派遣就業ガイド

定年後の夢は宇宙
派遣エンジニアとして出会った新しい道

再雇用? 転職?――働き方の多様化が進む現在、定年後の方向性に悩む方も多いことでしょう。60代からのキャリアチェンジで幸せな生活を送っている人は、どのような選択をしてきたのでしょうか。

今回お話を伺ったのは、静岡県在住のエンジニア・小池さん。地元の医療系企業で定年まで勤めあげた後、派遣エンジニアとして東京の宇宙開発企業へ参画し、毎日自宅から職場まで、新幹線で通勤しています。小池さんが派遣という働き方を選んだ理由、そこでかなった夢についてお話を伺いました。

再雇用でも正社員でもない、自分に合った定年後の道を見つけるまで

——まずは小池さんの職歴を教えていただけますか。

コンピューターエンジニアの仕事をしており、定年前までは、静岡の医療機器メーカーで25年働いていました。

そこでの仕事は、臨床検査分析装置の開発です。患者さんから採取した血液に特定の成分がどのくらい入っているか分析し、病気の状況を調べるための装置に一貫して携わっていました。

——60歳で定年を迎えられた後、次のステップを考えたきっかけはどのようなことだったのでしょうか。

私はとにかく自分の手を動かして実際に開発をすることが好きでした。しかし定年が近づいた頃、会社の方針で開発業務は外部の開発会社に任せるようになり、私は仕様書など文書作成業務がメインに。好きな仕事ができなくなってしまったのです。

定年後は再雇用で働いてはみたのですが、好きな仕事はできないままなのに、給料は半分ほどに。どうしたものかとモヤモヤしていました。

その頃、私より先に会社を辞めた同僚が、新たな職場に勤めていて、今は東京まで新幹線通勤しているという話を聞きました。60歳からそのようなチャレンジができるのかと強く衝撃を受け、その生き方に興味がわいたのです。そこから私も次の選択肢を考えるようになりました。

——その結果、現在の派遣という働き方を選ばれたのですね。

もし正社員として65歳を定年とする会社に再就職した場合、自分にも会社にも「あと5年」という縛りができます。それは双方にとって重荷になるのではないかと考えました。

一方、派遣の場合は基本的にひとつの案件が終わるごとに一区切りしますので、年数での縛りがありません。任された案件でしっかり結果を出すことを目指して仕事をするのは緊張感があり、新たなチャレンジをしたい私にとってはうってつけの環境だと思いました。

派遣という選択から思いもよらずかなった、かつての夢

——現在の就業先はどのような会社で、どういった仕事をしていますか?

宇宙産業に関わる企業で働いています。

巨大な機械を想像する人も多いかと思いますが、私の就業先が手掛ける人工衛星は机1つ分くらいの大きさのもの。その中に、宇宙から地球を撮影するためのカメラ、人工衛星が今向いている方角や姿勢を判断するセンサー、動作を制御する機械といったさまざまなデバイスが搭載されています。そうしたデバイスのドライバーとなるソフトウエアの開発が私の仕事です。

工程でいうと、基本設計、詳細設計、プログラミング、単体テスト、デバッグ・バグ修正、結合統合テストに携わっています。

――働いてみて、前職との違いを感じたことはありますか?

いろいろありますが、一番はスピード感でしょうか。前職で手掛けていた医療機器は、人の命にも関わるものであるため、開発を行いながらドキュメントに記録を詳細に残さなければいけないことになっていました。

ですので、ソフトの開発のみであれば1カ月で完了するところ、ドキュメントの作成まで入れると3カ月以上かかることもあるのです。もちろん大変重要なことではありますが、開発をどんどん進めたいタイプの私にとってはもどかしくもありました。

それに対して現在は、作成すべきドキュメントの量は最小限で、また最新技術を扱っていることもあり、開発が非常にスピーディーに進んで行くのです。これが私には性に合っています。

——特にやりがいを感じるのはどのような点でしょうか。

自分が開発に関わったデバイスを載せた人工衛星が、ロケットに乗って宇宙へ行く。それを考えただけでワクワクしますし、一番のやりがいになっています。また職場の皆さんは優秀な方ばかりで、大変よくしてくださいますので、そんな皆さんのお役に立ちたいという思いもモチベーションになっています。

——そんな小池さんにぴったりな今の就業先は、どのように見つけたのでしょうか?

最初から意識していたのは、前職での経験を生かせる仕事を見つけることでした。当時はC言語を用いた組み込みソフトウエア開発に携わっていたので、その経験を生かせる仕事を、特に業界にはこだわらず幅広く探していたのです。

インターネットで派遣会社5社ほどに登録したのですが、その中で最初に連絡をくれたのがパーソルクロステクノロジーさんです。いくつか紹介されたなかでも、一番目を引いて「この仕事がしたい!」と思ったのが、今のお仕事でした。

——お仕事のどういった点が、魅力的に感じたのでしょう。

前職で培った経験が生かせることはもちろんですが、大きな理由は他にあります。

以前、JAXAが打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ」を見た時に、数々のトラブルを克服して使命を全うし地球に帰還した姿に大変感動しました。その時から、宇宙の探査装置に興味を持っていたんです。

ですから、紹介された中にこの仕事を見つけた時はもう嬉しくて飛びつきました。まさか自分が宇宙の仕事に関わる機会に恵まれるとは、夢にも思っていませんでした。こんなことがあるとは、人生ってすごいですね。この出会いに感謝しています。

東京と地元、仕事とプライベート。メリハリのある充実した暮らし

——派遣エンジニアとして働きはじめた、新しい環境はいかがでしたか?

この会社では新人ですし、私にとっては未経験の業界ですので、初心に還っていちから学び直そうという気持ちで臨みました。実際、勉強になることばかりで、知的好奇心が満たされていく喜びを感じています。

若い方が多い会社ですから「60代の自分でもやっていけるんだろうか」という不安はありましたが、杞憂でした。皆さん優しくて、快く私を受け入れてくださっています。

——お仕事の中で苦労されたことはありましたか?

苦労ではありませんが、自分が書いたプログラムを社内でレビューしてもらう時はやはり少し緊張します。でも、何度かレビューを重ねて承認を受けられた時には本当にホッとしますね。このメリハリが仕事の張り合いにもつながっています。

承認を受けると一つの案件が終わりになりますが、ありがたいことにこれまで途切れなく仕事をいただいており、この8カ月で4つのデバイスに携わりました。いい刺激をもらいながら自分がスキルアップしていることを感じるのが本当に楽しいです。

——働くなかで、たくさん刺激を受けているんですね。

そうですね。今の職場は従業員のうち3割ほどが外国籍の方です。私のチームも10人中5人が外国籍の方で、周りには常に英語が飛び交っている環境です。技術資料や日報なども英語で書くのですが、私自身は英語の読み書きは何とかなるものの会話は自信がなくて……。ゆくゆくはチャレンジしてみようかなと思っているところです。

——現在は、東京へ新幹線で通勤されていると伺いました。生活に変化はありましたか?

前職の時は片道15分ほどの車通勤で、平日は自宅と会社の往復のみで終わることが大半でした。今は帰りの新幹線に乗る前にお気に入りのパン屋さんに寄ったり、何かしらお土産を買ったりというちょっとした楽しみがあります。

東京には魅力的な飲食店もたくさんありますよね。派遣エンジニアの同僚が他に2人いるのですが、彼らと今度どこかに飲みに行ってみようと思っています。

——以前よりも通勤時間や距離が長くなり、体力面やプライベートへの影響はいかがでしょうか。

最初は少し大変かなと思いましたが、今は全く苦に感じていません。前職と同じく土日は休みですので、昔からの趣味であるランニングや車いじりなどは変わらず続けています。

自宅の近くで、日課のランニングの様子

平日は東京の職場や街から刺激を受け、休日は地元で自分の好きなことに打ち込む。おかげさまで充実した日々を送っています。

今、開発がまた楽しくなった! 次なる目標に向かって

——就業開始から今までを振り返り、どんなお気持ちですか?

理想的な環境に身を置かせていただき、大変光栄に感じています。エンジニアとして自らの手で開発を行い、自分の技術で何かを作り上げたいという思いを満たすことができていますから。それもかねて関心の強かった宇宙分野ですので、これ以上のことはありません。

——以前よりもより一層、技術の追求に意欲を燃やされているようですね。

最近は、趣味として自宅でもプログラミングをやっています。自分の使い方にあわせたテキストエディタをプログラミングして作りました。仕事でも使いながら、気付いたことを日々の機能改善に生かしています。

とにかく、技術を磨くことやプログラミングをすること自体がとても楽しくなりました。技術を使いこなして何かを成し遂げたい気持ちが今またふつふつと湧き上がっていますし、もっと腕を上げて会社にも貢献したいと思っています。

——最後に、今後の目標を聞かせてください。

まずは自分が開発に携わったデバイスを載せた人工衛星が宇宙に飛び立つ日を迎えるのが、直近の目標です。今後も技術者として腕を磨き、成果を出して職場に貢献していきたいです。そしていつかは、憧れの月面探査機の開発に関われたら嬉しいですね。

——本日は、どうもありがとうございました!

文=北村朱里/写真=品田裕美/編集=伊藤 駿(ノオト)