今やテレビで見ない日はないと言っても過言ではないほどの人気を誇る、芸人のチョコレートプラネット。長田庄平さんと松尾駿さんの2人が得意とする演劇的なコントに登場するのは、長田さんが製作するオリジナルの小道具や衣装です。数々の賞レースを勝ち抜いてきた「実力派芸人」である彼らのコントに欠かせないモノづくりは、どのようにして生まれてきたのでしょうか? 今回は長田さんの作業部屋にお邪魔して、モノづくりのヒントを伺いました。
長田庄平(おさだ しょうへい)
1980年1月28日生まれ、京都府出身。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。嵯峨美術短期大学(現:嵯峨芸術大学)でプロダクトデザインを学んだあと、陶芸教室などでアルバイトを経験し、25 歳で芸人になるために上京。相方である松尾駿と吉本総合芸能学院(NSC)東京校で出会い、2006年にコンビを結成。2015年に「NHK新人お笑い大賞」を受賞。2008年、2014年、2018年に「キングオブコント」で決勝に進出している。
気づけば、いつも身近には「モノづくり」があった
――長田さんは、いつ頃からモノづくりに興味を持ちましたか?
長田:物心が付いたときからですね。幼稚園生くらいから、機械部品を作る職人だった爺ちゃんに、いろいろなモノづくりを教わったんです。爺ちゃん、モノづくりが趣味だったから。小学生のときには、爺ちゃんのアイディアで木板をくり抜いて「どうぶつパズル」を一緒に作ったりしたこともあったなぁと。実家の町工場には、電動ノコギリとかいろいろな種類の道具が置いてあって、子供のときからそういう道具は使い慣れていました。
――お爺さんの影響が大きかったんですね。
長田:そうですね。それに、親父からの影響もあると思います。電機系の会社に勤める親父が「マルチACアダプター」とか「モーター付き電動簡易シャワー」を自作する姿を見て育っているので。家族でアウトドアに行くときにも、親父の作った物が毎回登場していたんですよね。今でもよく覚えているのは、エアーマットの上にパイプでブランコを組んだ「海でできるブランコ」。それは1回使って、速攻沈みましたけど(笑)。
芸人になる前は、陶芸教室でアルバイトをしていた長田さん。
――そんなに大掛かりな物を自作していたんですね(笑)。そういう環境のなかでモノづくりに夢中になっていったんですか?
長田:うーん。めちゃめちゃのめり込んでいたかと言われると、芸人になるまで、そんなにのめり込んでいたわけじゃないんですよね……。基本的にモノづくりは好きで、自分の思い通りに新しい物が完成すると嬉しくて。でも、当時は自主的にじゃなくて、周りから誘われたら作るような感じでした。 今のように「コントで必要だから作る」とかの目的があって、「これができたら面白いだろうなぁ」と考えて作っていたわけじゃありません。当時は、作りたい物を自由奔放に作っていて。今のほうがオリジナリティの高い物を作っていると思いますよ。
――モノづくりが得意な自覚はあったんですか?
長田:いやいや、そんな自覚は全くないですね! 「手先が器用」とか言われはじめたのは芸人になってからですよ。高校を卒業したあとは美大に進みましたけど、美術の成績が特別良かったわけでもなく、ただ勉強が嫌いで、なんとなく好きだった美術系に進んだだけなんです。
「手に入らないなら作ってみよう」が小道具づくりのきっかけに
――美大卒業後は陶芸教室などで働いたあと、芸人になるために25歳で上京されたそうですね。どうして、いきなり芸人になろうと思ったんですか?
長田:「孫に話せるようなエピソードトークを作ろう」と思ったからですね。中流家庭に生まれた僕は、それまで何の苦労もなく「普通の状態」でなんとなく生きてきて。でも、23歳くらいで自分の将来をふと考えたとき、「このまま町工場を継いで、普通に働いて結婚して、子ども育てて死んでいくのか……」と想像したら、「孫に話すエピソードトーク少なっ!」と思って。だから、お爺ちゃんになったときに話せる“人生のネタ”を作ろうと思って、芸人を目指しはじめたんです。
――なるほど。よしもとの養成所に入ってから、すぐに小道具を作りはじめたんですか?
長田:いや、本格的に作りはじめたのは、今の相方と組んでコントをやり出してからですね。もともと、ダウンタウンさんの『ごっつええ感じ』のコントが好きで、そのなかでもとくに好きだったのが奇抜な小道具が出てくるコント。そういうネタをやりたいと思ったんですけど、そのための小道具や衣装を外注できなかった。だから、「自分で作ってみよう」とはじめたのが小道具作りのきっかけでした。
――とくに思い入れのある小道具は何ですか?
長田:『業者』というコントのために作った『ポテチクリーナー』は自信作ですね。「小道具を作ってからネタを考える」こともありますが、これはネタを考えてから作っています。CADが使えないので設計図はほとんど書かず、頭に思い浮かんだモノを1週間くらいかけてゼロから作ったんです。
コント『業者』に登場する自作小道具『ポテチクリーナー』
――想像だけで作れるなんて、すごいですね! コントでは、機械に挟んだポテチの袋が自動で移動しましたけど、その部分はどうなっているんですか?
長田:ミニ四駆のタイヤを使っていて、モーターから組み立てています。袋が通り過ぎるスピード感を意識して、モーターの速度を何度も調節しながら作ったんです。機械系の小道具を作れるのは、親父のモノづくりを見ていた影響があるのかなと。なかなかウケたし、注目される小道具になったので、めちゃめちゃ嬉しかったです。
――完成度が高くて、コントを見たあとに手作りだと知って衝撃を受けました。
長田:周りから「クオリティが高い」と言ってもらえる嬉しさがある一方、市販品だと思われるのが、ちょっと悔しいんですよね。「芸人が小道具を自作している」ことに面白さがあると思うので。そういう経験をしつつ、モノづくりにのめり込んでいって、本当にたくさんの小道具を作ってきたなと思います。
ウケるために「存在感」を考えながら小道具を作る
コント『棟梁』に登場する自作小道具『Mac型ノコギリ』
――そこに置いてある『Macのキーボード』も気になるんですけど……
長田:これ、作るのに苦労したんですよ。意識高い系の棟梁が登場する『棟梁』というコントで使う小道具で、そのキャラクターだったらやっぱりMacは使っているだろうなと。そんな発想からできたのが『Mac型ノコギリ』。キーボードの裏側にノコギリをつけたんですけど、それを出し入れするための「レバーの穴」を削るのが大変でした。
――こういうアイディアのインスピレーションって、どんなときに湧いてくるのでしょう?
長田:本当にまちまちですね。風呂に入っているときやテレビ見ているときに、ふっと出てくるので。ただ、アイディアが浮かばないときもあって、そのときはもう寝ます。芸人になって、ゼロからネタを考えて作ろうとしたら、しんどくて。僕はゼロからガーッと組み立てていくタイプじゃない。パッと思いつかないと何もできないから、それまで待っています。
――思いついたあとは、どうしているんですか?
長田:アイディアになりそうな種を見つけたら、スマホにすぐメモして、そこから膨らませていくんです。頭のなかである程度の完成図を思い描けたら、メモを見返しながら試行錯誤しつつ作っていく。そのなかで偶然、想像以上の物が完成することもあって、「あ、こうなるのか!」とすごく嬉しくなります。ちなみに、これもゼロから考えて作った小道具なんですけど……。
――これは何でしょう?
長田:『ペットボトルを立てるだけのマシーン』ですね。コントでは、工事現場で「炭酸飲料が爆発物」の設定になっていて、素手で扱うのは危ないからと、これを使いました。
長田:まず、ペットボトルが、こんなふうに倒れているとしますよね?
長田:キャップ部分に紐を引っ掛けます。
長田:その紐と繋がったチェーンが自動で巻き取っていくと……。
――(少しずつ起き上がっていく様子を取材スタッフ一同見守る)
長田:引っ張られたペットボトルが少しづつ起き上がってきて……。
小道具『ペットボトルを立てるだけのマシーン』は、ペットボトルを立てる以外にも、カップラーメンの蓋を開ける機能がついている。
長田:最終的に立ち上がるんです!
――おぉーすごい!! こんなふうに説明してもらうと、工夫されている部分がわかりますね。ただ、コントのなかだけで見たら、小道具のすごさが伝わり切らないかもなと……。
長田:そこがジレンマなんです。あまりにも伝わり過ぎると面白くないので。僕の作った小道具は主張しすぎず、「コント」という嘘の世界の中に「リアルに存在している物」としてあって欲しい。だから僕は、モノづくりで「コントのなかでどういう存在感にするか」を大事にしています。たとえば、このマシーンだったら、存在感はあるけど溶け込むように作るんです。実際の工事現場でも、そこにある道具は「当然のようにある物」として見られていると思うので。ひたすら「コントがウケる」ことを目的にモノづくりしていますね。
「こんなんあったら面白いなぁ」からはじまるモノづくり
都内某所にある長田さんの作業場には、様々な工具やこれまでに作った作品が飾ってある。
――吉本興業公式スマホサイト「ケータイよしもと」では、長田さんがオリジナルグッズを作る『こんなんあったらええなぁ』という連載がスタートしましたね。
長田:自分の好きな「モノづくり」をコンテンツにしてみようと思って。日常生活のなかで「こんなんあったらええなぁ」と思った物をいろいろ作ってみて、今まで見たこともない物がうまく完成するたびに面白いなと思います。
――今まではコントのための小道具を作っていたことが多かったようですが、このサイトにもあるように、最近は商品化を目指してモノづくりをされているようですね。作り方や視点は変わっているのでしょうか?
長田:いえ、僕の中ではコントで作るモノも商品化を目指すモノも、考え方は同じ。「面白い」モノが作りたい、というだけなんです。
長田さん自作の『ノータッチリング』
――なるほど。最近、作られた『ノータッチリング』は、グッドデザイン賞の一次審査を通過したとのことで、とても気になります。
長田:これは新型コロナウイルスの対策グッズで、エレベーターのスイッチやドアノブを直接触りたくないとき、指にはめて使う物ですね。
――キーホルダー型は見たことがありますが、リング型ははじめて見ました。
長田:キーホルダー型だと、外出先で取り出すのがめんどくさいなと思って。指にはめておけば、とっさのタイミングでも、パッと使えて便利じゃないですか。それに、スイッチやドアノブを傷つけないように「木製」にして、抗菌作用もあったほうがいいだろうと「柿渋」で塗装コーティングしています。結果、プラスチックや金属に比べて、優しい見た目にもなりました。
『ノータッチリング』は2020年のグッドデザイン賞一次審査を通過した。
――これは作るのにどれぐらいの時間がかかったのですか?
木の円盤を切って削って、穴を開けて、成形するのに30分ぐらい。その後、コーティングして乾かすのに少し時間がかかりました。
――すごい、そんなに早くできるんですね! でも、こういう奇想天外なアイディアって、どうして出てくるんですか?
長田:小道具作りをはじめてから、こういうことばっかり考えているからだと思いますよ。モノづくりは、ネタを作る過程のひとつなんです。「こういうシチュエーションがあったら面白いなぁ」からネタを作って小道具を作っていったり、「こういう小道具があったら面白いなぁ」からネタを作っていったり。そんなふうに「モノづくりする」ことを考えているのではなく、常に「ネタを作ること」を考えている状態から、新しい物が誕生しました。 だから、小道具もそれ以外のグッズも、僕のなかでは全部が“ネタ”。「こんなんあったら面白いなぁ」と思う物を作りたいだけなんですよね。「これはいらないだろう」と思われる全然便利じゃない物をすごいクオリティで作ることが、ボケになって面白くなるので。
「無駄な物」で笑える世の中にしたい
――いろんな物を作ってきた長田さんですが、i:Engineerの読者でもある、モノづくりエンジニアの人たちには、どんなイメージを持っていますか?
長田:「世の中の規格」を作っている感じがして、すごいなと思います。また、作っている人たちが「それを全世界に広めてやるぞ!」っていう熱量を感じるんです。そういう熱い思いがカッコいいなと。
――たしかに。世の中に広めて、生活に定着させることってすごいことですよね。
それだけじゃなくて、その人たちにしか作れないモノを作っているのもカッコいいんですよね。例えば、イスは職人レベルまでいかなくても、一応作ることができるけれど、ビデオデッキは作れないじゃないですか。「誰でも作れるわけじゃない物」を機電エンジニアの人たちは作っている。
――では、機電系エンジニアの知識や技術があったら、どんな物を作ってみたいですか?
長田:そうですね。作りたい物はいろいろあって、たとえばロボット系の物を作ってみたいです。今までのグッズにしても、より精巧な物や、もっと違うギミック(仕組み)の物にしてみたいですね。 「ハイテクな拷問器具」も作ってみたい。「拷問器具がハイテクだったら」という設定のコントで、実際にそういう小道具を作ったことがあるんですよ。でも、持っている技術の限界でしか作れなかった。拷問のようにアナログに存在してきたモノをハイテクにするとどうなるんだろうって。
――おもしろそう(笑)。
長田:他には「どんな乗り物?」「それいる?」と言われそうな面白い乗り物を作ってみたいですね。たとえば、田植えマシーンみたいなテイストで、全く意味のない乗り物とか。とんでもなくゴツくて、天井の電球を交換するだけのマシーンとか。そんなふうに大掛かりなマシーンのほうが面白いし、大掛かりで細かい作業をするのが結構好きなので。
――そのマシーン、見てみたいです(笑)。最後に、モノづくりを通じて世の中に何を伝えていきたいですか?
長田:僕の作るモノは、世の中にとって必ずしも必要のないものばかり。『ポテチクリーナー』とか『ペットボトルを立てるだけのマシーン』とか……でも無駄な物で笑える面白さってあると思うんです。それらが実際に販売されていたら面白いだろうなと思うし、世の中に、そういう“全く売れない無駄な物”があってもいいんじゃないかって思う。それで、みんなが笑い合えるような「ゆとりのある生活」につながったら嬉しいですね。
モノづくりの先にあるおもしろさを求めて、日々自作を続ける長田さん。日常に潜む小さなアイデアの種は、誰も見たことがない新しいモノへ生まれ変わり、多くの人を笑顔にしています。 しかし、それは、決してTVの中だけの話ではありません。 そんなモノづくりにまつわるストーリーは、私たちの身の回りでも繰り広げられているのです。
撮影:岡田佳那子
取材+文:流石香織