仕事と音楽の好循環
ふたつの道で時間を豊かに過ごしたい
パーソルクロステクノロジーでは、定年後に派遣社員という働き方を選び、それぞれの場所で活躍されているエンジニアが多数在籍しています。新しい働き方を選んだ派遣エンジニアの人々は、仕事はもちろんプライベートにおいて、どのような時間の使い方で過ごしているのでしょうか。
今回は、定年退職後に派遣エンジニアになった伊東さんにお話を伺いました。定年前から30年以上にわたって、古典音楽「雅楽」の活動に取り組む伊東さん。派遣の働き方を選んだ理由や、仕事以外の有意義な時間の使い方を伺いました。
より効率よく新鮮な気持ちで向き合える、派遣エンジニアの仕事
——派遣エンジニアになる前は、どんなお仕事をされていたのですか。
定年退職まで正社員として働き、冷熱機器に特化した製品を開発していました。
担当していたのは、製品の中核を担うコントロール部品の設計・製造・評価全般。効率的な生産システムを立案・構築するための生産技術・生産計画から、製品の信頼性評価、工程監査に至るまで、幅広い業務に携わっていました。
——派遣エンジニアとなった現在は、どういった働き方をされているのでしょうか。
自動車関連の仕事が多いですが、風力発電機器の設計・開発に携わるなど、これまでいくつかの就業先で幅広い製品の開発を経験してきました。
私は、同じ就業先で長期間勤めるのではなく、可能な限り自分で期限を区切って、定期的に仕事を変えるようにしています。もちろん関係者の皆様にはその意思をお伝えしたうえで、ひとつの製品に設けられている開発期間をひと区切りにして、次の就業先へ移る。そういった働き方のほうが1つひとつのプロジェクトに集中して取り組むことができるのです。
同じ仕事を長年やっていると開発手法や生産システムなどに対して新たな視点で向き合えなくなり、次第にマンネリ化してしまいがちです。意識して働く環境を変えることで、常に新鮮な気持ちで、それぞれの仕事に取り組めていると思っています。
——定年退職後に、なぜ「派遣エンジニア」の働き方を選ばれたのでしょうか?
その時の職場に再雇用される選択肢もあったのですが、「今の職場に残って、自分は何をやるのか」が想像できなかったのが、大きな理由です。
一度きりの人生ですから、やるからには自分が掲げた目標を目指して、時間を有意義に過ごしたいですよね。再雇用されれば安定的に仕事を続けられますが、給与が半分になるにも関わらず、以前と同じ仕事をやり続けることに自分らしい目標を持てなかったのです。
その点、派遣エンジニアはお客様から要求されることが明確です。明確な要求に対して、効率よく、最適なアウトプットを出す。これまで培ってきた経験とスキルを生かしてその要求に応えることで、より効率の良い生き方・働き方ができると思い、派遣エンジニアを選びました。
自分の経験と知識を生かすため、商社で技術教育の役割を担う
──現在の就業先でのお仕事について、教えてください。
電子部品も扱う商社で、若手の営業社員に対して技術教育を行っています。この会社はIC(集積回路)が組み込まれた製品を取り扱っています。そのため、取引先へ製品を販売したり、ソリューションを提案したりする営業社員にはICの構造やメカニズム、基本的な電気の知識が求められます。
営業担当として20〜30名ほどの社員が在籍していますが、それぞれが持っている知識のレベルは当然異なります。そのため、大人数を一度に教えても、早期の知識の定着はとても難しいもの。そこで2〜3名の小グループにわけて、マンツーマンに近いスタイルで研修や勉強会を行っています。
──定年退職前の仕事とはかなり内容が異なりますが、なぜこの仕事を選ばれたのでしょうか。
自分の知識や経験を生かして、人の成長に携わりたいと思ったからです。
自身の経験を他の人に伝えることで、その人が新たな知識を身に付け成果を出せるようになる。そうやって「人の成長に携わること」が、私ができる社会貢献なのかもしれない、と考えました。そんな時にパーソルクロステクノロジーの担当者が紹介してくれたのがこの仕事だったのです。
やってみると分かりますが、人に教えるというのは非常に難しい仕事です。自分でやるのではなく、他の人に教え、それが成果につながるようにするには、創意工夫が必要です。いかにして「学ぼう」という意欲を起こさせるか。そのためには、相手にとって興味のあることをきっかけに、ディスカッションを重ねていくことだと思います。
もし、教える相手が音楽に興味があれば、エレキギターやギターアンプを例にして電子回路の仕組みを説明します。ギターアンプはどういう構造になっていて、それが商材であるICとどこが共通し、何が違うのか。勉強会では、そんなきっかけから学ぶ意欲を持ってもらおうとしています。
──どんなときに、仕事でのやりがいを感じますか?
1つは、人の成長に携われること。そしてもう1つは、人に頼りにされることです。
技術教育の目的は、営業社員が知らない技術知識を伝え、一人ひとりがお客様のどのようなニーズにも柔軟に対応できる力を身に付けること。これまで学ぶことに受身的だった社員であっても、率先して学んで自分で考えることで、自らの成長を実感できるようになります。そんな人の変化に携われる役割はなかなか無いと思います。
そして、そうやって信頼関係を築いた相手であれば、十分な知識を身につけた後であってもつながりが続くものです。彼らが仕事で困ったことが起きたときに「どうすればいいと思いますか」と私に尋ねてくれることもあり……。身近な人に頼ってもらえると、今の仕事をより頑張ろう、という気持ちになりますね。
知見や経験を持つ私には、経験の浅い若い人たちをフォローしていく責任があると思います。それを「面倒だ」と思ってしまうと仕事は進められません。だからこそ、それを楽しんで取り組むべき。人に頼られ、求められることで、大変な仕事でも楽しんで取り組めているのだと思います。
「効率よく働ける」メリットを生かし、音楽活動にも注力
——お仕事以外でも、音楽活動に力を入れて取り組まれていると聞きました。
日本で最古の音楽といわれる「雅楽(ががく)」を嗜んでいます。
幼少期からピアノを始め、20代はバンド活動など、これまでも生活の中でずっと音楽に触れてきました。雅楽を始めたのは、私がずっと音楽に関わっていることを知っている先輩が声をかけてくれたのがきっかけです。
雅楽について、最初は「テレビで見たことがある程度」で、ほとんど知識はありませんでした。しかし清々しく神秘的な神殿に身を投じ、演奏するのはこれまでの音楽ではできなかった体験で、1度興味を持ってからのめり込んで行くまではとても早かったと思います。
雅楽には楽譜がなく、口伝で学ぶ音楽。人間の鼓動や息づかいなど、自分のリズムを他の人のリズムに合わせていく、とてもアナログな世界です。だからこその難しさ・楽しさがあり、それを乗り越えて、みんなで1つの曲を奏でた時には、とても大きな達成感があります。
——派遣エンジニアの働き方を選んだことで、音楽活動の方針や時間の使い方に変化はありましたか?
現在の働き方になり、仕事と音楽を両立し、どちらも集中して取り組みやすくなったと思います。
仕事以外の時間で身を投じている雅楽ですが、私にとっては「プライベートの趣味」ではなく、仕事と同じで「本気で取り組んでいること」のひとつ。仕事も音楽、どちらかを欠いてしまえば充実した時間を過ごせなくなり、もう片方にも良くない影響が出てしまいます。
両方に集中して臨める環境は、定年退職前から、ずっと望んでいたもののひとつでした。これも、「明確な目標に向かって、効率的に時間を使う」派遣エンジニアの働き方によって、手に入れることができたのだと思います。
仕事も音楽も、人生をかけて道を極めていきたい
——働き方が変わった現在の、音楽活動の様子はいかがでしょうか。
雅楽は30歳から始めたので、今で30年と少し経ちました。長年続けていると「伊東さん、龍笛(りゅうてき)を教えてもらえますか」と、次第に頼られるようになってきて、今では月2回、演奏の指導を行っています。もちろん、教えてばかりでは腕がにぶってしまうので、それ以外の土日は1日3時間、自分の練習時間にあてています。
音楽に対しても自分なりの目標を持って、仕事と同じくらい真剣に取り組んできました。雅楽ではその道のプロから30年以上にわたって演奏を学んできたので、それを次の世代の人に伝えられるような指導者になるのが、70歳までの目標です。仕事でも音楽でも、たくさんのことを教える役割になることは、以前はなかなか想像していませんでした。
——最後に、伊東さんの今後の目標があれば、教えてください。
私にとっては、仕事も雅楽も、人生をかけて極めていきたい道の1つです。「人の立場になって物事を考える」といったそれぞれの道で学んだことを技術とともに伝え、将来的には、次世代の育成者も育てていきたいと考えています。
私は、人生を楽しむために、仕事も音楽も全力で取り組みたいと思っています。そうすることで、新たな知見を数多く得られ、人生が豊かなものになっていく。この年齢になっても新たな経験ができると、とてもワクワクします。
文=西谷忠和/写真=平山陽子/編集=伊藤 駿(ノオト)