「子どもの将来を考えて、習い事をさせたい。」
「小学校でプログラミングが必修になるらしいが、事前に習わせた方がいいのだろうか?」
日々の子育てに奮闘しつつ、子どもにどんな習い事をさせるのがいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
今回、お話を伺った上野朝大氏は小学生のためのプログラミングスクール「 Tech Kids School 」を運営しています。そんな上野氏に習い事を選ぶ基準や、小学生のうちからプログラミングを学んで得られるものをお聞きしました。
早ければ小3 でiPhoneアプリの開発をはじめることができる
▲上野朝大氏。株式会社CA Tech Kids 代表取締役社長。2010年、新卒でサイバーエージェントに入社。インターネット広告営業、マーケティング事業部長、アプリプロデューサーを経て、2013年5月同社グループ会社として株式会社CA Tech Kidsを設立し代表取締役社長に就任。事業の立ち上げ、経営を行う一方で、一般社団法人新経済連盟 教育改革プロジェクト プログラミング教育推進分科会 責任者の他、文科省プログラミング教育関連各種委員も務め、プログラミング教育の普及、推進に尽力する。
――「Tech Kids School」がどのようなものなのか伺えますか?
サイバーエージェントグループの株式会社CA Tech Kidsが2013年に設立した、小学生のためのプログラミングスクールです。
「テクノロジーを武器として、自らのアイデアを実現し、社会に能動的に働きかける人材」の育成を目指しています。
――近年、小学生向けのプログラミングスクールが増えていると思います。「Tech Kids School」の特徴はなんでしょうか?
本格的なプログラミングの技術を教えるところですね。3年間のカリキュラムになっていて、1年目は基礎的な知識や概念を学び、2年目からはiPhoneアプリか3Dゲームの作品を開発していきます。
このカリキュラムは小学2年生から入れるので、早ければ3年生 でiPhoneアプリの開発をはじめることができるんです。
プログラミング教育のメリットは「論理的思考が培われる」「理系に強くなる」ことだけじゃない
――小学生のうちからプログラミングを学ぶメリットはなんでしょうか?
世の中的には、プログラミング教育によって「論理的思考が培われる」「理系に強くなる」と言われています。しかし、そこが一番ではないと思うんです。
個人的には、「テクノロジーの力で、作りたいものを実現できる」という考え方が身につくことが最大の魅力ではないかと考えています。
当スクールの卒業生で今中学3年生の子がいるのですが、「ハリウッド作品並のヒット作を日本から出したい」という思いから、映画やドラマの脚本を形態素解析*し、作品ごとに登場人物の感情を可視化するシステムを開発したんです。脚本を分析して、ヒットの法則をデータ化することに挑戦しています。
*形態素解析:自然言語を処理する手法の一つ。文章を一つずつ品詞分解して文章がどのような単語で構成されていて、どのような意味を持つかを判断する。
プログラミング技術の高さもさることながら、中3でこのアイデアを思いつくことが凄い。それは、プログラミングに親しんできたからこそです。
「役に立ちたい」と思ったときに、アプリを作ることができる
――実際にプログラミングを学びはじめた子どもたちにはどのような変化があるのでしょうか?
「能力」と「意識」でそれぞれ変化があります。
「能力」の部分では、タイピングが早くなったり、コンピューターの扱いに慣れていくということはもちろん、プログラミングの基礎知識を学び、コードを理解し、得た知識を組み合わせてものを作る能力が身についていきます。
「意識」の変化は、ふたつあります。
プログラミングを学ぶと、「買ってもらうものだと思っていたゲームの作り方」や「YouTube見るための箱だと思っていたパソコンでいろんなものを作れること」を知ります。その経験によって日常生活の中にあるさまざまなものへ違う見方ができるようになるんです。
次に、小学校の低学年から高学年になっていくにしたがって、ものづくりの方向性が自分中心から他人中心に変わっていくんです。
最初は自己満足的なものを作るんですね。無理ゲー(絶対にクリアできないゲーム)や、自分にしかわからない世界観のものとか。
それがものづくりを繰り返していくなかで、他者からのフィードバックを受け止めて、より良いものにしていこうと考えていくようになる。最終的には身の回りの人に役立つものや、社会のためになるものを作りたいという思いが芽生えます。
こちらから身の回りに役に立つものを作りましょうと教えているわけではないんです。最初は「楽しいから作りたい」でいいと思いますし。
「人の役に立ちたい」という気持ちが芽生えたときに、子どもが取れる選択肢や影響力はどうしても限られてしまう。しかしプログラミングの技術を持っていれば、アプリを作ることができます。
またうちの卒業生の話になってしまうのですが、目が悪くなったおじいちゃんのために、新聞を大きな字で読むことができるアプリを作った子がいました。
小学校4年生から通っているのですが、最初からおじいちゃんのためアプリを作りたいと思っていたわけではない。2年間勉強して、小6になったときに「おじいちゃんの役に立ちたい」という気持ちと、アイデア、それを実現できる技術があったからこそ、開発に繋がっていきました。
親が子どもにできることは、機会を与えること
ーープログラミングに限らず、子どもに習い事させたいと思っている場合、どういう基準で選ぶのがいいのでしょうか?
私は人の親ではないですし、もともとが教育の専門家というわけではないという前提のもとお話しさせていただきますが、「子どもがその習い事を楽しんでいるかどうか」、その一点に尽きると思います。
親心としては、どうしてもいろんな打算を持って、やらせたいことがあるでしょう。ただ、子ども自身が楽しんでやれないと、時間とお金を投資しても実らない。
機会を与える以上に親が子どもにできることはない。ですから、さまざまな体験ができる機会を作ってあげて、子どもが「続けたい!」と言ってきたら、その習い事を支えてあげるのがいいのではないでしょうか。
大人は自分を律しながら嫌なことをがんばれる。資格があれば昇給するから、就職に役立つから、そういったメリットを見越してがんばることができる。
しかし子どもにメリットを見越して無理やりやらせるのは違う。楽しいから続ける、続けるからこそ結果的に力になる、このくらいシンプルでいい。楽しめることに没頭して、自身の幹を太くしていくことが大切です。
やる頻度でいうと家庭科よりも少ないプログラミング必修化
ーー子どもが楽しめるものを支えることが大切だとわかっていながら、2020年にはじまるプログラミングの必修化に備えて、学ばせなければと思う人も多い気がします。
必修化と言っても、英語のように毎日授業があるわけではないんです。今ある算数や理科という教科のなかでプログラミングの要素を混ぜ込んでいくものです。取り組む頻度でいうと家庭科よりも少ないのではないでしょうか。
プログラミング教室も大部分が「論理的思考力が身につく」と謳って宣伝していますが、その力を身につけるためにプログラミングを学ぶという手段はベストなのでしょうか? そこはしっかり考えた方がいい。変な例えですが、「新体操を通して筋トレしよう」みたいなことになっていないかな?って。
――筋トレのために、新体操(笑)。
目的と手段が逆になっていますよね。
ーー学校で取り上げられる頻度が少ないとはいえど、プログラミングを理解できることが当たり前に求められていくようになると思います。これからはどういった人材が求められるのでしょうか?
技術はどんどん移り変わっていくので、プログラミング技術に関する知識そのものには必ずしも価値がないです。5年前使われていたプログラミング言語が、時代遅れの言語になっています。
それよりも、一つのプログラミング言語を学び、それを使いこなして何かを作り上げたという経験から、テクノロジーへの理解を深めたり、得た知識を別の学びに繋げていくことが求められるのではないでしょうか。技術や知識そのものよりも、変化に適応していく学び方とか考え方を身につけることがいい。
ーー知識そのものに価値を置くのではなく、知識を使うことでどんなことができるのかを発想できるかどうかが重要なのでしょうか?
そうですね。
これは、5年間スクールを運営して実感したのですが、小学生でも大人以上の素晴らしいものを作ることができる。プログラミングで何かを作り出すことに世代は関係ないんです。プログラミングは誰にでも開かれているので、新しい価値を生み出す手段としてどんどん活用されて欲しいです。