エンプロイアビリティを高めるには?要素と具体例から考えるスキルアップ手順とチェックシート

「エンプロイアビリティ」とは、直訳すると「雇われるための能力」を意味する言葉ですが、いわゆる単純な「就職力」とはやや異なる概念です。また、エンジニアやプログラマーにおいて、エンプロイアビリティを高めていくことはキャリア全体を通じて求められる要素であり、今後の労働市場における安定的な価値となっていきます。
終身雇用制度は崩壊し、転職回数はネガティブな要素とは捉えられなくなってきています。技術革新が目覚ましい現代では、ひとつのスキルや知識に固執せず、柔軟に学び続ける姿勢も欠かせません。
そこで求められるのが、エンプロイアビリティを意識したキャリア構築です。本記事では、エンプロイアビリティの基本的な概念や分類、具体的なスキルセット、そして実践的にエンプロイアビリティを高める方法までをわかりやすく解説します。
POINT
- エンプロイアビリティとは、ビジネスパーソンが企業に「雇われるための能力」であり、人材の流動性が増している現在において、労働者・企業双方にとって重要な概念となっている
- エンプロイアビリティの基本概念に照らすと、エンジニアが磨くべきは開発スキルだけではなく、コミュニケーション能力や問題解決能力といったポータブルスキルも重要になってくる
エンプロイアビリティとは?

エンプロイアビリティ(Employability)とは、Employ(雇用する)とAbility(能力)を組み合わせた言葉です。わかりやすく説明すると、ビジネスパーソンが企業に「雇われるための能力」となり、これは人材の流動性が増している現在において、労働者と企業の双方にとって重要な概念となるものです。
一般的に、仕事における能力開発とは、時間をかけて何かしらに特化した「スキル」を習得するイメージがあります。しかし、ITテクノロジーなど技術革新が進むにつれて、多くのスキルは容易に代替可能となってきています。自社で取り扱う膨大なデータ分析を、AIが10分の1以上のスピードで実行する場面もその一例です。
そうしたなかで、労働市場における人材の価値とは、特定の企業だけで通用する限定的な専門スキルの練度では測れなくなります。あらゆる市場や業務を横断して高い生産性を発揮できる、コミュニケーション能力や問題解決能力など汎用的なポータブルスキルの有無がより重要視されているのです。
エンプロイメンタビリティとは?
一方、企業における優秀な人材の雇用能力を示す「エンプロイメンタビリティ」という言葉もあります。エンプロイアビリティとは相対する言葉に見えますが、こちらもまた重要度が増している概念です。
長期的な雇用を約束しづらくなっていることから、企業にとっても優秀な人材の確保にあたり、自社に限定されないキャリア形成への支援が求められるようになってきています。
個々のキャリアデザインに対して、雇用する企業側はどんな価値を提供できるのか? それを追求することで、貢献度の高い人材の継続雇用が可能になります。
エンプロイアビリティの分類と具体例
エンプロイアビリティは、その特性によって次のように分類されます。プログラマーやITエンジニア、さらに組み込みエンジニアなど機電エンジニアにとっても、この概念は共通して重要です。職種に応じて求められるスキルや特性は異なりますが、以下の分類を理解し、自身のスキルセットと照らし合わせ、どのように活かすかを検討しましょう。
分類 | 意味 | 具体例 |
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絶対的エンプロイアビリティ |
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相対的エンプロイアビリティ |
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外的エンプロイアビリティ |
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内的エンプロイアビリティ |
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これらの分類を理解することで、自身に不足している能力はなにか、どのスキルを磨くべきかといった指針が明確になっていきます。
絶対的エンプロイアビリティ
絶対的エンプロイアビリティとは、時代が変わってもニーズが変わらないスキルのことです。ITやテクノロジーでは完全に代替できない領域であり、医師や弁護士、看護師といった資格を有する職種が代表例といえます。このように、いつの時代も必要とされる「絶対な価値を持つ」能力が該当します。
一方、エンジニアリング領域においては、絶対的エンプロイアビリティに相当するスキルや能力の定義は困難かもしれません。
ITエンジニアにおいて敢えていうならば、あらゆるプロジェクトで求められる汎用性が高いスキルである、セキュリティやクラウド、データベースといったIT基盤に関する専門知識が該当します。広範なプログラミングスキルも一例といえるでしょう。
機電エンジニアにとっては、ハードウェアとソフトウェアをつなぐ基本的な理論や、電気回路の知識などがここに該当すると考えられます。
相対的エンプロイアビリティ
相対的エンプロイアビリティとは、時代の変化に伴ってニーズが上下するスキルです。近年でいえば、生成AIの登場がわかりやすい例となります。非ITの業界や職種においても多くの影響をもたらすなど、AIを使える能力やデータサイエンスの知識は急速に需要を増しています。また、クラウド技術の進化に伴い、クラウドエンジニアの需要も急騰しています。
機電エンジニアにとっては、IoT技術や自動運転システム、スマートファクトリーの普及に対応した製造自動化、センサー技術の知識といった先端分野において、迅速に適応する能力などが挙げられます。
ただし、これらは一過性のムーブメントになる可能性もあるため、未来永劫、価値が変わらない能力とは言い切れません。むしろ時代の変化に合わせて、ニーズには浮き沈みがあると考えるほうが自然でしょう。
外的エンプロイアビリティ
外的エンプロイアビリティとは、特定の業界や企業に限定されることなく価値を発揮するスキルです。たとえばコミュニケーション能力や問題を発見・解決する能力は、ビジネスのあらゆる場面で求められます。これらは業種や職種を問わず、仕事の遂行能力の高さを証明できる能力であり、転職市場でも重宝される傾向です。
また、エンジニアリング業界では、プロジェクトの上流を担うマネジメントレイヤーの不足が深刻化しています。マネジメント能力やプレゼン能力といった外的エンプロイアビリティの重要度も増していると考えられます。
内的エンプロイアビリティ
内的エンプロイアビリティとは、自社における業務の理解度を示す専門スキルです。わかりやすくいえば、「自社の仕事をどこまで理解できているか」であり、社内で高い評価を受けるためには必須の能力になります。
たとえばITエンジニアなら、特定の業界向けの業務システム開発や、独自の言語フレームワークを使った開発経験などが挙げられるでしょう。機電エンジニアであれば、特定のハードウェアプラットフォームやプロトコルに関する知識や、独自の製造プロセスに関する専門的な経験などが含まれます。
これらは他の業界や職種では必ずしも重視されないこともある、いわば「業界特化型のスキル」です。
エンプロイアビリティの具体的な内容
上述した分類とは別に、エンプロイアビリティを構成する要素には個人の特性や考え方も含まれます。技術的なスキルだけにはとどまりません。
エンプロイアビリティを高めるためには、具体的には次のような要素が求められます。
A) 職務遂行に必要となる特定の知識・技能などの顕在的なもの
B) 協調性、積極的等、職務遂行に当たり、各個人が保持している思考特性や行動特性に係るもの
C) 動機、人柄、性格、信念、価値観等の潜在的な個人的属性に関するもの
なお、これらは厚生労働省の『エンプロイアビリティの判断基準等に関する調査研究報告書について』に記載されており、ビジネスパーソンの能力を構造化したものです。
特定の知識・技能などの顕在的なもの
ひとつ目は「職務遂行に必要となる特定の知識・技能などの顕在的なもの」です。もっとも成果に近い能力であり、これら無くして業務を正しく遂行することは難しいでしょう。企業にとっては、求める成果を出せたかどうかを数字で図りやすい能力でもあります。
具体的な技術スキルには、プログラミング言語の習得や、データベース管理、セキュリティの知識などが挙げられます。これらの技術は、IT業界全体で必須となる基礎的スキルであり、個人の特性に依存しない「顕在的な能力」です。
各個人が保持している思考特性や行動特性に係るもの
ふたつ目は「協調性、積極的等、職務遂行に当たり、各個人が保持している思考特性や行動特性に係るもの」です。前項の「顕在的な能力」とは異なり、ビジネスパーソン個人の特性やパーソナリティにも主眼が置かれます。
たとえば協調性の有無などは、知識や技能ではなくとも潜在的に高いレベルが求められる能力です。問題解決能力や、論理的思考力に加えて、チームで協力してプロジェクトを進めるための振る舞いは欠かせません。たとえばアジャイル開発の現場では、スプリントのたびに課題を迅速に解決する能力が求められます。
ただし、思考や行動の特性は、「個人的事由」と「企業から求められるスキル」のはざまにあるため、特定の価値観によって左右されるべきではありません。エンプロイアビリティの観点では、外的なスキルとしての向上が必要になります。
価値観等の潜在的な個人的属性に関するもの
最後は「動機、人柄、性格、信念、価値観等の潜在的な個人的属性に関するもの」です。これは個人にとっては柔軟性を持ちづらく、企業にとっても評価が難しい能力になります。しかし、これらも業務レベルに影響するため「能力のひとつ」として捉えることが重要です。
性格や価値観といった属人的な要素は、変えようと思って変えられるものではありません。ただし、個人の価値観や信念は、長期的なキャリア形成に大きく影響します。エンジニアとしての信念や、自分のキャリアをどのように構築したいかという自己理解は、最終的なキャリアの方向性を決める重要な要素にほかなりません。
エンプロイアビリティを高める方法

エンプロイアビリティを高めていくには、自己の現状を正確に把握し、戦略的にスキルを磨いていく必要があります。具体的なステップとして、以下のアプローチを考えてみましょう。
- チェックシートで現状把握する
- すべての仕事に「意味」を持たせる
- 人生における仕事の意味を考える
大切なのは、表面的な知識を付けることではなく、自己を理解したうえで「何を」「どうして」学ぶ必要があるのかの明確化です。仕事というミクロな視点だけではなく、人生というマクロな視点からも考える必要があるでしょう。
チェックシートで現状把握する
まずは、自身が身に付けているエンプロイアビリティをチェックします。厚生労働省が公開している『エンプロイアビリティチェックシート』を活用し、現在のスキルや能力を客観的に評価しましょう。これは企業に就業するにあたり、社会人としてどの程度の基礎能力を身に付けているのかをチェックするシートになっています。
すべての仕事に「意味」を持たせる
エンプロイアビリティにゴールはなく、習得すべきスキルにも終わりはありません。時代によって変わる需要に対して、自らの思考や能力をアップデートし続けるのはビジネスパーソンにとって必要不可欠な姿勢です。
顕在的な技能が足りなければ優先的に補い、すぐには成果に現れないが重要なスキルはじっくり伸ばしていきます。すべての能力を同時に伸ばすことは難しいですが、どんな仕事でも「意味をもってあたれるかどうか」で差がつきます。
人生における仕事の意味を考える
自身のキャリアにおいて、仕事が果たす役割や、仕事を通じて何を成し遂げたいのかを明確にすることも重要です。特にプログラマーやエンジニアにとって、プロジェクトごとに異なる目標や達成感を得ることは、エンプロイアビリティ向上の大きなモチベーションになります。
自分の人生における仕事の意味や価値を考え抜くことで、時代や企業など自分でコントロールできない要因に左右されない、自走可能な優秀な人材になれるでしょう。
- エンプロイアビリティとは、ビジネスパーソンが企業に「雇われるための能力」であり、人材の流動性が増している現在において、労働者・企業双方にとって重要な概念となっている
- エンプロイアビリティの基本概念に照らすと、エンジニアが磨くべきは開発スキルだけではなく、コミュニケーション能力や問題解決能力といったポータブルスキルも重要になってくる
- エンプロイアビリティの分類は、絶対的、相対的、外的、内的の4つに分けられ、それぞれ異なる特性がある
- 絶対的エンプロイアビリティとは、どの業界でも通用する汎用スキル
- 相対的エンプロイアビリティは、特定業界で重視されるスキル
- エンプロイアビリティを構成する具体的要素には、専門知識、論理的思考、協調性、価値観などが含まれ、技術以外の個人特性も重要
- エンプロイアビリティ向上のステップには、自己評価、スキル優先順位の設定、仕事の意味を考えることが効果的