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ナレッジ

2018.07.12

身に付けた技術と力、それが社会に循環していくということ ── CTF for GIRLS 中島明日香氏に訊く 後半

情報セキュリティに携わる女性のためのワークショップ「CTF for GIRLS」の設立、国際的なセキュリティカンファレンス「Black Hat Asia」における査読委員の就任をはじめ、今年2018年には講談社ブルーバックスより初の著作「サイバー攻撃 ネット世界の裏側で起きていること」を出版するなど、ハッカーコミュニティで益々の頭角を現す研究者、中島明日香氏(NTTセキュアプラットフォーム研究所所属)。

中島氏が同領域に関わることとなったきっかけや現在に至るまで、また多彩な活動に対する想いなどを伺いながら、技術を広い社会へとコネクトすることの意義や喜び、その原動力とは何かを考える。シリーズ後半。

インタビュアー:三澤 德子 、坂根 三起(パーソルクロステクノロジー)

前半よりつづき

CTF for GIRLという活動の想い

―― CTF for GIRLSは私も過去に参加させてもらった事があるのですが、元々はどういうきっかけで始められたのでしょうか。

中島 ハッカーに憧れて情報セキュリティの世界に飛び込んだ後、先ず気が付いたことに、勉強会に行くと女性が圧倒的に少数だったという点が挙げられます。当時の感覚としては、その場の女性率が1割に満たない、もしくはその日の女性参加者は私だけということも結構ありましたし。

ただ女性の研究者というのは当然居るわけで、そういった方々に話を聞いてみると「1人で行くと、変に目立って居心地が悪い」といった意見から、更には「(勉強会に)女性が居ないということは、女性に向いていない領域とも考えられるのでは」などと勘繰ってしまう方も居たりしまして。そこで「女性限定の会があれば、心理的なハードルを取り払うこともできるのではないか」といった、"もやもや"した思いがあったんです。技術を磨く意思さえあれば、性別は関係が無いはずですしね。

そういった伏線に加えて、海外の「Power of XX」といった女性限定のCTFの存在もあり、何か日本でも出来ないかと周りに話をしたりしていたんです。そうしたところSECCON実行委員の方に「うちでトライしてみては?」というお話を頂きまして、これが直接のきっかになりました。

―― SECCONとの繋がりは、その当時からあったのですね。

中島 はい。学生時代からの多くのコミュニティ活動を通じて、(SECCONを含む)界隈に「女性の若手研究者と言えば中島さん」くらいの認知は持ってもらえていたかもしれません(笑)。

―― 実際に初回のワークショップを開催されていかがでしたか。

中島 それまでイベント運営の経験も無く、とにかく必死だったのですが、周りの方々に何かと助けて頂いたのは大きかったです。最初は20名くらいしか集まらないのではと思っていたんですが、募集開始から僅か三日間で80名もの方の参加表明があったので驚きました。

―― そういうニーズはやはりあったということが証明されたことになりますね。CTF for GIRLSは今後どのような組織として存在していくのでしょうか。

中島 究極のゴールとしてはこの組織が無用な状態、要するに性別に偏りのない状態を目指せれば良いのでしょうが、そこはさておき(笑)。目下の目標としては、参加者を運営側に巻き込むことでスキルアップの場を提供したり、ハイレベルな人材の輩出や活動領域の拡大なんかもテーマですね。

―― どういった領域へと活動を広げていくのですか。

中島 コミュニティの国際化もそうですし、それと学生やワーキングマザーの支援という方向性も考えています。実は本日行われるCTF for GIRLSも、子供連れでの参加OKという呼びかけをしましたし、本日の講師を務める方も、会場に子供を連れてきています。

このワーキングマザーの支援は組織内でもかなり議論がありまして。ベビーシッターの方にお願いするべきか、母子専用の部屋を別途確保すべきなのかといった話にもなったのですが、最終的には子供という存在に対して、社会はもっと寛容で自然に触れるべきあろうとの結論に達し、皆さんと同じ部屋にそのまま連れてきてもらうことにしました。

―― 中島さん主導で始まったコミュニティも、それ自体が成熟するに連れて新たな課題やミッションが生まれたりと、かなり進化されている印象を受けますね。

中島 現在CTF for GIRLSは、私と切り離れても持続可能な状態に移行しつつあり、本日のワークショップも副代表の中島春香さんに殆ど任せているんですよ。私個人の手を離れてこれだけの組織になりつつある事を考えると、もうかなり感動しておりまして。今後はこのコミュニティに関わる多くの方々が、それぞれの活躍の場に使って頂けると嬉しいです。

CTFforGIRLS

インタビュー当日に開催された、第9回目となるCTF for GIRLS。ご覧のとおりの大盛況。

初の著作「サイバー攻撃 ネット世界の裏側で起きていること」について

―― 講談社ブルーバックスより「サイバー攻撃 ネット世界の裏側で起きていること」を執筆、出版された経緯について教えて下さい。

中島 これはCTF for GIRLSの立ち上げに伴い、私個人がメディアに露出する時期が結構ありまして、その様子をご覧になったブルーバックスの編集者の方から直接オファーを頂いたのがきっかけです。シリーズの読者層にもう少し幅が欲しかったらしく、敢えて若手の私にお声掛けされたようですね。

私自身も技術書を書いてみたいという好奇心もありましたし、培った意見をアウトプットする場としても丁度良いのではと考えて引き受けました。

―― かなり平易な文章で書かれていますし、技術者が技術者を読者ターゲットとして書いた本ではなく、広い層へのアピールを目的とされている印象を受けました。

中島 そこはかなり意識したところです。あの内容に相当する専門書はいくらでも他にあるわけですが、そういう中で私が提供できる価値は何かと考えた時、体系立てて難しいまま説明するのではなく、一般の方にわかりやすく伝えることにあるのではと。幸い文章を書くことと、(CTF for GIRLSなどの活動を通じて)入門者に教えることは得意な方だと感じていましたので。

―― その一般の方や入門者とは、例えばProject SEVENを読んだご自身の若い頃をイメージされていたりもしますか。

中島 それもありますね。あのような本を読んで興味をもった方が、次に読むようなものというイメージはありました。ただ結果的には色々な層の方々に読んで頂いたようで、例えば技術者には第4章(書式指定文字列の脆弱性に関するセクション) の受けがよかったりと、結構反響がありましたね。

―― 本を出版されて、何か変わったことってありますか。

中島 単純に講演や取材が増えたといったことはあるのですが、研究者として本質的な部分での変化は無いと思っています。(かなり考えて)自身がもっともっと技術を深めて、より専門家であるべきという気持ちは常にありまして、この本の執筆も(専門家としての)あるべき姿から生まれた、様々なチャレンジの中の一つだったと位置付けています。

―― 次にチャレンジされたいこと、今取り組まれていることはなんですか。

中島 直近の取組みとしては、現在研究しているIoTセキュリティの論文がそれになりますね。将来的な想いとしては「Black Hat(世界最大級の情報セキュリティ国際会議)」のような最高峰の舞台で、自分の研究結果を発表したいというのはあります。

サイバー攻撃 ネット世界の裏側で起きていること

サイバー攻撃 ネット世界の裏側で起きていること ⁄ 中島明日香 著(講談社)

Black Hat Asia査読委員への就任

―― 先ほどBlack Hatというワードが出ました。そのBlack Hatで査読委員を務められたんですよね。

中島 はい。正確にはBlack Hat Asiaの地域査読委員になります。推薦があってやることになったのですが、(アジア地域での国際会議ということもあり)アジア人であること、ハッカーコミュニティとしての活動に明るいこと、若手であること、更にはBlack Hatの今後の方向性といった、諸々の条件がタイミングよくマッチしていたということなんですかね。

―― 他に日本人の方はいらっしゃるのですか。

中島 私は2人目の査読委員になりまして、1人目は株式会社FFRIの鵜飼裕司さんになります。但し、鵜飼さんの場合は、地域限定ではなく世界エリアにおける査読委員であるという違いはあります。

―― そもそも査読委員って、どのくらいのボリュームの論文を読むのですか。

中島 いわゆる学術会議とは違って、一つ一つの論文がとても長いというわけではないんです。感覚的には一つあたり(英語で)300ワード前後といったところではないでしょうか。ただ、件数としては沢山のものと向き合うことになりましたね(笑)。

一度しかない人生 ―― 中島さんにとっての「喜び」とは

―― 最後に中島さんにとっての喜びとかやりがいって、どういう瞬間に感じるものですか。

中島 なんだろう、難しいですね(笑)。私自身、新しい何かに挑戦したり、そういったことに対する達成欲は強い方かもしれません。そして先ずなにより、研究者ですので、新しい技術や深い技術に触れたり、それを身に付けた時には喜びを感じますよ。

やはり一度しかない人生ではありますし、自分の身に付けた技術や力で、多くの人に良い影響を与えつつ、結果として人との繋がりが生まれ、それが循環していけば良いなと思います。

―― 本日はCTF for GIRLS開催当日というお忙しい中、わざわざお時間を頂きまして、ありがとうございました。

中島氏とPTCS編集部

最後は中島氏と記念撮影。

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