TOUCH THE SECURITY Powered by Security Service G

コラム

2022.10.24

サイバー大国になったイスラエルの歴史的背景とは?独自のシステムも徹底解説!

地中海に面する中東の国、イスラエルは日本の四国ほどの面積に868万人が暮らしています。そんなイスラエルが「サイバー大国」として知られていることをご存じですか。

イスラエルは現在、サイバーセキュリティやサイバー安全保障の世界で、世界から一目置かれているのです。

今回はイスラエルがサイバー大国と呼ばれるようになった理由の背景についてご紹介していきたいと思います。

イスラエルという国家について

1948年、イスラエルは独立し、以後周辺のアラブ諸国と4度に渡る戦争をしていました。原因は宗教の対立で、ユダヤ教国家のイスラエルと、イスラム教国家のアラブ諸国との溝は現代でも深まっています。

さらに、イスラエルには3大宗教(イスラム教、キリスト教、ユダヤ教)の聖地・エルサレムがあり、その帰属をめぐって、アラブ系民族が多く暮らすパレスチナ自治区とも敵対しています。特にガザ地区を拠点にするイスラム原理主義組織ハマスとは、何度も軍事的に衝突してきました。

このように、イスラエルは周辺諸国と常に対立し危険と隣り合わせの状態だったのです。そんな現実から、イスラエルは早い段階から自国を守るための軍事力に力を入れ、独自のシステムを確立してきました。そして現在では、世界有数のIT・サイバー先進国になっているのです。

telaviv

モダンなビルが立ち並ぶ、”事実上の首都”テルアビブの街並み

イスラエル独自のシステム

それではイスラエル独自のシステムとはどのようなシステムなのでしょうか。

イスラエル独自のシステムのキーワードに「徴兵制度」があります。イスラエルでは18歳になると、男性は3年間、女性は2年間、兵役する必要があります(ただし国民の75%を占めるユダヤ系住民に限る)。入隊に際して軍部は18歳のすべてのユダヤ系国民を精査し、科学やエンジニア部門で秀でた人材を青田買いします。そうすることで若者たちは徴兵よりも前に大学などに送られることもあり、学費を軍が負担し、十分な支援体制を整備しているのです。

さらに若者たちは軍に入ることで、イスラエル軍のさまざまな先端テクノロジーに触れることができます。衛生技術やドローン、サイバー戦で使われる最新鋭の軍事テクノロジーを学べるのです。

兵役を終えた後は、大学に通うなどで、それぞれの得意分野で活躍していくことになります。軍での経験を生かして、サイバーセキュリティ、情報テクノロジー、IT系などの企業で働いたり、スタートアップ企業を立ち上げる人も多いです。政府が力を入れているそのような分野では、国からの金銭的な支援も受けられるシステムが出来上がっています。

若者は軍隊に入ることで、組織でのリーダーシップやチームワークを学び、イスラエルが中東で置かれた立ち位置を身を持って知ることで、国がどこに向かうべきなのかを真剣に考えるようになります。

こうした人材育成の一連の流れが、「エコシステム」として機能し、国の支援が相まって、「サイバー大国」イスラエルを支えている。

イスラエルのサイバー関連企業は世界的にも存在感が強く、輸出額も2016年に65億ドルほどを記録しています。イスラエル企業は世界全体のサイバー関連向けの民間投資の約20%を占めているのです。

ファイアウォールなどに代表されるネットワークセキュリティの製品で有名なチェックポイント(左)、ラドウェア(右)といった企業もイスラエルに本社を置く
By Gilabrand [CC BY-SA 3.0], By Biosketch [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

イスラエルにとっての第3次中東戦争

イスラエルがサイバー大国といわれるようになった背景を知るには第3次中東戦争について触れる必要があります。

これまで近隣諸国と数多く対立してきたイスラエルにとっての大きな転機は、アラブ諸国との3度目の戦争が勃発した1967年の「第3次中東戦争」です。この戦争は6日間続いたこともあって、「6日間戦争」とも呼ばれています。

もともと、イスラエルは天然資源がなく、建国後から技術部門に焦点を置き防衛技術の研究開発を重視してきました。そんな中で、イスラエル対エジプト・シリア・ヨルダンなどのアラブ諸国間で6日間戦争が勃発します。

この戦争では、イスラエルにとって大変な事態が発生しました。それまでイスラエルが武器調達で頼っていたフランスがアラブ諸国側に付き、イスラエルへの禁輸措置を取ることになったのです。これにより、イスラエルは他国への依存度を減らし、自国で何とか生き延びる必然性に迫られることになります。

しかしこの事態が後にテクノロジー分野や防衛分野で産業が成長することに繋がってきます。

telaviv

パレスチナをはじめとする、イスラエルの周辺国

サイバー大国の誕生

イスラエルがサイバーセキュリティの分野で研究・開発に本格的に乗り出したのは1980年代のことでした。そして90年代はじめにはすでに、サイバー攻撃のための"兵器"の開発に乗り出していたそうです。

2000年に敵対するパレスチナとの激しい紛争(第2次インティファーダ)が勃発した時には、サイバー空間でも「サイバー・インティファーダ」が発生し、イスラエルはパレスチナ側から激しいDDos攻撃(分散型サービス拒否攻撃)を受けています。

そうした状況に危機感を覚えたイスラエルは政府でも検討を繰り返し、開発していた攻撃型のサイバー兵器が役に立たないという結論に至ります。というのも、敵国があまりデジタル化されておらず、攻撃できるほどインターネットのインフラが整っていなかったのです。

そこからイスラエルは防御や攻撃も含めて「サイバーテクノロジー」という括りでサイバー部門の開発を推進していくことになります。そして先述したような徴兵制からのイスラエルのエコシステムが作り上げられていったのです。

現代のイスラエル

最近のニュースを取り上げると、イスラエルはサイバーセキュリティの世界でよく知られている「スタックスネット」をアメリカと共同開発したといわれています。スタックスネットとは2009年にイランの核燃料施設の一部がサイバー攻撃で破壊され、核開発が妨害された事件です。これに協力したのがイスラエルの「8200部隊」でした。

イラン・ナタンズの核燃料施設を襲ったマルウェア”STUXNET”、写真はその標的となったシーメンス製のPLC(プログラマブルロジックコントローラー)
By Ulli1105 [CC BY-SA 2.5], via Wikimedia Commons

さらに、イスラエル政府はシリアが建設を進めていた核施設を2007年に破壊していることを公式に認めました。

このように周辺国にサイバー攻撃を実施しながら、周辺国からの攻撃に対する防御に力を入れてきたイスラエルは、現在、世界でも有数のサイバー大国になりました。

近隣国ではない日本にとっても無関係の話ではありません。サイバー分野で協力関係を築いているイスラエルが今後どのように進化していくのかが注目されます。

記事一覧に戻る