クラウド全盛の時代でも、独自の通信システムが必要不可欠な場所があります。 高いセキュリティレベルが求められる現場で、システム設計から開発、プロジェクトマネジメントまでを一手に担うスペシャリストは、どのような課題と向き合い、どのような工夫を凝らしているのでしょうか?
今回は、プロジェクトマネージャー(PM)として最前線で活躍するF.M.さんに、PMの仕事内容やチーム内でのコミュニケーションのコツ、後進の育成などについて、お話を伺いました。
F.M.さん 通信・装置システムの設計、開発設計及び製造プロジェクトマネージャー
大学院卒業後、新卒入社した現在の企業で、一貫してプロジェクトマネジメント業務に携わる。エンジニア歴23年のキャリアを持つ。
プロジェクトマネージャーまでのキャリアパス
――本日はよろしくお願いします。F.M.さんは組織の通信システム・装置のシステム設計及び開発設計・製造プロジェクトマネジメントをされています。まずは現在の役職に至るまでの道のりを教えてください。
大学院卒業後、電機メーカーに入社しました。入社後はすぐにプロジェクト部門に配属。あるプロジェクトの中の、電気設計・管理設計を中心にしたサブプロジェクトの業務を中心に担当していました。その後、会社の体制が変わって技術部門が分かれ、私はプロジェクトを専門に担う部門に配属されて、今に至ります。
――大学院では何を専攻していましたか?
電気電子工学科に在籍していて、MRI画像処理をテーマに修士論文を書きました。分割されたMRI画像をつないで、動きが見えるようにするための理論を研究しました。
――その研究は、入社後にどのように活かされましたか?
まったく関係なかったです(笑)。入社後の最初の仕事は、電気回路の設計でした。在学中にトランジスタアンプを作っていたので、電気回路の設計自体は経験がありました。でも、いきなり任されたのがCPUカードの設計で。同じプロジェクトの設計者の方にいろいろ教えてもらいながら、なんとか完成させました。
――大学院では特に理論面などで高度なものを学んでいた。それが仕事では、実際のモノに関わる技術が求められて、そうしたギャップはどのように埋めていったのでしょうか?
会社が技術関連の講座を定期的に開いていて、そこで学んだことが大きかったです。また、自分なりに参考書で学んだり、インターネットで調べたりもしました。
――仕事をする上で「学生時代こういう勉強をやっておけばよかったな」ということはありますか?
それは英語ですね。新しい技術を学ぶにも、お客様により良い提案をするにも、英語の論文や研究書・雑誌にあたらないといけません。私の仕事では、英語を話せる必要はありませんが、とにかく大量の長い文章が読めるような英語のスキルは、もっと学生時代に身につけておけばよかったと思っています。
高度なセキュリティが求められる通信システムの開発設計
――通信システムの開発設計というお仕事について、もう少し詳しく教えてください。
今、行っているのは、お客様のネットワーク通信システムの開発設計です。お客様の要望に沿ったシステムを計画し、会社が提案を行います。その提案が了承されたら、プロジェクト化され、スタート。そこから具体的に開発設計が始まり、運用試験を行った後、調整して量産化していく、という流れです。
――今、通信システムというと、クラウドが一般的になっていますよね。
確かにクラウドが主流になっていますが、私の部署が手掛けているのは、高いセキュリティレベルが求められるシステムのため、お客様が持っているインフラシステムを利用して、通信設計を行います。そのため、クラウドを使うことはほとんどないですね。
――そのように高度なセキュリティが求められる現場で、難しいことは何でしょうか。
通信というのは、基本的に情報を送信した側のデータと、受信した側のデータが一致しなければ意味がないんですね。そのためにインフラを作っている会社、通信システムを構築する会社、製品メーカーなど、それぞれと調整が必要ですし、お客様とも話し合いながら進めていかなければなりません。そうした調整が大変なところです。
――サイバー犯罪やランサムウェアなどのニュースが、毎日のように話題になっていますね。その面での対策についても教えてください。
アンチウイルスのソフトウェアを導入することはもちろんですが、実際に毎日その通信機器を使うのはお客様。なので、セキュリティ侵害の要因やアンチウイルスソフトウェアがどのように機能するか、また万が一、事件・事故が発生した場合はどうすべきかなど、お客様に根本から理解していただくことが重要です。設計するだけでなく、そうした理解をうながす活動が必要ですね。
プロジェクトマネジメントで求められる役割とは
――プロジェクトマネージャー(PM)とはどのような仕事ですか?
簡単にいってしまうと、お客様から伺った要望をもとに、設計・仕様を提案するところから始まり、製品化、量産、そして最終的に納入するところまでを取りまとめる仕事です。お客様のニーズを聞き取る営業的な要素もありますし、当然設計もします。
製品の設計・開発自体は技術部の専門家にお願いするのですが、お客様と調整して、お客様の心を動かすのはPMの仕事です。製品を納品後は使ってもらいながら意見を伺って、次の新しい事業に展開していく、というところまで責任をもって行っています。
――どんなときにやりがいを感じますか?
お客様と話して、自分がまとめたものがプロジェクトとして立ち上がり、そこに最初から最後まで関われることですね。難しさでもあるのですが、プロジェクトマネジメントは9割がコミュニケーションなんです。コミュニケーションがうまくいかないと、仕事もうまくいきません。
仕様調整や、お客様への説明もそうですし、内部に対しても、お客様の要望をうまく汲みとって、技術部に伝えて作ってもらうことが非常に重要になってきます。そこがなかなか難しいですね。ちゃんと伝わらないと、お客様の要望と違うものが出来上がってしまいますし、実際やり直しになって赤字になったこともありました。
――クライアントとコミュニケーションをとる上で、気を付けていることはありますか?
資料作成の段階から、ITの知識がまったくない人にも伝わるように配慮しています。また、要求を出す人と、実際のユーザーは違うことも多いんです。だからニーズを汲みとるといっても、できるだけユーザー目線に立つことを意識しています。
例えば仕様を調整する場合は、事業を取りまとめる方に対して説明することが多いのですが、「過去にはこういうご意見があって」「この場合は別の仕様も良いかと思います」という具合に現場の声をふまえて提案するようにしています。納入後の保守作業でも、実際にユーザーが使っているのを見ながら説明や調整をしていきますね。
――クライアントからの急な呼び出しなどはあるのでしょうか。ワーク・ライフ・バランスはどう保っていますか。
今は会社全体としてなるべく残業をしない方向に進んでいて、私自身、仕事と私生活を分けるように意識しています。そのために毎朝、自分のタスクを決めています。製品開発から始まって、出荷までの長いスパンのプロジェクトを、1日1日の作業にブレイクダウンして、自分のタスクを決めていくんです。その日のタスクが終わったら「もう何もしない」と決めています。
相手に合わせてコミュニケーションをとる
――プロジェクト部門の新人教育では、具体的にどんなことをしていますか?
基本的には人事部門が新人研修を行っていますが、OJTでは機材の準備や資料作成を新人にやってもらっています。その時に気をつけているのは、新人が自分で考えたり、工夫したりする余地を残しておくこと。例えば私が仕様書を全部、詳細に書いてしまうと、それを資料に起こして終わりになってしまいます。そこで、作ってもらう前に「ここは調べて、わからなければ質問して」と伝えています。
――チーム内のコミュニケーションで気をつけていることはありますか?
チーム内でのコミュニケーションに関しては、あまり難しさを感じたことはありません。ただ最近は女性のメンバーも増えてきたので、できるだけ性別にとらわれず、オープンで建設的なコミュニケーションを心がけています。一方で、性別によって仕事のアプローチや課題の捉え方が異なることもあるので、意識して間違いなく受け取ってもらえるように、説明の仕方は考えるようにしています。
――コミュニケーションとも関連しますが、チーム内でのモチベーションを高めるために、どんな工夫をしていますか?
チーム内にはさまざまな年代の人がいます。20代の人に対しては、できるだけ自分で考えてもらうようにして、考えたものが反映できるようなものの作り方を意識してもらう。年齢が上の人に対しては、持っている技術をチーム全体に還流することをお願いしています。
同年代に対しては、指示するのではなくて、「どうしたらいいだろう」と相談する方向で話をもっていくようにしています。一方的にこちらから伝えるだけでは、相手からより良いアイデアをもらうチャンスを逃してしまいますから。伝えたい内容が伝わっているか確認しながら話すことが大切だと思います。
「この人に頼みたい」と思ってもらえるPMを目指して
――この分野を志望するエンジニアへアドバイスをお願いします。
システムを使うユーザー目線に立って「何がしたいのか」にフォーカスする。そして、実際に設計したらどう動くのか、その製品を実際にユーザーはどう使うのか、などを考えることが重要だと思いますね。
私自身の失敗なのですが、すでにあるシステムを使用しているお客様に対して、実際のものを見ないまま、仕様だけ決めて納品したことがあるんです。そしたら運用の段階になって、納品したものが使えないとわかったんですね。以降、お客様がお求めになっている製品があれば、できればそれに類似したものをまず見ていただいて、実際に使ってもらうというプロセスを踏むようにしています。
――ご自身の今後の目標について教えてください。
ひとつの製品がお客様に納入されて、すごく喜ばれて、引き続き「この会社、あるいはこの人に頼んだらきっと良い製品を納めてくれるだろう」と思われるような、PMになりたいと思っています。そのためのスキルアップも、自分で楽しみながらやっていきたいですね。
また、グループで働いている人たちがみんな、楽しみながら喜んで仕事をしてくれる、そういうコミュニケーションが取れるグループのマネージャーになっていたいなと思います。