲーム化する」ことを意味する「gamify」から作られた造語であり、日本語ではそのまま「ゲーム化」と訳されます。
ゲーミフィケーションの概念自体は昔からあるものですが、ゲーミフィケーションという呼び方があらためて注目され始めたのは、2011年にアメリカのリサーチ会社であるガートナー(Gertner,Inc.)が最新のトレンド技術を発表する「テクノロジーハイプサイクル」のなかで取り上げたことに由来するとされています。
ゲーミフィケーションが普及した背景
ゲーミフィケーション普及のきっかけとなったのは、先にも紹介したとおり2011年の「テクノロジーハイプサイクル」への掲載です。以前からある概念にもかかわらず、なぜこのタイミングで注目を浴びたのでしょうか? その背景には、人々の生活に溶け込み、いまや必要不可欠となった「Webの普及」があります。
Webの普及により、人々の情報収集のあり方は一変。同時に購買行動にも変化が現れました。消費者は自ら情報を取りに行く時代となり、一方的に投げかけられた情報では行動を促せなくなったのです。
そこで、消費者自ら「動きたい」と思う要素を追加する、ゲーミフィケーションの考え方にスポットがあたり、普及していったといわれています。
ゲーミフィケーションの心理的影響と得られる効果

ゲーミフィケーションには、心理学に基づいた次のようなアプローチが採用されています。
- 参加者の行動変容を促すメカニズム:ポイントシステムやバッジ制度などのゲーム要素は、目標達成に向けたアクションへのフィードバックとなるものです。このフィードバックは、参加者の行動変容を促す具体的な動機になります。
- 持続的なモチベーションの維持:ゲーミフィケーションにて継続的な報酬を提供することは、長期間にわたるゲームへの参加を促します。一時的なモチベーションだけでなく、習慣化された行動へと導くものです。
具体的には、ゲーミフィケーションの導入によって下記のような効果を得られます。
- モチベーションの向上(消費行動の活発化、生産性の向上)
- 目標設定が容易になる
- 楽しみながら取り組める
たとえば消費活動においては、購入数に応じたポイントを付与し、溜まったポイントで景品と交換できるようにする、といった要領でゲーム的要素を取り入れます。結果、貯めたいポイント数(=目標)が自然と定まり、ポイントを獲得するためのモチベーションが上昇。購買活動が活発化し、ポイントがある程度貯まってくれば「あと○ポイント」とワクワクしながら取り組めるようになります。
企業研修や組織作り、教育現場においても同様の考え方を応用できます。売上目標をチームで競わせ、達成できたチームは表彰する、あるいは寸志を出すのも良いでしょう。教育現場では難易度別にテストを用意して、すべてで合格点を取れれば志望校への合格が近づく、といったRPG要素の追加も有効です。
つまり、サービスや組織作り、教育などにゲーム要素を取り入れる(ゲーミフィケーションする)ことで、対象者が自然と取って欲しい行動を取ってくれるようになるのです。ゲーミフィケーションは、達成感や進捗を感じることによりモチベーションを得られる、自然な人間心理を巧みに利用した手法といえるでしょう。
ゲーミフィケーションのやり方
企業などでゲーミフィケーションを取り入れる場合、まずは対象者の分類を行います。企業研修の場合であれば、研修に参加する社員が対象者です。彼らを後述する「バートルテスト」のどの分類に当てはまるかを検討します。
定まった分類に合わせて、ゲーミフィケーションに必要な要素をカスタマイズしていきます。
実施する際に使用したい分類法「バートルテスト」

ゲーミフィケーションを取り入れる際には、イギリスのゲーム研究家であるリチャード・バートルが考案した「バートルテスト」という分類法を使用して、対象者が下記4つのどの分類に当てはまるのかを考察します。
分類 | 行動 タイプ |
関心の 場所 |
モチベーション | 有効な ゲーミフィケーション |
---|---|---|---|---|
アチーバー (Achiever) |
単独 行動 |
ゲーム自体 | 目標の達成 | レベル上げやアイテムの制覇で満足度を得るタイプなので、次のステップを明確にする細かい目標設定が効果的 |
エクスプローラー (Explorer) |
集団 行動 |
ゲーム自体 | 新しい発見や予想外の報酬 | 隠れ特典や予想外の報酬などに対して喜びを感じるタイプなので、新しい企画へのチャレンジやジョブローテーションが効果的 |
ソーシャライザー (Socializer) |
集団 行動 |
他プレイヤー | 他のプレイヤーとの交流 | 他プレイヤーとの交流や頼られることに喜びを感じるタイプなので、プロジェクトにおける他部署との連携役などの役割を与えるのが効果的 |
キラー (Killer) |
単独 行動 |
他プレイヤー | 競争 一番になること |
他プレイヤーよりも優れていることに満足感を得るタイプなので、コンペなど社内外問わず優秀さをアピールできる場を設けてあげるのが効果的 |
この分類からも分かるとおり、対象者を分類する理由は「ゲームに熱中する理由は人それぞれ」だからです。つまり、ゲーミフィケーションは「対象者が関心を持っているゲーム要素」を足すことが重要であり、ただ単にゲーム要素を取り入れるだけでは不十分。対象者のモチベーションが上がる「課題」を設定すべく、まずは対象者それぞれの傾向を把握する必要があります。
ゲーミフィケーションに必要な要素
対象者の分類ができたら、ゲーミフィケーションに求められる下記の5つの要素の設定を行います。
- 目的
- 課題(クエスト)
- 報酬
- 可視化
- 交流
目的
まずは対象者にとって欲しい行動(=目的・目標)を定めます。ゲームでも「敵を倒す」「街を作る」といった最終的な目的がないと、取り組むモチベーションが沸きません。
たとえば展示会や「○○フェスタ」のようなイベントにおいては、下記の項目などが目的となるでしょう。
- 回遊率を上げる
- SNSに投稿してもらう
- 参加者同士のコミュニケーションの発生
課題(クエスト)
目的が決まったら、対象者に目的を達成する行動をとってもらうための課題を設定します。
たとえば目的を「回遊率を上げること」におくのであれば、スタンプラリーやSNS映えスポットを設置することで各所を回る必要性が出てくるため、クエスト(課題)に設定します。クエストの設定では複数の難易度を用意し、段階を経るごとにその難易度にあった報酬を提供すると参加意欲をより高められるでしょう。
また、クエストをスタンプラリーとする場合は、会場マップに設置場所を載せるのではなく、「参加者自身で探してもらうようにする」もしくは「隠し設置場所を用意する」など、難易度を少し上げてみるとよりゲーム性が高まります。
報酬
クエストをスタンプラリーとした場合、スタンプを集めるだけでも満足する参加者はいるでしょう。しかし、報酬の設定がないと多くの参加者は行動しようとは思いません。クエストを達成した際の報酬は必要不可欠のものです。
- すべてのスタンプを集めた人には景品を用意する
- すべてのスタンプを集めたうえに隠し設置場所のスタンプをゲットした人には特別な景品を贈呈する
このように、クエストの難易度に合わせた景品を用意すると、参加者のモチベーションをより高められるでしょう。
可視化
「いまの段階で何人達成者がいるのか」を可視化することも、クエストへの参加モチベーションを高められます。スタンプラリーの場合であれば、下記のような方法が考えられます。
- 会場にある掲示板に達成者を表示する
- スピーカーで現時点での達成者の人数を定期的に発表する
また、景品をもらえる人数を限定するのもモチベーションを高めるうえで有効です。そのうえで達成人数を発表すれば、未達成者のモチベーションはよりかき立てられるでしょう。
交流
目的への達成意欲を刺激する点では、参加者同士の交流や競走も重要です。
イベントのスタンプラリーで例えると、「とあるスタンプの設置場所で参加者同士がお互いに別の設置場所を教え合う」、あるいは「現時点で集めているスタンプの数の多さを確認し合うことで切磋琢磨する」といった要領です。先にも触れていますが、達成の景品数を限定するとさらに競争意欲を刺激できます。
こうして同じ目標に向かって競争したクエストは思い出に残ります。たとえ年1回のイベントだとしても、愛着を持ってもらいやすくなるでしょう。
ゲーミフィケーションの成功事例
ゲーミフィケーションは企業・ビジネス・教育などのさまざまな場面で広く活用されています。ここでは各分野において、上手にゲーミフィケーションを取り入れて成功を収めた事例を紹介していきます。
仕事・ビジネスでのゲーミフィケーション
春になると開催されるイベントで、長年人気を博しているキャンペーンがあります。対象商品に付いているシールを集めて、景品と交換できる同キャンペーンは、今や知らない人はいないほどの知名度です。
専用の台紙をシールで埋めていく喜び、また指定の枚数を集めれば全員が景品をもらえる点にワクワク感を覚える人も多く、毎年の開催を心待ちにするなど根強いファンの獲得に成功しています。
会社・企業研修でのゲーミフィケーション
とある外食チェーン店では、調理プロセスの浸透を目的としたVRゲームをリリースしています。
仮想空間の厨房で、同社の主力商品の調理工程を楽しみながら学べるストーリーが展開されており、同社の認定制度において、没頭性の高いVRゲームを利用した研修はスキルの習熟度を早める効果が実証されています。
教育・勉強の分野でのゲーミフィケーション
古くからゲーミフィケーションを取り入れて来たのが教育現場です。現在ではアプリを使用したゲーミフィケーションの導入も目立ち、アクティブ・ラーニングを促すことに成功しています。
とある通信教育講座では、「歴史人物を戦わせる」学習アプリをリリース。制限時間内にて“関連性のある”歴史上の人物を組み合わせて、ステージをクリアしていくストーリーになっています。これにより、歴史上の人物に関する問題において、アプリ学習に取り組んだグループの方が取り組まなかったグループと比べて良い成績を残したという結果を得ています。
ゲーミフィケーションの未来と新トレンド
多様な分野で成功を収めているゲーミフィケーションは、新しい技術との組み合わせによってますます進化しています。ここでは、ゲーミフィケーションのAIとの融合や、次世代のトレンドを探ります。
AIとゲーミフィケーションの融合
ビッグデータの解析などAI技術の進化によって、企業はユーザー行動や趣味趣向を細分化して把握し、それらに基づいたパーソナライズ化されたサービスや体験を提供できるようになりました。このイノベーションは、ゲーミフィケーションにも応用できるものです。
たとえばあるフィットネスアプリでは、ユーザーの運動履歴や健康データをベースに、AIが個々に最適なトレーニングプログラムを提案し、ゲームの要素を通じてモチベーションを高めています。ユーザー一人ひとりに適したクエストと報酬を設定し、エンゲージメントの向上につなげる手法です。
VR・ARとゲーミフィケーションの融合
VR(バーチャルリアリティ)やAR(拡張現実)のような新しいテクノロジーがゲーミフィケーションと融合されることで、ユーザーはより没入感のある体験を獲得できます。これにより、学習やトレーニングはより効果的かつ楽しいものに変わってくるでしょう。
ゲーミフィケーションを実施する際の注意点

ゲーミフィケーションは導入さえすれば良いわけではありません。導入に伴う課題も認識し、解決策も含めて理解しておきましょう。
ゲーミフィケーションが失敗する原因と対策
ゲーミフィケーションが上手く機能しない、あるいは失敗してしまう背景の多くには、目標とゲーム要素がうまく統合されていないことが挙げられます。過度に複雑なルールや、ユーザーの関心と連動していないリワードシステムの導入などは避けるべきです。
効果的なゲーミフィケーションのためには、明確な目標設定、シンプルで理解しやすいゲームデザイン、そして参加者のフィードバックを定期的に取り入れることが重要です。
ゲーミフィケーション導入時の具体的なステップとヒント
ゲーミフィケーションは、導入初期段階は小規模から始め、徐々に範囲を広げていくステップが望ましいです。初期の成功を応用する形で、徐々により多くの要素を組み込んでいく流れが理想です。
また、長期的な成功を視野に入れ、参加者の継続的な関与とモチベーションを保つために、新しい要素や報酬を定期的に更新することも重要です。
- ゲーミフィケーションとは、本来はゲーム要素のないものにゲームの要素や考え方を取り入れ、対象となる人のモチベーション管理やエンゲージメントを高める、心理学に根差した手法
- 「日常のさまざまな要素をゲーム化する」ことを意味する「gamify」から作られた造語であり、日本語ではそのまま「ゲーム化」と訳される
- ビジネスや研修、教育など、さまざまな分野で用いられている
- ゲーミフィケーションが普及した背景には「Webの普及」がある
- 消費者が自ら情報を取りに行く時代となり、消費者自ら「動きたい」と思う要素を追加する、ゲーミフィケーションの考え方にスポットがあたった
- ゲーミフィケーションを取り入れる際は、「バートルテスト」で対象者を分類し、対象者のモチベーションが上がるような「課題」を設定していく
- AIやVR・ARとの融合を経て、ゲーミフィケーションの実効性はさらに増している
- 課題を達成した段階で対象者に素早くフィードバックを行うことも重要