自動車の品質を守る要!実験部って一体どんな仕事をしているの?
自動車メーカーが開発したクルマに自信をもてるのには理由があります。
それは自動車が量産される前に必ず、さまざまな使われ方を想定した耐久試験を行い、車両性能や安全性をチェックしているからです。
厳しい試験をクリアしている製品は、私たちの暮らしを豊かなものにしてくれます。
今回はそんな品質の要とも言える部署、車両実験部について解説します。
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車両実験部の仕事1:量産前の試験で製品の品質を守る
車両実験部の仕事は主に2つあります。
1つ目は新しい車の量産前に行う実車試験です。
通常、ウォッシャータンクやワイパーなど部品単体の性能は、メーカー側で試験をしますが、それを組み付けた車両としての性能を試験するのが車両実験部の仕事です。
例えば
- 車両を壁に衝突させて安全性を見る衝突試験
- 車両をノンストップで数十時間、数百時間ずっと走らせ続けたり、坂道や石畳など悪路を走らせたりする耐久性能試験
- 深い水たまりを想定した水没試験
などを行います。
そのため、各自動車会社の持つテストコースなどに出張することも少なくありません。
このように、車両実験部によって必要な性能や品質チェックをクリアして初めて、量産に踏み切ることができるのです。
車両実験部の仕事2:不具合対策を確認する
2つ目は不具合対策がされた部品の性能をチェックする試験です。
例えばヘッドライトの中に水が入ってしまう不具合があり対策を施したとしましょう。
不具合対策後にヘッドライトに水が入らないかどうかを、さまざまな条件下でチェックするのも車両実験部の仕事です。
時には車両に組み付けて部品の動きを見たり、はたまた量産前に行うような耐久試験を行うこともあります。
もし何かまだ対策が不十分な点があった場合には、試験結果の傾向から原因を探ることもあります。
このように車両実験部は品質における最前線の役目を担っています。
品質に妥協は一切許さない強い精神力!
設計はコストと常ににらめっこをしていますから、新商品開発のコストを減らすためにできる限り試験を削減したいと思っています。
また最近では、一設計者であっても3DCAD上で※CAE(Computer Aided Engineering)解析を行うのが通常です。
そのため、「解析上問題ない、また形状もそこまで変更していないから実験を行う必要がない」と、解析結果を元に試験の削減を要求することがよくあります。
※ CAEとは・・・コンピュータ技術を活用して製品の設計、製造や工程設計など事前検討の支援を行うことを指す。
しかし車両実験部は、この要求をすぐに受け入れることはありません。
できる限りの試験を現物で行いチェックする、という強い品質へのこだわりがあるからです。
設計者を説得し、世の中に安全な商品を出すために車両実験部の存在があります。
時には両者で熱くぶつかることもありますが、そういった中で妥協点を見つけていくからこそ製品の品質や性能は保たれているのです。
日本のトップ自動車メーカー「トヨタ(TOYOTA)」の実験部の歴史
トヨタの実験部につながる車両性能・実験の歴史は長く、そのはじまりは愛知県田原市の「田原試験場(テストコース)」といわれています。
悪路・飛び石・埃・冠水など、世界での使用環境を再現した車両評価試験場です。
安全性能を確かめるために欠かせない「実車4輪多軸台上耐久試験機」の導入も早い時期から始めていました。
それまでテストコース走行での車両評価や試験をクリアするためには約3か月の時間を費やしていましたが、耐久試験機の導入によってそれらの時間を3週間程度に短縮し、精度UPと効率化に成功しています。
その後、商品※実験部、士別車両実験部が順番に発足し、第一車両技術部が新設されます。
第一車両技術部は先行開発(先行技術開発)を目的とした部署です。
また先行開発とは、製品開発よりも先に行われる技術開発のことを指しています。
※ 実験部の車両性能・品質開発における役割が大きくなり、のちに車両開発体制を整備・充実させるため、部・室名は商品実験部以外にも細かく配置されている。
さらに技術領域(エンジン・駆動・シャシー・ボデー・実験)の枠を越えた先行技術開発のため、車両統合技術開発室が新設。
先行開発(先行技術開発)を目的としていた第一車両技術部は、車両技術開発部に名称を変え、当初から行っていたボデー開発はボデー設計に領域を戻しました。
その一方で、トヨタはCAEを各グループのCAE組織を統合し、利用した車両CAE部を発足します。
性能予測技術のニーズが高まったことによって新たな車両開発手法が誕生し、大幅なコストダウンや時間の節約につながっています。
自動車の歴史において、最新の技術を取り入れた試験・評価を行っているのがトヨタの実験部なのです。
いい製品は設計者の力だけでは生まれない!
いい製品は決して設計者だけの力でつくられるものではありません。
今回ご紹介したトヨタの歴史を見ても、車両実験部の存在があるからこそ、各メーカーが世の中に製品を発表できていることがわかります。
例え設計部の仕事がしたいと考えている方であっても、その点を把握したうえで目指すべきといえるでしょう。