10年のブランクから再出発 エンジニア復職を決意したモノづくりへの情熱
エンジニアという職業に限らず、キャリアの道のりは一様ではありません。順調にキャリアを積み重ねる人がいる一方で、それぞれの事情により仕事を離れざるを得ない人も。しかし、一度エンジニアの現場から離れても「やはりシステムの仕事をしたい」と、ブランク期間を経て復職する人も少なくありません。
今回、お話を伺った野々村さんもその一人です。約10年のブランクを経て、60歳を過ぎてから派遣エンジニアとして再出発を果たした野々村さん。派遣という働き方を選んだ理由や、「ブランク期間との向き合い方」についてお聞きしました。
仕事と向き合うなかで実感した「モノづくりの楽しさ」
——はじめに、野々村さんの職歴を教えていただけますか。
コンピューター関連の専門学校を卒業してから今まで、主にシステム関連の仕事に携わってきました。
学生時代は数学が好きだったので、数学科のある大学へ進学し、教員になろうと考えていました。しかし、私は受験の必須科目である英語が苦手で。数学を生かせる別の道を調べるなかで「プログラマー」という職業に出会いました。初めてコードを読んだとき、文章は英語でも、まるで数式を読んでいるような感覚になったことを覚えています。そこから将来はコンピューター関連の仕事に就きたいと思い、専門学校への進学を決めました。
専門学校の卒業後は業務系アプリケーションの開発を行う会社に就職し、約6年間務めました。結婚を機に退社した後も、2人の子どもを育てながら請け負いで仕事は続けていました。
子どもたちが小学校に入ってからは、2000年問題の対策でシステムエンジニアを募集している会社にパートとして足を運んだり、一時期は自分で会社を立ち上げて、業務系アプリケーションの常駐開発の仕事を請け負ったりしていました。
世間的に「自宅でパソコンを使う」ことが少しずつ増えだしたのが、ちょうどこのくらいの時期です。私も自分の家でWindows95を触るようになったのですが、そこで改めて「モノづくりの楽しさ」に目覚めてしまって。
システムづくりは、自分で組み立てたものを自分で磨き上げていく「職人的な」面白みがあります。経験を積んでいくと、システムのことが手に取るように分かるようになるのがとても嬉しいのです。本当にモノづくりに没頭していたので、初めて購入したパソコンは、触りすぎで壊してしまったくらいです(笑)
当時の私は、今でいうところの「システムエンジニア」的な役割もしていたので、画面設計とファイル設定さえあれば、自分で業務系アプリケーションを組み立てることができます。
毛織屋に米屋、車屋など、さまざまな会社や工場の在庫や顧客、請求書関係などのシステムを作成してきましたが、プログラムの完成度が自分の満足できるレベルに達すると嬉しくなりますし、それをお客様にも喜んでいただくことが、私にとっても仕事の大きな喜びでした。
——システム開発という仕事に充実感を覚え、楽しく働かれていたのですね。
とてもやりがいのある仕事だと思いました。しかしその後、契約社員として働いていた会社にて人間関係のトラブルに見舞われてしまい……。心のバランスを崩して、仕事を辞めざるを得なくなってしまいました。
その後は4〜5年間、働くこと自体から離れ、内心「エンジニアはもう引退かな」と思っていたぐらいです。働けるようになってからも、スーパーやコンビニのレジ打ちなど、システム業界とは関わらない仕事を選んでいました。
アプリ開発で取り戻した活力、10年のブランクからの再出発
——システムエンジニアに復帰しようと思ったきっかけを教えてください。
きっかけは、ある会社での経験でした。レジのパート募集に応募して面接を受けたのですが、経歴を見た担当者が「経理をやってみませんか?」と声をかけてくれて。お店の売上を管理していく中で、久々にパソコンに触れました。
業務を少しでも自動化できればとVBA(Visual Basic for Applications、マイクロソフト社製のアプリケーション内で使用できるプログラミング言語)を使い、業務系の簡単なアプリを作成するため、しばらくぶりにシステム開発の仕事をしました。これが、本当に楽しくて。「システムエンジニアとして、また働きたい」という気持ちがふつふつと湧いてきたのです。
その後はおよそ5年間、この職場で働きながら心身の調子を整えるとともに、エンジニアとして働ける環境を積極的に探すようになりました。
――なぜ「派遣エンジニア」の働き方を選ばれたのでしょうか。
エンジニアへの復帰を決意したものの、当時の年齢では正社員は難しいだろう、と感じたのが正直な理由です。システムエンジニアとして約10年のブランクがあり、ゼロから仕事を探すハードルや、勤務時間に縛られて働く負担も気になるところでした。
そこで選択したのが、派遣エンジニアという働き方です。これまでも請け負いで仕事をしていたので、派遣として働くことそのものに大きな抵抗はありませんでした。
システムエンジニアに戻ると決めてからの数カ月は、いろいろな派遣会社に登録し、話を聞きました。数ある派遣会社からパーソルクロステクノロジーさんを選んだのは、案件のやり取りがスムーズに進み、自身に合う就業先を紹介してもらえたからです。
——正直、約10年のブランクがある中での再出発は、不安ではありませんでしたか。
不安はとても大きかったです。どれくらいでシステムエンジニアとしての勘が取り戻せるかも分からない状態でしたから。
就業先を探しているときも「ブランクはどれくらいで取り戻せますか?」とよく質問されました。このときは、本当にできるかどうかとても不安で、「3カ月で7割くらいでしょうか」と弱気な回答をしていました。
実は、1社目の就業先でプロジェクトリーダーと話したとき、私のブランクについて「しばらく自転車に乗っていなかったのと同じですよ」と言ってくれて。不安を抱えていた私としては、とても嬉しい言葉だったのを覚えています。
この就業先では、リーダーの補助としてジョブフロー修正などの業務に当たりました。開発ではなく、サポート業務に携わったのは「ブランクを解消できるような案件から関わりたい」とパーソルクロステクノロジーのキャリアアドバイザーさんにお願いしていたからです。
就業先の都合でこの仕事は半年ほどで離れましたが、システムエンジニアとしての勘を取り戻すきっかけにはなったと思います。その次に決まったのが2社目となる今の仕事です。1年ほど働き、現在に至ります。
自分の経験やスキルが、正しく評価される環境で働く
——現在の就業先でご担当されている、お仕事について教えてください。
システムを用いた業務効率化を目的とし、就業先の方からの要望を受けて、システム開発やメンテナンス保守を行なっています。
この就業先を選んだのは、プログラミング言語のなかでも自分が得意な「COBOL」を扱う業務だから。以前にも使用していた言語のため、これまでの経験や技術を生かせると考えました。実際、その予想は当たり、現在の仕事に大いに役立っています。
——職場や、お仕事されている雰囲気を教えてください。
マイペースに業務に向き合える環境なので、仕事がより楽しくなりました。職場の雰囲気も明るく、良好な人間関係のもとで働けていると思います。
現在は10名ぐらいのチームで働いていますが、20代や30代のメンバーも所属しており、子どもと同世代の方からの指示で仕事をすることも少なくありません。とはいえ、私は常駐経験が長かったこともあり、特に気負うことなく取り組めています。
自分の経験やスキルが評価されていると感じられることも、今の就業先が好きな理由のひとつです。約10年のブランクがあるとはいえ、それまでの30年で培ってきた経験やスキル、スピードが適切に評価されるのは嬉しいですね。
私は自身を評価してくれる環境で特に力が出せるため、今のチームで働くようになってからは、より力を発揮しやすくなりました。「野々村さんが来てから、チームが明るくなった」と言われたのも嬉しかったです。
——ブランクが気になる場面はありませんでしたか。
最初は不安でしたが、結果的にブランクが気になることはありませんでした。以前は「3カ月で7割程度」と話していたのですが、蓋を開けてみたら1週間で、思い通りの仕事ができるようになっていました。
開発の仕事の場合、お客様によってシステムの種類や環境が大きく変わることも少なくなく、案件に合わせてその都度、知識のインプットが必要になります。ブランク期間中は、特に最新情報のキャッチアップはしていませんでしたが、実務に触れるなかで、遅れを取り戻すことができました。
しかし年齢のせいか、以前よりも仕事の覚えが少し遅くなったかもしれないなとは感じていて……。システムを全て知っているわけではないからこそ、急いで解決しようとせず、だんだん理解を深めることを意識しています。
実際に調査で不具合を探すときも、同じリサーチを2〜3回行いシステムに対する理解を深めながら探したほうが、時間はかかるものの、結果として良い仕事ができる場面が多いですね。
モチベーションは「必要とされる喜び」
——派遣エンジニアとして働くようになり、どのような変化がありましたか。
スキルに見合った給与を得られるようになったことで、パート時代よりも収入が増え、時間や金銭的な余裕が生まれました。お金の余裕は心の余裕につながると感じています。過去にはダブルワークをしなければならない時期もあり、当時は落ち着いて自分と向き合う時間さえ取れないほどでした。
今では、料理など日常のことに取り組む時間や、趣味に没頭する時間も持てるようになっています。
私は趣味で手芸をやっているのですが、先日は、子どもたちに手編みのスマホホルダーをプレゼントしました。システムエンジニアに復職する1年半前には、想像もできなかった生活です。大変な時期もありましたが、この仕事を続けてきて本当に良かったと感じています。
——最後に、今後の目標をお聞かせてください。
生涯現役でありたいと考えています。ありがたいことに、現在の就業先では「長く務めてほしい」と言っていただけていて。身近な人に必要とされることは、大きなモチベーションになります。
私にとってシステムエンジニアという仕事は、趣味がそのまま仕事になったようなものですから、体力が続く限り働いていきたいと思いますし、可能な限り、長く続けていくつもりです。
文=スギモトアイ/写真=平山 陽子/編集=伊藤 駿(ノオト)