「テクノロジーをやさしく届けたい」子育てしながら起業した元エンジニアが考える“AI時代のエンジニア像”

「テクノロジーをやさしく届ける」をミッションに掲げる、ちょっと株式会社。代表の小島芳樹さんは、フロントエンドエンジニアとしてのキャリアを軸にしながら、デザインや事業開発にも仕事の幅を広げ、子育てをきっかけにフリーランスとして独立・起業しました。

今回はそんな小島さんにインタビュー。インターネットの世界に触れたきっかけから独立・起業するまでの経緯はもちろん、自らエンジニアを雇用する側になって見えた業界を取り巻く環境の変化や、小島さんが考えるこれからの時代に求められるエンジニア像についてうかがいました。

小島芳樹(こじま・よしき)さん
小島芳樹(こじま・よしき)さん
ちょっと株式会社 代表取締役社長
1986年生まれ。会社員としてWebデザイン・ディレクション・事業開発・マーケティングの仕事に携わりながら、デザイナーやエンジニア向けの勉強会・コミュニティを運営。2018年5月にフリーランスとして独立し、2019年4月にちょっと株式会社を設立・代表取締役に就任。「テクノロジーをやさしく届ける」をミッションに、拡大を続けている。
Twitter: @yoshikikoji

 

フリーターから一転、ウェブの世界へ。子育てしながら独立・起業

――最初に小島さんがインターネットやテクノロジーに興味を持ったきっかけを教えてください。

小島さん(以下敬称略): 僕が入学した中学校は1人1台のノートパソコンを持たせる学校だったんです。当時から、学校中にLANが張り巡らされていました。Windows98が出て、ISDNの回線で家庭にようやくインターネットが普及し始めたぐらいの頃なので、中学生が自分のノートパソコンを持っているのはかなり早かったと思います。HTMLを使ってレポートを作る授業もあったから、エンジニアに必要な基礎の基礎は中学時代に勉強しましたね。

――それからずっとエンジニアの道を志していたんですか?

小島:いえ。その後、高校を出てからフリーターになったんです。スーパーマーケット、飲食店、ネットカフェ、印刷屋など、いろんなアルバイトをしていましたね。

そんなフリーター生活を送っていた24歳のときに、東日本大震災が発生したんです。「のんびりフリーターをしていたらいざというときに生活が立ち行かなくなる」「そろそろ自立した生活をしなきゃ」と思って手に職をつけようって決めたんですよね。そこで、学生時代に少しかじっていて興味があったプログラミングやウェブデザインを学べるスクールに通いはじめました。

 

――独立までのキャリアでは、どのような仕事をしていましたか?

小島:スクールで学んだ後、最初はウェブデザイナーとしてソーシャルゲームの会社に入りました。ただ、当時はデザインやグラフィックをやる人が多くて、コーディングができる人が少なかったんです。そこで、僕はコーディングをするようになって、フロントエンドエンジニアになっていきましたね。

その次はUIデザインの会社に入りました。最初はフロントエンドエンジニアとして入ったのですが、途中からディレクターやプロデューサーをやっていました。次にSaaSの会社へと移り、事業開発の仕事をしましたね。その会社にいた頃は、趣味でブログもたくさん書いていて、プライベートでWordPressを構築したり、友達に頼まれて開発や構築のお手伝いする機会があったりしました。その後、フリーランスになったんです。

――エンジニア以外にもいろいろな経験をして、満を辞して独立したんですね……!

小島:実はそうではなくて(笑)。第一子が生まれるときにちょうどプロジェクトがひと区切りするタイミングと重なったので、子育てのために休む目的で一度会社を離れたんですよね。そしたら、僕が会社を辞めるウワサが広がったのか、とある人から「在宅でできる業務で、お願いしたいプロジェクトがある」と声をかけてもらったのがきっかけだったんです。当時はコロナ禍前だったのでリモートワークもあまり普及していませんでしたが、「子育てしながらできるならしばらく在宅で仕事しようかな」って思って。

それから1年間はフリーランスとして、いただいた仕事をやっていました。次第に売上が伸びてきて、信用度や取引のしやすさから考えても法人にしたほうがいいと考えて、2019年にちょっと株式会社を立ち上げました。

今でこそ割と一般的になっていますが、当時は子どもの世話をしながら仕事をしていることに対して驚かれることも多かったんです。大企業の役員の方との会議に子どもを抱っこして参加したこともありましたね(笑)。おもしろがってもらえたので、よかったですけどね。

 

技術力のある人が持続可能的に活躍できる環境が必要

――小島さんは起業して、現在はエンジニアを雇用する側になりましたよね。ここ数年、社会全体でデジタル化やDXが進んでいる中で、エンジニアを取り巻く環境をどのように見ていますか?

小島:ユーザー体験への意識の高まりや専門化に伴って、特に我々のようなフロントエンドエンジニアの需要は増加していますよね。近年では、フロントエンドの技術だけでバックエンドの処理も可能になる手法が出てきていますし、技術的な変化も著しいと感じています。

ただ、エンジニア全体を見ると、雇用情勢は厳しさを増しているのも事実です。一時期、DXブームによる人材不足で、高待遇の求人が増加しました。また、コロナ禍でもリモートで働ける職種として、他職種から流入してくる人も増えたんです。高い給与や待遇を求めて転職を繰り返すエンジニアも増え、率直に言うと、スキルに見合わない高収入を得ているケースもあると見ています。本来は、成果が出たときに、それを実行したエンジニアに高待遇が提供されるというのが正しい順序のはずですが、人材不足が先行したためバブルのような状況が生まれてしまっていたと思います。

ただ、2022年頃からは状況が一変している印象です。AIの影響もあってバブルが崩壊し、世界的な大手IT企業のレイオフが始まりました。それが広がり、エンジニアの需要と供給のバランスが崩れてきています。「エンジニア不足だ」と煽ったにも関わらず、今はエンジニアが過剰になりつつある。この状況はしばらく続くと思っています。

 

――そういった状況の中で、エンジニアを雇用する企業にはどんなことが求められていると考えますか?

小島:企業側は人材獲得のために過剰な待遇を提示する傾向がありました。ただ、そうすると人件費確保のためにクライアントに提示する金額を上げざるを得なくなり、それに見合った価値提供ができなければ競合に負け、仕事がなくなってしまいます。

ひとつの解決策としては、子育てや介護など、ライフスタイルの変化に柔軟に対応できる働き方の提供があると考えています。リモートワークの導入やフレックスタイム制など、多様な働き方を受け入れる。そうすれば、バブルに関係なく、本当に技術力のある人材が適正な収入を得て、持続可能なかたちで活躍して成果を出せる環境づくりができるからです。

例えば、当社の場合、僕自身が在宅で子育てをしながら独立・起業したということもあって、全社リモートワークがメインで、かつフルフレックスです。僕は東京在住ですが、当社の第1号社員は石川県に住んでいますし。だから、子育てしているメンバーも多いし、中には地元で実家の事業承継をしながら複業で当社のエンジニアをしている社員もいます。技術力のある人材がライフイベントによって仕事を辞めなくてすむことで、クライアントに価値提供することができていると自負しています。

 

人を想うことができるエンジニアが求められる時代に

――ちょっと株式会社は「テクノロジーをやさしく届ける」というミッションを掲げています。このミッションに込めた思いをうかがいたいです。

小島:僕は10年ほど前からウェブデザインやフロントエンド開発を通じて、ユーザー体験に大きく関わる接点を作り続けてきました。ユーザーに対して「テクノロジーをやさしく届ける」ことでデジタル格差を解消し、より多くの人がわかりやすく使いやすいシステムを提供することで誰もがテクノロジーの恩恵を受けられる社会を目指したいと思い、このようなミッションを掲げています。

この数年でブロックチェーンやAIが流行し、テクノロジーが複雑化してきました。ただ、社会全体としてはデジタル格差が広がっています。特にその格差が顕著にあらわれたのはコロナ禍のときでした。急速にデジタル化が進む一方で、サービスやプロダクトによっては使いにくさや不便さを感じた人も多かったと思います。もっと多くの人が使いやすいものが普及すれば、助けられる人が増え、世の中がよりスムーズに回ると感じたんです。

 

――急速に生成AIが普及している中で、エンジニア領域においてもある程度の作業をAIに任せることができるようになりました。エンジニアはこの状況とどう向き合うべきだと思いますか?

小島:ChatGPTをはじめとした生成AIの性能は非常に良いので、エンジニアならAIを活用して開発していく状況はもう当たり前と考えた方がいいですよね。エンジニアにとって、AIは電気やガス、インターネットと同じようなインフラになりつつあるんだと実感しています。

AIを活用すれば非常に低コストでたくさんのことができます。例えばこれまで1人にしか提供できなかったことが1,000人、10,000人へと一気に提供できる。だからこそ、今後はAIに何をどのように任せるかを設計するような領域が重要になってくると思いますね。

――そういった状況の中で、これから先、どんなエンジニアが求められると考えていますか?

小島:誰かが困っていてそれを解決するために、僕たちエンジニアは成果物を作ります。これまではエンジニアとして最終成果物を作るのが仕事でしたが、AIが最終成果物を作る部分をサポートしてくれるようになれば、今後は最終成果物を作る“手前の部分”が大事になってくると考えています。これから先は、どんな人が困っていて何を作る必要があるのかを考えて開発できるエンジニア、つまり“人を想うことができるエンジニア”が求められるのではないでしょうか。

文:遠藤光太 撮影:関口佳代 編集:エディット合同会社

 


この記事が気に入ったらいいね!しよう

いいね!するとi:Engineerの最新情報をお届けします

プライバシーマーク