T型人材とは?注目される背景と育成の方法・注意点
T型人材とは、特定の分野における専門性と、他ジャンルの知識をあわせ持つ人材のこと。スペシャリストとしての一面のみがフォーカスされるI型人材の進化バージョンとも位置づけられるT型人材は、これからのビジネスをドライブさせる人材として高く評価されています。
しかし、ただ待っているだけではT型人材は現れません。T型人材をアサインするには、“育成”が最短距離となるでしょう。どのようなフローを踏んでT型人材を育成すればいいのか、人材の特徴や注目される背景から考えていきます。
T型人材とは
T型人材とは「特定の専門分野×幅広いジャンルの知見」を有する人材のことです。特定の分野における専門知識やスキル・経験を持つスペシャリストと、他ジャンルにも精通しているゼネラリストの両方の性質を持つ、ハイブリッドな人材といえるでしょう。
1つの専門性を有していることから、英語ではシングルメジャーと呼ばれることもあります。
T型人材以外の人材タイプ
人材の類別として、T型以外にも以下のようなタイプが言及されています。
- ●I型人材
- 「特定のジャンルを極めた」人材のこと。まっすぐに延びた「I」の字が、特定分野で秀でていることを象徴しています。かつての市場では需要の高い人材の代表格だったのが、このI型人材です。いまでもスペシャリストであることが求められる、技術職や研究職などでは高い需要が維持されています。
- ●H型人材
- 「特定の専門性×他ジャンルの専門家とのつながり」を持つ人材のこと。「H」にある縦軸の二つの内一つは、自身の専門性を、もう1つは他人の専門性を表しています。そして真ん中の横棒が、これら2つの専門性を繋ぐ架け橋となるイメージです。異なる専門分野を持つ人材との共同プロジェクト、といった場面で活躍する人材です。
- ●Π型人材
- 「2つ以上の専門分野×幅広いジャンルの知見」を有した人材のこと。T型人材が、さらなる専門性を身に付けるとΠ型(パイ型)人材となります。専門性が二つになるので、ダブルメジャーとも呼ばれます。二つ以上のジャンルの専門性を持つため、1人でも独創的な発想が可能になるため、Π型人材は希少な人材と考えられています。
- ●△型(トライアングル型)人材
- 「3つの専門分野」を持つ人材のこと。△型(トライアングル型)人材は、T型やΠ型と違い、「他ジャンルの知見を有しているかどうか」といったゼネラリスト的な面は問われません。それでも複数のジャンルにおいて専門性を有していることから、価値の高い人材として市場から求められています。3つ以上の専門性を持っているので、△型人材はトリプルメジャーと呼ばれます。
- ●J型人材
- 「専門分野×幅広いジャンルの知見×他ジャンルの専門家とのつながり」を持つ人材のこと。T型人材が、さらに専門性を掘り下げることで行き当たる人脈を利用して、特定ジャンルの専門家や第一人者とのつながりを持つようになったのがJ型人材です。一流の専門家との交流は、他分野を学ぶのに最適。そのためJ型人材は、複数の専門性を極めることも可能です。
T型人材が注目される背景
専門分野と幅広いジャンルに知見を持ったT型人材が注目されている背景には、下記のような理由が挙げられます。
- 顧客のニーズが多様化している
- グローバル化でイノベーションが期待されている
世界中でIT化が進むとともに、グローバル化も急速に浸透しています。その社会の変化に対応する人材として、T型人材が注目されているのです。
顧客のニーズが多様化している
AIやIoTの台頭により、世の中はますます便利になり、それに合わせて顧客のニーズも多様化を見せています。顧客が求めるレベルが上がり、汎用性の高いスキルや知識が求められているにもかかわらず、特定分野だけに特化した人材が対応する。そのような場合に、需要と供給の差が生まれるのです。
そのため特定の専門性に加えて、他ジャンルへの知見も持ち合わせ、それらをかけ合わせて新たなサービスや商品を生み出すことができる、T型人材が求められているのです。
グローバル化でイノベーションが期待されている
グローバル化により、企業間の競争はますます激化しています。従来のビジネススタイルを貫いて企業が生き残れる可能性は、限りなくゼロに近いといっても過言ではないでしょう。熾烈な競争社会から振り落とされないためには、事業開発において柔軟性やイノベーションを重視せざるを得ないのです。
その点、特定の専門性と幅広いジャンルに知見を有するT型人材は、自身の専門とするジャンルを超えて活躍の場を広げることができます。その結果、新たなイノベーションが生み出されるのです。
苛烈なビジネスシーンをサバイブするために、会社に貢献できる可能性が高い人材として、T型人材の需要が高まるのは自明の理ともいえるでしょう。
T型人材に必要な能力
これからの企業にとって重要な人物となるT型人材には、以下のような能力が求められます。
- 自主的に成長する能力
- 答えを導きだす能力
- アナロジー思考で行動する能力
自主的に成長する能力
特定の専門性を持つスペシャリストでありながら、他ジャンルへの知見を広めていくには、「現状に満足せず常にチャレンジする」、主体的に成長する能力が不可欠です。学習意欲や知的好奇心は、T型人材に欠かせない要素となるでしょう。
答えを導きだす能力
どれだけ周到に用意したとしても、移り変わりの早い現代ビジネスはまさに「一寸先は闇」。手探り状態の中でも自分なりの答えを出して提案し、主体的に社会と関わりを持とうとする能力がT型人材には必要とされます。
アナロジー思考で行動する能力
アナロジー思考とは、接点のなさそうなジャンルの類似点や共通点を見つけだし、組み合わせることで新たな価値を創造する考え方です。これは「専門性×幅広いジャンルの知見」を有したT型人材の得意分野。軸となる専門分野と別ジャンルの知識を組み合わせてイノベーションを起こすことが期待されます。
T型人材を育成するメリット
「専門性×幅広いジャンルの知見」を持つT型人材を育成すると、さまざまなメリットを享受できます。
- 多種多様な業種とのコラボが可能に
- 固定概念の枠を超えたアイディアの創出
- 企業間競争で生き抜くことができる
縦にしか展開できなかったI型人材の専門性ですが、T型人材は横展開が可能。固定概念にとらわれないアナロジー思考で、自身の持つ専門性と他ジャンルにおける共通点や類似点を見つけることができれば、そこにイノベーションが生まれます。
企業間での差別化にもつながるため、競争を勝ち抜くためのゲームチェンジャーとして大いに貢献してくれるでしょう。
T型人材を育成する方法
T型人材の育成は以下の方法で行います。
- 1つの分野で専門性を確立してから幅広い分野を経験させる
- 働き方を多様化する
まずは専門分野の確立です。その分野の知識や経験が十分に蓄積されたら、次の段階として別分野を経験させていきます。
その過程では、会社内だけでは学べないことも出てくるはずです。社外の教育機関で学び直しができるようにしたり、スキル習得を目的に副業を解禁したりと、多様性のある働き方ができるよう制度を整えていきましょう。
1つの分野で専門性を確立してから幅広い分野を経験させる
まずは特定の分野に特化したI型人材を育成します。この際、ただ業務にあたらせるのではなく、研修制度を有効に活用するなど、より深い専門知識を得られるようなバックアップが必要です。
多くの経験をさせてI型人材となったのちには、企業内でジョブローテーション行い、さまざまな分野を経験させます。結果、特定の分野だけでなく他ジャンルへの関連性も見いだせるT型人材へと成長していきます。
働き方を多様化する
業務や研修といった社内教育だけでは得られる情報に偏りが生じ、成長度合いも頭打ちとなりかねません。社外でも学習ができるような環境整備も大切です。
たとえば昨今、注目されているリカレント教育制度の導入です。学びたいタイミングで休職や時短勤務を許可し、外部の教育機関で学ぶ機会を与えることで、T型人材としての素養が育まれていきます。
知識を得た後は、その知見を発揮できなければ意味がありません。実際に使用して知識を血肉とするために副業を解禁するなど、働き方の多様化を図り柔軟性の高いT型人材へと成長させましょう。
T型人材を育成する際の注意点
T型人材を育成する注意点として挙げられるのが、「できるだけ早い内に育成をする」ことです。人間の脳は、新しい情報の取得・処理、課題解決を行う流動性知能が衰退していくためです。
すでに専門性を有する人材であれば、別ジャンルを経験させるだけでよいですが、専門性を持たない場合は、イチから新しい情報や知識に触れることになります。吸収スピードの速い若年層の方が、T型人材に育てあげるまでの期間は短縮され、その後の活躍期間も長くとれます。
ただし、年齢を重ねた人がT型人材になれないわけではありません。個性や能力による部分も大きいため一概にはいえませんが、T型人材の育成強化は若年層からはじめる方が効率がよいという傾向はあるでしょう。
- T型人材とは「特定の専門分野×幅広いジャンルの知見」を有する人材のこと
- 「特定のジャンルを極めた」I型人材の進化バージョンとも位置づけられる
- 顧客ニーズの多様化やグローバル競争の激化から、イノベーションを生み出すT型人材の需要は高まっている
- T型人材の素養として、学習意欲や知的好奇心、アナロジー思考で行動する能力などが求められる
- まずは専門性を確立し、幅広い分野を経験させるステップを踏んでT型人材を育成していく