株式会社eWeLL プロダクト開発部
奈良県出身。衛生看護科のある高校で5年間学び、20歳で看護師資格を取得。病院看護師、訪問看護師を経て、オンラインのプログラミングスクールでwebアプリケーション開発を学ぶ。2025年3月、株式会社eWeLLに入社。
母親の背中を見て、看護師の道へ
――看護師を目指したきっかけを教えてください
私が小学生の頃、母が看護学校に入学し、30代で看護師になりました。女手ひとつで私と5歳下の妹を何不自由なく育ててくれたことから、看護師はそれだけ強い資格なんだなと感じました。中学3年生で進路を決めるとき、衛生看護専攻科がある5年制の高校を選択。正看護師の資格を取得し、奈良にある、整形外科がメインの地域密着型病院で4年間勤務しました。もっと幅広い領域で経験を積みたいと思い、大学病院に転職。内科系の混合病棟で1年半働きました。
訪問看護師として働きながら、プログラミングスクールで学ぶ日々
病院で働くなかで、医療業界はIT導入が遅れていると痛感。カルテは紙から電子に移りつつありましたが、現場では電子カルテを使いこなす人が少なかったですね。電子カルテにこんな機能があれば効率が上がるのに、と思うこともしばしば。機能が多すぎて医者が指示を記入した箇所と看護師がチェックした箇所が異なり、医療事故につながるおそれのあるインシデントが発生した事例もありました。そのとき、電子カルテは便利なツールですが、機能がたくさんあればあるほどいいというものではないのだなと感じました。同業の友人からは「訪問看護の世界では、IT化はもっと遅れている」とも聞きました。
誰でも使いやすい電子カルテがあれば業務効率化が進むだろう、医療従事者が安心して働くことができるし、助かる患者さんも多いはずだ、と考えました。そこでWebアプリケーション開発のすべてを学べる、オンラインのプログラミングスクールに入学。勤務していた病院を退職し、パートタイマーとして訪問看護師の仕事を始めました。
――プログラミングスクールでは、どんなことを学びましたか?
私はパソコンでいえばWordしか使えないという超・初心者でした。最初は「このWebサイトはどうやって作られているのか」という基本からスタート。受講できる最長期間・9ヶ月のあいだにいくつかアプリを作成しました。スクールの卒業要件は、自分でイチからアプリを作るというものでした。私は、病院での受診記録を家族で共有できるアプリを作りました。
――プログラミング学習で、特に面白いと感じたことは?
仕様を考える部分がとても面白かったんです。アプリを作成する過程で同期の仲間たち数十人にプレゼンをする機会があったのですが、意見交換が活発におこなわれました。「そんな機能は不要」「こういう具合に工夫したほうがいい」「デザイン次第で使い勝手が良くなる」といった意見を交わし、ブラッシュアップさせていくのが本当に楽しくて。
プログラミングスクールを卒業後、要件定義からQAまで幅広く関わる仕事をしたいと思い、訪問看護に特化した電子カルテサービスを手がけるeWeLLに入社しました。
訪問看護の現場で求められる、“誰でも使いやすい”電子カルテの開発に関わる
――訪問看護の仕組みを教えてください
訪問看護とは、病気や障がいをお持ちの方が暮らす生活の場に国家資格をもつ看護師などが訪問し、健康状態の確認や医療的ケアをおこなうサービスです。そのため利用者さんがどう生きたいか、どうすればその人らしい生活を送ることができるかを尊重した看護が必要とされます。看護師は多くの場合、1人の利用者さんに対して月に数回程度、居宅を訪問。電子カルテは訪問にともなう情報の閲覧や記録の作成、関係者との情報共有などで使用されます。
――現在の仕事内容を教えてください
訪問看護支援サービス「iBow(アイボウ)」(※)と関連サービスの開発を担当しています。開発部チームは12人(2025年9月時点)で、そのうち私ともう1人が看護師経験者です。私自身はプロダクトマネージャーですが、QAエンジニアの側面もあります。追加機能に対しての仕様検討や提案のほか、営業担当者やカスタマーサポートから報告される要望や不具合の内容を精査。要望を達成するために何が必要か実現可能かを検討したり、実装されたものが仕様と合っているかの検証をおこなったりしています。必要に応じてエンジニアと情報を共有。どのような仕様方針にするかを社内で決定した上で開発を依頼しています。
活きる看護師経験。「真の目的」を見極めることで機能改善
――初めてのIT業界。苦労はありましたか?
「iBow」は法改正に合わせて内容を変更したり、営業担当者やサポートチームを経由して届くお客さまからの機能要望に応えてバージョンアップしたりしています。開発リソースの兼ね合いから、お客さまの声すべてに対応することは難しい。自分なりの工夫としては、一つひとつの要望に目を通し、お客さまの真の目的を確認するようにしました。営業担当者に「お客さまは、本当は何を実現したいのでしょうか?」と聞くほか、自分でも訪問看護師の立場になって考えるようにしました。
――看護師の経験はどう活かされていますか?
看護師が業務で抱える悩みや、医療現場で本当に求められていることを想定できる点です。真の目的がわかれば、機能搭載の際に優先度をつけることができますし、ほかのお客さまにも使えるかどうかがわかります。たとえるなら、顧客からの「ドリルがほしい」という要望にドリルを用意するのではなく、「穴を開けたい」という最終目的を的確につかむということでしょうか。
――業務をスムーズに進めるために心がけていることは?
基本は、報告・連絡・相談を細かくすること。普段のやり取りでは主にTeamsを使っているのですが、テキストベースだと細かなニュアンスが意外と伝わりにくいことがあります。その場合は直接通話をして、ミスコミュニケーションが起きないようにしています。
これは看護師時代に心がけてきたことでもあります。確認を怠るとインシデントに繋がることがあります。現在の業務ではお客さまに直接お会いすることはないので、少しでも違和感があるときは営業担当者やサポートチームに細かく聞いて確認しています。また、開発を担当するエンジニアとも密にコミュニケーションを取り、仕様などの認識ずれが生まれないように心がけています。
――やりがいを感じるのはどんな時ですか?
2025年7月、私が担当した機能「AI訪問予定・ルート」がリリースされました。「AI訪問予定・ルート」は、訪問スケジュールや訪問スタッフの移動ルート作成をAIで自動的に最適化するシステムです。
これまでは、誰がどの順番で訪問するかというスケジューリングは手作業でおこなわれていました。所要時間や移動時間の計算も必要でした。「AI訪問予定・ルート」は、訪問看護ステーションの管理者とスタッフの負担軽減を目的としていますが、じつは利用者さんにもメリットがあります。手作業でルート作成をすると、どうしても同じスタッフが同じ利用者さんを担当することが多くなります。利用者さんにとっては、毎回、馴染みのスタッフが訪問することに安心感を覚えるかもしれません。しかし訪問看護ステーションは24時間体制なので、同じスタッフが常に駆けつけられるわけではありません。こちらのAIは、チーム全体で利用者さんに適切に対応できるよう、ルートを作成します。属人化を解消し、各スタッフの負担度合いも公平に割り振ることができます。結果的にスタッフの働きやすさと、利用者さんの安心感につながります。
リリースからまだ3ヶ月しか経っていないのですが、利用された事業者さんからは「とても使いやすい」「業務負担が軽減できた」というお声をいただいており、やりがいを感じています。
――今後の展望を教えてください
まずは、「AI訪問予定・ルート」の定期メンテナンスをしっかりおこなうこと。そして、看護師の経験や知識をフル活用し、在宅医療業界のIT化を進めることで、医療従事者のみなさんの仕事環境を向上させたいと思っています。そのためにも、サポートしてくれる周囲のスタッフとの連携を大切にしていきたいですね。
――最後に、おすすめの書籍を教えてください
嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え/岸見一郎、古賀史健(ダイヤモンド社)
山下:アドラーは心理学の3大巨匠のひとり。こちらはアドラー心理学を解説した書籍です。母に勧められ、手に取りました。アドラー心理学では「悩みの大部分は人間関係」「他人の評価に振り回されるのはやめて、自分の価値を自分の主観で決めよう」と説いています。
看護師を辞めたとき、周囲の人たちから「看護師を辞めるのはもったいない」と言われたことがありました。しかしこの本のおかげで、「他人に言われたからといって自分が進みたい道をやめるのはもっともったいない。私は、自分が幸せになるために、やりたいことに挑戦していくんだ」という気持ちを保つことができました。
*本取材は2025年10月におこなわれました

