毎日通うオフィスビルや、日ごろ利用する商業施設。街の景観をつくっているのは、たくさんのビルや建造物です。そんな建物を利用する人びとの安心・安全を守るため、昼夜を問わず街をまわって電力設備の点検を行っているのが、電気主任技術者です。技術者不足が問題視される昨今、電力の安全を守る電気主任技術者の重要性はますます高まっています。
本記事では、電気主任技術者として高圧電力の保守業務に従事する、K・Yさん(仮名)にインタビューしました。電気主任技術者の仕事や業界の魅力について、詳しく語ってもらいます。
四年制大学の工学部を卒業後、大手電気保安法人に新卒で入社。電気主任技術者として勤務8年目。東京都内を中心に、商業施設やオフィスビルの高圧電力設備について保守・点検を行う。
人びとの安全を守るため、電力設備の健康診断をしてまわる日々
――電気主任技術者の仕事について、詳しく教えてください。
国家資格で認められた「第三種電気主任技術者」として毎日現場に赴き、ビルの高圧電力の保守点検を行っています。変圧器や電圧計、電流計などの器具が正常に動作していることを確認するのが主な作業です。設備の経年劣化や異臭など、現場に明らかな違和感や異常がないかも確認します。
電気主任技術者が担当するのは主に、6600ボルトの電力供給を受けているビルです。ビルではまず、電力会社から6600ボルトの電力を受け取り、「キュービクル式高圧受電設備」という設備で100ボルトや200ボルトなどの電圧に落とします。電圧を小さくすることで、コンセントなどから電気を利用できるようになります(図版参照)。
この変電設備が正常に動作していないと、火災や感電など、重大な事故の原因となるのです。コンセントから火花が散ったり感電したり。人の安全に関わるので、僕たち電気主任技術者が責任を持って点検しています。
キュービクル式高圧受電設備のような高圧受電設備がある大型施設には、電気主任技術者が常駐するのが原則なんですね。しかし、技術者を常駐させるのは現実的に難しいので、僕の勤め先のような「電気保安法人」に電気点検を委託できる制度があります。この制度を利用して、ビルのオーナーや不動産会社が、僕たちに電気点検を依頼してくれるわけです。
――毎日何件ほど点検に行くのでしょうか。
多いときは、1日に8棟まわることもあります。朝8時半頃始業して、基本的には一日中外回りです。数ヶ月に1回の停電点検を行う場合など、顧客の希望で夜間や週末に対応する場合もあります。仕事のリズムは比較的不安定ですね。
最近は電気主任技術者の数が減っているので、業界としては仕事が溢れている状況です。僕の会社でも、自分で現場を担当できるレベルの電気主任技術者は、一人あたり70棟ほどの施設を担当しています。なかなか忙しいですね。
初めて一人で作業をこなせた「一人前」の喜び
――電気主任技術者の仕事をしていて、印象的だった経験はありますか。
どこの現場での体験もちゃんと覚えているので毎日が印象的だなと思うのですが、強いて一つ取り上げるなら、嬉しかったことがあります。
新人が一人前として認められるための基本的な作業に、継電器(けいでんき)点検作業があります。これは資格勉強で得た知識とは別に、現場で手順を覚えなければならない重要な作業で、身につけるのが結構大変なんです。先輩が継電器点検する様子をよく見て、自分で手順を何度も復習しました。
ある日先輩から「じゃあK・Yくん、継電器点検やってみて」と初めて指示を受けました。すごく緊張しつつも、準備しておいた通りに実行して作業をこなせた時、大きな達成感がありましたね。継電器作業を正しくできないと、停電の復電が遅くなるなどお客様に迷惑がかかるので、自分一人でもやっていけるなという安心感がありました。
――技術的な作業以外にはどのような業務がありますか。
僕の場合、点検報告や契約処理などの事務作業も自分で行っています。会社によっては専任スタッフが対応してくれる場合もあると思いますが、うちの会社の場合は電気主任技術者が包括的に対応しなければならないので大変です。
新しいビルとの取引が決まると、依頼者と契約を交わして経済産業省に届け出をする必要があるのですが、必要な内部書類の準備や精査はかなり営業っぽい業務です。自分の担当施設が契約更新になる度、事務処理に追われていますね。
それから、大手のビルに大規模な点検で入る際など、事前に先方を訪れて打ち合わせを行う場合がありますね。結線図とよばれる資料を見ながら、必要な点検についてお客様に説明しながら点検計画を練ります。お客様は電気の知識を持たない場合が多いので、電気のプロとして責任感を持った対応が必要です。
――お客様とのコミュニケーションで苦労することはありますか?
設備交換を渋るお客様に、ちゃんと納得いただくのに根気がいるケースはあるかもしれないですね。電力の安全を守る専門家として、設備の劣化や老朽化は見逃せません。製造年数などを加味して、新しい設備に交換した方がいいと判断した際は、ご納得いただけるまでお客様としっかり話します。
お客様との会話が難航する場合は、『高圧受電設備規程』という本が役に立ちます。点検項目や作業プロセスなど、実務ベースでルール化されているものなので、説明の根拠としてお客様に見せる場合もあります。だいたい同じところが論点になるので、内容を覚えてしまうんですけどね。業務上困ったときに、辞書的に活用しています。まさにバイブルです。
ラジオ作りが楽しかったから、社会インフラにつながる電気の道へ
――電気の仕事に興味を持ったきっかけは何ですか。
高校生のときまで遡ります。高校で、文系か理系か選択するタイミングがありますよね。その時にすでに、就職とか、将来の仕事のことを考えていたんです。
仲の良い叔父に進路を相談したところ、「社会インフラに携わると将来的に安心だ」という話をしてくれました。「社会インフラ系の事業に従事することを見据えて、まずは大学で色々勉強してみたら」と。インフラ系の仕事に就きやすそうな、理系を選択することにしました。
その後大学受験の時期になると、どの分野に進もうかさらに考えます。その時ふと、中学校の技術の授業で、手回しのトランジスタラジオを作ったことを思い出したんです。電気回路をはんだ付けしたり、部品をつけたり、あの作業が結構楽しかった。「電気は楽しいかもしれない」と思い、工学部を受験して電気系の学科に進学しました。そこからですね。
――その後、電気主任技術者として無事活躍しているということは、適性があったんですね。電気主任技術者に必要なスキルや適性はどんなものだと思いますか。
そうですね。必要とされる素質は、真面目さですかね。やるべきことをごまかさずにちゃんとできる人に向いていると思います。あとは、心配性な人にも向いています。「これは微妙だけど、放ってはおけないな」という人のほうが、リスクマネジメントが上手にできるんです。不安になるくらいなら対処しようと思える人が、電気主任技術者として活躍できると思います。
電気主任技術者には、特別なスキルは必要ないと思います。「オームの法則」のような電気の知識はもちろん必要ですが、実務の過程で覚えられるでしょう。お客さんと話す機会がそこそこあるので、コミュニケーション能力は意外と大切かもしれませんね。ビルの担当者といい関係を築ければ、仕事を進めやすくなりますから。
――電気主任技術者の仕事のやりがいを教えてください。
現金な話ですが、僕の場合、一番のやりがいはお給料です。電気主任技術者は社会インフラに必要不可欠な仕事なので、年収の相場は比較的高いと思います。もちろん会社や就業形態によりますが、僕自身は同世代の平均と比較して結構稼いでいる方だと思うので、大きなやりがいに繋がっています。
やりがいとは少し違うかもしれませんが、仕事中にお客様とすこしギクシャクしてしまうことがあっても、「あなた方が電気を使えるのは我々のおかげですよ」と思うと、少し心に余裕が生まれます。影響力の大きい仕事だっていうのは魅力ですよね。
――逆に、大変なことは何ですか。
大変なのは、やっぱり忙しいことです。電気の保守点検は夜間や土日に行う場合が多々あるので、夜や週末は休みたいというこだわりがある人には辛いかもしれません。逆に、代休で平日休みを取れるのはメリットですよ。
繁忙期になると、全然有給が取れなかったり、土日稼働が続いて代休が溜まってしまったり、なかなかハードスケジュールになります。僕は、働いた分しっかり稼げると割り切って乗り越えていますね。
ちなみに、電気点検の繁忙期は冬です。夏場の停電って辛いじゃないですか。冷蔵庫や冷房が止まってしまうのは困るので、停電点検は冬場の依頼が多いんですよ。
手に職をつけて独立の道も。広がる電気主任技術者のキャリア
――電気主任技術者の将来性やキャリアについて教えてください。
電気主任技術者は、将来性にあふれた職種だと思います。電力のインフラを支える仕事なので、仕事がなくなることはまずありません。しかも、近年では担い手が減っているので、今後さらに需要が高まって、引く手数多になっていきます。チャンスだと思いますよ。
キャリアも人によってさまざまです。たとえば、電気保安法人に勤めて、社内で実績を高めて出世するルート。僕の会社では、とくに大卒の人が管理職にキャリアアップしていくことが多いです。経験を積んでいけば、マネージャーの立場を期待されると思います。あとは、より待遇や条件のいい別の会社に転職していく人もいますね。
他にも、ひとしきり現場での経験を積んで独立する人もいます。電気主任技術者として起業して、個人で業務を受託することも可能なんです。同職の知人にも、会社を辞めて個人で同じ仕事を続けている人がいますが、忙しく働いてたくさん稼いでいる印象です。企業勤めでないため、仕事をすればするほどお金になるという魅力があります。
――K・Yさんは今後のキャリアについてどのようなビジョンを描いていますか。
僕は正直、現状に比較的満足していて、なるべく現状を維持したいと思っています。マネージャーになると忙しくなりすぎてしまうので、僕はあまり出世欲がないんですね。現状十分忙しいので、十分な量の仕事をこなして稼ぎつつ、仕事以外の時間もちゃんと持てるようにしたいと思っています。
強いて言うなら、仕事をより賢く進められるように成長していきたいですね。お客様と「波風立てず」、スムーズに交渉して速やかに設備更新をしてもらうとか。まだまだ伸び代があるところです。
――最後に、電気主任技術者を目指す人にひと言お願いします。
電力インフラを守る、やりがいのある仕事です。これからの時代引っ張りだこですし、信頼される仕事にはきちんとお金がついてきます。
自分が理想とする働き方を模索しながら、ぜひ挑戦してみてください。
■おすすめ書籍
「高圧受電設備規程」(日本電気協会)
点検項目や作業プロセスなど、実務ベースでルール化されているものなので、説明の根拠としてお客様に見せる場合もあります。お客様との会話が難航する場合は非常に役役立ちます。業務上困ったときに辞書的に活用しており、まさにバイブルといえます。
