2020年初頭から猛威を奮い始めた新型コロナウイルス。このウイルスによって、我々の生活は一変しました。仕事面でも大きな影響を受けた人は多いのではないでしょうか。
多くの企業が事業縮小、人員削減を余儀なくされている世の中で、生き残る為には何をすべきなのでしょうか。例えば、スキルや技術だけを持てば、将来は安泰なのでしょうか。
今回は、日立ソリューションズで最先端の技術を駆使してホワイトハッカーとして働くエンジニアと、Youtubeでエンジニアを目指す人に向けた情報発信を行う傍ら、企業のシステム開発に携わるフリーランスエンジニアを招聘し、「エンジニアがこれからの時代を生き抜くために、必要なこと」について、座談会を開催しました。

<プロフィール>
米光 一也
日立ソリューションズ入社後、セキュリティ製品の開発(プログラマ)、セキュリティコンサルタントを経て、高度なセキュリティスキル保持者を集めたホワイトハッカーチームを社内で設立。
現在、ホワイトハッカーを率いるリーダーとして業務をこなしながら、“企業の中で技術者をどう輝かせるか”という点で日々奮闘中。社外では、IPAで情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士の試験委員、早稲田大学で情報セキュリティ授業の非常勤講師等を務め、日本の次世代人材育成にも注力する。

<プロフィール>
青山 桃子
日立ソリューションズのホワイトハッカーチーム所属。高度なスキルを持つセキュリティの専門家として、顧客のセキュリティ事故の調査や社内の技術支援を行うとともに、セキュリティ技術者の育成など、社内外のセミナー講師としても幅広く活躍。
育休から復職後も子育てしながら最前線の業務に従事。社外の女性エンジニアの育成のコミュニティ運営にも携わる。

<プロフィール>
アップスターツSベン(以下、Sベン)
Fラン中退後、一からパソコンを学び、完全独学でエンジニアになった異色の経歴。
自身のYouTubeチャンネル「【下剋上エンジニア】アップスターツSベン」は登録者1.4万人/累計再生180万回達成。オーナーを務める「逆転エンジニアサロン」は総勢80名を越える。
25歳でフリーランスになり月収は3.5倍に。エンジニアで人生逆転させる秘訣をYouTubeで配信中。
エンジニアとして歩んできたそれぞれのキャリア
――皆さんの現在の業務内容について、教えてください。
米光:私は日立ソリューションズでホワイトハッカーチームのマネージャーとして、メンバーと一緒に自社防衛など、主に技術スキルが求められる業務を担当しています。自社やお客様がサイバー攻撃にあった場合などに、最前線に出て対処を支援します。
――では青山さんも、同じようなお仕事でしょうか?
青山:そうですね。私もホワイトハッカーとして米光さんのチームで自社防衛の実務やセキュリティの技術支援などをしています。私は手を動かす側なので、米光さんが忙しくなると私達も忙しくなります。
――お二人の「ホワイトハッカー」とは、どういった仕事内容なのでしょうか?
米光:今、多くの企業や社会インフラがサイバー攻撃の脅威に晒されています。その脅威から守る為に、高度な専門スキルを駆使する…というのが我々が考えるホワイトハッカーです。

――アップスターツSベンさんはどのようなお仕事や活動をされているのでしょうか?
Sベン:私はYoutuberとしても活動している、Web開発がメインのフリーランスエンジニアです。一方で、これからエンジニアへ転職をめざす方向けに、Youtube等で情報発信をしています。僕自身Fランク大学の出身で学歴が無くても技術力をつけることで豊かになることができたので、そういう人を増やしていけたらと考えています。
――なるほど。Sベンさんのご経歴について教えてください。
Sベン:僕は二十歳くらいまで全然将来のことを考えていなくて、勉強も大嫌いでした。でも、男って二十歳くらいに目覚め始めるじゃないですか。僕の場合は、”リッチマン、プアウーマン”というドラマで、プログラミングをしている俳優の小栗旬さんを目にして、その姿がとても格好良かったので、「これだ!」と思いました。それまでプログラミングはかじったことがなかったんですけど、必死で一生懸命独学で勉強して、ここまできたという感じです。
青山:ドラマや映画などを見て「かっこいい!」と思って勉強するのはすごく共感できます。

――米光さんはどういったきっかけで、エンジニアを志したのでしょうか?
米光:僕は他のお二人とは違い、かなり昔の話になってしまいますが、当時流行していたコンパクトディスクにプロテクションコピーがかけられた時期があり、その時、『これにはどういう技術が使われているのだろう?』と興味を持った事がきっかけでした。もちろん、悪い事はしていませんけどね。
――では日頃触れ合うエンジニア志望の方は、どういった志向を持った方が多いのでしょうか?
青山:私はリクルーターとして面談をすることもあるので、エンジニア志望の学生さんと触れ合う機会も多いです。学生さんの志向性でいうと、専門性を予め持っていて、どの分野のセキュリティをやりたいかといったイメージを具体的に持っている人が多いですね。
コロナ禍がエンジニアの仕事にもたらした影響とは
――新型コロナウイルスの流行前において、エンジニアという仕事が世間で注目を浴びたのはどんなタイミングでしたか?
青山:セキュリティに関して言うと、2016年に経済産業省がセキュリティ人材不足を問題視し、発言したタイミングがありました。そこで企業のエンジニアに対する見方が変わって、プレゼンスがあがったかもしれません。

米光:2000年代半ば、いわゆる個人情報保護法が施行された後、多くの企業は自社のセキュリティ対策を考えるようになりました。その時、業界ではセキュリティ・コンサルタントがとても流行ったんです。そこが、日本でセキュリティへの意識が広く根付いた最初のタイミングだったのではないでしょうか。そのほかにも、東京オリンピック・パラリンピック大会のような大きなイベントの開催によって、サイバー攻撃を受ける可能性が高まるとも言われています。セキュリティエンジニアの数は限られているので、そういった人材は日本国内のみならず海外からオファーがあると聞きます。
――では今回のこのコロナ禍でエンジニアの仕事内容に及んだ影響について教えてください。
米光:我々は以前から在宅ワークの環境がある程度整っていたので、働き方においては影響をあまり受けていません。一方、お客さまや社会全体で在宅ワークが普及していく中で、『リモートアクセス環境を整えたい』、『セキュリティ対策を強化したい』といった相談が駆け込みで増えていきました。さらに、『攻撃されることを前提としてセキュリティ対策をしたい』というゼロトラストに関する相談も増えており、セキュリティに関する意識の高まりを感じます。
――コロナ禍の半年で、働き方や、環境の面ではどう変わりましたか?
Sベン:2月から4ヶ月間くらいはフルリモートで働いていたのですが、新型コロナウイルスが起こるまではフル常駐していたので、大きく働き方は変わったなと思いました。また、参画していた企業がこの影響で大打撃を受けてしまい、契約を打ち切られるという経験も初めてしました。
米光:ホワイトハッカーの仕事は個人プレーのような側面があるので、在宅勤務への移行はスムーズでした。しかし、メンバーとのやり取りがリモートになることで、マネジメントのやり方を変える必要に迫られているところもあります。他の部門のリーダーからは、これまでのマネジメントのやり方を変えて、新しい管理方法を模索しているという話も聞きます。
Sベン:あとは、新型コロナウイルスで自分の作業の時間が増えた為、スタンドプレイが求められ、以前より増して個人の力を求められているように感じます。後、リモートになって雑談を含むあらゆるコミュニケーションが減りました。
青山:それは私も痛感しています。気軽な立ち話ができなくなってしまいましたね。
米光:ただ一方で自由な時間が増えたことはうれしいですね。本当に変わったなと思うのが、通勤時間を節約できたことや、飲み会に行く機会が減ったことです。ただ、これまで仕事の獲得や、ホワイトハッカーのチームを社内で組成してきた際には、飲み会でのコミュニケーションが一つのフックだったことも事実です。今後、どのように社内外との組織と関係を維持・構築していくか、仕事の機会をつくっていくか、やり方が大きく変わっていきそうです。

――それではコロナ禍で、仕事をする上で最も変わったことは何でしょうか?
米光:会社全体では、営業の仕方がリアルからオンラインへと一番変わりましたね。
Sベン:そうですね。新型コロナウイルスで案件がかなり消えていっているので、次の案件を見つけるのに1ヶ月くらいかかりました。フリーランスの場合、案件を見つける時はエージェントに探してもらうことが多いのですが、元々1つだけ登録していたところを、これをきっかけにエージェントの数も増やしました。
未来で求められるエンジニアの姿とは?
――今後エンジニアへのニーズはどう変化すると思いますか?
米光:私は、SベンさんがYoutuberとしてやられている経験はすごく有意義だと思います。エンジニアはコードがかけて、技術にすごく明るいというのはもちろん必要なんですけど、その価値をどう他者に伝えるかというところまで考えられるエンジニアは希少なので、ニーズが高まると思います。

Sベン:異業種からエンジニアへの転職者が最近増えているので、エンジニア×〇〇みたいな人が今後増えてくると思います。自分がそれまでやっていた仕事内容と掛け合わせたエンジニアが生まれるかもしれません。例えば、営業経験者がエンジニアになって、コミュ力の高いエンジニアが創出されていったりとか、そういった人が増えていくと思いますね。
――みなさんは、専門性の高いエンジニアと、+αの要素を持ったエンジニアの2者であれば、どちらをおすすめしますか?
米光:ご自身の売りが、技術や知識といった勉強やトレーニングで身に着けられるハードスキルなのか、コミュニケーションやリーダーシップといったソフトスキルなのかによります。ソフトスキルに自信があれば、エンジニア+αをめざす方がはるかに生きやすい世界だと思いますし、ニーズも多いです。特定のハードスキルだけで勝負するなら、技術や知識を極めることにチャレンジしてみてもいいと思いますが、その専門性だけで成功できるかは時と運にも左右されます。例えばAIエンジニアは、今はとても注目が集まりスポットライトが当たっていますが、それ以前は長い間、ほとんど注目されませんでした。
Sベン:僕は人それぞれだと思いますね。その人がどっちがやりたいか、どっちに向いているかという話かなと。
青山:私は圧倒的に、バランスよく+αの要素を備えたエンジニアのニーズが高いと思います。例えば何時間もかけて海外からの攻撃を解析したり、国防に携わるといったプロジェクトでは、ハイレベルな技術者が必要ですが、関われるのはほんの一握り。そういうものをめざして技術力で尖るか、いろんなスキルを駆使して幅広い活躍をするかでいうと、後者の方がおすすめです。

――「これからのエンジニアはこうした方が良い」といった考えはありますか?
米光:今までエンジニアとしての仕事の範疇に入っていなかった趣味や、ご自身のディープな知識を組み合わせるチャンスが、この時代では生まれているかもしれません。例えば、将棋がすごく得意な人は、以前は仕事と全く関係ないスキルと捉えられていましたが、少し前に話題になったAI将棋の様な世界が生まれ、まさに仕事に直結するスキルに昇華した、といった具合です。ITの活用が広がっているので、さまざまなチャンスはあるかと思います。
Sベン:米光さんの仰る通りで、エンジニア×○○で勝つのはありですよね。例えば営業ができるエンジニアなら、エージェントに頼らずとも自分で案件を取ってこれるのでマージンを抜かれることもありません。そしてコミュニケーション能力が高いので現場でも活躍することができます。一方で、新型コロナウイルスのタイミングで実力のないエンジニアは淘汰されてしまいましたので、一定水準の技術力は担保しておく必要があると思います。

青山:技術的にどの程度のレベルなのか、もしくはどの分野に詳しいかを客観的な指標としてわかりやすいのが資格だと思います。初めて会った人でも、持っている資格を見れば、何に詳しい人なのかがひと目で判断する事ができます。選考においても、書類の時点で資格は見られるかなと。
米光:私たちは資格があればいいとは思っていなくて、他人に見せるラベルとして有効だと考えています。自身が熱く語れる開発実績、自身のスキルを伝えるポートフォリオが一番大事だと思っています。資格はあくまで、それらを語る場、面接の場にたどり着く為の手段であるという考え方です。
Sベン:そうですね、これまでの開発実績でポートフォリオを厚く組めた方が有利だったりしますね。
――AIが台頭していくこれからの時代、これからのエンジニアはどうすれば生き残れるのでしょうか?
米光:エンジニアの世界はもっと広がっていくと思います。AIが社会のさまざまな仕組みをバージョンアップすることは確かですし、その仕組みを構築・維持するためにエンジニアが仲介する、というのはこの先何十年も変わらないと思います。なので、AIでエンジニアの仕事がなくなるという話をする人もいますが、エンジニアの仕事の変容はあるにせよ、この先も奪われないというのが、私の基本的な考えです。ただ、そういった世界で活躍するには、自身の得意分野を把握しておくことがとても重要だと思います。
青山:単純作業はAIにどんどん置き換わるかもしれません。でも、アイデアを技術に落とし込む部分は人間の力が必要です。そういったところをどんな順番で、どんな風に実装するかはエンジニアの仕事であり続けると思います。新しい事を考えるAIが出てきたら、その時は人間がまた新しいことをやるだけ。そういう意味では、エンジニアの仕事がなくなることはないように思います。
エンジニア転職を志している方に一言ください!
青山:エンジニアは、知識や技術があれば働く場所は自分で選ぶことができるため、コロナ禍のような状況下でも働きやすい職業だと思います。しかし、その中で自己研鑽できる人、なにか目的を持ってコツコツ自分で努力できる人が向いている職業だと思います。なので、そういうものだと理解した上で、エンジニアに興味をもってくれる人がもっと増えたらいいなと思います。
Sベン:これからエンジニアをめざす人が増えて、ライバルが増えていくので、他のライバルと差別化をしたうえで転職活動をする人が増えていくといいなと思います。
米光:society 5.0という言葉がありますが、とても便利で新しい社会が半歩先まで来ていると言われています。その新しい社会はエンジニアが作っていくわけで、そういった世の中の変化に自分が携われるチャンスを与えてくれるのがエンジニアという職業だと思います。もちろん仕事なので苦労もありますが、そういう楽しさや喜びがあるよ、という事を伝えたいです。

まとめ
これからをエンジニアとして生き残る為に必要なことは、「自分の得意なこと・好きなことを技術とかけ合わせて、自分にしかできないことを仕事にする」ということ。
ホワイトハッカー、そしてエンジニアYoutuberという、全く異なる立場の3人から出てきた言葉は同じでした。
これからエンジニアを目指す人のみならず、現在エンジニアとして働いている人も、今一度自分の中にある「得意なこと・好きなこと」を掘り起こしてみると良いかもしれません。
新型コロナウイルス、AIの台頭といった人間の仕事を脅かす様々な脅威が叫ばれていますが、人間がクリエイティブな仕事をし続ける限り、エンジニアという仕事はきっとなくならないでしょう。