EUV(極端紫外線)とは?EUV露光装置の仕組みとシェア・現状から今後の展望を考察
半導体製造の最先端テクノロジーとして注目を集めるEUV(極端紫外線)技術。スマートフォンや高性能コンピュータなど、現代のデジタル社会を支えるデバイスの進化に不可欠なこの技術は、従来の製造プロセスでは叶わなかった微細な回路パターンの形成を可能にするものです。
本記事では、EUV技術の基本的な仕組みから、実用化の現状と課題、そして今後の展望までを解説。EUVがいかに半導体業界を変革し、次世代を牽引していくのか。機電エンジニアリングにおけるトレンドを追っていきます。
POINT
- EUV露光技術とは、極めて短い波長の光であるEUV(極端紫外線)を使用して、従来技術では不可能だった微細な回路パターンの形成を可能にする技術
- EUV技術は商業レベルでの実用化が進んでおり、最先端半導体製造において不可欠な技術として定着している
- 一方、EUV技術には光源の出力不足や技術的な難易度の高さなど、いくつかの課題も残されている
Contents
次世代半導体製造技術「EUV(極端紫外線)」とは
半導体製造プロセスを支える最先端技術である、EUV露光技術への注目度が高まっています。
EUV(Extreme Ultraviolet)とは、約13.5ナノメートルという極めて短い波長の光であり、「極端紫外線」とも呼ばれるものです。つまりEUV露光技術とは、EUVを使用して、従来技術では不可能だった微細な回路パターンの形成を可能にする技術といえます。
なお、従来のDUV(Deep Ultraviolet、深紫外線)技術では、製造可能な最小線幅に限界があるため、ムーアの法則が示すトランジスタ密度の向上にも制約が生じていました。しかし、EUV技術はその限界を突破し、5ナノメートルおよび3ナノメートルといった極微細な回路形成を実現します。
これにより、半導体の集積度と性能は大幅に向上します。スマートフォンや高性能コンピュータなどのデバイスの進化にあたり、より高い処理能力と低い消費電力を実現する中核的技術とも評価できるでしょう。
EUV露光装置の仕組み
EUV露光装置は、プラズマ光源から発生する極端紫外線を用いて、半導体ウェハーに精密な回路パターンを描画します。この技術は、従来のDUV露光装置と比較して、次のような優位性があります。
- 光源:EUVはレーザーを用いてスズなどのターゲット物質をプラズマ状態にすることで生成されます。これにより、短波長の光が発生し、微細なパターン形成が可能になります
- 反射ミラー:EUVは波長が非常に短いため、通常の透過型レンズではなく、多層反射ミラーを使用して光を制御します。このミラーは極めて高い精度で製造されており、光の反射率を最大化するよう設計されています
- フォトマスクとウェハーステージ:回路パターンを形成するフォトマスクと、精密に動作するウェハーステージが連携し、ナノスケールの描画精度を達成しています
EUV技術の前身であるDUV技術では、波長193ナノメートルのArFエキシマレーザーが使用されていました。これに比べてEUVは圧倒的に短い波長を使用することから、より微細なパターン形成が可能です。
こうしたイノベーションにより、次世代の半導体製造においてEUV技術は欠かせない存在となっているのです。
EUV実用の現状
現在、EUV技術は商業レベルでの実用化が進んでおり、最先端の半導体製造においてすでに不可欠な技術として定着しています。
特にスマートフォンのプロセッサや高性能サーバーチップの製造において、EUV技術は標準的に使用されるようになりました。スマートフォンなど高い性能と効率性が求められる半導体分野の市場において、メーカーが競争力を維持するための重要な要素となっているのです。
一方で、EUV技術には光源の出力不足や技術的な難易度の高さなど、いくつかの課題も残されているのが現状です。
応用分野と影響力
EUV技術は、主に次のような分野・製品の製造にて、欠かせないものとなっています。
- スマートフォンプロセッサ:高性能かつ低消費電力のプロセッサを製造するため、EUV技術は不可欠です
- 高性能サーバーチップ:データセンター向けのチップなどでは、EUV技術を用いた微細化により、飛躍的な性能向上を遂げています
- AI専用チップ:AI処理に特化した半導体にもEUV技術が活用され、より高速な演算処理を可能としています
また、EUV技術の応用分野は今後さらに拡大すると予測されており、5G通信やIoTデバイス、自動運転車向けチップなど、多岐にわたる分野での利用が期待されています。
つまりEUV技術は、これら次世代技術の基盤を支える重要な存在と目されており、半導体業界全体に与える影響も増していくと考えられています。
海外におけるEUV露光装置の開発
EUV技術の開発をリードしているのは、オランダのASML社です。同社は、世界で唯一の商業用EUV露光装置メーカーであり、その技術力と供給能力は、半導体業界全体に多大な影響を与えています。
たとえば同社のEUV露光装置は、SamsungやTSMCなど大手半導体メーカーにも採用されており、技術的な基盤を担っています。特に、5ナノメートルや3ナノメートルといった微細な回路形成プロセスでは、同社の装置がなければ量産は不可能とされており、その存在は業界において欠かせないものとなっているのです。
同社はEUV技術のさらなる進化に向けて継続的に研究開発に取り組んでおり、より高出力の光源や高精度のミラーシステムの開発を進めています。また、他の技術と組み合わせたハイブリッド技術の開発にも注力しており、EUV技術の適用範囲を広げることに成功しています。
日本国内におけるEUV露光装置の開発
東京エレクトロン社やアドバンテスト社など大手日本企業は、半導体製造装置開発における強力な世界シェアを誇っています。しかし、ことEUV露光装置開発においては国内企業は苦戦を強いられていると指摘されています。
その主な要因には、技術的な課題や巨額な設備投資がボトルネックとなっている点が挙げられ、技術力の強化ならびに戦略的な投資が求められています。
日本国内でのEUV露光装置の導入
その一方で、日本国内におけるEUV技術の導入は積極化しています。
たとえばラピダス社は、北海道に新設予定の工場にEUV露光装置を導入し、次世代の半導体製造に取り組む計画を明らかにしています。これは、日本国内での先端半導体製造技術の確立と、国内産業の競争力強化に向けた重要なステップとなりえる取り組みです。
また、マイクロン・テクノロジー社も広島工場にEUV露光装置を導入する計画を進めており、日本における半導体製造の更なる強化が期待されています。これらの動きは、日本の半導体製造の競争力を高め、世界市場での存在感を示す基盤を築く一助ともなりえるでしょう。
EUV露光装置開発の課題
日本国内では苦戦を強いられているEUV露光装置の開発には、次のような課題が存在します。
- 光源出力が低い
- 技術的な難易度の高さ
- 高圧ガス保安法による規制
なかでも最も大きな課題は、光源の出力不足です。現在のEUV光源は十分な出力を得るために高度な技術が必要であり、装置のコストが高額化する要因ともなっています。
光源出力が低い
EUV光源の出力不足は、露光プロセス全体の生産性に大きく影響をおよぼす要素です。これは、十分な光強度が得られないと、ウェハーへのパターン転写速度が低下し、生産スループット(処理速度)が制約されてしまうためです。
この問題を解決するために、多くの研究機関や企業では、より強力な光源技術の開発や、光の利用効率を向上させる技術の研究に注力しています。
たとえば、光源出力を高めるために、より高エネルギーのレーザーを使用する方法や、プラズマ生成効率を向上させる技術が検討されています。また、光源を効率的に反射・収束させるミラーシステムの改良も行われており、EUV露光装置の生産性の向上が期待されています。
技術的な難易度の高さ
EUV露光装置の開発には、極めて高度な技術を要することもクリアすべき課題です。EUV光源の安定供給の難しさや、高精度で製造された反射ミラー、フォトマスクなど、極端な精度が求められる部材の多さから、これに対応できるサプライヤーや半導体メーカーは限られているのが現状です。
さらに、これらの装置を稼働させるためのプロセス全体が非常に複雑であることも、技術的なハードルを高めています。また、EUV露光装置開発においては、高い技術力を有するエンジニアの存在も不可欠であり、EUV技術の導入には多額の投資も必要です。開発に際しては、大きな経済的負担を伴うこととなります。
高圧ガス保安法による規制
日本において、EUV技術の開発と普及に影響を与えている要因のひとつに、高圧ガス保安法による規制も挙げられます。
この法律は、特定のガスの使用に関して厳しい基準を設けるものであり、EUV装置に使用される高圧ガスの取り扱いも制約されています。この規制は、技術開発や装置の導入を遅らせる要因になっており、業界内では規制緩和の必要性も指摘されています。
この課題に対し、産業界や学術機関は、安全性を確保しつつ規制を緩和するための新しい技術やプロセスの開発に取り組んでいます。また、政府との連携を通じて、規制の見直しや新たな基準の策定が進められており、今後のEUV技術の普及に向けた障害を取り除くことが期待されています。
EUV露光装置開発の今後
EUV技術は今後さらに発展し、半導体製造における標準的な技術として定着していくことが予想されます。技術的な課題が解決されるにつれ、EUV装置の生産性向上やコスト削減が進み、より広範な導入が実現するでしょう。特に、次世代半導体形成プロセス技術としてのEUVの重要性は、ますます高まっていくと考えられます。
今後の展望として、EUV技術は5ナノメートルや3ナノメートルプロセスを超える、さらなる微細化技術の基盤としても注目されています。より高性能で省エネな半導体が製造可能となれば、スマートデバイスやAI、IoT、5G通信など、次世代技術の発展に大きく貢献することは間違いありません。
各国の研究開発と産業界の協力により、EUV技術は今後も進化を続け、半導体製造の未来を切り拓いていくことが期待されています。
- EUV露光技術とは、極めて短い波長の光であるEUV(極端紫外線)を使用して、従来技術では不可能だった微細な回路パターンの形成を可能にする技術
- EUV技術は商業レベルでの実用化が進んでおり、最先端半導体製造において不可欠な技術として定着している
- 一方、EUV技術には光源の出力不足や技術的な難易度の高さなど、いくつかの課題も残されている
- EUV技術の開発をリードしているのは、世界で唯一の商業用EUV露光装置メーカーであるオランダのASML社
- 5ナノメートルや3ナノメートルといった微細な回路形成プロセスでは、同社の装置がなければ量産は不可能とされている
- EUV技術は今後さらに発展し、半導体製造における標準的な技術として定着していくことが予想され、さらなる微細化技術の基盤としても注目されている