塾長から組み込みエンジニアへ 独学で学んだ知識でDXツール開発にも挑戦

原田嘉孝(仮名)さん
原田嘉孝(仮名)さん 組み込みエンジニア 34歳
大学の文系学部卒業後、個別指導塾に就職したものの結婚を機に転職を決意。未経験ながら独学でプログラミングを学び、組み込みエンジニアとしてキャリアを開始した。転職して2年が経つ頃には基本情報技術者を取得するなど、エンジニアとしてのキャリアを着実に積み上げつつ、現在は産業用機械制御用PLCのリアルタイムOS開発に従事し、システム設計や構築を担当している。
エンジニアとして働くうちに「仕事の幅を広げたい」という思いから副業を開始。複数店舗のシフト管理兼人件費算出ツールや電車運賃算出ツールの監修など、身近な課題を解決するシステムを開発している。今後も会社・副業双方で “痒いところに手が届く”システムを提供し、社会へ貢献していきたい。

 

個別指導塾の塾長から組み込みエンジニアへ転身

――組み込みエンジニアになる前の経緯を教えてください

元々、大学では文系学部を専攻しており、卒業後は個別指導塾に就職しました。塾長にまで昇進しました。結婚を機に「自分のペースで仕事をしたい」「ワークライフバランスを見直したい」と思うようになり、転職を意識したんです。

退職を決意してからは、パソコンを使った仕事に興味があったので、とにかく基礎知識を頭に入れなければと思い、IT関係の勉強を始めました。同時にプログラミングにも興味があったので、「数ある言語の中でも昔から使われているC言語を習得すれば転職活動に有利かもしれない」と思い、こちらも並行して学びました。塾の仕事は夕方に生徒が来てからがメインの時間。午前中は事務作業で比較的時間が空くので、その時間を使って勉強していました。

勉強しながらリモート面談を活用して転職活動を進める中、たまたま今の会社が未経験でも受け入れてくれたので、組み込みエンジニアとして働き始めました。現在は、大手企業の一次受けとして、産業用機械や制御システムの設計に携わっています。

 

――組み込みエンジニアとはどのような仕事をするんですか?

私はプログラムを担当するエンジニア、いわゆるSEです。SEというと、WEBやアプリの制作をイメージされる方が多いと思いますが、私が手がけているのは「組み込みシステム」の開発です。

組み込みシステムとは、特定の機能や目的のために機械や装置の中に組み込まれたコンピュータシステムのこと。パソコンのようにさまざまな用途で使われるものではなく、その機械や装置が正しく動作するために設計された専用のソフトウェアとハードウェアを組み合わせたシステムです。

組み込みシステムの例としては、自動車のエンジン制御や電子レンジの加熱制御、工場設備のPLCによる制御などがあり、いずれも特定用途に特化しています。組み込みシステムはセンサーやモーターと密接に連携して動作するため、ハードウェアへの依存度が高く、さらに製品の寿命が長いことや安全性が求められるので、ソフトウェアの安定性や信頼性が強く求められます。

私の所属している会社は大手企業の一次受けで、納期は比較的長めに設定されるのが特徴です。担当しているのは、産業機械を動かすアームなど、いわゆる「マシン」と呼ばれる部分で、これを制御するPLC*を開発しています。メイン機能は依頼元の大手企業が担当しているため、私たちは主に不具合の修正を担っています。また、実際に産業機械を使っている現場の方から「こういう機能が欲しい」という要望があれば、各顧客に合わせて特別なOSを作成することもあります。

*PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ):工場や設備の機械を自動で制御するための小型コンピュータのこと。スイッチやセンサー、モーターなどの信号を読み取り、プログラムに従って機械の動作を制御する。

 

――個別指導塾で働いていた頃と労働環境はどのように変わりましたか?

個別指導塾で働いていた頃は、子どもたちがどういう指導をすれば勉強しやすくなるのか・理解が深まるのかを考えていました。仕事も子どもたちのペースに合わせながらやるので、自分で仕事のペースを調整できなかったんですが、今はパソコンに向かう時間が長いので、自分のペースで時間を管理できるようになりました。

個別指導塾の仕事もやりがいがありましたが、今は既存のアルゴリズム*や、組み込まれているソフトウェアの制御手法などを学びながら仕事をしているので、「こういう選択肢があるのか」という新しい発見が面白く、モチベーションになっています。
また、世の中の仕組みというか、裏側ではこういう機械が活躍しているんだという、そういったことを知れるのも楽しいです。

仕事のペースを自分で管理できるようになったことで、ワークライフバランスも充実するようになりました。自分で仕事の調整をしながら有給を取得できるため、毎年ほぼすべての有給を使い切れるようになったのが、特に嬉しいポイントです。

*アルゴリズム:ある問題を解決したり処理・実行したりするための明確な手順やルールの集合のこと。入力を与えると、その手順に従って有限回の操作で結果(出力)が得られる点が特徴で、プログラムやシステム設計の基盤となる。

 

――エンジニアとした働く中で、どのような時にやりがいを感じますか?

実際にプログラムをしているときは、数値がどう変化しているのかを追いかけたり、コンパイルを通すために工夫したり、処理を軽くする方法を考えたりするのがメインの作業になります。そうして作り上げたソフトウェアを搭載した装置が、実際に工場で動いている様子を見ると、ハードとソフトの両方への理解がさらに深まります。そして、ものづくりの根幹に携わり、自分の作った製品が社会の役に立っていると実感できることが、大きなやりがいにつながっています。

 

エンジニアとしての活動の幅を広げるため、中小企業のDX化ツールを独自開発

――原田さんはエンジニア3年目から副業を始められたんですよね

はい、そうなんです。C言語を勉強して転職し、OJTで学びながら仕事をしていたのですが、正直なところ機械や制御の細かい仕様についてはまだ抜けている部分がありました。それを補いたいと思い、プログラミングコンテストに挑戦するようになったんです。

そうやってC言語の深い部分を少しずつ学ぶ一方で、Pythonというシンプルで読みやすい文法を持つプログラミング言語の勉強にも取り組みました。基本的なことを理解できるようになると、Pythonがデータ分析やWeb開発、機械学習など幅広い分野で使えること、さらにExcelとも連携できることに気づいて「これなら自分でも色々なシステムを作れる」と思うようになったんです。

やがて小さなお店や企業から「DXツールを作ってほしい」という案件を見つけ、それを受けるようになったのが副業を始めたきっかけでした。

――これまで、どのようなツールを開発したんですか

副業では、複数店舗のシフト管理と人件費算出を一体化したツールや、電車運賃を自動で算出するツールの監修など、身近な課題を解決するシステムを開発してきました。既存のツールは従業員数の多い店舗を前提にしていたり、複数店舗の管理に対応していなかったりと、実際の現場では使いにくい部分が少なくありません。

そこで、既存ツールの不便な点を補う「痒いところに手が届く」仕組みを意識して開発しています。店舗や組織ごとに合わせてカスタマイズしたシステムを届けることで、現場の方々がストレスなく業務を進められるようにすることを大切にしています。

 

――副業を始めるにあたって準備したことを教えてください

基本的なプログラミングの知識を習得するのはもちろんですが、相手の要求を正しく理解するために簿記や契約関係の資格も勉強してきました。ただ要求を聞いてツールを開発するだけでなく、「その要求に合うシステムはこういうものです」とこちらから提案できるように、幅広い知識を身につけることを心がけています。

私の顧客は小規模な企業や店舗が中心なので、中小企業診断士の勉強にも取り組んでいます。中小企業診断士は経営全般に関する幅広い知識を持ち、中小企業の経営課題を診断・助言する専門家として位置づけられている国家資格で、「経営コンサルタントの国家資格」とも呼ばれています。この資格を取得すれば、ツール開発にとどまらず、補助金の提案や申請サポートまで含めて顧客を支援できるようになります。

――副業をこなす上での戦略やマイルストーンについて教えてください

副業を続けるうちに、困っている人たちを助けられるツールを自分が提供できることに、大きなやりがいを感じています。本業の仕事も楽しくやりがいを感じていますが、副業では直接お客さんと議論し、開発するツールの全体像を固め、それを形にしていく開発フロー全般に携われるのが特に面白いですね。

収入が増えることもモチベーションの一つです。将来的には、ネット上の副業支援サイトを通さず、「原田さんに頼めば大丈夫」と言ってもらえるくらいの実績を積み、直接依頼を受けられるようになりたいと考えています。

副業を通じてエンジニアとしての仕事の幅が広がるだけでなく、自分の世界も広がったと感じています。今後も必要な勉強を続けながら、支援ツールの開発を続けていきたいです。

 

組み込みエンジニアとして描く将来像

――今後の理想の働き方や、組み込みエンジニアとしての将来像について教えてください

 

組み込みシステムの業界というのは、世界的にある程度構造が決まってしまっているところがあります。必要な装置や設備、ノウハウを持っている会社が勝ち続ける、という状況です。私が担当している工場の産業機械に関して言えば、日本ではこの会社、海外ではあの会社が強いという構図がある程度決まっていて、新規産業を立ち上げるのはなかなか難しい部分があります。ある意味で人材の流動性も少なく、少しもったいないと感じるところがあります。まだ具体的な案はありませんが、新規参入がしやすくなれば、業界はもっと面白くなるのではないかと思っています。

また、工場の制御装置について言うと、古くからあるものは基本的にC言語とCOBOL(共通業務向け言語)でOSを作っています。どちらも古い言語なので、最近SEになった人の中には扱えない人も多いのが現状です。最近のトレンドはPythonやRubyといった言語なので、古くからある装置をメンテナンスできる人材は限られています。現在、その対応ができる人が退職する際には技術の引き継ぎがされますが、世代によって技術の残し方に差があり、残された人が扱えなくなることも少なくありません。

組み込みエンジニアの仕事は非常にやりがいがあるので、今後はこうした世代間のギャップを埋められる働き方や、場合によってはツールを作って解決できるような取り組みもしていきたいと考えています。

 

■おすすめ書籍

文系からエンジニアにキャリアチェンジしたこともあり、仕事に関する本をよく読んでいます。

特に「プログラム言語C 第2版 ANSI規格準拠(B.W.カーニハン/D.M.リッチー著 石田晴久訳)」は開発者による仕様書で、細かなルールが詳しく解説されており、言語の理解を深めるのに役立っています。リファレンスとしても使えるので、転職してからも愛読しています。

こちらの「暗号解読入門 第3番 秘密の国のアリス(結城浩著)」は、基本的な暗号のルールを網羅的に解説しており、実践例も書いてくれています。
「有用な暗号は、使用が公開されていても解かれない」と書かれていて、その理由を実際の暗号作成方法・解読方法どちらも記載して証明してくれているので読み応えがあります。

 


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