AIの普及により、誰もが手軽に情報を活用できる時代。ゲーム開発の現場でもその影響は大きく、AIを取り入れた開発が進められています。
そんなAIのプロジェクトを先駆的に取り入れ、新たなコンテンツを生み出し続けているのがエンジニアの湊江哉さん。学生時代から抱いていた「人を楽しませ、役に立つものを作りたい」という夢を叶えつつ、今も新たな技術や知識を積極的に取り入れながら開発を進めています。
そんな湊さんに技術者としての歩みや、AI活用の考え方を聞きました。
「自分の領域を狭めず、ユーザー視点で考える」姿勢が、湊さんのキャリアを支える原動力となっています。
工業高校在学中にプログラマーに興味を持つ。卒業後はIT会社に就職。官公庁向けのシステム開発に携わる。その後ゲーム業界に転身。現在はStudio51株式会社にてディレクションの他、AIキャラクターの開発やプロンプト設計、生成AI連携コンテンツの企画・開発など多数のプロジェクトに従事。主なAI関連プロジェクトに『ミライア・リンクス』『邪神ちゃんロイド』『さとうささら風ナビキャラ』などがある。エンジニア歴は約18年。
公的システムの開発で経験を積み、憧れのゲーム業界へ転身
――プログラマーを志した理由を教えてください
湊:高校生の頃、ゲームディレクターの小島秀夫さんのインタビューを雑誌で読み、「自分もこんなふうに世界観をつくる仕事がしたい」と憧れを抱いたのが最初のきっかけです。
「ゲーム会社に入るにはどうすればいいのか」と考えた結果、プログラマーの道を選ぶことに。周囲は機械系に進む人が多かったのですが、私はアナログよりデジタルに惹かれ、自然とプログラミングに打ち込むようになりました。ゲームの専門学校に進学し、将来はゲーム会社に入ることを目指したんです。
――最初のキャリアとしては、ゲーム関連ではなくIT企業での官公庁向けのシステム開発を選ばれていますよね。
湊:専門学校でプログラミングを学ぶ中で、「ゲームをつくる」よりも「プログラマーとして成長したい」という気持ちが大きくなりました。最初のキャリアとしてIT業界を選んだ理由は、まずはプログラマーとしての経験を積もうと考えたからです。
システムを作り、その成果を誰が利用するかを考え、最終的に「誰かの役に立つもの」を届ける点は変わらないと思います。当時も「社会のためになる仕事」として魅力を感じていました。
――その後、ゲーム業界に転身されたきっかけは?
湊:プログラマーとして仕事をしていく中で、やはり昔からの夢である「多くの人に遊んでもらえるゲームを作りたい」という気持ちが高まりました。ちょうど当時はモバゲーやGREE、mixiなどのソーシャルゲームが盛り上がり始めた時期。「サーバーエンジニアとしてでもゲーム会社に入れる」と知ったのが転身の大きなきっかけです。
ゲーム会社といっても、当時はIT企業が新たにゲーム事業を立ち上げるケースも多かったので、特定の会社に強いこだわりはありませんでした。流行に乗っている会社であればどこでも良い、というくらいの気持ちで飛び込みましたね。
その後、『パズル&ドラゴンズ』のような大ヒットタイトルが出てきて、サーバーだけでなくアプリ側のエンジニアリングも求められるようになるなど、業界全体の潮流が変わっていった時期だったと思います。
――業界を変えたことで苦労したことはありますか?
湊:官公庁系のシステムでは「バグやエラーが許されない」という前提のもとで開発をしていました。ゲーム業界に移ってからは、何十万、何百万というユーザーが同時に遊ぶ環境で「止まらず快適に楽しんでもらう」ことに注力するように。
求められる観点が「正確性」から「パフォーマンスとスケーラビリティ」へ大きく変わった点は苦労しましたが、同時にエンジニアとして新しい力を伸ばす機会にもなりました。
――Studio51に入社した理由は?
湊:元々、前職はゲーム開発におけるシステム部分を手掛ける会社でした。3Dや2Dのアセットを作ることが、内部では出来ず、柔軟な開発体制を整えることが難しかったんです。
そんななか弊社の代表と縁があり、こちらには開発基盤はないものの、3Dや2Dの制作が可能な環境が十分にあると。当時私が率いていたチームが持つ技術と組み合わせれば、企画から制作までをワンストップで行える。自分自身もそのほうが挑戦的で面白いと感じ、Studio51への入社を決めました。
――湊さんのチームの強みと、会社が持つ制作力が組み合わさることで、新しい可能性が広がったのですね。
湊:そうですね。やりたいことを実現するために「どうすればうまくできるか」を常に考えてきたので、その思いが自然とその選択につながったのだと思います。
人力で得たデータをもとにAIを活用したプロダクトを開発
――現在担当されているプロジェクトの具体的な内容を教えてください。
湊: 現在は従来のゲーム開発をはじめ、AIキャラクターの開発、プロンプト設計、生成AI連携コンテンツの企画・開発などを中心に担当しています。なかでも大きなプロジェクトが、『ミライア・リンクス』です。多言語対応音声インターフェースや高度な生成AI機能を搭載し、感情豊かな3D表現、バイタル計測などを統合した「未来型コンシェルジュAI」として展開しています。
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)での展示をはじめ、全国各地のイベントにも登場し、幅広いシーンで活用が期待できます。今後はさらなる分野への展開を視野に入れ、進化を続けていく予定です。
――湊さんがAIに着目したきっかけは?
湊: 2020年に開発した『プラスリンクス ~キミと繋がる想い~』という恋愛ゲームがAIを取り入れるきっかけになりました。このゲームの特徴は、プレイヤーがゲーム内の女の子と自然なコミュニケーションがとれること。ユーザーは自由に文章を入力でき、それに対して自然な応答があるため、まるで本当に会話をしているかのような体験ができました。
実はこのバックエンドには最終的には約6000人が人力でメッセージを返していたんです。
事前登録者数は約15万人に達し、サービス開始直後から大きな注目を集めました。しかし、人力では処理しきれず、会話への返答がパンクする事態に。「もっと効率的かつ自然にユーザーと会話できる方法はないか」と模索するなかで、たどり着いたのがAIでした。
――人力とは驚きです!その経験をどのように次のプロジェクトに活かしていったのですか。
湊:まだChatGPTも登場していない時代でしたが、女子高生AI「りんな」で知られるrinna株式会社様と協力し「プラスリンクス」にAIを実装しました。AIの制作部分を依頼し、弊社はAIのインターフェース設計を担当。人力で培った膨大な会話データを活用しながら、AIキャラクターとの自然な対話を実現していきました。
この経験で改めて感じたのは、AIにおいて重要な要素のひとつが「データ」だということです。『プラスリンクス ~キミと繋がる想い~』によって数百万件規模の会話データを持っていたことは、私たちの大きな強みでした。実際のユーザーとキャラクターがやりとりした生きたデータを持っていたことで、私たちは先駆的にAIを活用できたのだと思います。
――AIの普及について湊さんのお考えをお聞かせください。
湊:あくまで私見ですが、現在のAIモデルの担い手は、日本でいえばSakana AIさんや、松尾研究室さんのように、研究者やリサーチャーと呼ばれる方々が中心です。
一方で、ゲーム開発者のなかには「AIを活用した作品を作りたい」という発想を持つ人も多いと思います。ただ、研究者が開発するAIの多くはまだニーズに合わせたサービスやプロダクトには至っていないのが現状。また、ゲーム開発者側もAIの特性を十分に理解しきれていない場合が多く、万能のツールとして誤解されることも少なくありません。そのため「AIをうまく扱えている」と言える人は、現状ではまだ限られているのではないかと感じています。
――今後、AIとゲーム業界の関わりはどうなっていくと思いますか?
湊:まず「AIを活用してゲームを作る」という動きは、今後ますます広がっていくと思います。たとえばイラスト制作で色塗りの部分をAIに任せたり、プログラムの叩き台をAIに生成させたりと、制作の補助ツールとしてのAI活用はどんどん進むはずです。
一方で、「AIを活用したゲーム」つまりAI自体がキャラクターや仕組みとしてゲームのなかに組み込まれるようなプロダクトは、まだまだ時間がかかると考えています。今はAIブームで「AIを使ったゲームを作りたい」という声は多いですが、私にとってAIはあくまでツールのひとつ。ゲームの面白さを高めるために、必要な部分でAIが活用されるという形に落ち着くのではないでしょうか。「AIで作ったゲーム」は近いうちに出てくると思いますが、「AIが入ったゲーム」が当たり前になるには、数年先になるのではと見ています。
――ただ、『ミライア・リンクス』のような事例はまさに「AIが入った」プロジェクトですよね。
湊:そうですね。実はその背景には長い積み重ねがあります。以前からAIキャラクター『邪神ちゃんロイド』や、『さとうささら』を用いたAIキャラクターなど、複数のプロジェクトを手がけてきました。いずれも「キャラクターとユーザーが会話する」という仕組みを軸にしていて、その延長線上に『ミライア・リンクス』があるんです。
このように、単にAIを取り入れるだけでなく、膨大な会話データをどう扱うか、どのようにキャラクター性を守りながら実装するかといったノウハウの積み重ねがある。そこが、Studio51の強みであり、他社とは少し違う点だと思います。
自分の領域を狭めず、ユーザー視点に立つことがエンジニアとして活躍するポイント
――エンジニア歴18年間とのこと。現在も最前線で活躍されているなかで、何が成功の要因だったと分析されていますか?
湊:常に「なぜか」を考えながら歩んできたように思います。どんな仕事をする際も「なぜこの仕組みが必要なのか」「なぜその構成でなければならないのか」と問い続けてきました。
システムを構築する際も、ただ「動けばよい」という発想ではなく「なぜそのサーバー構成なのか」「そのニーズの背景には何があるのか」と深掘りするように。そうした思考の積み重ねが、結果的に現在の仕事につながってきたのだと感じています。
――エンジニアとしてのキャリアアップについてはいかがですか。
湊:「自分がやりたいことを実現するためにはどうすればよいか」という視点を持ち続けることを大切にしています。「5年後はこのポジションに」などといった具体的なビジョンを描いていたわけではありませんが、その時々で自分が挑戦したい領域や伸ばしたいスキルを意識し、その実現に必要な選択を重ねてきました。やりたいことを叶えるために最適な方法を考え、試行錯誤を繰り返してきたことが、自分の軸を形づくり、キャリアの成長にもつながっていると思います。
――達成感や、やりがいを感じた経験を教えてください。
湊:開発したものが世に出る瞬間はいつもやりがいを感じます。なかでも特に印象的だったのは『FLOWER KNIGHT GIRL』の案件です。こちらはDMMさんのタイトルで、前職にいた際に人手が足りないということで参画しました。もともと私はサーバーエンジニアでしたが、その時はエンジニアが1人もいない状況。そこでインフラ構築からフロントエンド設計、サーバーコーディングまで、1年半ほどの開発期間をほぼ1人で担いました。
当時、オンラインゲームは人気が出るとサーバーが落ちるなど、品質面の課題に直面することが多い状況でした。しかしこの作品は、一切ダウンせず、バグもなく稼働を続けられたんです。1人で構築したという事実は、自分の大きな自信になりました。リリースから約10年以上が経ちますが、今でも売上を伸ばし続けている人気タイトルになっているのは、とても誇らしい経験です。
――今までの経験から、ITエンジニアに求められる要素やスキルを教えてください。
湊:大事なのは「自分の領域を決めないこと」だと思います。例えば「プログラムを書くのがエンジニアの仕事」と自分で定義してしまうと、サーバーやインフラの構成、サーバーエンジニアの場合はフロント側からの通信がどうなっているのかなどといったところまで想像が及ばなくなってしまう。結果として、自分の視野やスキルが限定されてしまいます。
もちろん環境によっては全部を経験できるわけではないかもしれませんが、それでも仕事に対する気概や「やってみたい」という意思を持ち続けることが重要だと思います。
――興味のあることや気になることに対して徹底的に取り組んでいらっしゃる印象です。仕事をする上でのポリシーはありますか?
湊:2つあります。
ひとつは、先ほどお伝えした「領域を狭めない」ということ。
もうひとつは、「ゲームを作りたい」というより「エンターテインメントを作りたい」と考えているということです。
私の中でエンターテインメントの定義は、「自分がエンターテインメントだと思ったもの」。ゲームだけを作りたいと考えていたら『ミライア・リンクス』のようなプロダクトは生まれなかったのではなかと思います。
ユーザーが体験を通じて「面白い」「楽しい」「助かった」と感じてくれる、その気持ちが生まれれば、それはすべてエンターテインメントであり、ゲームでもある。そんな想いを軸にものづくりをしています。
効率化やクオリティを上げることがAI時代に必要な視座
――AI市場は拡大し続けていますが、それに伴い今後エンジニアの仕事はどのように変化するとお考えですか?
湊:ゲーム業界でいうと、昔のエンジニアは描画画面に表示するためのプログラムを0から作るのが当たり前でした。しかしゲームエンジンが登場すると、どう映像を表示しているのか内部はブラックボックス化されました。結果として、重点が「かっこいいアニメーションを作る」「演出に注力する」といった部分に移ったのです。ベースの部分はゲームエンジンで既に整っているので、従来1から100を作っていたところが、50までは最初から完成している状態。
基盤部分が整ったことで、エンジニアの役割は変化します。今後は、AIを活用してより効率的に複数のプロダクトを作るか、あるいはクオリティをさらに引き上げるか、といった判断や視座を持つ人だけが生き残るのではないでしょうか。効率や品質向上を意識できる人が中心になる時代になると思います。
――現在もさまざまなご活動をされていますが、今後の展望についてお聞かせください。
湊:挑戦することを忘れず、目下はAIが中心ですが、これからも新しい技術や手法が登場すれば積極的に試していきたいと思っています。そして、それらが自分の作るプロダクトやサービスにどう活かせるかを常に考えながら取り組んでいきたいですね。AIの話を中心にしてきましたが、実はブロックチェーンを活用したゲームの運営や、Web関連の開発も並行して行っています。
――これからITエンジニアを目指す、もしくはエンジニアとして働いている方々に向けてメッセージをお願いします。
湊:「アンテナを張って、楽して楽しく、本気でがんばりましょう」というのが私の考え方です。ここで言う「楽して」というのは、雑にやるという意味ではありません。大変な部分を効率化して楽になった分、クオリティを上げるためにさらに努力しよう、という意味です。
楽をするためには、まず苦労や学びが必要です。新しい技術を学んで活用するのもその一環で、それを将来の「楽」につなげるという考え方を持つことが大切です。
――湊さんご自身は、新しい技術をどのように学ばれていますか?
湊:自然と新しい情報が入ってくる環境を作るようにしています。ネットやコミュニティ、交流会を活用するのはもちろんですが、最近はGenspark(注)などのAIを活用した検索システムも使い、新しい情報を効率よく取得することを意識するようになりました。
また、自分がやりたいことや興味のある分野に対して、どのような知識やスキルが必要かを常に考え続けることも大事です。それを意識していれば、自然と必要な情報や学びが集まってくると思います。
注:米国MainFunc社が開発したAI検索エンジン
◆おすすめの書籍
「すべてがFになる」(講談社)
プログラミングやエンジニアリングに興味を持つきっかけになった一冊。タイトルの「F」は16進数のFを意味しており、理系サスペンス、いわゆる理系ミステリーとして知られています。プログラマーやエンジニアリングに関わる登場人物が活躍し、事件を解決していく過程が描かれています。
この作品の魅力は、ただのミステリーとして楽しめるだけでなく、プログラミングやゲーム開発に取り組む際に役立つ「論理的思考」や「問題解決の進め方」のヒントが豊富に詰まっている点です。
ロジックや思考の仕方が参考になるので、今でも定期的に読み返して初心を思い出していますね。
