MBSEとは?SysMLとの関係や要求分析など具体例・主要ツールをわかりやすく解説
自動車やロボット、医療機器などの高度な機電開発では、ひとつの機能に対して機械・電気・ソフトウェアなど複数領域を横断して設計する機会が増えています。
そのため、従来のように情報を個別のドキュメントで管理する方法では、部門間の認識のズレなどを追い切れないこともあり、開発終盤になって不整合が見つかるケースも少なくありません。
こうした複雑な開発を、要求書や設計書といった個別のドキュメントだけに頼らず、情報同士を関連付けたモデルを中心に進める考え方がMBSEです。本記事では、MBSEによって開発の進め方がどう変わるのかを具体的に示し、SE・MBDとの違いや導入メリット、実践のポイントまでをわかりやすく解説します。
POINT
- MBSEは、要求から設計、検証までをモデルで一元管理する開発手法
- ドキュメントベース開発が抱える情報分断や手戻りといった課題の解決が期待できる
- 図を作成することではなく、システム全体の情報を関連付けて管理することが目的
- 自動車やIoT、ロボティクスなどを中心にMBSE人材への需要は高まっている
Contents
MBSEとは
MBSE(Model-Based Systems Engineering)とは、システムの要求から設計、分析、検証、妥当性確認などを、モデルを活用して進めるシステムズエンジニアリングのアプローチです。近年では自動車や航空宇宙、産業機器など、複雑なシステム開発領域を中心に導入が進んでいます。
なお、ここでいう「モデル」とは、見栄えのよい図面を作ることだけを意味するのではありません。
- ある要求がどの機能によって実現されるのか
- どの部品やソフトウェアへ割り当てられるのか
- どの試験で確認されるのか
これらの情報や関係性をモデルとして表現し、要求・設計・検証を関連付けながら開発を進めることが、MBSEの手法の本質です。
また、すべての情報をひとつのファイルやツールへ集約することが、MBSEの必須条件というわけではありません。要求管理やシステムモデル、シミュレーション、CADなどで複数のツールを使いながら、モデルやデータの関係を追跡できるようにするケースもあります。
重要なのは情報を保存することではなく、要求から設計、検証までのつながりと整合性を維持することです。
MBSEによって開発はどう変わるのか
MBSEの働きを理解するには、ひとつの要求が開発のなかでどのようにつながるかを見ていくとわかりやすくなります。ここでは、自動ブレーキ機能を例に見ていきましょう。
- 要求:所定の走行条件で障害物を検知し、安全な距離内で停止できること
- 機能:周囲の認識、衝突リスクの判定、制動要求の生成
- 構造:センサー、ECU、通信経路、ブレーキ装置
- 検証:検知距離、通信遅延、停止距離などを確認する試験
従来型のドキュメント中心の開発では、これらが要求仕様書や機能設計書、部品表、インターフェース仕様書、テスト仕様書などに分かれて記載されます。この資料自体に問題があるわけではありませんが、ファイル間の関係を確認し続ける必要が生じるほか、更新漏れや解釈違いなどを招く要因にもなりかねません。
一方、MBSEでは、要求、機能、構成要素、インターフェース、検証項目の関係をモデル上で表します。たとえばセンサーの検知距離を変更すると、そのセンサーを利用する認識機能、ECUとのインターフェース、停止距離を確認する試験など、確認すべき要素をたどりやすくなります。
つまりMBSEの価値は図面を仕上げることではなく、「なぜこの設計なのか」「変更するとどこへ影響するのか」「どの試験で要求を確認するのか」を、開発メンバーが同じ情報から確認できる状態をつくることにあります。
SE・MBDとの違いと関係性
MBSEの理解には、SE(システムズエンジニアリング)やMBD(モデルベース開発)との関係性を把握する必要もあります。なお、これらは競合する用語ではなく役割が異なる位置づけです。
| 用語 | 位置付け | 概要 |
|---|---|---|
| SE | 考え方・プロセス | ニーズ、要求、設計、検証などをライフサイクル全体で扱い、複雑なシステムを実現する |
| MBSE | SEの実践アプローチ | SEで扱う情報をモデルとして表現し、関係や整合性を管理する |
| MBD | モデルを用いる開発手法 | 主に制御・組み込み開発などで、シミュレーション可能なモデルを用いて設計・検証する |
SE(システムズエンジニアリング)との関係
システムズエンジニアリングは、複雑なシステムを実現するために関係者のニーズを確認し、要求やアーキテクチャ、設計、検証などを一貫して扱う考え方やプロセス全体を指す言葉です。
一方、MBSEはSEで扱う情報を、文書だけでなくモデルを中心に表現・関連付けるための具体的な手法です。
| SE | MBSE | |
|---|---|---|
| 位置付け | システム開発の考え方・方法論 | SEを実践するための具体的な手法 |
| 情報管理 | ドキュメント中心 | モデル中心 |
| 目的 | システム全体の最適化 | モデルによる一貫した情報管理 |
つまりMBSEはSEを置き換えるものではなく、SEをより効率的かつ一貫性のある形で実践するためのアプローチと考えるとよいでしょう。
MBD(モデルベース開発)との違い
MBSEと混同されやすい手法に、MBD(Model-Based Development:モデルベース開発)があります。両者ともにモデルを活用する手法であることは共通しますが、対象とする範囲などは異なります。
| MBSE | MBD | |
|---|---|---|
| 対象範囲 | 要求定義から設計・検証までシステム全体 | 詳細設計・実装・制御開発 |
| 主な目的 | システム全体の整合性を保つ | シミュレーションによる開発効率化 |
| 対象 | システム全体 | 個別機能や制御ロジック |
たとえば自動車開発では、車両全体の要求やシステム構成をMBSEで管理し、その後、ブレーキ制御やモーター制御などの詳細設計にてMBDを活用するといった進め方が一般的です。
つまり、MBSEがシステム全体の設計方針を定め、その下流工程でMBDが詳細設計や制御開発を支えるという関係になります。両者は競合する手法ではなく、相互に補完し合う関係と考えると理解しやすいでしょう。
MBSEで扱う主なモデル
MBSEでは、システム開発に必要な情報をひとつのドキュメントへ集約するのではなく、目的ごとに複数のモデルへ整理して管理します。
ここでは、MBSEで扱う主なモデルである「要求モデル」「機能・振る舞いモデル」「構造モデル」「検証モデル」について、自動ブレーキシステムを例に確認していきます。
たとえば自動ブレーキシステムの場合、要求モデルでは「障害物を検知する」「一定時間以内に減速する」といった満たすべき条件を整理します。機能・振る舞いモデルでは、認識、判断、制御、停止といった処理の流れを表現します。
また、構造モデルではセンサーやECU、ブレーキECUなどの構成要素と関係性を整理し、検証モデルでは、要求に対してどのような試験で確認するのかを紐付けます。
このように複数のモデルを関連付けて管理する手法を取ることで、「なぜその設計になったのか」「仕様変更によって何へ影響するのか」を追跡しやすくなります。
要求モデル
要求モデルは、システムへ求められる機能や性能、制約条件を整理するためのモデルです。たとえば自動車開発であれば、次のような要求をモデルとして管理します。
- 一定時間以内に停止できること
- 燃費性能を満たすこと
- 安全基準へ適合すること
ここで重要なのは、要求を書き出して終わりではない点です。要求モデルは、開発の後続フェーズに当たる設計や検証と紐付けられます。仕様変更が発生した場合でも、どの機能や設計へ影響するのかを容易に追跡できるようにすることが目的です。
このように、要求を起点としてシステム全体を管理できることが、MBSEの大きな特徴です。
機能・振る舞いモデル
機能モデルや振る舞いモデルは、システムが「何をするか」「どのように動作するか」を表現するモデルです。たとえば自動運転システムであれば、次のような一連の処理の流れを可視化します。
- 周囲の状況を認識する
- 危険を判断する
- ブレーキを制御する
また、状態遷移やイベントの流れをモデル化することで、システムがどのような条件で動作を切り替えるのかも把握できます。文章だけでは伝わりにくい複雑な処理を視覚的に表現することで、機械・電気・ソフトウェアの各部門が共通認識を持ちやすくなる点がメリットです。
構造モデル
構造モデルは、システムを構成する要素や、それぞれの関係性を表現するモデルです。たとえば自動車であれば、ECUやセンサー、モーター、通信モジュールといった各コンポーネントの構成や接続関係を整理します。
これらの構造を明確にすることで、「どの部品がどの機能を担っているのか」「どこで他システムと連携しているのか」を把握しやすくなります。また、設計変更が発生した際にも、影響を受けるコンポーネントやインターフェースを特定しやすくなるため、変更管理の効率化にもつながります。
検証モデル
検証モデルは、設計したシステムが要求を満たしているかを確認するためのモデルです。
従来の開発では、要求書とテスト仕様書が別々に管理されることも多く、どの要求がどのテストで確認されるのかわかりにくくなる場合がありました。
一方、MBSEでは要求モデルや設計モデルと検証モデルを関連付けて管理します。そのため、「この要求はどのテストで確認するのか」「このテストはどの要求に対応しているのか」の追跡も容易です。
設計と検証を切り離さず一貫して管理することで、要求と検証の対応関係を確認しやすくなり、テスト漏れの防止や品質向上につなげられます。
MBSEを導入する3つのメリット
MBSEは、モデルを作成すること自体が目的ではありません。システム全体を一貫した情報として管理することで、品質向上や開発効率の改善につなげることが本質であり、次のようなメリットがある手法と捉えるとよいでしょう。
- 開発初期段階での品質向上と手戻りの削減
- トレーサビリティの確保による変更管理の容易化
- 視覚的なモデルによるコミュニケーションの円滑化
複雑なシステム開発では、部門ごとの最適化を目指すのではなく、全体像を共有しながら開発を進めることが重要です。MBSEは、そのための基盤となる開発手法といえます。
開発初期段階での品質向上と手戻りの削減
MBSEでは、構想設計や要求分析の段階からシステム全体をモデル化します。その結果、設計上の矛盾や要求の抜け漏れを、実装前の早い段階で発見しやすくなるのです。たとえば「この機能を追加すると別の要求と矛盾する」といった問題も、モデル同士の関係を確認することで把握しやすくなります。
一般的に、開発が進むほど仕様変更に伴う修正コストは大きくなります。だからこそ、製品の品質やコストの大部分が決まる上流工程で課題を見つけることは極めて重要です。
トレーサビリティの確保による変更管理の容易化
MBSEの大きな特徴のひとつに、要求・設計・検証がどのようにつながっているかを追跡できる、トレーサビリティを確保しやすい点も挙げられます。たとえば特定の要求が変更された場合でも、影響を受ける機能や関連する構造モデル、修正が必要なテスト項目などを追跡できます。
さらに「なぜこの設計になったのか」という判断の根拠も、モデル上で確認できます。変更履歴や設計意図を継続的に管理できることは、長期間にわたって運用される製品やシステムにおいて大きなメリットになります。
視覚的なモデルによるコミュニケーションの円滑化
MBSEでは、要求や設計内容を視覚的なモデルとして表現するため、専門分野が異なるメンバー同士でも認識を共有しやすくなります。従来のドキュメントベース開発と比較すると、情報の管理方法が大きく変わるためです。
| 従来のドキュメントベース開発 | MBSE |
|---|---|
| 要求書・設計書・テスト仕様書などを個別に管理する | 要求・設計・検証をモデル上で関連付けて管理する |
| 仕様変更時に複数の資料を確認・更新する必要がある | 変更の影響範囲をモデルから追跡しやすい |
| 部門ごとに異なる資料を参照するため認識がずれやすい | 共通のモデルを参照することで認識を合わせやすい |
| 文書を読み比べながら内容を確認する | システム全体をモデル上で俯瞰しながら確認できる |
たとえば機械設計・電気設計・ソフトウェア開発の現場では、それぞれ使用する専門用語や設計資料は異なります。そのため文章だけでやり取りすると、解釈の違いが生じてしまうケースは少なくありません。
一方、MBSEでは共通のモデルを参照することで、「どの機能がどの構成要素と関係しているのか」「仕様変更がどこへ影響するのか」といった情報を、関係者全員が同じ視点で把握しやすくなります。
また、ステークホルダー全体でシステムの構成や設計方針を俯瞰できるため、レビューや意思決定も進めやすくなります。
MBSEの導入手順と成功のポイント
MBSEは、モデリングツールを購入すれば始められるものではありません。まずは目的や対象範囲の明確化が大前提であり、開発プロセスや組織体制まで含めて導入プランを設計していきます。
MBSEの導入にあたっては主に次のような流れで進めていきましょう。
- 導入目的と適用範囲の明確化
- モデリング言語とツールの選定
- 組織横断的な推進体制の構築と人材育成
このように段階的に取り組みながら、現場へ定着させていくことが導入成功へのポイントです。
導入目的と適用範囲の明確化
MBSEを導入する際は、「何を解決したい」のかを最初に明確にしてください。
- 手戻りを減らしたい
- 部門間の情報共有を改善したい
- 要求管理を効率化したい
こうした目的に応じて導入方法も変わってくるためです。
また、最初から全社へ展開するのではなく、特定のプロジェクトや課題の大きいサブシステムから始めるアプローチも有効です。小さく始めて効果を検証しながら適用範囲を広げることで、現場への定着も推進されます。
モデリング言語とツールの選定
MBSEは、モデルを統一的に表現するためのモデリング言語やツールを活用しますが、その際に代表的なモデリング言語として知られているのがSysML(Systems Modeling Language)です。SysMLは、要求や構造、振る舞いなどを体系的に表現できる特性から、多くのMBSEプロジェクトで採用されています。
一方で、ツールを選定する際は機能だけで判断しない視点も必要です。既存の開発プロセスや管理ツールとの連携、現場で継続的に利用できる操作性なども含め、自社に適した環境を検討しましょう。
組織横断的な推進体制の構築と人材育成
MBSEは、ツールを導入すれば十分な効果を得られる施策ではありません。モデルを中心に設計する考え方を、組織全体へ浸透させる取り組みも不可欠になるでしょう。システムズエンジニアやテックリード、プロジェクトマネージャーなどが連携し、部門横断で推進できる体制づくりが重要になってきます。
また、SysMLの使い方だけではなく、要求分析やシステムアーキテクチャ設計まで含めた教育も欠かせません。人材育成と運用ルールを合わせて整備することで、MBSEを継続的に活用できるようになります。
MBSEに関わるエンジニアに必要なスキル
MBSEに関わるエンジニアには、モデリングツールの操作だけでなく、システム全体を整理するスキルが求められます。
- 関係者のニーズを聞き取り、検証可能な要求へ落とし込む要求分析
- 機能や構成、インターフェースを設計するシステムアーキテクチャの知識
- SysMLなどを使い、目的に合ったモデルやビューを作成するスキル
- 機械・電気・ソフトウェアなど、異なる専門領域をつなぐ調整力
これらすべての技術領域を深く理解する必要はありませんが、各領域の制約をヒアリングし、システム全体の要求やインターフェースへ反映する役割としての活躍が求められます。
MBSEエンジニアの需要と将来性
自動運転やIoT、ロボティクスなどの発展に伴い、システム全体を俯瞰して設計できるMBSE人材への需要は今後も高まっていくと考えられます。
近年の製品は、機械・電気・ソフトウェアが密接に連携して動作するものが増えており、それぞれを個別に最適化するだけでは十分ではありません。そのため要求分析やアーキテクチャ設計、検証までを一貫して設計できるエンジニアが求められているのです。
派遣市場でも、上流工程や設計を担えるエンジニアの待遇は高まっています。当社パーソルクロステクノロジーが新規に取り扱いを開始した派遣求人案件の最新データでは、対象職種の平均時給はいずれも前年より上昇しました。高度技術者の不足を受け、上流工程など専門性の高い領域で、競争的に時給が引き上げられていると分析されています。
参照:【IT・機電】2025年下半期 職種別・業界別の求人数&平均時給
実際に、高い専門性が要求されるプロジェクトでは、時給や待遇が引き上げられるケースが多く見られており、以下のようなプロジェクトでスキルが活かされる場面は急増しています。
- 次世代モビリティにおけるSysMLを用いた要求分析・システムアーキテクチャ設計
- 医療機器やロボティクス開発におけるMBSE導入支援
- ドキュメントベース開発からMBSEへの移行プロジェクト
- モデリング環境の構築やエンジニア育成支援
これらの領域は、エンジニア派遣やプロジェクト参画においてもニーズが高く、継続的なスキルアップが強く求められています。エンジニアは関連求人などを常に確認し、業界の最新動向をキャッチアップしておきましょう。
- MBSE(Model-Based Systems Engineering)は、要求から設計、検証までをモデルで一元管理する開発手法
- 図を作成することではなく、システム全体の情報を関連付けて管理することが目的
- MBDは詳細設計や制御開発、MBSEはシステム全体を対象とする点が大きな違い
- 要求・機能・構造・検証モデルを連携させることで、変更管理や品質向上につながる
- ドキュメントベース開発が抱える情報分断や手戻りといった課題の解決が期待できる
- 導入には目的の明確化やSysMLなどのツール選定、人材育成が重要
- 自動車やIoT、ロボティクスなどを中心にMBSE人材への需要は高まっている

