テストドライバーから自動車内部のCADデザイナーへ――現場視点で「使える設計」を極める

高橋さんはテストドライバーとして大手自動車会社に入社後、事情によりCADデザイナー/オペレーターに転身。現在ではシニアデザイナーとして、社内外の現場スタッフの育成を任されるまでになっています。CADデザイナーとしては異色の経歴をお持ちの高橋さんに、自動車業界の現場に求められる考え方などをお伺いしました。

高橋 勝之(たかはし・かつゆき)
友人の影響で自動車に魅せられ、大学受験を取りやめて短大へ入学。自動車整備士としての資格を取得した後、憧れのテストドライバーとして自動車会社に入社。CADの部署に配置転換後は、整備士、テストドライバーとしての経験を活かしながら、単に数値だけを見るのではなく、経験に即した実用的なデザインができるデザイナーとして活躍。業界34年目、二児の父。

 

憧れのテストドライバーとして自動車業界に足を踏み入れる

――この業界/会社で働こうと思ったきっかけを教えてください

高橋:実は、浪人中に通っていた予備校でできた友達の影響が一番大きいです。中学高校とバンド活動に明け暮れていたため、現役で大学に受かることができず、予備校に通っていました。予備校でできた車好きな友人の影響で、自動車にのめり込むようになっていきました。

友人に人気車種のカタログを見せてもらったところ、そこに憧れの車がテストコースのバンクをすごい速さで走行している写真が掲載されているのを見つけました。

それを見て、「自分もテストドライバーになってここを走りたい」と思ったことが大きなきっかけです。

 

――この業界/会社に入るために、どのような努力をしたのでしょうか。大変だったことや楽しかったエピソードなどがあれば教えてください

高橋:まずは職場研究から始めました。

志望するメーカーのテストドライバーになるためにはどうしたらいいか調べていくと、その会社ではまず技能職の車両実験部というところに就職する必要があると分かったのです。就職には自動車整備士の資格が必要になるということで、思い切って大学受験をとりやめ、岐阜にある短大に入ることにしました。

短大では自動車整備士の資格も取れるのですが、それだけではなく、板金塗装やフレーム修正など、多岐にわたる技術に直接触れさせていただきました。

また、短大在籍中にレーシング部に所属した経験が、自分の人生を大きく変える一つの契機にもなりました。

実際に部内のレース用のマシンに触るだけではなく、ツテを通じて、鈴鹿サーキットでのコースオフィシャルのアルバイトを斡旋してもらえたのです。コースオフィシャルというのは、旗を振ることでコース上の危険やレースの状況などをドライバーに伝達する仕事で、レースの進行と安全をサポートする、非常に重要な役割を担っています。

こういったレースの世界に間近で触れることで、いかに車の整備に人の命がかかっているのかというのを目の当たりにすることができました。整備の重要性といったものを身に染みて感じられるようになったのは、この経験があったからだと思っています。

それとは別に、レースにワクワクする気持ちもあったので、やっぱり自分もレースを走ってみたいという気持ちも強くなりましたが(笑)。

下宿の仲間とミニバイクのレースチームを結成したり、サーキットでのイベントにも足を運んでチューニング業界のことを教えてもらったりと、学生時代は好奇心の赴くまま、様々なことを学ばせていただきました。

プライベートでは、きっかけになったカタログの車両を手に入れ、月一ペースでサーキット走行会やジムカーナ練習会に自分のクルマで参加したりもしました。ジムカーナというのは、舗装路面に設定されたコースを競技車両が1台ずつ走行するタイムトライアルのことで、国内Bライセンスで出場できるモータースポーツの代表格です。自車のチューンナップのために、エンジンを組んだり、足まわりを組んだりと、実践に基づいた知識を得ることができました。

――テストドライバーというのは、具体的にどのようなお仕事だったのでしょうか。

高橋:実際に車両実験部に就職してみたところ、実はテストドライバーという業務は、あくまで実験の一部分でしかありませんでした。走行がメインの業務ではなく、一連の実験の中に走行テストも含まれる、という位置付けです。

とはいえ、社内教育で運転訓練を受けさせていただき、しっかりとテストドライバーとしての運転技術を叩き込んでいただきました。

実際の走行試験では、耐久信頼性のテストはもちろん、乗り心地などのテストも含まれるのですが、ここはなかなか皆さんに想像してもらうのが難しい部分かもしれません。自動車の調整を行ない、試乗してデータを取り、その結果を元にまた調整を行なって……ということを、シフトを組み、昼夜となくひたすら繰り返す部署でした。1日に300km走るのが当たり前のような環境だったので、本当に運転が好きな人じゃないとなかなか難しかったとは思います。

 

CADデザイナー/エンジニアとして踏み出した一歩

――以前の職種から、現職(CADオペレーター)への転向について、なぜ転向することになったのかを教えてください

高橋:元々配属されていたテストコースが会社都合により閉鎖になりました。

一旦別のテストコースに配属は決まって異動、となったのですが、同時期に家族の癌(がん)が見つかり、容態もよくなかったため、すぐ対応できるように都内に住むことになりました。その結果新しい職場まで往復5時間かけての電車通勤ということになってしまいました。

当時、私の職場では夜勤の担当が月1回のペースであったのですが、深夜や早朝は駅からの移動手段がなかったため、同僚の車に送迎してもらっていました。しかしそのことが会社から労災になった場合に問題だと指摘され、困っていたところ、同じタイミングでCAD業務を拡大するとのことで、神奈川で大々的に人員募集していた課に移るのはどうかと上司から勧められました。

ちょうど走行業務を外部に委託するという噂も出てきていたこともあり、そこで思い切って職種変更をすることを決めました。

――会社都合での配置転換とのことですが、どのように感じ、受け入れていったのでしょうか。

高橋:社内での配置転換とはいえ、全くやったことのない仕事にトライするというのは、自分の中でもかなりのチャレンジでした。

ただ、実は新しいテストコースではテストドライバー業務を外部に委託するという話が出始めていた時期でもあり、転換点なのかもしれないとも思い始めていたところでもあったのです。

自分達で車体を調整し、その車に乗ることによって自分の体で不具合を検出し、また調整するという、一連の流れに誇りを持って業務にあたっていたのですが、そこが分解されてしまうのは自分の中では何か違うな、と思いまして。

 

それまではパソコンにアレルギーが出るほど苦手だったのですが、腹をくくって向き合うことにしました。車の整備は好きでしたし、会社の方ではソフトの使い方をゼロから教えてくれるということだったので、真剣に取り組みました。

――仕事の内容がかわることについては、大変なご苦労があったと思います。職種変更に際して、どのように勉強してスキルを身につけていったのかを教えてください。

高橋:元々探究心が強い性格だったので、その探究心を、新しい業務の習得に意識的に向けるということをまず行いました。

基本的な操作の習得から約半年かけて、新しく導入された「I-DEAS(アイディアス)」というソフトウェアの機能を使いこなせるようになったのですが、会社が開発の効率化のために大規模なCAD部隊を作るということで、すぐに他の人にI-DEASを教えなければいけないということになりました。

他の人に教える際は、振り返りの作業が多く、直接的なスキルアップにつながったように感じています。

 

ソフトウェアの習熟に関しては、短大時代に勉強していた図面の知識もかなり役立ちました。

そこから技術を向上させていくために、ソフトの様々な機能を使って、モデリングのやり方を試行錯誤してみたことが効果的だったように思います。

CADで行うモデリングの手順には、ある形状を作り出すために押し出すのか、カットするのか、足すのか、これといった正解があるわけではありません。そのため、常に柔軟にいくつもの方法を考え、どれがより効率的か、試しながら個々人が引き出しを増やしていくことが大事だと思っています。

――以前の職種での経験は現職に活きていますか?よろしければ教えてください。

高橋:ドライバーとしても、整備士としても、過去の経験は現在の業務に非常にいきていると感じています。

現在のCADを用いた車の作り方というのは、開発期間を短縮するため、複数パターンを同時並行で作り上げていくのが主流です。モックアップデザインが完成する前にある程度当たりをつけておき、モックアップデザインから表面のデジタルデータを作り上げて、それを元に車体のパネルを設計していきます。実物がない状態から、使用される鉄板の厚みが何ミリかなど、使用する予定のパーツがどのくらいの数があり、それをどのようにレイアウトしたら綺麗に車体に収まるのかなどを考えながら設計していかなければいけないのですが、その時に整備士の経験から、比較的最適解に近いものを選び出せるというのはとてもありがたいです。

 

現在の部署では主に、車のサスペンションについての開発実験を進めておりまして、より強度や耐久性が高い構造を模索しています。テストドライバーとして現物の耐久性、強度を見続けてきたことで、CADの画面上でもある程度の物の強度が想像できるようになってしまいました。画面だけ見ていたらわからない、当該部位にかかる応力や振動の感覚まで、クルマ全体を知っていることでおおよその見当がつくのは、やはりデザイナーとしても大きな強みかなと思っています。

――CADを学んでいて、思わぬところで役に立ったエピソードがあれば教えて下さい。

高橋:CADを使用した作業として、ずっとパーツを組み合わせて自動車内部の設計を行っているわけなのですが、これをやり続けていると、副産物として、空間認識能力が飛躍的に向上することがわかったのです。

その結果、物の収納が異常にうまくなりました。

限られたスペースに、普通では考えられないような物量の荷物をしまうことが可能になるのですが、そのおかげで一度引っ越しのときにとんでもないことになりました。引っ越し屋さんの見積もりが甘く、本来の荷物量の半額くらいの値段で契約できてしまったのです。

さすがに可哀想だったので少し譲歩はしましたが、まさかこんなことが起きるとは予想だにしておりませんでした。

 

自動車が好きな人にこそ入ってきて欲しい業界

――CADデザイナーは、業界としては比較的入りやすい職種なのでしょうか?

高橋:正直な話、CADデザイナーやオペレーターという職種は、業界としては非常に入りやすい部署だと思います。

一度入ってしまえば、仕事は中で教えてもらえることが大半ですし、特に学歴によって足切りのようなことがあるようにも感じません。高卒でも入る方はたくさんいらっしゃいます。

年齢制限も感じたことはありません。派遣のスタッフも多くいる職場で、ここから正社員転換をする方も多いです。

――どんな方と一緒に働きたいですか?会社として、または現場として何かあれば教えてください。

高橋:現場としては、間違いなく、車を知っている方、好きな方がいいと思っています。

やはり仕事としての張り合いも大きく変わってくるのではないかと考えていまして、好きなもののほうが、同じ働くのだとしても、楽しみを持って仕事ができるのではないかと感じています。

精神的な部分だけではなくて、やはり車の知識を持っている人のほうが、現場に溶け込みやすいし仕事にも入りやすいかと思います。

――もしこの業界に入りたいという場合、身につけておいたほうがいいおすすめのスキルなどはありますか?

高橋:望ましいスキルとしては、やや繰り返しにはなってしまいますが、やはり整備士経験がある人、自分で車をチューニングしたことがある人が良いかなと思います。パソコンの画面の中だけではなく、実際の車がどんなものなのか、ある程度わかっている人のほうがいい仕事ができる分野であることに間違いはありません。

一方で、未経験でも、それを覆せるほどの熱量がある人であれば、十分追いつくことはできるかなと思っています。

世界情勢や技術の進歩などの影響により、業界としてはどんどん変わっていっているというのが現状です。そういう意味では、今主流になっているCADも、いつか他のツールに取って代わられる日が来るかもしれません。

ツールやスキルというよりも、それを使って何ができるのか、何をするのか、そういった部分の芯がぶれずにいられる人というのが、業界に入ってきても長く活躍していける人なのではないかと思っています。

 

――自分のスキルアップ、成長につながったプロジェクトや経験などあれば教えてください

高橋:一番自分の成長につながったと感じているのは、自動車を作る工程において一通り触れることができたことです。自動車全体として言えば、実際に乗る方からCADでの設計までを一通りなぞらせていただきましたし、現在携わっているサスペンション周りの開発も、開発にとどまらず、製造にまで踏み込んだ関わり方をさせていただいています。

異動のタイミングなども重なって、車の見た目(デザイン)を決定する会議に出席する機会や、材料の温度変化の実験のような基礎研究の現場に携わる機会、プロダクトが世の中に出るまでどのようにPR戦略(パブリシティ戦略)を立てるかという一連の流れを見る機会にも恵まれました。

このように様々な立場から物事を見る経験を積めたことは、多様な視点を養う上で自分に大きな影響を与えたと思います。

――会社以外で、自分の経験、スキルアップにつながった経験があれば教えてください

高橋:会社につけてもらったテストドライバーとしての技術を用いて、何か残すことはできないだろうかということは常々考えていたことでした。

そこで自分の中での新たなトライとして、電気自動車のレースに出てみようと考えました。電気自動車でのレースは、アクセルでいかに電気の消費をうまくコントロールしていくか、というのが本質になります。

日本電気自動車レース協会(JEVRA)が主催の全日本電気自動車グランプリシリーズという大会があり、日本中のサーキットを巡って年間8戦のレースが行われるのですが、私はそこに自車を持ち込み、挑戦しました。2年間フル参戦してシリーズチャンピオンを勝ち取った時、業務で学んだことを素晴らしい形で実践でき、その意義を証明できたことに誇りを感じました。

 

好きこそものの上手なれ、ということ

――現在、仕事以外で何か趣味も含めた活動をしていらっしゃいますか?

高橋:先ほど電気自動車でのレースのお話をさせていただきましたが、現在は社内にチームを作り、自車を提供しながら後進の育成を行っています。幸い、精力的な活動が認められ、会社からも支援していただけるようになりました。

自社で開発した自動車にチューニングを施し、レースに参戦するという機会は、普通の会社員にはなかなか持てないものだと思います。ただ、こうした体験は、良い自動車をつくるためには必要不可欠だという信念がありますので、引き続き今後も盛り上げていければと思っています。

 

また、整備士をやっていたこともあり、車のレストアが大好きなんです。

現在は会社で触れることがほとんどないため、趣味として旧車のレストアを行い、イベントで展示させていただいたりもしています。有名人が所有しているレア車に触れる機会もあるため、とても面白いです。

――仕事と個人活動の両立は、なかなか難しいものなのでしょうか?

高橋:正直なお話をすると、やっぱり難しいと思っています。私は比較的自由にやらせていただいている方だとは思っていますが、それでも趣味に費やす時間に関しては、かなり睡眠時間を削っているというのが実情です。大きい会社だと残業が少なかったり、有給の取得が推奨されたりすることもあり、そこをうまく使いながらなんとか両立をさせています。

今は、子供も大きくなったので、そういう意味でも少しやりやすいかもしれません。ちなみに長男はエンジニアの道を選び、今は配膳ロボットの開発や調整を仕事にしています。こういう「ものづくり」に惹かれてしまうのは、もしかしたら血筋かもしれないですね。

――年齢的に定年後のことは何か考えていらっしゃいますか?

高橋:なかなか難しい質問ですね、悩んでいるところはあります。会社からは、若手育成のために残ってくれと言っていただいているので、大変ありがたいことです。

一方で、今まで週末しかできなかった車のレストアを思う存分やってみたいという夢もありまして……。高級車専門のレストアの工房にもツテがありますので、そういったところに入り浸るのも楽しそうだなと思っています。

――この業界を目指したい人に向けて、アドバイスをお願いいたします。

高橋:自動車業界、特に実験に関わるようなところで働きたいのであれば、まず車自体をよく知ってほしいなと思っています。具体的には、いろんな車種を見て、乗ってみるというところがスタートかなと思います。

現在の社会というものは、非常に変化が大きく、専門知識のみではなく、多様性が問われることも多くなってきたように思います。これは自動車業界でも同じです。

ただ、どんなことにしろ、仕事において本質的に求められる事というものはございます。その本質をきちんととらえて、しっかり取り組む考えや性質を持っている人というのが、どこに行っても求められる人材だと思っています。これは日頃の意識した行動の積み重ねでのみ得られるものですし、ここがしっかりしていれば、どんな局面でも対応できる人になれると思います。

ぜひ、そういう人を目指してください。

――もしオススメの書籍などあれば、ぜひ教えてください。

高橋:車の書籍、特にカタログやパーツなどは、見かけるとつい買ってしまいます。

イラストや図解の入った本などは、初心者でも比較的とっつきやすいのではないでしょうか。特に車のパーツに関しては、知識はあればあるほどいいと思います。雑誌などもいいかもしれませんね。

 

『Motor Fan』や『オートメカニック』という雑誌がおすすめなのですが、オートメカニックは残念ながら不定期休刊となってしまいました。少し寂しいですね。

 


この記事が気に入ったらいいね!しよう

いいね!するとi:Engineerの最新情報をお届けします

プライバシーマーク