IoT・ロボットテクノロジー起業家プログラム 「AIDOR acceleration ~アイドルアクセラレーション」の最終プログラムである、デモデイ(プログラム参加者が練り上げたプロダクトやビジネスアイデアを展示、プレゼンを行う)に潜入。
多くの企業が集まり、協業パートナー候補へ真剣にプレゼンする模様をご紹介。4カ月のプログラムを経て、参加者はどのようなプロダクト・サービスを生み出したのでしょうか?
投資家や新事業担当との出会いの場。AIDORアクセラレーションの「デモデイ」とは?
IoT・ロボット開発の事業化に特化した、起業家育成プログラム「AIDOR acceleration(アイドルアクセラレーション)」。AIDOR共同体(公益財団法人大阪市都市型産業振興センターと一般社団法人i-RooBO Network Forumで構成)が大阪市の委託事業として2016年から運営を開始し、中小・ベンチャー企業などがもつアイデアの事業化を支援しています。
選考で選ばれた参加チームは、4カ月のプログラムを受講。IoTに関する知識からビジネスプランの構築手法、プレゼンスキルの習得まで、座学やワークショックを通じて事業化に必要な知識とノウハウを学びます。
※AIDORアクセラレーションの詳しい情報はこちら。
IoT・ロボットビジネスに必要なメソッドを4カ月で習得!大阪発「AIDOR ACCELERATION」とは?
その集大成として用意されているのが、「デモデイ」。事業アイデアを発表するピッチコンテストとビジネスマッチングが行われるデモデイは、投資家や新規事業を検討する企業の担当者が一堂に会する貴重な機会。
事業化を目指す各チームにとって投資家や協業パートナーと出会える、絶好のチャンスです。
今回は大阪イノベーションハブで開催されたデモデイに観衆として参加。
熱戦が繰り広げられたピッチコンテストの様子をレポートします。
全18チームが激突!受講生によるピッチコンテスト
事業アイデアや計画などを短時間でプレゼンする、ピッチコンテスト。全18チームが5分間と1分間の2つに分かれてピッチを実施。コンテストの対象となるのは、5分間ピッチに登壇する10チームです。
審査員は、以下5名の方々。
・今堀 崇弘 氏(株式会社日刊工業新聞社 大阪市社 事業出版部 副部長)
・河瀬 航大 氏(株式会社フォトシンス 代表取締役社長)
・清水 力 氏(日本ベンチャーキャピタル株式会社 投資部門 ベンチャーキャピタリスト)
・瀬川 寿幸 氏(一般社団法人i-RooBO Network Forum 理事)
・吉川 正晃 氏(大阪市 経済戦略局イノベーション担当 理事)
▲審査員のひとり、スマートロック「Akerun」を提供する河瀬氏。
▲企業から提供される「企業賞」は、株式会社NTTドコモ、オートデスク株式会社、株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ、凸版印刷株式会社の担当者が審査を行う。
審査員の紹介が終わると、いよいよピッチコンテストがスタート。
開始の合図であるゴングが会場に響き渡りました。それでは、各チームのピッチを発表順に紹介していきましょう。
【1】サイネージ×リサイクルタンク(浜田化学株式会社)
コンビニなどの店頭に置かれる集客ツール(のれん、看板など)をデジタルサイネージ化し、ディスプレイの土台を廃油タンクにすることで、ツール設置にかかる手間の削減と廃油置き場の確保を同時に実現する事業アイデア。審査員からは、社会的に意義のあるプロジェクトだという評価がありました。
▲トップバッターは、浜田化学株式会社の岡野氏。
【2】中小企業に対する機械設備のIoT化(精密プレス工業株式会社)
鋼板などの金属を接合するスポット溶接機向けの打数・生産管理カウンター『OS-01』。人の作業で発生しがちな溶接漏れを防ぎ、加工製品数をカウントします。装置にデータ転送機能をつけることで、機械のIoT化を実現するアイデアです。質疑応答では価格や他の機械への汎用性について質問が上がりました。
▲「中小企業を盛り上げていきたい」と語る、精密プレス(株)の西野氏。
【3】認知予防を高める手足同時トレーニング測定ロボット(チーム名:タカセ)
介護施設における認知予防の課題を解決する、介護ロボット『ロボトレ』。脳トレや筋トレなど複数のトレーニングを1台に集約したマシンで、利用者のデータを計測・収集し、機器設定や計画書作成を自動化します。審査員からは実現可能性の高さが評価されました。
▲介護事業や認知予防事業を運営する、株式会社ソフトアップJの高瀬氏。
【4】キッズケアステーション(谷川政幸氏・傑子氏)
『キッズケアステーション』は、障がいのある子供たちをはじめ、現在は分断されている施設と保護者をつないで支援するIoTサービス。療育支援アプリを主軸に、施設業務の効率化にも貢献する事業アイデアです。質疑応答では、アプリの詳細や利用料などに関する質問が上がりました。
▲キッズケアステーションの谷川政幸氏と傑子氏。夫妻の実体験をもとに作られたビジネスプランを発表。
【5】後付革命(チーム名:工場向上委員会[スリーアップ・テクノロジー × ナレッジ・ビー])
“小さく始めるIoT”がキャッチコピーの『後付革命』。工場の既存設備に電流センサーをつけることで、生産設備の稼動状況を見える化するサービスです。50年前の機械でも実証済み。「工場でIoT化が進む気配を感じた」と期待するコメントが寄せられました。
▲ナレッジ・ビーの高田氏。スリーアップ・テクノロジーとのアライアンスによる事業化を予定している。
【6】IoT的発想による産業ガス安定供給サービス(チーム名:ガス屋とIT芸人チーム)
高圧ガスの製造販売を手がける株式会社マスコールの事業アイデアは、産業ガス安定共有サービス。重量センサーを用いた、低価格のガス残量監視システム『ガスケール』によって受発注を自動化。予期せぬガス切れが引き起こす、利用者と企業両者の課題をIoTで解決する提案です。
▲株式会社マスコールの境氏。「『ガスは見えなくて当たり前、だから危険だ』という常識が変われば、市場性も期待できる」と語った。
【7】自動車整備工場向けのヒト協調型ロボット(チーム名:三人力(さんにんりき))
工学博士でもある安池氏が事業化のために開発を進める『三人力(さんにんりき)』は、作業用リフトに取り付けるロボット。整備工程のさまざまな作業を補助し、効率化を実現します。音声認識などの活用が含まれており、人手不足やそれによって起こる現場の課題を解決する製品です。
▲ロボットへの指示に使用する咽喉マイクを首につけてピッチに臨む、やまと工業合同会社の安池氏。
【8】FAst support(チーム名:チーム個人開発)
生産ラインにおける作業手順の間違いを防ぐ、作業支援アプリ『FAst support』。音声認識による手順書の作成やチェックリスト機能のほか、機械学習による自動分析機能を保有。作業状況をリアルタイムで共有し、作業のムダを可視化するアプリです。
▲ダイキン工業の生産技術部に所属する長坂氏。
【9】マスティケーションキャンセラー(チーム名:miso知る)
苦手な音に過敏に反応するミソフォニア(音嫌悪症)で苦しむ人々のために、世界初のアプリ開発を呼びかけるプレゼンです。不快な音だけを処理する技術を利用し、ミソフォニアの多くが苦手とする“クチャクチャ”という咀嚼音をアプリで快音化。イヤホンを着用してキャンセリングを行うと、ストレスなく会話ができるというアプリです。
▲渡辺氏は、10チームの中で唯一の大学生。友人がミソフォニアに苦しむ姿をみて開発を決意した。
【10】空間の価値を見える化してマッチングする『エーヨ!』(合同会社ユキサキ)
お店の棚をシェアする、日本初のシェアリングサービスの事業提案。スペースを有効活用したい店舗とPRしたい人をマッチングするサービスに加え、顔認識と人体検出で判定する“空間視聴率”という概念をもとに、棚やラックなどのスペースの価値を見える化。お店の集客力と空間の価値が連動する仕組みを構築中です。
▲トリを飾ったのは、合同会社ユキサキの神野氏。
▲日本ベンチャーキャピタル株式会社の清水氏。最後の質疑応答が終わると、審議が行われた。
▲全チームがピッチを終えると、会場を埋め尽くす約150名の観衆から温かい拍手が贈られた。
優秀賞は合同会社ユキサキの『エーヨ!』。 IoTによる新サービスの誕生へ
いよいよ結果発表。
まずは企業賞に選ばれた以下の4チームへ、各社から記念品が贈られました。
・NTTドコモ賞:ガス屋とIT芸人チーム(ガスケール)
・オートデスク賞:工場向上委員会(後付革命)
・KDDIウェブコミュニケーションズ賞:浜田科学株式会社(サイネージ×リサイクルタンク)
・凸版印刷賞:浦谷商事株式会社(QRコード刻印機)
▲オートデスク賞を受賞した、工場向上委員会の『後付革命』。「結果だけをデータ化するのではなく、未来を予測することに夢がある」との評価に、登壇者の高田氏は顔をほころばせた。
続いて、ピッチコンテストの優秀者発表。第三位は、ヒト協調型ロボット『三人力』(三人力)。第二位には、介護ロボット『ロボトレ』(タカセ)が選ばれました。
そして優秀賞に輝いたのは、合同会社ユキサキの『エーヨ!』。
審査の場では満場一致で優秀賞が決定したそうです。
『エーヨ!』は、お店の棚を貸したいオーナーと商品やサービスを宣伝したいユーザーをマッチングする、近年注目を集めるシェアリングエコノミー型のサービス。スペースの価値(どれだけのユーザーがチラシを目にする空間か)を見える化する“空間視聴率”という概念を取り入れ、高い利便性と効果の実現を目指しています。
最後に、代表の神野氏に『エーヨ!』開発のきっかけや今後の展望、『AIDOR アクセラレーション』の魅力について伺いました。
開発のきっかけは、自社でデザインしたチラシを余らせている顧客を目にしてもったいなく感じたこととプロを目指してバンド活動をしていたときの経験がヒントになったとのこと。
「ショップに置いていたチラシを手にして、ライブに来てくれる人がいたんです。ターゲットとニーズがマッチすれば行動に結びつくという当たり前のことに気づかされました。そう考えると、ターゲットと合わない置きチラシが世の中には多すぎると感じています」
優秀賞に選ばれた要因については、「IoTを活用するプログラムなので技術者の方が多く参加されており、プロダクト中心のビジネスモデルが多くありました。逆に『エーヨ!』は競合するサービスがなかったことが大きかったのではないでしょうか」と分析。「ただ、熱意だけは誰にも負けていなかったと思いますよ」と白い歯を見せました。
今後については、すでに先を見据えた動きも始まっています。
「“超”がつくほどユーザー中心のサービスを確立し、小さなスペースの利活用NO.1を目指します。そのためにはまず、空間視聴率を導入して認知へとつなげ、じわじわとパラダイムシフトを起こしたいです!」
AIDOR アクセラレーションの魅力について尋ねると、ビジネスを学ぶ講義とテクノロジーを学ぶハンズオンの両方がある点を挙げた神野氏。
「AWSなどのハンズオンは、まさしくやりたいことでした。またMVPやリーンキャンバスを検証するためのユーザーヒアリングを行うことで、当初は自信をもっていた自分のビジネスモデルがガタガタと揺らいでいくという面白い経験もできました。そして何より、このプログラムを通して恩師や高みを目指す仲間と出会えたことに感謝しています。メンタリングやデモデイは、私の人生にとって最高の一歩となりました」
▲合同会社ユキサキには、賞金10万円と副賞の盾が贈られた
▲大阪市経済戦略局イノベーション担当・理事の吉川氏。
「多くの来場者や各チームのプレゼンから大阪のパワーを感じた」と満面の笑みをたたえた
▲コンテストを終えて、みなさんで記念撮影。掛け声は「アイドル~・オオサカー!」
さまざまな事業アイデアの発表が行われたデモデイ。製造業向けのプロダクトが多く、また所々で会場から笑いが起こるなど、地域性が垣間見られるピッチコンテストでした。
4カ月のプログラムはこのデモデイをもって修了となりますが、AIDOR アクセラレーションでは起業準備が整ったチームへビジネス拡大のサポートを行っています。
大阪市の吉川氏によると、デモデイで受賞しなかったチームが事業化に成功しているケースもあるとのこと。
参加されたチームのみなさんにとっては、ここからがスタートです。
大阪から生まれる新たなIoT・ロボットテクノロジービジネスに期待が膨らみます。