スキルを磨き自分を更新したい
生涯現役の目標を支える「安心感」
社会のあり方の変化を受けて、あちこちで掲げられるようになった「生涯現役」という目標。「これまで培った経験を生かして、社会に貢献したい」「新しい価値を提供するため、学び続けたい」と考えるものの、これまでの自分と同じペースで働き続けるのはなかなか難しいものです。
今回お話を伺ったのは、個人事業主として20年間のキャリアを経て、60歳から派遣エンジニアとして働くようになった伊藤さん。個人事業主から今の働き方になって感じた生活の変化や、派遣エンジニアの「安心感」について伺いました。
やりがい以外に、新しい学びを得られる環境で働きたい
——現在の就業先では、どのような仕事をしているのでしょうか?
大手自動車メーカーグループのIT企業で、システム開発を行っています。
自動車は非常にたくさんの部品から構成されています。ドアひとつ取っても、鏡やカバー、それらを固定するためのネジなど数え切れない部品が用いられており、それを管理するため専用のシステムが運用されています。
大手メーカーであるがゆえに車種だけでも相当な数があり、それぞれが随時モデルチェンジされているため、扱うパーツもとうぜん膨大な数になります。それを管理するシステムは、自動車製造には無くてはならないものなのです。
私が担当しているのは、その管理システムのマイグレーション(移転作業)です。従来はJavaで構築されていたシステムからTypeScriptを用いたものに移行しており、その設計から開発までを手がけています。
——派遣エンジニアとして働くにあたって、なぜこの案件を選んだのでしょうか。
マイグレーションを担当するエンジニアは、移行前と移行後、どちらのプログラミング言語にも明るい状態が望ましいとされています。私の場合、従来のシステムで使われていたJavaを過去に扱っており、その経験を生かせると考えました。
一方、移行後のシステムに使用するTypeScriptは未経験。初めて扱う言語だったのですが、ちょうど学びたいと思っていたので、良い機会だと思ったのです。
——これまでの経験を生かせるだけでなく、「新しい学びを得られる」環境であることを重視されているのですね。
そうですね。会社の事業内容ももちろんですが、その案件を通して自分の持つ技術をさらに磨けるか、新たな技術を習得できる環境か、という点は特に意識するようにしています。
新しい技術の習得は、仕事の幅を広げることはもちろん、「一緒に働く人と、コミュニケーションが取りやすくなる」という利点もあります。自分が伝えたいことを言語化したり、相手が言いたいことをきちんと理解したりするためには、技術という共通言語が必要。自分が望む環境で働くためにも、スキルアップし続けることは必要なのだと思います。
個人事業主との共通点は、信頼を次の仕事につなげること
──派遣エンジニアになる前は、どのような働き方をされていたのでしょうか?
個人事業主として、ITエンジニアの仕事をやっていました。
専門学校でプログラミングを学んだ後、IT企業3社での勤務を経て2005年に独立しています。個人事業主になってからは、約20年間、SESの常駐案件を中心に仕事を請けていました。
──企業勤めから、個人事業主になった理由をお聞かせください。
勤めていた会社の経営が傾き、今後を考えていたタイミングで、仕事でお世話になっていた方に独立を勧められたのがきっかけです。
「いろいろな技術を学んで腕を磨きたい」気持ちは当時から強かったのですが、会社勤めをしていると、当然ですが、会社の方針に沿って仕事をしますよね。そんな環境では学びの幅も狭まりますし、自由にチャレンジするにも限界があります。
個人事業主になれば、仕事を選ぶのも決めるのも自分。望んでいる働き方ができるのでは、と考えました。もちろん楽しいことばかりではありませんが、おかげさまで多数の仕事を経験し、幅広い技術を身に付けられたと思っています。
──その後、派遣エンジニアになられたのはどのようなきっかけだったのでしょうか。
新型コロナウイルスの流行がきっかけで当時関わってきたプロジェクトが頓挫し、仕事がなくなってしまいました。これからどうしようかと考えていた時に知人が紹介してくれたのが、パーソルクロステクノロジーさんだったのです。
──派遣という働き方を、それまでに考えたことはありましたか?
まったく考えたこともありませんでした。しかし、派遣エンジニアであっても個人事業主であっても、現場でスキルを磨き、実績を積み上げて信頼関係を築き、次の案件を獲得していく、という点では同じ。仕事を通してやるべきことに大きな違いはなく、結局のところ「自分次第だな」と。
また、私の場合は個人事業主時代も常駐案件がほとんどでしたので、派遣エンジニアになっても、働き方自体はほぼ変わらないのです。個人事業主とは契約の形態が異なるだけだと思えたのも、働き方を変える大きなきっかけになりました。
安定して働くためのサポートが得られる安心感
——個人事業主と派遣エンジニアの働き方、それぞれにどのような違いがあると思いますか?
個人事業主は、自分で仕事を選べること、そして実績が報酬に表れることが私にとって大きなメリットでした。
しかし、業務のすべてを自分でこなさなければいけないため、事務作業や契約条件の交渉、クライアントとの折衝といった、本来の仕事以外の業務も自らやらなければいけません。プログラミングをはじめとした本質的な仕事に集中したいのに、それ以外の作業に時間を奪われるのが大きなストレスでした。
派遣エンジニアの仕事では、そういった煩雑な業務をパーソルクロステクノロジーさんに任せることができます。ずっと負担に感じていた作業から解放された安堵感はとても大きく、「もうやらなくていいんだ」とホッとしたのを覚えています。
また個人事業主の場合、自分の仕事は自分で見つけるのが基本です。そして新しい仕事が決まっても、ほとんどの案件は期間限定。「案件が期限前にとつぜん終了する」といった出来事にも、数え切れないほど遭遇してきました。
その点では、パーソルクロステクノロジーさんが「仕事を探す」営業の役割を担ってくれることも、非常に助かっています。いろいろと相談に乗ってくれて、私のスキルや志向をよく理解した上で仕事を紹介してもらえるのは、とてもありがたいです。
——今後も長期的に働き続けるため、「業務以外の部分のサポート」にメリットを感じていらっしゃるのですね。
今の働き方になって改めて気づいたのが、「報酬が毎月、一定のペースで振り込まれる」ことの安心感でした。
個人事業主であれば、その気になればいくらでも売上を上げられます。しかしながら、取引先の都合で報酬の支払日まで期間が空いたり、取引先によって異なる支払いルールの管理に手を焼いたりする案件も少なくなく……。個人事業主時代より年収は下がったものの、これも派遣エンジニアとして働く良い点なのかなと思っています。
もっと若い頃なら、また違った考え方をしていると思います。この年齢になるまでいろいろな経験をしてきて、瞬間的に売り上げを爆増させることよりも、少しでも長く現役で技術を追求し続けられる働き方が、今の自分にはマッチしているのかもしれません。
——個人事業主の経験が、派遣エンジニアとしてのキャリア形成に役立っていると感じることはありますか?
自分に合った仕事を紹介してもらうためには、己のスキルや適性についてしっかり理解し、それを相手にわかりやすく伝える必要があります。現在、自分が望むような環境で働けているのは、「自分自身を売り込んで、仕事を獲得しなければならない」個人事業主の経験があってのこと。
今の就業先は、私に大きな裁量を与えて仕事を任せてくれています。しかし、仕事を任せてもらうには、「相手方にこちらのスキルを知ってもらうこと」に加えて「働きぶりから、自分を信頼してもらうこと」が大切です。就業している中で先方とコミュニケーションを取ったり、それとなく実績を伝えたりして信頼関係を築くアプローチができているのも、個人事業主の経験が生きているのかもしれません。
腕を磨き続け、生涯現役で社会の役に立ちたい
——今後、派遣エンジニアとしてどのように働いていきたいですか?
とにかく生涯現役で、技術を追求していきたいです。そのためには現状で満足せず、常に新たな技術や知識を吸収し、自らを更新し続けなければいけませんね。
エンジニア的な生存戦略も理由の一つですが、学び続けたい一番の理由は、純粋にプログラミングが好きだから。今はまだまだレガシーなシステムも残っていますが、UIやフロントエンドにはどんどん新しい技術が登場しています。そういったものを見るたびに「これはどういうものなんだろう?」と知的好奇心を刺激されますし、新たな技術への興味はなかなか尽きません。
——年齢や世代に関係なく、「学び続ける」ことをとても大切にされているのですね。
そうですね。そう考えるようになったのは、20代の頃の経験がきっかけにあるかもしれません。私は中学、高校時代はかなりやんちゃで、勉強なんてまったくしていなかったんです。
でも高校卒業後にアルバイトしていた自動車整備工場で、どんな車でも完璧に調整していく先輩の職人技に魅せられ、「物が動く仕組み」に興味を持ちました。領域は異なりますが、手に職をつけるためプログラミングの専門学校へ入学を決めたのもそれがきっかけ。思い返せば、あの時に感じた衝撃やワクワク感が、今に続いているような気がします。
——最後に、今後の目標をお聞かせください。
「自分の技術で、世の中の役に立つ仕事がしたい」という気持ちは、これからも変えずに働いていきたいと思っています。今後もそういった仕事をする中で新しいことを学び、また社会に還元していく、といった循環を続けていけたら本望です。
文=北村朱里/写真=平山陽子/編集=伊藤 駿(ノオト)