半導体エンジニアに求められる資質とは?失敗した理由を突き止めるなぞ解きを楽しめるタイプ

田中明憲(仮名)さんは、物理系の学科卒業後、大学院に進み、半導体には欠かせない成膜技術を研究。現在は、半導体デバイスを製造するデバイスメーカーに勤務しています。今後は成膜技術をきわめていくのはもちろん、ほかの工程の知識を身につけ成膜工程にも役立てたいと意欲的に働いています。パソコンやスマホ、自動車など、生活に欠かせない半導体の製造分野で働くエンジニアとして、仕事内容ややりがいなどをお聞きしました。

田中明憲 たなか・あきのり(仮名)
田中明憲 たなか・あきのり(仮名)
私立大学の物理系の学科から大学院に進み、成膜技術の研究にいそしむ。卒業して、半導体デバイスを製造するデバイスメーカーで、前工程の成膜工程のプロセスエンジニアとして、開発を担当。試作品の成膜に関して温度や圧力など条件を調整する仕事が中心。大学院での研究の知識がそのまま生かせるとのことで就活は電池系と半導体系の会社の2つを志望する。今の会社でインターシップとして働き、仕事の環境がよいことから入社し、成膜の開発部署で5年目となる。

 

大学院時代の研究を生かせる職場へ

――半導体エンジニアをめざしたきっかけを教えてください。

半導体の分野をめざしたきっかけは、大学院の研究室で物の表面に金属や絶縁体などの薄い層をつける成膜という技術を使って研究していたことです。大学で学んだことを生かしたいと思い、成膜技術が使われる仕事を探しました。半導体デバイスメーカーは、そういった企業のひとつでした。半導体デバイスには、トランジスタ(電流を増幅したり、スイッチのようにON/OFFしたりする電子部品)やダイオード(電流を一方向にだけ流す電子部品)、IC(集積回路)、発光ダイオード(LED)などがあります。

今の会社は大学の教授がすすめてくれたところで、他にも大手の会社を薦められましたが、ここを選んだ理由は、インターンシップで職場の雰囲気などが自分に合っていて働きやすそうなところだったからでした。休暇が取りやすいというのも大きな理由でした。開発職なので、お客さんに直接接する営業や開発設計の仕事より自由が利き、製造のサイクルにより比較的休みやすい時期があるからです。

――どのような仕事内容を希望されたのですか?

この業界の多くは、募集の時点でどの工程をやりたいかを志望します。私の場合、設計か前工程、後工程から前工程を選びました。前工程の中での洗浄や成膜などどの工程を担当するかはわかりませんし、開発でなくて量産に行くことなどはありますが、かけ離れた部署に行くことはありません。

 

――入社後はどのように仕事を覚えていきましたか?

入社後は、上司のバックアップの下、少しずつ成膜工程で使う装置を動かしたり、成膜のウエハの上に膜をつけたりしてみたり、データ取りなどを行います。自分が装置を動かすことで、装置にエラーが生じたりすると量産チームに迷惑がかかるので、上司との相互確認のもとに行わなければなりません。現在入社5年目ですが、今も管理職の上司がついてくれています。私の会社の場合はあと数年で一つ上の役職となり、自分一人で動けるようになり、そこで成膜工程においては1人前と認められるようになります。中途入社の場合、ある程度、装置メーカーなどで経験あれば、最初から管理職、1年目で管理職になる人もいます。

 

どの工程を担当するかで求められるスキルは異なる

――半導体エンジニアの一般的な仕事内容を教えてください

半導体デバイスを製造するデバイスメーカーは、半導体デバイスを作るために必要な仕様を半導体製造装置メーカーに伝え、半導体製造装置メーカーはその仕様を満たす装置を開発し、デバイスメーカーに販売しています。つまり、半導体デバイスメーカーのほか、デバイスメーカーが半導体を生産する装置をつくる半導体装置メーカー、半導体の材料メーカーがあります。私が勤務する半導体デバイスメーカーでは、お客様のニーズを見極めて半導体を設計する設計部隊、ウエハという円形に加工されたシリコンを加工する前工程、前工程でつくったウエハを半導体チップとして加工する後工程があります。

前工程では、薬液でウエハを洗浄する等の洗浄工程、ウエハ表面にナノ単位の厚さの膜をつける成膜工程、写真と同じ原理で電子回路などのパターンを形成するフォトリソグラフィ―(ウエハに光を照射することで回路パターンを描く)工程、ガスや薬液でウエハ表面を削るエッチング工程、半導体の特性を調節するイオンを注入、表面を研磨して平坦化するCMP(Chemical Mechanical Polishing=化学的機械研磨)工程、設計通りにできているか調べる検査工程の7工程があります(図版参照)。この工程にそれぞれ専門家がいて、この人たちをプロセスエンジニアと呼びます。私もその1人で、前工程の中の成膜工程のプロセスエンジニアです。試作品の成膜に関して温度や圧力など条件を調整する仕事が主です。

【図】半導体製造・前工程の流れ

 

――後工程はどんな仕事になるのですか?

後工程は、半導体を完成させる工程です。出来上がったウエハを切り出してICチップを作りウエハを切り分けたり、リードフレームに固定・ワイヤ接合させたりといった工程が含まれます。また、製品として機能しているかどうかの検査も実施されるため、検査のノウハウや技術も必要です。こちらもそれぞれ専門のエンジニアが活躍します。

一口に半導体といっても演算をするロジック半導体、記録を行うメモリー半導体、音や連続的な電気信号などを扱うアナログ半導体、スマホの充電器や車や電車のモーターを制御するインバーターなど電気を制御するパワー半導体などがあり、どの半導体をつくるかで工程の流れは全く異なります。

――半導体エンジニアに求められる知識、スキルはどのようなものでしょうか?

例えば、前工程のエンジニアでも、どの工程を担当するかで必要な知識やスキルは変わります。全体の基礎としては、半導体の性質やトランジスタについて勉強する半導体デバイス工学、成膜エンジニアの場合は、メインは結晶や金属・絶縁体・半導体の違いを勉強する固体物理学になるでしょう。私も大学では物理学科でした。また、電子線やX線などを使った物理解析技術なども含まれると思います。リソグラフィーなどであれば原理は写真なので、レンズなどの光学の知識やレジストという光に反応する薬液を扱うので、化学の知識も必要になります。

 

うまくいかなかったときに「なぞ解き」が楽しめる人が向く仕事

――大変なことや苦労することなどありますか?

業務時間は8時間ですが、忙しいときは月45時間くらいの残業が発生することもあります。大規模プロジェクトで注文がたくさん入ったときやお客様から急いでほしと言われたときなどはどうしても忙しくなります。そのほか、技術アピールのための学会発表なども行いますので、その時期は残業も多くなります。忙しい時期こそ、しっかりお風呂につかって、睡眠時間を確保することを心がけています。今の会社は『しっかり働いてしっかり休む』という社風があるので、業務が落ち着いた時期に休暇の申請もしやすい環境です。

 

――半導体エンジニアとしての資質を挙げるとしたら?

半導体エンジニアに限らず、エンジニア共通のものだと思いますが、物事を論理的に考えられることだと思います。現象に対して理由を論理的に考えることが必要です。例えば、プロセスエンジニアは、試作過程で結果が数字として表れるので、うまくいかなかったときにその理由を突き止めるなぞ解きを楽しめる人には、向いている仕事だと思います。

 

現在の技術をきわめ、他の工程も学べる道へ

――半導体業界の将来性についてどう考えていますか?

どうしても波がある業界で、シリコンサイクルとも呼ばれています。シリコンサイクルは半導体業界特有の景気変動サイクルです。約4年周期で好況と不況を繰り返す現象なのですが、今はちょっと下降気味に感じています。今後、盛り返してくれることを期待しています。

業界全体でいえば、コロナ禍の半導体不足や政府資本の入った北海道のラピダス※1、熊本のJASM※2などの誘致がテレビや新聞でも大きく報道され、注目度が高くなっています。特にロジック半導体のAI関連などは、今後の成長に期待が寄せられ、需要も高くなっています。AI用のロジック半導体やセンサー、アナログ半導体を多用する自動運転、パワー半導体を使用するEVなど、これからさらに成長が期待される業界だと思います。

※1 Rapidus(ラピダス)は世界最先端のロジック半導体の開発と製造を目的に、ソニー、トヨタ自動車、デンソー、キオクシア、NTT、NEC、ソフトバンク、三菱UFJ銀行など、日本国内大手企業8社が出資し、半導体の専門家集団が設立した半導体新会社です。 日本政府も700億円の開発費を拠出しています。

※2 JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社の略称)は、世界的ファウンドリTSMCの子会社として、シリコンアイランドとも称される九州・熊本県菊池郡菊陽町に設立された会社。ソニーセミコンダクタソリューションズやデンソーも少数株主として出資。国内における半導体製造能力の向上に、大きな期待が寄せられている存在です。

――この仕事のやりがいと今後の目標についてお聞かせください

試作品の測定結果が狙い通りの性能になっていたときはやりがいを感じます。例えば、トランジスタの成膜条件を変えて流れる電流の大きさが大きくなったであるとか結果が出るとうれしいです。開発に携わった一つひとつの半導体がすべて半導体製品になることはあり得ないことですが、その確率を高くすることが私の目標です。

今後は成膜技術をきわめていくことはもちろん、今の会社でほかの工程も、例えばその隣の洗浄工程を勉強したいと思っています。洗浄について知識を得ることが成膜の結果にも影響するので、そこで得た知識をフィードバックして成膜にも生かすことができればと考えています。

――半導体エンジニアを目指す方々へメッセージをお願いします

先に述べたように、半導体業界はとても将来性の高い業界です。半導体事業には国も力を入れています。将来、日本の半導体業界を支えていくためにはエンジニアが必要不可欠です。論理的な思考ができる人、データから事象を分析し、なぜそうなったのかと謎解きを楽しめる人にぜひこの業界に入ってほしいですね。

 


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