「インターネット×家電」の名のもとにあらゆる製品を作り続けるIoTの先駆者的存在、株式会社Cerevo。
Ustream配信専用カメラ「CEREVO CAM」をはじめとした、ユニークな製品を生み出し続けている同社代表岩佐琢磨さんへのインタビュー後編は、世の中を驚かせたIoT製品から、ご自身の発想方法、そして立ち上げから1年を迎えたDMM.make AKIBAについてお聞きしました。
▼前編はこちら
私が0→1にする仕事を選んだ理由。ネット×家電で未来を創るCerevo 岩佐琢磨の仕事論【前編】
Index
「アラーム音に気づかないことが多いんです」岩佐さん自身の体験が製品コンセプトにつながる
—前編で仰っていた、ご自身の実感が伴った製品には、どのようなものがあるのでしょうか?
岩佐:スマートフォン連動型の小型目覚まし時計「cloudiss」は、完全に自己体験から生まれた製品ですね。
▲目覚まし時計を再定義したスマート・アラーム「cloudiss」
僕、本当に朝が弱くて、特に午前中の打合せとかに遅刻してしまったりするんです(笑)。
大事な打合せの時は、しっかりアラームをかけて寝るんですけど、その前日に限って忙しかったり、朝まで作業をしてしまって、アラームの音に気づかないくらい熟睡してしまうんです。それで2時間も3時間も遅刻して予定が全部キャンセルになったりしたこともあります。
また、海外出張だと時差もありますけど、こちらがゲストの立場なので現地では歓迎していただいて、お酒を呑んだりして遅くまで盛り上がってしまうと、それはそれで翌日起きられないですよね。
さらに、最近はスマートフォン本体が薄くなるにつれて、音量の最大値も小さくなっているんですよね。だから、アラームの音に気づかない人が多いのではないかと思い、「cloudiss」のような製品の必要性を強く感じました。
特徴としては、小型ながら360度に大音量のアラームを再生できるように設計されていて、スマートフォンとBluetoothで連携させて使用するので、ボタンや表示などはなくシンプルなデザインです。
アラームは、「cloudiss」本体を強く振り続けないと止まりません。
スマートフォンでも、同じように本体を振ってアラームを止めるというアプリもありますけど、手からすっぽ抜けて画面を割ったことがあったので(笑)。そういったことも含めて、「cloudiss」は本当に自己の体験からできた製品ですね。
—製品にご自身の実感が伴っている分、ユーザーへの共感も大きくなるということでしょうか。
岩佐:さらにいうと「OTTO」は、僕の家族の実感でしたね。「OTTO」とは、スマートフォンで制御できる電源タップです。
▲雑然としがちなACアダプタをカバーで覆い隠すことができる電源タップ「OTTO」
僕の家では10口の電源タップを使っているんですが、家族4人で子どものゲーム機だ、僕らのスマホだという風につないでいくと、10口はすぐにいっぱいになってしまって、ケーブルが邪魔になってしまうんです。
それなら、キレイなカバーをつけて置物としておいておけるぐらいの電源タップがあってもいいんじゃないかという発想から「OTTO」を製作しました。
機内という拘束された空間だと、なぜか頭の中が整理されてアイディアが生まれる
—製品・設計・デザインなどモノづくりのコンセプトやアイディアは、普段どのように作られているのでしょうか?
岩佐:「こんなものがあったらいいな」というのは、普段の生活の中で、ちょこちょこ思いつく感じですね。1行15文字から30文字で「××するデバイス」みたいな感じでパッと書き出したりします。
あと、普段かあらマーケティング・セールス分野ではアメリカやヨーロッパ、製造は中国というように、海外出張が多いのでそうしたアイディアは飛行機の中で考えることが多いですね。
機内って結構時間あるじゃないですか。最近はインターネット回線もありますけど、追加料金が必要になりますし。
1人で乗った時は、頭の中だったり、これまでのメモだったりを一度棚卸しして「記憶のガベージコレクション」「商品企画のガベージコレクション」と呼んでるんですけど、そういった記憶の整理をワーッと一気に集中して行いますね。
※ガベージコレクション・・・使用したメモリ領域を自動的に回収して再利用すること
「この製品は3ヵ月前にネタを考えて、2ヵ月後にはアウトプットした」とか、「このデバイスはどうやって実現しようか」とか、「これぐらいのプロセッサー入れて、このセンサーいれたら、値段はこれぐらいが妥当かな」とか。マーケティングや技術などあらゆる側面から、ブレのない商品企画へと落とし込むのは、だいたい飛行機の中ですね。
飛行機の中は動かなくて良いというか、動きようがないですから、そんな拘束された空間だとなぜか頭の中を整理するのに最適なんです。
IT色の強い六本木や渋谷に対して、ここ秋葉原を「ハードウェアスタートアップの象徴」にしたい
—さまざまなアイディアが生まれる場所として、本日インタビュー会場として利用させて頂いているDMM.make AKIBAは、DMMとABBALab、Cerevoの3社が共同で立ち上げられましたが、そもそもどういった思いでこの場を作られたのでしょうか?開設から1年を経た今のお気持ちも併せてお聞かせください。
岩佐:シンプルにDMM.make AKIBAは、ハードウェアスタートアップのコミュニティにしたいなと思っています。
実は、もともとハードウェアスタートアップに関して、少し危機感があったんです。というのも、Web企業とかアプリ企業とかの、いわゆるIT分野で起業をするスタートアップって、ある種「いいコミュニティ」を作っているんですよね。
渋谷とか六本木って、ITベンチャーの街みたいな感じで。「俺たちはコミュニティの一員だ」みたいな雰囲気をうまく作っているなと当時から思っていました。
でも、ハードウェアスタートアップのコミュニティはなかった。モノづくりをやっている人たちはいたんですけれども、各所に点在していました。
そんな人たちを一同に集めてコミュニティにするような、強力なドライブパワーみたいなものがなかったため、「ハードウェアスタートアップの相談があるならアキバに来なよ!」というような意気込みで、DMM.make AKIBAというコミュニティを作ったという感じです。
▲オープン時のTVCM。ビートたけしさんに施設各所を案内する岩佐さんが印象的でした
また、DMM.make AKIBAは、コミュニティだけでなく「モノづくりの拠点を作りたい」という思いもあります。
フリーアドレス型のオフィススペースや個室のオフィススペースもありながら、3Dプリンターやレーザーカッターなど、個人では購入できないような設備を揃えています。モノづくりをトータルでサポートする総合施設が、DMM.make AKIBAですね。
—秋葉原という場所にも、やはりこだわりはあるのでしょうか?
岩佐:確かに秋葉原は電子部品が必要になればすぐ買えるし、海外の工場に出張という時も成田や羽田に行きやすい立地ですね。
六本木ヒルズとかは、ITコミュニティの象徴じゃないですか。DMM.make AKIBAもハードウェアスタートアップの象徴になって、ここを軸にしてコミュニティを築いていきたいというのは一番最初に考えたことでした。
ただ、場所にこだわりがあるというワケではありません。要するに土地のカラーがついていないところがいいなと思っていて、秋葉原は既に「電子機器」というカラーが付いていましたが、それをエクスパンドするような形で持ってきただけなんですよね。
六本木はIT、表参道はファッション、日本橋兜町は金融街というようにカラーがついていますよね。そういった強いコミュニティのカラーを秋葉原につけていきたいと思っています。
—なるほど。では、DMM.make AKIBAについて今後どのような将来像を描いてらっしゃるのか教えてください
岩佐:ここに揃っている機材は、本気で量産を考えて製品を作っている人たちの助けになるようなものばかりだと自負しています。だからこそ、それらをベースに東京でモノづくりに従事している人たちのクオリティを上げたいと思っています。
また、アメリカ・シリコンバレーくらいの規模を持ったファンド感のあるものが、ここ東京・秋葉原のコミュニティからもたくさん生まれることを今後数年の目標にしたいと思っています。
—なるほど。本日は、ハードウェアスタートアップの今後のあり方、岩佐さんのモノづくりの姿勢、コミュニティづくりなど、多くのエンジニアにとって参考になるお話を伺うことができました。ありがとうございました!
▼前編をご覧になっていない方はこちら
私が0→1にする仕事を選んだ理由。ネット×家電で未来を創るCerevo 岩佐琢磨の仕事論【前編】
岩佐 琢磨さん
株式会社Cerevo 代表取締役
1978年生まれ、立命館大学大学院理工学研究科修了。松下電器産業(現:パナソニック)にて商品企画に携わる。同社を退職後ハードウェアスタートアップ株式会社Cerevoを立ち上げ、世界初のUstream配信機能付きカメラ「CEREVO CAM」や、既存のビデオカメラでライブ配信を可能にする配信機器「LiveShell」などを開発・販売。