株式会社明和 取締役 /アクセルブレーカー開発者
東京電機大学高等学校(電子科)卒業後、地元の自動車修理工場木村自動車に入社(父の知人)。2年勤め3級整備士を取得後退社し、会社勤めを経て28歳で義理の弟とタイヤショップ「ロードハウス」を起業。34歳で4WD車の構造変更(車検に通る改造)を業界に広めるためJOA(現JAFEA)4WD小売店協会を立ち上げる。44歳で越谷市議会議員に立候補し3期12年を勤める(行政、政治家等の人脈を作る)。56歳からは経営と開発に専念。63歳でオルガン式アクセルブレーカーシステムを完成させる。このシステムを社会に広げる事で世界から踏み間違い暴走事故を無くす事を目指すことを社内、金融機関、行政、政治家等にも伝える。
エンジニアとしての原点――起業と「社会に役立つものづくり」への思い
――藤森さんのエンジニアとしてのヒストリー、そして学生時代から現在の仕事をするまでの経緯を教えてください。
私が「ものづくり」に強い思いを持つようになったきっかけは、実は幼少期に遡ります。3歳のとき、自動車に轢かれそうになった経験がありました。かすかな記憶ですが、「一度は失われたかもしれない命」だと思うと、人生に対する恐れがなくなり、そのぶん「社会の役に立ちたい」という気持ちが強くなりました。
高校時代は進路選択で迷いました。大学に進んで企業に就職しても、自分のやりたい研究が自由にできるとは限らないのでは――そんな思いもありました。たとえば「水力で車を動かせないか」「雷の電気を充電できないか」など、型にとらわれない発想を形にしたいという願望があり、それには自分で会社を興し、自由に開発するしかないと考えるようになりました。
28歳でタイヤ販売店を起業し、のちに4WD車専門店へと業種転換。当時(1980年代末)はSUV人気が高まり、トヨタ・ハイラックスなどのリフトアップカスタム(※1)が流行していました。
しかし、こうしたカスタムの多くは違法改造で、車検に通らないケースがほとんどでした。そこで「合法的に車検に合格できる改造を」と考え、運輸支局に何度も通って「構造変更」(※2)の申請を繰り返しました。正しい手順を経て構造変更が認められるようになり、合法的なリフトアップカスタムが可能となったのです。
この「合法カスタム」を業界全体に広めるため、4WD用品会社が集まる日本四輪駆動車用品協会「JAFEA」を約35年前に立ち上げました。さらに、44歳で越谷市議会議員に立候補し、3期12年務めたのも、「正しく良い製品を世に広めるには行政の力も必要だ」と感じたからです。
2015年には会社として「10年ビジョン」を策定し、経営理念の第一に「自動車の機能と性能を高める」ことを掲げ、社内の意識統一を図りました。今年5月には(株)明和と(有)ロードハウスを統合、社長職を息子にバトンタッチ。自分は代表を退き、開発担当役員として新たな製品開発に集中できる体制を整えました。66歳の今、高校時代から抱いていた「ものづくりの夢」が、ようやく着実に形になってきていると実感しています。
※1 車高を高く上げる改造。
※2 車検証に記載された自動車の構造を正式に変更し、合法的に改造車を認めてもらう手続き。各都道府県の運輸支局に申請して審査を受ける。
踏み間違い事故をなくすために――「ペダル奉行」から「アクセルブレーカー」誕生まで
――「アクセルブレーカー」の開発はどのようなきっかけで始まりましたか?
アクセルブレーカーの開発に至る前段階として、まず私は「運転支援補助フットレストカバー」を開発し、「ペダル奉行」として商品化しました。このフットレストカバーは、8年前にアクセルとブレーキの踏み間違いを防ぐ方法として考案したものです。
フットレストの左側に壁を設けることで、ドライバーが足を置いたときにずれにくくなり、右足と左足の間隔もつかみやすくなるという効果が確認できました。しかし、実際に商品化するには科学的な裏付けが必要だったため、埼玉大学大学院でヒューマンエラーを研究している楓准教授に協力をお願いしたところ、快諾いただき、本格的な実証実験が始まりました。
実験では、私たちが装置を製作し、大学側がセンサーを設置して足の動きを詳細に測定しました。フットレストの有無による足のズレの違いを調べたところ、個人差はあるものの、フットレストを使うことで踏み間違い防止に確実に効果があることがデータとして証明されました。楓先生はその結果を学会で発表し、私はビジネスとして商品化し、2019年に発売しました。
2019年といえば、池袋で大きな暴走事故が発生した年でもあります。私たちの「ペダル奉行」が、こうした事故の防止につながるのか議論にもなりましたが、結論としては“完全には防げないだろう”というものでした。サポカー(安全運転支援車)でも、カメラやセンサー、ソナーがあっても、ああいった暴走事故の防止は難しいという現実も見えてきました。
加えて、「ペダル奉行」は踏み間違い防止に一定の効果があったものの、現代の車のほとんどはAT(オートマチックトランスミッション)車です。AT車はフットレストを使わずに運転する人が多く、せっかく踏み間違い防止用のフットレストを開発しても使われないことが多い。とくに高齢ドライバーにとっては、長年の運転習慣を変えるのは簡単ではありません。
「ならば、ドライバーの習慣を変えるより、アクセルペダル自体に安全装置を設けた方が、確実で分かりやすいのではないか」と考えるようになりました。そこで、“必要以上にアクセルが踏み込まれたときに自動で動作を遮断する装置”――それが「アクセルブレーカー」開発の出発点になったのです。
大学との協業、そして“磁石”の発想――ものづくり現場の突破力
――埼玉大学との協業についてどのような経緯ではじまったのでしょうか?
埼玉大学との共同研究は、地域の新聞社の提案がきっかけでした。5年前から協業をスタートし、大学と中小企業が連携することで日本発のイノベーションにつなげたい、という思いがありました。
東大や京大などの大規模大学が最先端分野の研究を主とする一方、地方の国立大学は地域企業と連携し、より身近な社会課題の解決に取り組む傾向があります(これは大学側から伺った考え方です)。
ただ現状では、中小企業と大学の共同研究はハードルが高く、なかなか進んでいません。今回の「アクセルブレーカーシステム」がその成功事例となり、モノづくりに新たなイノベーションをもたらせると期待しています。
なお、踏み間違い防止装置のアイデアは私と社員の2名で考案しました。開発費用としては、埼玉大学への研究費と試験車両4台分で1800万円、さらに試作品や型代、専用マグネットの開発資金として約1000万円を投じています。
――アクセルペダルに磁石を使うアイデアはどこから出てきましたか?
最初は古い型のプリウスやアクアを購入し、どのようにすればアクセルペダルの踏み込みを機械的に遮断できるか、社員とともにトライアンドエラーを繰り返しました。その中で「マグネット(磁石)を使えば良いのではないか?」という画期的なアイデアが社員から出たのです。
最初はネオジウム磁石(※4)など市販の強力なマグネットを試しましたが、どうしても磁力が安定しませんでした。そこで磁石専門の会社に相談したところ、「品質保証もできるし、実験しながら最適な磁力もテストできる」との返答を得て、専用の強力な磁石を開発・製造してもらうことになりました。
約1年をかけて、吊り下げ式アクセルペダル用の「アクセルブレーカー」が完成。しかし新型プリウスの試作を進めていた際、アクセルペダルが“吊り下げ式”から“オルガン式”(※3)に変更されていることに気付き、これまでの製品が使えない事態に。開発陣は一時落ち込みましたが、わずか3日間の調査で「オルガン式」でもブレーカーシステムを内蔵できることが判明。同時にベンツや日産、マツダなど他メーカーのオルガン式ペダルでもテストを実施し、作動に問題がないことを確認しました。埼玉大学でも、磁力がアクセル操作に悪影響を与えないか、踏力テストなどを実施しています。
さらにオルガン式ペダルでは、遮断機能の反応速度が向上し、取り付けも容易でクリアランス(部品と部品の間の隙間)調整が不要となりました。今後主流となるオルガン式アクセルペダルに最適なシステムになったと実感しています。
【オルガン式アクセルブレーカーの特徴】
- 通常走行には全く影響がなく、2.8倍の力で踏み込むと遮断機能が働きアクセル機能をOFFにできる
- 足をペダルから離すと瞬時にアクセル機能が回復する
- 磁力の低下は1年で約0.1%以下(理論上200年問題なし)
この仕組みが普及すれば、世界中の暴走事故をゼロにできると信じています。
また実験を重ねて分かったことは、吊り下げ式ペダルは人によって踏み方がまちまちで、厚いフロアマットの影響も受けやすいですが、オルガン式は床にペダルが固定されているため踏み方のブレが少なくなります。
このシステムは普段の運転操作と何も変わらないので、ドライバーの負担もありません。3,000回以上の踏み間違いテストでも問題なく、私自身もプリウスで17,000km、新型クラウンで6,000km使用して全く不具合がありませんでした。各種センサーや自動ブレーキの動作にも影響はなく、電子式でないため故障リスクも極めて低いです。通常は普通のアクセルペダルとして機能し、強く踏んだときだけ安全装置が作動します。
※3 床面に固定されるタイプのアクセルペダル。従来の“吊り下げ式”に比べて、操作の一貫性や安全性が高いとされる。
※4 非常に強力な永久磁石の一種。磁力が強く、産業用部品にも広く使われている。
“世界初”を目指して――アクセルブレーカーの独自性と今後の展望
――踏み間違い防止装置は他社からも出ていますが、アクセルブレーカーの独自性は磁石を使うことでしょうか?
他社の踏み間違い防止装置は、センサーやカメラで障害物を検知したり、強くアクセルを踏み込んだ際にスピードが出ないように電子的に制御したりするものが主流です。これに対して、アクセルブレーカーは「踏み間違えたまま強くアクセルを踏み続けても物理的に暴走を防ぐ」というアナログな発想が特徴です。
アクセルブレーカーは、強力な磁石とバネを活用しており、普段は普通のアクセルペダルとして何の違和感もなく使えます。しかしブレーキと間違えて強くアクセルを踏み込むと、磁石が離れて「ガキン!」という音と衝撃で足がペダルから離れる仕組み。その瞬間、加速が抑制されるため、暴走を物理的に防ぐことができます。しかも、ペダルから足を離せばバネの力で即座に元の状態に戻るので、通常走行への復帰もスムーズです。
さらに大きなポイントは、「オルガン式ペダル」にも対応できている点です。今後は日本車も含め、多くのメーカーが吊り下げ式からオルガン式へと移行していく流れがあります。実は、吊り下げ式ペダルに対応した装置は既に他社も開発していますが、オルガン式と吊り下げ式の両方に対応できる遮断装置は世界初だと考えています。
なお、電子的なセンサー装置の場合は、走行スピードによって解除される仕組みになっているものが多く(例:30km/h以上では作動しない等)、本当に“暴走を止める最後の砦”としては限界があります。その意味でも、アナログなアクセルブレーカーの意義は大きいと考えています。
私たちアフターパーツメーカー(※5)としては、単に純正の安全性能に頼るのではなく、「さらなる安全」を上乗せする装置の開発が使命だと思っています。エンジンや空力性能の強化だけでなく、安全性も進化させる――それが今後の重要な役割です。
※5 自動車メーカー純正品以外で、後付けで安全性や性能を高めるための部品を製造・販売する企業。
――特許関係はどうなっていますか?
2024年10月に国内特許と国際特許(PCT)を申請し、5月には国際特許の公表もされました。今後はアメリカ、中国、ドイツの3カ国に個別に特許出願を進める予定です(すでに主要国の特許申請は済んでいます)。2025年8月時点で類似品は確認されていません。
自動車生産の8割を占める中国・アメリカ・日本・ドイツで特許取得を目指し、イタリアやフランスなどは次の段階で検討しています。
また、国土交通省の「ペダル踏み間違い急発進抑制装置性能認定」も近いうちに取得予定です。これは装置のスタートラインとなる重要なポイントで、認定機関(JATA)によるダイナモ試験も実施します。
――アクセルブレーカーを含め、今後、踏み間違い防止装置は普及するでしょうか?
踏み間違い防止装置の普及は、現状ではあまり進んでいません。補助金を出している自治体もあるものの、ドライバーの多くは「自分は踏み間違いなんてしない」と考えているため、装置の必要性が伝わりにくい状況です。特に高齢ドライバーの方々は、「自分は大丈夫」「走行中に踏み間違えるはずがない」と自信を持っておられることが多いのですが、実際には年間数件の死亡事故が起きており、その原因の解明もまだ十分とは言えません。しかも、当事者自身も「ブレーキを踏んだつもりだった」と、なかなか踏み間違いを認めないケースが少なくありません。
このような現状から、やはり自動車メーカーが車の製造段階で最初から踏み間違い防止装置を組み込むことが、普及への最も現実的な道だと考えています。ちょうど2024年6月17日、国土交通省が「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」の搭載義務化を発表しました。
この装置は、主に高齢者などがブレーキとアクセルを踏み間違えた場合に起こる事故を防ぐ、日本発の安全技術です。すでに国連自動車基準調和世界フォーラム(WP.29)でも国際基準として合意されており、今回の法改正によって、乗用車には国際基準を満たす加速抑制装置の搭載が義務化されます。
【義務化の概要】
- 適用車種:電気自動車を含むオートマチック車(クラッチペダルのない乗用車)
- 適用時期:新型車は令和10年9月1日から(輸入車は翌年から)
- 公布・施行:2024年6月17日、一部規定は同年6月23日・7月6日施行
このように標準装備化が進むことで、アクセルブレーカーのような後付け装置にも注目が集まり、アフターマーケット(後付け部品市場)でも普及が進むと見込んでいます。
踏み間違い事故は日本だけでなく世界中で増加傾向にあります。中国や韓国でも暴走事故による死亡事件が発生していますし、欧州でも今後AT車(オートマ車)が増えていくにつれて、踏み間違い事故が増加することは間違いありません。
カメラやセンサーに頼る方式だけでは、豪雨や大雪、台風といった悪天候下での作動に不安が残ります。実際、視界不良時にセンサーが作動せず、歩行者や他の車に重大な被害を及ぼす事故も起きています。その点、アクセルブレーカーのようなアナログな遮断システムは天候や視界に左右されず、アクセルペダル自体に物理的な遮断機能が備わっているため、確実性が高いと考えています。
今後ますます高齢化社会が広がるなかで、「アクセル機能に遮断機能を標準装備する」ことが世界的な安全基準となることを願っています。日本の自動車メーカーがこの分野で世界をリードしていく役割を果たしてほしいと思います。
ものづくりの壁とこれから――失敗から学び、社会に広げる使命
――アクセルブレーカー開発において色々とご苦労があったかと思いますが、改良されたこと、そして一番苦労したことを教えてください
アクセルブレーカー開発にあたって、主に次の3点を改良してきました。
1. マグネットと鉄部品のバランス調整
マグネット(磁石)の吸着力は、組み合わせる鉄のサイズや厚みによって大きく変化します。そのため、試作とテストを何度も繰り返し、最適な吸引力になるよう細かく調整を重ねました。
2. オルガン式ペダルのためのカム方式採用
オルガン式アクセルペダルの内部に組み込むため、マグネットを小型化。その際、コンパクトで高効率な動作を実現するため、「カム方式」(※6)を取り入れました。
3. 遮断機能の復元方法の見直し
最初はバネの力だけで遮断後のペダル復帰を行っていましたが、装着済みのマグネットの吸着力も活用し、より確実で耐久性の高い復元機構としました。
開発過程で特に大きな壁は感じませんでした。吊り下げ式アクセルペダルの開発時に徹底的な試行錯誤を行ってきた経験があったので、オルガン式への転用も意外と短期間(3日ほど)で実現できました。もちろん、ゼロから取り組んでいれば困難も多かったと思いますが、過去の失敗や実験データが成功の土台となりました。
ただ、国交省の認定試験に関しては、やや難航しています。試験を担当するJATA(日本自動車運送技術協会)も、「オルガン式+磁石」で暴走を遮断するような純粋な“機械式装置”は想定外だったため、評価方法や認識にズレが生じた部分もありました。従来は吊り下げ式+電気式の試験がほとんどだったためです。しかし、性能には自信があり、認定条件もクリアできているので、次回のテストでは合格できる見通しです。
そもそも、誰もやったことのないものを世に出す以上、壁や苦労があるのは当然です。もし簡単に完成し、認定もすぐに取れるものであれば、既に誰かが作っていたはずだと思っています。
※6 カム(楕円や波形の部品)の回転や動きで他の部品を動作させる機構。省スペースで正確な動きを伝えやすいのが特長。
――安全用品を開発するのと、四駆のカスタムパーツを開発することにはどんな違いがありますか?
この二つには、実は大きな違いがあります。カスタムパーツというのは、たとえば今の車の性能を「80」とすると、それを「100」に引き上げるための部品です。ユーザー自身が「もっと良くしたい」「個性を出したい」と望んで手に入れるものなので、価値が分かりやすく、需要も安定しています。
一方、安全部品はどうでしょうか。ほとんどの方は「自動車メーカーの純正部品=100点満点」だと思っています。つまり「メーカーが作っているのだから絶対に安全だ」と信じている。しかし実際には、まだまだ完ぺきとは言えず、改良や追加の余地は多く残っています。でもそのことをアフターパーツメーカーから伝えるのは、とても難しいのが現実です。
ユーザーも、「純正なら間違いない」と信じているので、後付けの安全部品への関心やニーズを引き出すのは簡単ではありません。弊社では「安全部品」と「カスタムパーツ」の両方を事業の柱にしています。ただ、実際のところ、安全部品だけで会社の経営を成り立たせるのは厳しいのが現実です。幸い、SUV人気もありカスタムパーツの売上が好調なので、会社としても安定して事業を続けることができています。
一方で、安全部品の開発については、行政や地元自治体(越谷市)からさまざまな支援を受けることができており、とてもありがたく感じています。今後は、「完成したアクセルブレーカーをどうやって広く普及させていくか」が新たな課題になっています。
