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近年、インターネットが急速に普及し、TwitterやFacebookなどのソーシャルネットワークは、私たちにとって欠かせないものになっています。
今回はそんな日常生活に欠かせない情報ツールであるSNSで問題となっているフェイクニュースなどから世界の対立構造について考えてみたいと思います。
世論ハックとは
「ヒラリー・クリントンはサタン(悪魔)だ。彼女の犯した犯罪と嘘はいかに彼女が有害かを証明している」
「6月23日を私たちの独立記念日にしよう」
「マクロンはゲイであることを内緒にして、二重生活を送っている」
これらのメッセージはロシア情報機関に関係する工作員らがアップし、フェイスブックなどSNSで実際に拡散された投稿です。
最初のメッセージはドナルド・トランプ候補とヒラリー・クリントン候補が争った2016年の米大統領選挙の際に流されたポストでクリントンを貶めるための投稿です。2つ目は2016年5月に英国で行われたEU(欧州連合)から離脱するかどうかの国民投票(ブレグジット)の前に、ロシアの工作員とおぼしき人物によって拡散された反EUのツイートです。そして3つ目は、2017年5月のフランス大統領選を前に、反プーチンだったエマニュエル・マクロン候補をディスるために、ロシアの通信社がまず報じ、それがツイッターなどSNSなどで拡散されたものになります。
世論ハックとは上記のようなフェイクニュースを含むSNSでの工作のことをいいます。これらの世論ハックの中でも特に、ロシアの情報機関が欧米諸国を相手に組織的に行う情報工作は世界的にも懸念する声が多く挙げられます。
米国では2018年2月16日、米連邦大陪審がロシアの個人13人と企業3社を、SNSを使ってクリントン候補に不利な情報を拡散させるなどの工作をしたとして起訴したと発表したばかりです。
ロシアが欧米相手に繰り広げる工作を受けて、フェイスブック社の弁護士であるコリン・ストレッチ氏はこんなコメントを残しています。「ロシアによる干渉を発見したことで、われわれの企業だけでなく、私たちの業界と、私たちの社会で、新たな戦場が生まれたことを意味する」
世界で35億人以上がインターネットを利用する現代、ロシアが組織的に戦略としてSNSなどを駆使して「世論ハック」を行なうのは自然な流れなのかもしれません。ではなぜ、ロシアは欧米の選挙に干渉しようとしているのでしょうか。
ロシアが世論ハックを行う背景
そもそも情報工作自体は決して新しい攻撃ではありません。それが、現在は安全な遠隔地から手軽にできるようになったのです。
しかし、ロシアによる工作の規模は尋常ではありません。例えばフェイスブックを見ると、2016年の米大統領選では120以上の偽フェイスブックページが作られ、8万件を越すポストがアップされ、最大で1億2600万人にロシアの工作メッセージが届いていたとされています。またツイッターを見ると、2016年のブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)の際には、15万以上の偽アカウントがロシアの工作用だと指摘されました。
このようにロシアは諸外国に対して、大規模な情報工作を数多く行っているのです。
ロシアと西側諸国の対立
ロシアが数々の情報工作を行う理由は何なのでしょうか。
おそらくは欧州諸国が反EUや反NATO(北大西洋条約機構)になることを目指し、願わくば親ロシアの国を欧州に作りたいのではないかと考えられます。そのために「世論ハック」や、選挙結果に影響を与えるために、SNSやハッキングなどサイバー攻撃を使って、EUや米国などの西側諸国に対抗しているのです。
EUは1993年に発足した欧州諸国による地域統合体で、第2次大戦後にアメリカを盟主とする西側諸国の自由主義で資本主義の陣営と、ソ連を盟主とする東側諸国の共産主義で社会主義の陣営との対立構造の中で生まれました。その成り立ちから、現在のEU加盟国である28カ国は基本的にロシアとは対立構造にあるのです。また欧州の軍事同盟であるNATOも、EU同様にロシアには煩わしい存在となっています。
NATOのサイバー防衛センター(CCDCOE)は、エストニアの首都タリンに置かれる。バルト三国は、ソビエトの崩壊後にNATOとEUへ加盟。ロシアや親ロシアのベラルーシと国境を接する関係になっている。
NATOは第2次大戦後の1949年に英国やフランスが中心となって、ユーラシア大陸で陸続きになっていたソ連に軍事的に対抗するために誕生しましたが、その流れから現在もロシアとの軍事的な対立構造があります。さらに米国もNATOの加盟国です。
またサイバー分野でも、NATOとロシアは緊張関係にあります。ロシアはエストニアやウクライナ、ジョージアなど親欧米の旧ソ連諸国に対して激しいサイバー攻撃を繰り広げてきた過去があり、特に2008年のエストニアに対する大規模なサイバー攻撃では、デジタル化が進んでいたエストニアの国家機能が完全に麻痺する事態に陥いりました。この一件を受け、NATOはサイバー対策本部を、象徴的にエストニアの首都タリンに設置しています。
そんな対立構造の中で、ロシアは欧州各国で、自分たちが有利になるための勢力をSNSによる「世論ハック」やサイバー攻撃で"後援"しているのです。例えば、2017年の選挙でロシアが後押ししたフランスの「国民戦線(FN)」や、「英国独立党(UKIP)」、イタリアの「五つ星運動」、ドイツの「ドイツのための選択肢(AfD)」、スペインの「ポデモス」などが反EUまたは親ロシアとして、ロシアの"支持"を受けているとされています。
世界の対立構造と日本の立ち位置
ここからは欧州だけでなく世界的な対立構造を見てみましょう。基本的には米国や欧州、日本などに対してロシアと中国が対抗しています。日本の安倍晋三元首相は、欧米勢力にいながら、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とも良好な関係を築いていており、良くも悪くも、欧米とロシアの間で絶妙なバランスを取っていると言えるでしょう。
よって、日本にとってもロシアのサイバー工作は警戒すべき存在です。日本を狙ったロシアの大々的なサイバー工作についてはあまり報じられていませんが、ダーク(闇)ウェブに巣食うハッカーたちの中にはロシア系も多く、日本をターゲットとしている可能性もあります。
まとめ
今回は世論ハックを基準に世界の対立構造に触れてきました。さまざまなフェイクニュースが流れる現在ですが、これを利用し世界情勢を掌握しようとする動きが近年多く見られます。特に、ロシアの情報工作の規模は桁違いで大きく、日本にとっても脅威であるといえるでしょう。匿名でこれらの情報工作が簡単にできるようになった今、事態はますます深刻になると予想されます。