マルチモーダルAIとは?生成AIなど実用例とシングルモーダルAIとの違いを解説

AIの未来を切り拓く重要な技術として注目されている「マルチモーダルAI」。これは人間のように複数のデータモード(視覚、聴覚、言語など)を同時に処理する能力を有し、これまでは解決が難しかった課題にも対応する技術です。
本記事では、マルチモーダルAIの技術要素や実用例、さらに現状の課題について考察します。エンジニアとして知っておくべき知識を整理しておきましょう。
POINT
- マルチモーダルAIとは、テキストや画像、音声など異なるデータを統合して処理できるAI技術
- シングルモーダルAIと比較してより複雑な文脈理解や高度な意思決定が可能
- ChatGPTやGeminiなどの生成AIにもマルチモーダル技術が組み込まれ、より多様な出力が可能になっている
- 計算リソースの最適化や標準化が進むことで、さらなる技術発展と実用化が期待される
Contents
マルチモーダルAIとは

マルチモーダルAIとは、画像や音声、テキストなど、異なる種類のデータをまとめて処理・分析する人工知能技術です。
従来のシングルモーダルAIでは単一のデータ形式しか扱えませんでしたが、マルチモーダルAIはこれを超えた相互理解を推進します。
【マルチモーダルAIを理解する3つのポイント】
- 視覚・聴覚・言語の統合:人間の感覚に似たデータ処理を実現する
- 相乗効果:複数モードの情報を組み合わせ、より精度の高い結果を出力する
- 適用範囲の広さ:医療、製造業など多岐にわたる応用が見込まれる
シングルモーダルAIとの違い
先にも述べたシングルモーダルAIとは、単一のデータ形式のみを扱うAI技術です。たとえば画像認識AIは視覚データだけを、自然言語処理(NLP)はテキストデータだけを解析します。
そのため、シングルモーダルAIの処理は相対的にシンプルであり、限定的なタスクには有効です。しかし、複数のデータ形式の情報を同時に処理する必要がある高度タスクへの対応は困難となります。
つまりマルチモーダルAIは、次のような点においてシングルモーダルAIにはない優位性があります。
- データの統合理解:画像+テキスト、映像+音声など、複数の情報を相互に関連づけて解釈
- 応用範囲の広さ:医療や自動運転、エンタメなど多分野での活用
- 人間らしい判断力:文脈や状況を統合的に把握し、より適切な意思決定を実施
マルチモーダルAIにできること
では、マルチモーダルAIの技術によって、どのようなことが可能となるのか。代表的な例を挙げていきます。
- 画像+テキストなど複数データの統合的な同時学習
- 映像と音声を解析し、不審行動を検出する行動認識
- 画像からテキストを生成する自然言語生成アプリケーション など
このように、従来型のAI技術では困難であった高度な分析や予測に用いられます。
マルチモーダルAIの実用例

マルチモーダルAIの実用例について、次の技術要素に分類してさらに深掘りしていきます。
- 自動運転技術
- 防犯・セキュリティ技術
- 医療現場
- 製造現場
- 介護施設
- 産業用ロボット
自動運転技術
マルチモーダルAIが活躍する代表的なテクノロジーに挙げられるのが、自動運転技術です。
【具体的な実用例】
- 障害物検出:道路上の歩行者や他の車両をカメラとLiDARセンサーで認識
- 状況予測:他の車両の挙動を予測し、衝突を回避
- 効率的なルート選択:環境情報を基に、安全かつ効率的な走行ルートを提案
自動運転では、映像や音声、環境情報など、カメラやセンサーから得られるデータを統合し、リアルタイムで車両の周囲環境を認識しています。雨天や夜間のような複雑な状況下でも、映像データとセンサー情報を組み合わせることで、正確な環境認識を実現していますが、それにひと役買っているのがマルチモーダルAIです。
このように、マルチモーダルAIによって自動運転技術の安全性と精度は大幅に向上しています。
防犯・セキュリティ技術
防犯・セキュリティ分野においても、マルチモーダルAIは大きな役割を果たしています。
【具体的な実用例】
- 不審行動検出:映像からの行動解析と音声データを組み合わせ、暴力行為や危険な状況を迅速検知
- 異常音の識別:ガラスが割れる音や悲鳴など、危険を示す特定の音声を解析
- 犯罪の抑止:映像と音声を統合して、潜在的な犯罪を未然に防ぐシステムを構築
このように、防犯カメラの映像データと音声データを統合的に分析することで、従来のシステムでは検知できなかった異常事態を発見できるようになっています。
医療現場
医療分野におけるマルチモーダルAIの活用は、患者の診断や治療に革命をもたらしています。
【具体的な実用例】
- 診断の精度向上:画像診断データと患者の既往歴を組み合わせて診断が正確化
- 早期発見:病気の兆候を従来よりも早く検出
- 治療計画の効率化:患者ごとに最適な治療法を提案
CTスキャンやMRIなどの画像データと、患者のカルテ情報を統合して分析することで、医療従事者の意思決定を支援します。たとえばAIシステムを活用して、がん患者のCTスキャン画像と血液検査の結果を統合し、がんの進行度を高い精度で予測します。
製造現場
製造現場では、マルチモーダルAIの活用によって生産性が大きく向上。コスト削減にも貢献しています。
【具体的な実用例】
- 生産ラインの最適化:センサーから取得したデータと映像を統合し、機器の稼働状況をリアルタイムで監視
- 故障の早期発見:振動データや温度データと映像を組み合わせ、故障の兆候を検知
- 製品の品質管理:視覚センサーと触覚センサーを活用し不良品を検出
従来の製造工程では人間が手作業で行っていた部分が多く存在しましたが、マルチモーダルAIの活用で、これらの工程をより正確かつ効率的に進められるようになりました。たとえば自動車の製造ラインでは、ロボットがカメラで部品を確認し、触覚センサーで締め付け具合を確認するなど、ミスのない組み立ての実現に貢献しています。
介護施設
マルチモーダルAIは介護領域にも応用されており、施設での高齢者ケアの質を向上させています。
【具体的な実用例】
- 転倒検知:センサーとカメラを組み合わせ、高齢者の転倒を即座に検知
- 健康モニタリング:音声と心拍数データを解析し、健康状態を把握
- 見守りシステム:夜間の行動をカメラと音声で記録し不審な動きを検知
このように、音声や映像データ、さらに生体データを統合して分析することで、介護者の負担軽減と利用者の安全確保に役立っています。
産業用ロボット
産業用ロボットにおいてもマルチモーダルAIは重要な役割を果たしており、視覚・触覚センサーのデータを統合し、より精密で柔軟な動作を実現しています。
【具体的な実用例】
- 組み立て作業の効率化:部品の形状や位置を正確に認識して、最適な動作を計画
- 品質検査の高度化:製品の外観や内部データを同時に解析し不良品を検出
- 安全性の向上:周囲の状況をリアルタイムでモニタリングし危険を回避
このようにマルチモーダルAIの技術は、生産性向上だけでなく、安全性の確保にも役立っています。
マルチモーダルAIモデルを搭載している生成AI
AI技術の進化に伴い、マルチモーダルAIを活用した生成AIが急速に発展しています。その代表例が、ChatGPTとGeminiです。これらのAIはテキストだけでなく、画像や音声を理解し、それに基づいて適切な応答の生成が可能です。
ChatGPT
OpenAIが提供するChatGPTは、マルチモーダルAIの機能が活用されているプロダクトの代表例です。特に上位モデルであるGPT-4では、テキストデータと画像データを組み合わせて処理できるマルチモーダル能力が追加されており、機能はより多様化しています。
【主な機能】
- 画像キャプション生成:画像を入力し、それに基づく説明文を生成する
- テキスト+画像の統合理解:質問に対し、画像を含む答えを提示する
- マルチモーダル対話:テキストと画像を含むコンテキストでのやり取りを実現
Gemini
Googleが開発するGeminiにも、マルチモーダルAIの最先端技術が搭載されています。自然言語処理と画像認識を組み合わせた高度なタスクに対応可能であることが、Geminiが多様なビジネスシーンで注目されている要因ともいえるでしょう。
【主な機能】
- マルチモーダル検索:テキストと画像を組み合わせた検索クエリに対応する
- 高度な自然言語処理:テキストと画像データを同時に理解し、文脈に基づいた回答を提供する
- カスタマイズ可能な応用:各種業界向けのアプリケーションにも適応
マルチモーダルAIにおける課題
マルチモーダルAIは、シングルモーダルAIと比較して圧倒的な情報処理能力を持ち、多くの産業で活用が進んでいます。しかし、そのポテンシャルを最大限発揮させるには、次のような課題を克服しなければなりません。
- 大量のデータを処理する必要がある
- 定義や解釈の共通認識をより厳密に持つ必要がある
大量のデータを処理する必要がある
マルチモーダルAIが直面する最大ともいえる課題は、膨大なデータの処理能力です。テキストや画像、音声などの多様なデータを同時に扱うため、従来のシステム以上に高い計算能力とデータ管理が求められます。
【具体的な課題と対応】
- 計算負荷の増大:大量のデータを並行処理するため、高性能なハードウェアが必要
- データストレージの確保:膨大なデータを効率的に保存し、アクセス可能にする仕組みが必要
- 学習コストの上昇:複雑なモデルを学習させるため、大量の計算資源と時間が必要
この課題への対処には、高性能GPUの活用や分散処理システムの構築、効率的なデータ圧縮技術の開発などが求められます。
定義や解釈の共通認識をより厳密に持つ必要がある
マルチモーダルAIでは、異なるデータモード間での整合性を確保するために、定義や解釈の共通認識が重要です。同じ画像データを複数のシステムで処理する場合、それぞれの解釈が異なっていては正確な分析は望めません。
【具体的な課題と対応】
- データの正規化:異なる形式のデータを統一的に処理できるように変換
- 統一的な評価基準の確立:モデルの性能を適切に評価するための基準を策定
- 異常検知の精度向上:データ間の整合性を保ちながら、異常を見逃さない仕組みを構築
たとえば医療分野での応用では、患者の画像データと診療情報が一貫性を持って解釈されることが求められます。仮に異なるシステム間で診断結果が乖離してしまうと、誤診のリスクが増してしまうためです。データの正規化や評価基準の確立といった施策は欠かせないでしょう。
- マルチモーダルAIとは、テキストや画像、音声など異なるデータを統合して処理できるAI技術
- シングルモーダルAIと比較してより複雑な文脈理解や高度な意思決定が可能
- 自動運転や防犯、医療、製造業など、幅広い分野で活用が進んでいる
- ChatGPTやGeminiなどの生成AIにもマルチモーダル技術が組み込まれ、より多様な出力が可能になっている
- データ処理負荷の増加や異なるデータの解釈の統一といった課題が存在する
- 計算リソースの最適化や標準化が進むことで、さらなる技術発展と実用化が期待される