鉄道から農業機械へ 生活に寄り添う乗り物を開発するものづくりエンジニア

佐藤義彦さん(仮名)
佐藤義彦さん(仮名) ものづくりエンジニア 36歳
子供の頃より飛行機や鉄道などの乗り物が好きで、大学院修了後は鉄道会社に就職。車両検査や異常検知といった業務に携わり、車両の状態異常を検知する技術開発にも従事していた。
新型コロナのパンデミックを機に転職し、現在は農業機械の開発といった鉄道とはまた異なる「乗り物」に関する仕事に従事。担当はシステム開発で、様々なデータに基づくモデリングやデータ分析を担当している。

 

子どもの頃から好きだった「乗り物」を開発するエンジニアへ

――エンジニアを目指したきっかけを教えてください

数学や物理が得意だったことから高校進学の際に理系コースを選び、大学も工学部に進学しました。工学部の学科選びでは機械、電気電子、生物などの選択肢としてありましたが、子どもの頃から鉄道や飛行機といった乗り物が好きだったこと、そして当時「機械工学は就職に有利」と言われていたこともあり、機械系の学科を専攻しました。

就職活動では乗り物に関する仕事をしたいと考え、航空会社や鉄道会社、あるいは重工メーカーで航空産業に関わる道を検討しました。しかし、航空会社は勤務地が世界各地に広がっていたことや経営環境の不安定さがあること、また当時の重工メーカーには勢いが感じられなかったことから、最終的に鉄道会社に入社することを決めました。

 

――子供の頃から好きだった鉄道に関する仕事をしていたんですね。当時の仕事はどんなものでしたか?

入社後は車両メンテナンスの現場に配属され、制御器や運転台、客室といった重要設備の交番検査に関わりました。約9か月間にわたって車両の安全性を支える仕事を経験した後、研修制度の一環として本社に配属。ここでは車両部門で検修や計画に関する知識を学ぶなど、2か月間の研修を経てスキルを広げました。

研修を終えて支社に戻ってからは、車両の検査計画や品質管理の補助、さらに現場での技術開発まで幅広く担当し、車両の安全と品質を支える業務に携わりました。

業務は検査だけにとどまらず、一般公開イベントでは事務局長として全体の統括を務めるなど、社外向けの活動も経験しました。さらに現場における技術開発の主担当も任され、社内の業務研究で最優秀賞を受賞するなど成果を残しています。

――転職したきっかけを教えてください

新型コロナのパンデミックにより、鉄道業界は大きな打撃を受けました。もともと、鉄道業界は内需に依存していたことから縮小傾向にあるといわれていたところに、コロナによってその流れが一気に加速したんです。

鉄道業界はマーケットが限られているので、なんとか海外企業と共同研究をする・海外にマーケットを開拓するなどビジネスチャンスを広げるために模索していましたが、コロナ禍ではそれが難しく、力不足を感じました。

子どもの頃から好きだった鉄道業界に携われているものの、このままではエンジニアとして成長できないと思い、当時の32歳という年齢は転職してキャリアを切り替えるにはギリギリのタイミングだったこともあり転職を決意したんです。

 

――今の仕事ではどんなことをしているんですか?

今は農業機械の開発に携わっています。好きだった鉄道に関わる仕事から離れたのは少し寂しい気持ちもありますが、人々の生活を支える「乗り物」に関わる仕事ができるのは、それはそれでやりがいがあり楽しいと感じています。農業機械の開発は以下の図のような流れで進みます。

図:農業機械開発の流れ

 

私は研究開発部署に所属しているので、①から④を担当しています。農作業と一言で言っても葉物野菜や根菜、稲や麦、大豆と多様で、それぞれに適した農業機械を開発しています。主な担当はPythonによるデータ分析、モデル構築、実装側との情報共有などでシステム開発をメインに仕事をしています。

 

鉄道から農業機械へ エンジニアとして働くうちに感じた苦労とやりがい

――好きなことを仕事にした際の良かったこと、辛かったことを教えてください

好きなことを仕事する最大のメリットは、やはりモチベーションを持って楽しく働けることですね。大好きな鉄道事業に関われてやりがいを感じていたんですが、一方でマーケットが限られていたりビジネスチャンスが少なかったりして、仕事を続けるのがだんだん辛くなっていきました。特に鉄道会社のようなインフラ関係の仕事は、内需頼りのままだと厳しいと感じています。円安が進む経済状況の中では、国内マーケットだけでは利益が下がる一方なので。

自分で海外マーケットを開拓するといった動きも考えられたかもしれませんが、実際にはなかなか難しいことが多く、好きな製品に関わる仕事でありながら苦労したというか、悩む場面が多かったです。

 

――今の仕事はどうですか?鉄道から農業機械にかわって、やりがいやモチベーションがどう変化したか教えてください

鉄道会社に勤めていた頃は、自分が担当する業務が直接社会につながっていることを実感でき、いわゆる“手触り感”がありました。自分が整備した車両にお客様が乗っているのを見ることや、一般公開イベントで鉄道好きの子どもたちがキラキラした目で来てくれるのも、大きなモチベーションになっていました。

現在は研究開発の仕事に携わっており、直接製品化に関わっているわけではないため、手触り感は以前より少なくなりました。それでも、トライアンドエラーを繰り返しながらスピード感をもって開発を進めることに楽しさを感じています。

また、農作業は今後もなくなることがなく、増加する世界人口を支えるためにも自動化や高度化がますます進むはずです。農業機械は伸び代があり、ビジネスチャンスが増えていくことにもモチベーションを感じています。さらに、さまざまな国の技術者が数か月単位で来日して一緒に仕事をすることもあり、自分の関わる製品のマーケットがワールドワイドであることを実感できるのも嬉しいですね。

――鉄道会社時代の経験は今の仕事にどうつながっていますか?

鉄道会社での経験は、今の仕事にも大きく活きています。鉄道業界は「徹底した安全・運用管理」が特徴で、現在開発している乗り物の種類は変わったものの、この経験は技術や品質管理の場面で役立っています。

また、鉄道会社時代は現場に出ることが多かったため、今でも現場に足を運ぶことが当たり前というスタンスで仕事に臨める点が、周囲から重宝されています。品質管理や技術開発の経験も、分野が変わっても応用できる部分が多く、日々の業務で大いに助かっていると感じています。

乗り物が変わっても開発の考え方の基礎は同じなので、これからも経験を活かしつつ自分をアップデートさせながら良い製品を世の中に送り出したいです。

 

仕事と家族、今後の働き方

――佐藤さんは、どうやってワークライフバランスを調整しているんですか?

家族との時間を確保するためには、家族とのコミュニケーションや家族に関するルーティンを行う時間帯をきちんと設定することが必要だと考えています。仕事で重要な打ち合わせやタスクの時間を決めるのと同じように、「家族に関すること」や「家族と過ごす時間」も、仕事と同等にスケジュールへ組み込んでいます。

決して仕事の余った時間に充てるものではなく、夫として、父として家族の時間を確保することは当然のことだと考えています。例えば、毎朝のルーティンとして長男を保育園に送っており、これを起点に私の一日が始まります。その続きに自然と仕事がある、という感覚で日々を過ごしています。

一般的に「ワークライフバランス」という言葉がありますが、私にとっては「ワークvsライフ」としてバランスを取るのではなく「ワーク+ライフ=私の一日」という感覚のもとで、双方を当たり前の役割として24時間の中に配置している、というスタンスです。

 

――今後の理想の働き方や、エンジニアとしての展望などを教えてください

結婚して子どもが生まれ、家を購入するというこれまで描いてきたライフプランが叶ったことで、働き方にも配慮するようになりました。残業をできるだけ減らし、ライフとワークをうまく組み合わせながら、夫として、父として、さらにエンジニアとしても頼られる存在でありたいと考えています。

また、自分の働きや成果が認められ、着実にキャリアステップを積めることも重要だと考えています。出世だけがすべてではありませんが、自分の裁量を広げ、「こういう技術を開発したい」という声を実現するためには、やはり管理職になることが重要です。加えて、自分の働きに見合った給料を得られることも、大切なポイントだと感じています。

現在携わっている農業機械の面白さの一つは、国によって要求がまったく異なることです。たとえばアメリカでは、日本とは比べ物にならないほど広大な農場で小麦や野菜、大豆などを大量に植えて収穫するスタイルのため、農作業機械も大規模です。一方、日本ではさまざまな形状の田んぼで稲作を行い、水を張って収穫するのが主流です。こうした違いが農業機械にも現れるため、各国のやり方を学びながらお互いの良いところを取り入れていくのが楽しいですね。

今後、農業はますます高齢化が進むといわれています。そうした状況に合った農業機械を提供し、日本の、さらには世界の農業を支えられるエンジニアになりたいと思っています。

 

■おすすめ書籍

 

愛読書は「島耕作シリーズ」です。某電機メーカーをモデルとした初芝電器産業の広告宣伝部門からキャリアをスタートさせた主人公が、次第にキャリアアップを重ねてトップにまで上り詰めていく――いわばサラリーマンのおとぎ話のような物語です。

「おとぎ話」とは言っても、人事というのは結局、人が人を評価して決めるもの。だからこそ、人格や人としての器の大きさがどんな職場でも大切なのだと実感させてくれる作品だと感じています。

 


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