「ものづくりエンジニア」として、自動車・バイクの設計開発に携わる佐々木さん(仮名)。自動車を安全・安心・快適に運転するために必要な制御システムの開発に携わっています。また佐々木さんはエンジニアとしてだけでなく、父としても日々奮闘。育児休暇を取得したときには「妻と気持ちを共有しながら支え合えた」と振り返ります。
そんな佐々木さんに、ものづくりエンジニアの仕事について、またワーク・ライフ・バランスをとりながらキャリアを築いていくことについて、お話を伺いました。
佐々木さん(仮名)ものづくりエンジニア 34歳
自動車・バイクの設計開発に従事するものづくりエンジニア。第1子誕生のタイミングで半年ほど育休を取得し、妻と共に子育てに専念。家族と仕事のバランスを上手く取りながら、エンジニアとして、父としての日々を送っている。
HEVの制御開発に携わるものづくりエンジニアの仕事
――自動車やバイクに興味を持ったきっかけを教えてください。
親がバイクに乗っていたので、子どもの頃からバイクは身近な存在でした。バイクの免許をとってからはよくツーリングに出かけ、車を乗るようになってからは乗り物自体に興味を持つようになったんです。
そこから「ものづくり」業界に惹かれ、バイクの開発も手がける自動車会社での仕事を希望し就職活動しました。今でもバイクが好きで、休みの日はツーリングを楽しんでいます。
――ものづくりエンジニアになろうと思ったきっかけを教えてください。
乗り物だけでなくロボットにも興味があったので、漠然と工学の道に進みたいと思っていました。兄が工学部に通っていたこともあり、身近だったこともあります。工学の道を目指すようになってからは、自分の好きな乗り物に携わりたいと思い、ものづくりエンジニアを志しました。
一言で「ものづくり」といってもいろんな仕事がありますが、ものづくりエンジニアは、自動車や家電、精密機器や半導体などを扱う製造業(メーカー)で研究開発、設計、生産技術に携わるエンジニアを指すことが多いですね。特に機械工学や電気工学、制御工学、情報工学などを専門に扱う人が多く、私は自動車メーカーで自動車やバイクの設計開発を担当しています。
――自動車・バイクの設計開発に携わっているんですね。
もともとバイクの開発に興味がありましたが、今はHEV(ハイブリッド自動車)の市場が大きいので、その制御システム開発を担当しています。具体的には、運転手の挙動からトルク※をモーターにどれくらい伝えるか、トルク指令を送る際の遅延や振動はどれくらい許容するかなど、仕様に合わせて正確に自動車を操縦できるような制御システムを構築し、制御パラメータを設定しています。
例えば、アクセルを踏んでからモーターにトルクを伝える際、駆動トルクの応答が早くなるように制御パラメータを設定すれば、遅延なく自動車を操縦でき、違和感なく運転できます。ただし、モーターが駆動する際に振動や衝撃も出やすくなります。
このモーターの振動や衝撃の発生を抑えた上で駆動トルクの応答が早くなるよう、制御パラメータを調整しています。また、駆動トルクの立ち上げが早くなると燃費が落ちる制御パラメータもあるので、ドライバーの意思を正確かつ安全にモーターに伝え、快適な走行を実現できるように努めています。
※固定された軸を回転させるのに必要な力のこと。
――HEV、EV化や自動運転の普及で仕事内容に変化はありましたか。
HEVやEV(電気自動車)は世界中でどんどん普及していて技術開発が盛んです。今、欧州向けの自動車はほとんどHEVやEV。でも多種多様な環境で正確・安全に問題なく走行できるように制御するのは結構難しいんです。
最近では自社製品の技術力向上を図って、HEV、EVに強い関連会社に出向する社員が増えました。彼らが自社の技術力向上のために技術を教えてくれます。自動車メーカー同士でも盛んに技術交流をしていますよ。
自動運転は今の業務に直接関係ありませんが、その潮流は強く感じています。いずれ自分も携わることになると思うので、技術の傾向を注視しています。
海外でのプロジェクトも経験しながらキャリアを築く
――エンジニア歴9年とのことですが、どんなキャリアを積んできましたか。
今の部署に配属されてからは、欧州向けのHEVシステムの開発プロジェクトに参加し、新しい制御システムの構築を手がけました。開発の初期段階から量産まで携わり、新製品の開発の流れを全体を経験することができました。
量産前には欧州に出張し、試作車を走らせてテストも実施。耐暑テストのほか、パソコンと自動車をつなげて制御パラメータの変更で挙動がどう変わるかなどの実車試験をし、最終調整もしました。
現在携わっている仕事は、新しいHEVシステムの開発です。既存のガソリン車をどんどんHEV化しています。
――ものづくりエンジニアに求められるスキルや姿勢は何でしょうか。
基本的な電気工学や機械工学などの知識に加えて、広く多面的に物事を考える能力が大切だと思います。プロジェクトはチームで役割をまたいで協力し合うことが求められ、自分の担当範囲以外にも目を向けることが必要だからです。
設計開発でいうと、「この項目を改善すると、別の項目が劣化する」という「トレードオフ」についてしっかり理解するのが重要だと思います。トレードオフは必ず発生します。設計開発で大変なところは、どうすればトレードオフを解消できる制御システムを構築できるかを考えること。トレードオフを常に考える癖をつけておくのが大切ですね。
また、制御システムを考案する際、学生時代の教科書を開いて復習することもあります。これまで学んだ知識も改めて必要になることが多いので、新しい知識を得るだけでなく既存の知識を振り返る重要性も感じています。
――苦労したことや大変だったことはありますか。
自動車は国によって法規が異なり、HEV、EVは特に認証が難しいんです。特に欧州は法規が曖昧な点が多く、一度認証機関と会社の法規解釈が異なっていることが発覚したこともありました。量産前の急な仕様変更で、かなり大変な思いをしました。最近は自分でも法規をしっかり理解できるように勉強しています。
――ものづくりエンジニアならではのやりがいを教えてください。
自分が担当した製品が身近で使われてるのを見るとやりがいを感じますね。プロジェクトが完遂した時、製品が日常で使われているのを見た時の喜びはひとしおです。
実車試験で制御パラメータを変えながらテストをする際、ちょっとした変化で車の挙動が大きく変わるので、そのフィーリングを変えながら試すのも楽しいです。
キャリアとプライベートのバランスも「トレードオフ」自分に合ったスタイルを
――佐々木さんは育児休暇を取得したんですよね。
第一子が生まれてから半年ほど育児休暇を取得しました。私も妻も両親が遠方に住んでいることもあり、いざという時に頼りにくいことが育休取得を考えたきっかけです。また、子どもの成長を身近で眺めたい、一緒に過ごしたいというのも動機です。今しか見られない子どもの成長を見守り、育児に主体的に関わりたい気持ちが強かったんです。
私と妻は共働きで、育休を申請したら2人分の給付金をもらえるので、経済面の不安がなかったのも大きいです。お金の心配をせずに子育てに専念できたので、とてもありがたい制度だと感じました。
育休を取ることで、昇給や昇進が遅れるかもしれないと不安に思ったことはありましたが、多少キャリアが中断しても、子どもと妻と一緒に過ごしたいと考えて決断しました。育休中、子どもの夜泣きがひどかったり、離乳食を全く食べなかったりと大変なことも多かったです。でも妻と気持ちを共有しながら支え合えたのが良かったですね。
――育休中の印象深かった出来事を教えてください。
育休中に英語の勉強をしようと思っていましたが、家事と育児に追われてほとんどできませんでした。
それでも育休中に子どもとしっかり向き合って信頼関係を築けたので、復帰後にワンオペになっても子どもが安心して甘えてくれるのがうれしいです。子どもにとって頼れる父になれたので、育休をとって本当によかったと思っています。
――職場で育休を取得する方は多いですか?
子どもがいる人は育休を取得している印象で、毎年数人取得しています。先輩の男性社員も育休をとっていたので、アドバイスをもらうことができました。私が所属している部署は育休を申請しやすい雰囲気で、上司も同僚も理解があるので、とてもありがたいです。
ただ、育休の事例を調べると母親側のモデルケースが多く、「父親がとる」「2回に分けてとると制度上どうなるのか」という情報が少なかったんです。私は総務の方に色々調べてもらって、自分に合った方法で育休を取得しました。
最近は時短勤務の制度も整ってきたので、育休復帰後しばらくは時短勤務をする人もいます。
――仕事と子育てを両立するために働き方や仕事の進め方で工夫していることはありますか。
育児も家事も仕事も「やれるところはここまで」と区切り、無駄をなるべく減らすようにしています。仕事の場合、定時で帰ることができるように時間で区切ってタスクを終わらせることを意識していますね。まだまだ模索中ですが、今のところ効率が良くなっている様に思います。
家事は、私の方が得意なことが多いので担当範囲が広いんです。得意不得意、やるべきラインを妻と話し合って、こちらも手探りで育児と並行しながらやっています。
妻も私も、家事や育児で何か問題が起きたらちゃんと話し合い、改善することを心がけています。それから、お互いに感謝する気持ちを忘れないように努めています。
――公私のバランスがうまく取れているんですね。
育休を取ることで、昇給や昇進が遅れるという事実はあると思います。でも、私は仕事のためだけに生きているわけではありません。キャリアとプライベートのバランスをとる、それも「トレードオフ」であり、許容していく必要があると思います。
今の年収の満足度は80%くらい。私は家族の時間を優先したかったので、今のバランスに満足しています。これからは休んだ分もバリバリ働いてキャリアを積みたいですが、第2子が産まれたらまた育休を取得したいと考えています。