
ものづくりに興味を持ち、中学卒業後は高専に進学。NHK主催の「高専ロボコン」に青春を捧げた後、大学編入、大学院進学を経て就職し、工作機械の新機種設計開発を担当している。高専ロボコンや大学院での研究で培ったものづくりの知識と経験、バイタリティを活かして「とにかくやってみる」「好奇心を持ち続ける」ことを大切に働いている。
趣味のアウトドアギアや家具・家電を手作りしたり、自宅の庭をCADで設計したりと公私共にものづくりを楽しんでいる。
工作機械の新機種設計を担うものづくりエンジニアの仕事
――ものづくりエンジニアになろうと思ったきっかけを教えてください
エンジニアの父の背中を見て育ったので、子どもの頃から「ものづくり」に興味を持っていました。NHK主催の「高専ロボコン」を知ったことで、ものづくりへの憧れが本格的なものになり、エンジニアを志して中学卒業後の進路に高専を選びました。
高専では機械科に進学したので、実習で工作機械を扱う機械が多く楽しみながら学ぶことができました。また、高専ロボコンでは、実際にマシンのアイデアを出して設計して作ることにより、どんどんものづくりの面白さに魅了され、もっと学びたいと思って大学編入*、大学院進学を決断しました。
*高専(高等専門学校)は中学卒業後に進学し、5年間工学の専門知識や一般教養について実践的に学ぶ。卒業時点で大学2年と同じ年齢なので、大学に進学する場合は3年次に編入することとなる。
――工作機械に興味を持ったのはなぜですか
高専に工作機械がたくさんあったので、興味を持ちました。木材や樹脂だけでなく、硬い金属の塊も簡単に削れて自分の思い通りの形になっていく、というところに惹かれたんです。
工作機械は製造業に必要な機械を作る根幹となる機械で、「マザーマシン」と呼ばれています。「工作機械のレベルが製造業のレベル」と言われるほど「ものづくり」に必要不可欠なもので、知れば知るほど興味を持ちました。
日本の工作機械の技術は世界に誇れるもので、1982年には工作機械の生産額がアメリカを抜いて世界1位になったんです。工作機械といえば日本と呼ばれるほどで、2008年には中国に生産額を抜かれたものの今でもドイツと2位を争い続けるほどレベルが高いんです。世界トップシェアを誇る工作機械メーカーも国内に多数あるので、就職するときに工作機械メーカーを選びました。

――入社してから今までどのような仕事をしていましたか
工作機械は手動で操作するものが主流でしたが、工程を全て自動化できる新しい工作機械の開発プロジェクトへ入社してすぐに配属されました。今まで作ったことのない工作機械を一から開発するということで、会社としても手探りの状態。試作も何から始めたらいいか先輩と相談しながら進めました。
とりあえず市販のコントローラーを買ってきて、機械に配線してパソコンでプログラムを組んで動かすところから始めたんですが、この時は自分たちで電線の皮膜を剥がして半田付けしてということが必要で、高専ロボコンで培った「とりあえず手を動かしてやってみよう」という経験が役に立ちました。
試作を続けながらどんな試験をすればいいのかJIS(日本産業規格)を読みながら考えたり、防水防塵の処理、機械が動く経路を考慮して寸法設計するなど試行錯誤の連続でした。
ある程度形になってからはマニュアルを作って他部署に担当を移して、製品化の前には特許も出して、とプロジェクト完遂までを走り抜けました。

――新人のことから手探りで新しいプロジェクトに携わったんですね
そうなんです。3年間、必死に試作や試験を繰り返してようやく形になりました。その後、工作機械の展示会”JIMTOF”に出展したときに他社のエンジニアが興味を持ってくれて、行列ができました。この時は説明員を任されていたので対応が大変だったんですが、その反応を見て嬉しくなりました。
今はその時開発した自動工作機械の改良をしつつ、他の機械の設計に携わっています。
――学生時代の経験が今の仕事に役立つことはありますか
先ほども言いましたが、プロジェクトの初期では何もかもが手探り。試作もどうやって何を使ってするか、など考えながら進めることとなり、高専ロボコンで培った「とりあえずやってみる」というスタンスがとても役に立ちました。何をすべきか調べて、わからないところはいろんな人に聞きながら実際に自分の手を動かして計画して配線してプログラムを組んで、ということが得意なので、良いスタートダッシュが切れたと思っています。
趣味でも仕事でも調べながら新しいことに挑戦するのが好きで、「とにかくやってみる」と動けるのは自分のエンジニアとして大切な根幹になっています。
――仕事のやりがいや大変なことについて教えてください
新プロジェクトが立ち上がる時は、試作の方法や安全規格に法解釈、JISで必要とされている試験をどのような形でするべきか、というのを全て自分で調べて判断しないといけなかったのでそれが大変でした。
特に製品化に向けた要素試験では、慣れないJISの項目を読みながら解釈して実施する必要があり、とても苦労しました。とても苦労したんですが、ちょっとずつ形になっていくプロセスにやりがいを感じましたね。
徐々に形にしていく際、初期はどうしてもソフトウェアのバグが多くその対策に四苦八苦しましたが、製品化した時の達成感はひとしおでした。
――今の仕事を楽しんでいますか
プロジェクトの最中ではとにかく大変なことが多かったんですが、他の社員から「楽しそうなことやっているね」と声をかけられることが多く、改めて自分たちの裁量で自由にやらせてもらえた環境は楽しかったなと思います。
新しく販売した機械は、最初の数年は不具合も多くてその対応に追われるんですが、自分たちのプロジェクトで作った機械がお客様に使われているというのは嬉しいです。また、不具合が徐々になくなってきて、工作機械として洗練されていく様を見るのも楽しいです。

好奇心を持ってエンジニアとして知識を追い求め続ける
――エンジニアを続ける上で技術のトレンドや新しい知識はどのように追っていますか
普段は自分の業務に追われて新しいことになかなか目を向けられないので、定期的に開催される国際ロボット展やJIMTOFなどはできるだけ行くようにしています。展示会では技術のトレンドや最新機器に触れることができ、他社のエンジニアとも議論ができるので情報収集にはうってつけなんです。
また海外出張で欧州の展示会に行って、国際的な情報にも触れるようにしています。後は、他社特許が出た時は内容をチェックするようにしています。
――外国のメーカーに比べて、日本の工作機械メーカーの強みなどを教えてください
日本の工作機械は世界でトップレベル。部品を全て国内で生産でき、機械を製造して保守管理ができるのは大きなアドバンテージだと感じています。
日本は工作機械メーカーの裾野が広く、ものづくり国家としての底力を感じます。中国に抜かれてしまったとはいえ、まだまだ世界に誇れる分野なので、その業界で働く一員として貢献したいです。

――工作機械における最新技術のトレンドなどを教えてください
最近は、中小企業でも出来る簡単な自動化がトレンドで、システムインでグレーター(自動化専門の会社)に頼まなくても工作機械のオペレーターが自動化できるようなシステムを各工作機械メーカーがパッケージにしています。
オペレーターが自動化できる部分が増えれば、工作機械を使うものづくり企業がも無理なく多品種少量生産のスケジュールを組めるんです。
既存の生産ラインを支えるよう、今まで工作機械に合わせてロボットで自動化していた部分を、自動化を前提とした自動化しやすい工作機械の開発や、工作機械が繋がる機械もトレンドですね。
私が携わった工作機械の自動化も、ユニットを取り付けたら自動で加工でき、ユニットを外せば従来通り手動で加工ができる点が注目されています。既存の生産ラインを活用でき、日中は手動、夜中は自動で動かすなど、自由に無理なく量産体制が組めるのが利点です。
自分が開発した工作機械のリピート受注が入ると嬉しいですね。今はまだ対象となる工作機械の幅が狭いので、今後どれだけ需要を伸ばせるかがカギ。お客様の声を聞きながら開発・改良していきたいです。
「ないものはつくる」の精神で公私共にものづくりを楽しむ
――趣味でも「ものづくり」を楽しんでいるそうですね
趣味のアウトドアギアや家具を自分で作ることが多いですね。学生時代はお金がなかったから自分で作っていたんですが、作ること自体が楽しいので今でも続けています。
「こんなものが欲しい」と思ったらCADで設計して、店に材料を買いに行って加工して、使いながら改良していく、という流れが楽しいんです。

キャンプ仲間に手作りギアを披露して、その使い心地をみんなで試して意見を言い合うのも楽しいです。
――仕事と趣味がつながっている方は多いんですか?
エンジニアは深く物事に向き合う人が多いようで、私の周りのエンジニア仲間は興味を持ったものにとことんのめり込んでんでいます。
例えば直接ものづくりに関係ないですが、学生時代に所属していた研究室にコーヒー好きの人がいて、道具を揃えて淹れ方を何通りも試し、豆や焙煎具合によってどう味が変化するか、などというのを楽しんでいました。だんだん他の人も興味を持って、それぞれのコーヒーの淹れか方を楽しむ流れになり、私も影響を受けてコーヒーが趣味になりました。
今ではキャンプで美味しいコーヒーを淹れられるよう、自分だけのギアを使って自然の中でコーヒーブレイクを楽しんでいます。

自宅のコーヒー道具置き場や引き出しも自分で作りました。趣味のものを自分で作る、とことん追求したくなるのはエンジニアの性なのかもしれません。
――趣味と仕事のバランスはどのように取っていますか
入社してしばらくの間は、残業や休日出勤をしてなんとか納期に間に合うように頑張っていたんですけど、ガス欠になってしまったんです。今では仕事に慣れて経験も積めたこと、長時間残業をしないような働き方ができるようになり、趣味と仕事の時間をそれぞれ楽しんでいます。
趣味の時間も自分で何かを調べて作って研究することが多いんですが、仕事と関係ないと頃で思いっきり楽しむことメリハリをつけています。
また、これまでは仕事に集中する時間が多かったんですが、夏に第一子が生まれるので半年ほど育休をとって家族の時間に集中する予定です。育休が明けたらまた仕事に邁進して、長いエンジニア人生をガス欠しないように趣味と仕事のバランスを模索し続けたいです。
――趣味の時間に仕事のことを考えることはありますか
仕事に必要な技術記事を読んだり、JISやCE(すべてのEU加盟国の基準を満たすものに付けられる基準適合マーク)の規格書に目を通したりなど、入社してから文章を読んで解読することが多く、少々疲れてしまうので趣味の時間は難しい本を読まずにリラックスするようにしています。
まぁ、本は読まなくてもCADを触って何かを設計することが多いんですが。最近は新居の庭の設計をCADでして、どんなふうにしようか妻と話しながら構想しています。
■おすすめ書籍
「僕は君たちに武器を配りたい」(講談社)

会社のオフィスがリノベーションされて、社員それぞれが持ち寄った本を置く場所ができたんです。ビジネス書や資格の本、家を建てた人が建築に関する本や趣味のゴルフやストレッチの本などが持ち寄られ、私もニセコスキー場のコンドミアムの情報が載ったフリーペーパーを持ち込みました。
幅広い本を読めるので、家で息抜きするための本を借りて読んでいます。
最近は資本主義社会で若者が自分の道を切り開くための思考法を学ぶために「僕は君たちに武器を配りたい」という本を読み始めました。強い言葉のタイトルになっていますが、移り変わりの激しい資本主義社会について、これから自分の力をどう活かしたら良いのか考えるのによい本だと思います。

仕事でも趣味でも「ものづくり」を楽しんでいますが、その楽しみ方は似ているようで違います。それぞれの楽しみを満喫しながら公私共に好奇心を持ち続け、エンジニアとしても人としても成長していきたいです。