自動車メーカーで生産設備設計&ロボットエンジニア支援機構の理事として、二足の草鞋で『ものづくり業界』を“ワクワク”させたい

高橋智也さん ものづくりエンジニア 34歳
高橋智也さん ものづくりエンジニア 34歳
エンジニアという職業に惹かれて高専に進学。在学中に高専ロボコンに熱中し、「ものづくり業界」のポテンシャルに興味を持ち、大学編入・大学院修了後は自動車メーカーの生産設備の開発・設計に従事している。今年でエンジニア11年目。
エンジニアを目指す子どもを増やしたい・社会で活躍するエンジニアの交流の場を作りたいという思いから、仲間たちと「一般社団法人次世代ロボットエンジニア支援機構 scramble」を立ち上げ、理事に就任。「日本のものづくりの未来を明るくしたい」と二足のわらじを履いて活動をしている。

 

自動車メーカーで生産設備の開発・設計を担当

――まずは、エンジニアを目指した理由教えてください

中学生の頃がITブームの真っ只中で、エンジニアがメディアに取り上げられる機会が多くなり「エンジニアって夢のある仕事だな」と感じたのが最初のきっかけです。

そこからエンジニアに興味を持ち、中学卒業後は高専へ進学。在学中は高専ロボコンに熱中しました。高専ロボコンを経験して「ものづくり」はとても大きな可能性を持った業界だと考え、その現場で働きたいという思いが強まりました。
高専卒業後は大学に編入し、大学院へと進学。現在は、生産設備の開発・設計に携わっています。

――生産設備の開発って、どんな仕事をしているんですか

私が担当しているのは、自社およびグループ会社向けの生産設備の開発・設計です。実際の生産ラインの運用は生産技術の担当ですが、設備を立ち上げるまでの工程に幅広く関わっています。具体的には、以下のようなフローで仕事を進めています。

図:生産設備の開発フロー

 

*出図:設計した図面や仕様書を、製造部門や外注先など関係部署に正式に提出すること

私の専門は制御なので、特に「7. ソフトウェアの制作およびシミュレーション」に注力しています。これらの工程を、60日から80日という短期間で回していくことが求められます。スピード感のある中で一連のプロセスを進めるのは大変なこともありますが、その分やりがいも大きい仕事です。

――これまでどんな設備の開発をしてきましたか

近年はモーターを搭載したHEV(ハイブリッド自動車)、BEV(バッテリー式電気自動車)、そしてPHEV(プラグインハイブリッド車)といった電動車の需要が高まっており、私も入社以来、そのような車両に搭載されるバッテリーの生産設備の開発に携わってきました。

現在は次世代BEV向けのバッテリー生産設備の開発を担当しています。次世代技術に関わる機会が増えており、日々新しい知見や課題に向き合いながら業務に取り組んでいます。

――生産設備開発の面白さややりがい、また難しいと感じるところを教えてください

先ほども話したように、生産設備の開発はスパンが60日から80日程度と比較的短く、スピード感のあるプロジェクトが多いです。そのため、目まぐるしくも充実した毎日の中で、次々と設備を作り上げていくことに面白さを感じています。バッテリー設備に限らず、他のプロジェクトにも並行して携わっており、このスピード感の中で多様な案件をこなしていくことが刺激的で、日々新鮮な気持ちで取り組めています。

また、自社で取り扱っているエアシリンダーやサーボ(指示通りに正確に位置、速度などを制御できるサーボ機構を構成するモーター)といったコンポーネントがしっかりと規格化されており、それらを組み合わせて設備を構築できる点が面白いですね。私が担当する装置は比較的小型のものが多く、自分の「マイマシン」を作り上げていくような感覚もあり、楽しんで仕事をしています。

一方で少数精鋭体制ということもあり、このスピード感の中で高い品質を担保するのは簡単ではありません。必要な情報がなかなか集まらず、仕様変更の際の意思決定に時間がかかることもあるため、そこは難しさを感じる部分です。

さらに、生産設備の設計では、リードタイムの短縮が重要視されるため、仕様を完全に固めてから進めるのではなく、工程を並行して進める(ラップさせる)必要があります。

こうした進め方は効率的である一方、柔軟な判断や密な連携が求められるため、神経を使う場面も多いです。

 

――今の仕事を楽しんでいますか

常に楽しいことばかりをしていられるわけではないので、「楽しさは自分で見つけるもの」という意識を持って働いています。この考えを大切にしていると、最初は気が進まなかった仕事であっても、取り組むうちに自分なりの楽しみや工夫の余地を見つけることができ、前向きなモチベーションを保つことができます。

特に私はスピード感のある目まぐるしい日々の中で、次々とタスクをこなしていくプロセスに面白さを感じており、そうした中で小さな達成感や楽しさを見つけながら働く今の環境に満足しています。

 

ものづくり業界をもっとワクワクさせたいと思い「次世代ロボットエンジニア支援機構scramble」を発足

――高橋さんは「次世代ロボットエンジニア支援機構 scramble」に所属しているそうですね

はい。仲間と一緒に機構を立ち上げました。

私自身、高専ロボコンでの経験が「ものづくり業界」を本気で志す大きなきっかけになりました。実際に手を動かしてものづくりを体験できるというのは、エンジニアという職業に興味を持つ強い入口になると感じています。こうした機会を通じて、ものづくりを身近に感じることが、日本のものづくり産業全体の基盤を強くしていくと考えています。

今、日本が“技術立国”としての地位を維持・強化していくためには、STEM教育(Science:科学、Technology:技術、Engineering:工学、Mathematics:数学)が不可欠です。しかし、STEM教育はその重要性に反して、収益化が難しいこともあり、子どもたちが十分に体験できる機会は限られています。

たとえば高専ロボコンのように、「自ら考え、試行錯誤しながらチームでものづくりに取り組む」という体験は非常に有意義ですが、そのような機会に触れられるのは多くの場合は高校以降。幼少期に抱いた憧れが、それまでの間に風化してしまうのは非常にもったいないと感じていました。

子どもたちが楽しみながら“ものづくり”の本質に触れられる場をつくりたいと思い、小学校高学年から中学生を対象としたジュニアロボットチームの運営や、現役のエンジニアたちが実際にロボットを作って競い合う「エンジニア選手権」を開催することにしたんです。やるからには本気で、と考えており、選手権ではスポットライトを使った演出を行うなど、舞台づくりにも力を入れています。エンジニアが演者としても輝ける場所にしたいという思いですね。ジュニアロボットチームの指導は私たち機構のメンバーが担当しており、運営費の一部はものづくり企業などからスポンサー支援を受けてまかなっています。

――すごく面白そうな活動ですね。高橋さんはどんな役割なのでしょうか?

scrambleの中心事業はジュニアロボットチームの運営とエンジニア選手権の開催ですが、私は現役のエンジニアを対象とした「FA(Factory Automation)設備技術勉強会」を担当しています。

これは会社や業界の枠を越えて、守秘義務を守りながらお互いの技術や知見を共有する場です。参加者同士が学び合い、刺激し合うことで、日本のものづくり産業をもっと盛り上げていきたいと考えています。単なる技術交流にとどまらず「エンジニアとして、もっとワクワクできる世界」を目指した活動です。

最近は「ものづくり」のことをより多くの人に発信していこうと、ポッドキャストも始めました。業界内外のさまざまな視点から、ものづくりの魅力や課題を語ることで、多くの人にこの分野の面白さが届くよう努めています。

――生産設備開発エンジニアとロボットエンジニア支援機構の理事、二足のわらじを履いて活躍しているんですね

そうですね。子どもたちの中に「ものづくりが好き」という気持ちが芽生えれば、将来的にエンジニアを志す人材も増えるとは思います。でもそれだけでは足りないと感じていて、「こんなエンジニアになりたい」と思えるロールモデルを見せていくことも大切だと考えています。

だからこそ自分たちの経験を自分たちの中だけに留めず、さまざまな活動を通じて伝えていきたい。少しでも多くの子どもたちがエンジニアという職業に憧れ、目指してくれたら嬉しいですね。

生産設備開発の仕事と機構での活動の両立は正直言って時間が足りないです。特に本業の生産設備開発の仕事が大変なので、機構の活動はその1/10程度しか時間を割けないのが現状です。

家族にも協力してもらいながら、なんとか時間をやりくりして両方に取り組んでおり、まだ手探りな部分も多いですが、この2つの活動がうまくつながって、相乗効果が生まれるような形に育てていけたらと期待しています。

 

日本のものづくり業界をもっとワクワクさせたい

――平日も休日も、ものづくりのことを考えているんですね

そうなんです。家でもものづくりのことを考えながら制御設計をすることが多いです。ただ、私はエンジニアと機構の活動をする前に2児の父なので、休日は家族の時間を大切にするように心がけています。その中でなんとか時間を捻出して機構の活動をしている感じですね。年に何回かは家族の了承をもらって、自費で海外の展示会にいって情報収集することもあります。

 

――情熱を持って精力的に活動しているんですね。今後の理想の働き方やものづくり業界の展望など教えてください

一番にあるのは、「エンジニアとして希望を持って働き続けたい」という想いです。自分の仕事が社会に役立ち、未来へつながっているという実感を持ちながら、誇りを持って働ける環境を自分自身で築いていきたいと思っています。そのためには現状に満足せず、日々努力を重ねる必要があると感じています。

働き方については人それぞれ考え方がありますが、私は日本のエンジニアたちが「この業界には明るい未来がある」と具体的にイメージできる社会で働けることが理想だと思っています。

日本における製造業の役割は、輸出や雇用の面でも非常に大きく、その技術力は世界に誇れるレベルにあると確信しています。確かに、成長著しい中国や、EUという大きな枠組みの中で躍進するヨーロッパの国々と比べ、日本の製造業は押され気味に見える場面もあります。ですが、まだまだ世界と肩を並べ、戦える「勝ち筋」はあると思っています。そして、まさに今がそのための頑張りどころだと感じています。

「日本の製造業はもう終わった」なんていう悲観的な見方が減って、もっと希望を持って語れる業界になってほしいし、自分自身もそうした空気をつくっていけるような働き方をしていきたいですね。

そのためには、海外から学べる点は柔軟に吸収しながら、日本独自の強みも見直していく姿勢が大切です。常にアンテナを張り、新しい視点を取り入れながら、成長し続けていきたいと考えています。

 

■おすすめ書籍

 

私が特におすすめしたいのは、『日本のものづくり哲学』(藤本隆宏 著)と『厚利少売』(新井文月 著)の2冊です。

『日本のものづくり哲学』は、東京大学の藤本隆宏教授が、日本・アメリカ・中国など各国の生産システムを比較研究した一冊です。特に印象的なのは各国の生産の得意・不得意を構造的に分析しながら、日本のものづくりの強みを「現場力」や「改善文化」などの観点から丁寧に紐解いている点です。

この本を読むと、単なるノスタルジーではなく「これからの日本の製造業にも可能性がある」と感じられますし、自分自身の仕事に対する見方にも深みが出てきます。

『厚利少売』は、“薄利多売”の逆の考え方、つまり「価値を高め、必要とされる価格でしっかり利益を得る」という発想を軸にしたビジネス書です。モノの価格は「原価+利益」ではなく、「お客さんが欲しいと思える価格」からスタートするべきだという著者の考えに共感しました。

そのために何をすべきか――価値の作り方、伝え方、そして作り手としての誇りについても具体的に語られていて、ものづくりに関わる者としての姿勢を見直すきっかけになります。また、著者が高専出身ということもあり、ものづくり現場への理解や視点にも親しみが持てます。

この2冊を読むと、日本のものづくり業界に希望が持てるようになりますし、自分のモチベーションアップにもつながります。“作る側の視点”だけでなく、“どう価値を届けるか”という視点も得られるので、エンジニアだけでなく、製造に関わるすべての人におすすめしたい本です。

 


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