Web制作は、主にクライアントと制作現場の間に入るディレクション、Webサイトのビジュアルを決めるデザイン、デザインをHTMLやCSSなどの言語で組み上げるコーディングやシステムを組み込むプログラミングのスキルなどを必要とする仕事です。しかし近年、Webサイトは作るだけでなくマーケティングやSNSへの対応も求められています。そんな業界の変化と生成AIの登場による仕事への影響など、長年Web制作に関わる志鎌真奈美さんから、ご自身の経験をもとに語っていただきました。
北海道函館市生まれ、北海道教育大学函館校卒業、千葉県市川市在住。1997年より5年間のソフトウェア開発会社のWeb制作部門への勤務を経て、2002年に独立。個人事業主として、Web制作・マーケティング・ディレクション・企画・システム設計などに携わる。関わったWebサイトは、1000以上。現在はディレクションやWebマーケティングコンサル、セミナー講師などWeb制作のフィールドを広げ活躍中。
教員からパソコンインストラクターに挑戦
――Web制作で約25年のキャリアですが、具体的なお仕事の内容は?
Web制作に関わった実績としては、Macromedia Fireworksや Dreamweaverを使って、これまでにホームページを1000以上作ってきました。以前は、ディレクションからデザイン、納品まで一人で行っていたこともありましたが、現在はデザインやプログラミングなどは提携するフリーランスと組み、私はディレクションだけと、分業化をして制作の仕事を回しています。
最近はECサイトの構築、SNSの活用、Webマーケティングなど、「会社のホームページを作るだけでは終わらない」というクライアントの要望が増えています。その傾向にポテンシャルを感じ、ディレクション業務にコンサルティング業務を加える方向へとシフトしています。スクール事業や販売まで、Webは活用次第で業績アップにつながるといった内容の講演などでも全国から呼ばれるようになりました。
一言でWeb制作と言っても、今は非常に幅広い分野のスキルや知識が必要になってきていますよね。もともと私は小学校の教員だったのですが、転職して未経験からWeb制作に関わり始めた1997年頃とは状況が大きく変わったと実感しています。
――なぜ教員から、Web制作のお仕事を始めたのですか?
教員を目指したのは、北海道教育大学が家から歩いて通える範囲だったことや、安定した良い職業というイメージが当時はあったんですね。教職課程は音楽でしたが、小学校では全部の教科を教えていました。
教員として、それなりにやりがいを感じていたのですが、お付き合いしていた相手が東京に就職してしまったんです。離れて付き合っていた時期もあったのですが、結婚して東京で暮らすという選択をし、3年間で教員を辞めることになりました。
私が東京に来た頃は、まだネット環境もなくIT系という職業感はありませんでした。ただ、東京には仕事がたくさんあって、気持ちを切り替えて違うことをやってみたいと思いました。
はじめは事務職で、2年ほどアルバイト管理の仕事をしていましたが、世の中は紙メディアが全盛期。DTPやグラフィックデザインといった紙のデジタルワークが出始めていたんです。手に職を付けたいし、ちょっと目指してみようかと、ふんわり思い始めました。そして、たまたま未経験からでも挑戦できる「パソコン教室インストラクター」の募集を見つけ、応募したのです。機械が苦手な人でも大丈夫と書いてあったので、お給料をもらいながらパソコンを覚えられると入社しました。
――未経験でパソコンのインストラクターとは思い切った転職ですね。
ちょうど、Windows95の発売で、パソコンが一般に普及しはじめていました。会社もその需要を狙い新規事業を立ち上げたようです。でも結局、立ち上げから半年で潰れてしまいました。
ただ、この会社の課長が教えてくれた、Webページをつくる「はじめの一歩」が、この道に入るきっかけになりました。HTMLをメモ帳に書いて、ブラウザにドラッグ&ドロップすると文字が大きくなったり、小さくなったり…。そんなプログラミングとは呼べないことですが、私と言語との初めての出合いで、「これ、めちゃめちゃ面白い!」と思ったんです。すでにHTMLの知識が不要なWeb制作ツールで「ホームページビルダー」の類はあったのですが、課長は「覚えるまでは、自分の手で書け!」という人でした。作業に没頭して、気がついたら朝になっていたこともあるくらい、のめり込みましたね。3ページほどでしたが自己紹介のWebサイトができた時には、海外に住む友人から「見た!」という連絡が入りました。「海外でも見れるんだ!」と驚いたことを覚えています。笑いますよね。
ある時、課長が出会い系のWebサイトを作ったんです。昔はヤフーも緩くて検索窓の右横に「その企画が面白い!」とバレンタインの期間中にリンクが張られたんです。そしたらそのページの閲覧数がすごいことになって、当時あったアクセスカウンターがグルグル回り続け、今でいう「バズった!」ですよ。もう本当に面白くなって、これを仕事にしたいと思った矢先に、なんとパソコンスクールが閉鎖してしまいました。
でも、せっかくHTMLが書けるようになったので、都内でWeb制作をしている会社の求人を探しました。当時は、Webデザインという言葉はなく、ホームページ制作者募集で検索をしてみたら、都内に4、5件くらいありました。その中のソフトウェア開発会社に1997年に入社し、そこからキャリアをスタート。Macromedia Fireworksや DreamweaverというWebデザインに必要なソフトを使いながら制作の仕事を5年ほどやっていました。
結婚・出産・育児・夫の転勤・・・働く女性の課題と向き合う
――ソフトウェア開発会社を退職したきっかけは?
ちょうど自分で独立してやりたいと考え始めた時、休眠してる会社を引き継がないかというお話をいただいたんです。業態は印刷系のデザイン会社でしたが、企業からのホームページ制作ニーズが高まっているということでした。私は紙の仕事を全く知らず、RGBとCMYKの違いも分からない状態で、最低限の印刷知識でクライアントと関わることとなりました。
その会社では、ご紹介いただくクライアントも大手が多く、仕事も大きくて多忙な毎日でした。そして、Web制作よりも社長として交渉や管理といった業務に追われ、思い描いていた独立とのギャップも感じはじめました。さらに、年齢的に子どもはどうするという話も、夫婦間で出てくるようになりました。結局、半年後に妊娠したのですが、出産で会社を休むという不安と、その後の仕事と育児の両立にも戸惑いが出て来て、株主に代表交代の相談をしました。すると、ちょうどバリバリのエンジニアでサーバーに詳しい人を株主が見つけてくれて、バトンタッチができました。
そんな感じで出産後は、1年ぐらいは休もうと決めたのですが、子どもが6ヶ月を過ぎた頃に、こちらの事情を理解してくれる知人から仕事の打診があり、個人事業主として仕事を始めることにしました。やっぱり、このWeb制作の仕事は男女格差なくスキルアップができ、やりがいを感じることも多くて、好きだったんです。
――出産・育児・家庭と仕事の両立は働く女性の課題ですね
そうですね。ただ、会社代表の引き継ぎも周囲に理解があって、そんなに悲惨な状況ではなかったと思います。最近まで、その会社とやり取りする関係もありました。それよりも、もっと「えっ!」というような事態が出産後に起こるんですよ。
それは、夫の名古屋転勤です。子どもが1歳になり保育園も決まって、本格的に仕事復帰の準備をしていた矢先だったんです。名古屋には知り合いもいないし、ちょっとずつ仕事も増えてきたタイミングだったので、引っ越したくないって本当に思いました。夫が単身赴任するかなど、私たちの親も含め家族で話し合いもしましたが、「やっぱり、小さな子どもから親が離れるのは良くないよね」と、しぶしぶ夫についていくことになったんです。
こうして2006年から4年間、名古屋に住み、子どもが卒園するタイミングで東京…、正確には千葉に戻りました。
――名古屋という新しい環境はどうでしたか?
結果としてですが、名古屋での新規開拓の経験が、その後の約20年のキャリアにつながることになったと思います。ちょうどWebの黎明期で仕事は結構あったんです。そして、幸運なことに、子どもが入園できる保育園も名古屋ですぐに見つかりました。
新しいクライアントを探して、名古屋の広告代理店や制作会社にアポを取り、ポートフォリオを持って売り込みに行きました。するとある日、その内の一社で対応してくれた営業の方から、「SEO対策をやるとすごいよ」と言われたんです。「HTMLとCSSを正しい構造で書き、キーワードを適正に配置すれば検索が上位になる」と、指示通りにやってみたら、何とすぐにうちのサイトが「Webデザイナー」のキーワード検索で上位表示されるようになったのです。この効果は絶大で、多い時に1ヶ月20件くらい、レストランから企業まで、直接ホームページの制作お問い合わせをいただくようになりました。
ただ、大きなところから小さなところまで、やる事はホームページを作るだけでなく営業やフォローも必要です。Internet Explorer 6もバグが多くて制作者泣かせ。再び時間に追われるようになり、子どももいるし、仕事と生活のバランスを考えプログラミングに使う時間は、誰かに任せようと思うようになりました。そんな感じで、徐々に、自分がやるのはデザインやディレクションがメインとなっていきました。
今思うと、無理に自分で仕事を抱え込まないという意識は、きちんと責任を持って働き続けるための手立てとして、代表を交代した会社で学んだことかもしれません。
Web環境の変化に仕事を合わせ、今後を見据える
――千葉に戻ってから変化したことはありますか?
まず、「ウェブ解析士」という資格に挑戦しました。クライアントといろいろやりとりをしていると、ホームページはデザインで売り上げがドンと上がるということは少なく、やっぱりSEO対策で売り上げや問い合わせが増えたというお話を聞く機会が多かったのです。ちゃんと投資するから、集客や売上で成果を出して欲しいと、案内板だけで終わらないホームページに世の中の考え方が変わっていきました。私も、「ホームページ作ります!」だけでなく、その裏側のマーケティングもきちんと把握し、成果を出せるような提案をしたくなりました。
今では、アクセス解析などから、正しい判断をするスキルがWeb制作の現場では、ますます重要になっています。見た目の良さは大事な要素ではありますが、ホームぺージは「こんなことまで分かるの」みたいなGoogle Analyticsのマーケティング知識で集客効果を上げる、事業戦略に活用するツールに進化しているのです。
中小企業の相談に、専門スタッフが無料で対応する経済産業省の「よろず支援拠点」という機関が全国にあるのですが、私は千葉県のWeb関連コーディネーターとして5年半ぐらい活動をしています。そこでは、集客などの相談から、年に何回かは「ホームページ講座」もやっています。
この「ホームページ講座」では、HTMLやCSSの知識がなくてもノーコードでWebサイトが作れるJimdoを私は使っています。機能がどんどん進化していて、自分たちで簡単にテンプレートを使って作業ができる上、ちょっと凝ったものならHTMLで手を加えることも可能です。プロにとっても、クライアントのニーズと予算に合わせた提案ができる利便性の高いツールだと思っています。
――Webが誰でも作れる現状をプロとしてどのように捉えていますか?
Jimdoが出た時の業界の反応は、2つに分かれました。「仕事がなくなって困る」と言う人と、「低料金と短納期で提案ができ、仕事を増やすことが出来て良かった」という人です。私は後者で、Jimdoを利用するようになって仕事が増えました。
テンプレートを使いつつも、世界観の合わない時には、プロの手を借りて作るというニーズはやはりあるんです。作る側には時短のメリットがあり、クライアント側には予算削減のメリットがあって、何でも最初から作る必要はないのです。そんなことで実は、Jimdoからお声かけいただいて、数年前ですが『WebデザイナーのためのJimdoスタイルブック』という本を共著で書かせていただきました。この本が出る前は、Web制作をJimdoでやるというと、プロの仕事ではないような意識が業界にあったのですが、本を出したらガラッと潮目が変わったと感じました。
――他にも、Web制作で変化したと感じることはありますか?
まずは、スマホが業界の大変革を引き起こしたと思います。私が独立した頃のように、Webサイトはパソコン一択という環境ではなくなりましたよね。そこから、マーケットリサーチやブランディング、リクルーティングなど、細分化されたニーズに対応するWeb開発の能力も必要になってきましたし、Web制作はひとくくりの分野でまとめることができない世界になっていると思います。また、Web制作の業務を「全部ひとりでやります」という仕事のやり方も、これからは限界があるのではないでしょうか。
商工会議所のWebセミナーにも呼ばれることが多いのですが、参加される方は20代から70代と幅広いんです。1回の講座は地域によって違いますが、大体20~30人ぐらいです。飲食店の方もいれば、クリーニング店、個人で雑貨店やサロンを運営している方もいれば、社員50人ぐらいの会社とか、いろいろな方が集まります。
じゃあ、そういうところでの話しは何かというと、ホームぺージの制作やSEOは全然トピックスではなくなっていて、ここ数年はSNSかChatGPTです。LINE登録とか、Google My Businessは、飲食店には必須できちんとレビュー書いてもらう、みたいな実践的なことも多いです。「ホームページの制作」で研修に呼ばれることは、非常に少なくなりました。
さらに、生成AIの登場ですよね。デザインにしても、ChatGPTが写真やイラストを合成し、素材をある程度作ってくれます。それこそ、制作者が不要になるかもしれません。そういう世界がこの辺まで来てますからね。
――Web業界への今後の期待や展望はありますか?
Web制作でニーズが高いWordPressですが、Elementorなどのページビルダーをプラグインすればノーコードでデザインができるようになってきています。他にも便利なアプリがたくさんあって、プロに頼まずともホームページは誰でも作れる時代。だからこそ、私たちプロの作り手がWebをどう捉えていくかが、仕事をしていく上で大事だと思います。
私が見てる範囲で、多分今後も需要があるものとすれば、マーケティングも絡めたクライアントと伴走する制作スタイルかと思います。SNSもやってあげるよ、インスタの画像も一緒に作ってあげるよ、というようなクライアントとの関係構築から、ここは絶対生成AIではできないという、AIに足りない何かを提案できるWebエンジニアはプロとして生き残れるのではないでしょうか。
それでもやっぱり生成AIは、この業界の仕事を奪っていくというのは本当なんだろうなと、思うことはあります。でも、それがどの部分になるか、今はまだ混沌としてます。
ただ私自身を振り返ると、このWebの世界には常に大きな変化があり、その波を掴む力がいつも必要でした。そういう意味では、生成AIをどう使って自分の仕事にしていくのかが分かっている人たちは、むしろ成功するチャンスと捉えているのではと感じています。
さらに、Webの仕事は働き方も多様化しています。生成AIを活用しながら自由にキャリアを描ける仕事として期待できる世界です。そんな明るい業界の未来を願っています。
◆おすすめの書籍
『これならわかる! Googleアナリティクス4 アクセス解析超入門』
著者/志鎌 真奈美
出版社/ 技術評論社
発売/2023年6月
自著ですが、ウェブ制作に関わる方にこそ読んで欲しい1冊です。
『ドリルを売るには穴を売れ』
著者/佐藤 義典
出版社/青春出版社
発売/2007年1月
古い本なのですが、マーケティング入門書としておすすめです。
