東日本大震災が、僕に教えてくれたこと。Code for Japan関治之が「シビックテック」に向き合うワケ

2011年3月11日。多くの人々にとって、忘れることのできない日。
そう、東日本大震災が発生した日です。

実際に地震の被害を受けて、テレビやインターネットなどで被災地の悲惨な状況を目にして、あなたはどんなことを考えたか覚えていますか? きっと正義感の強い方は「なんとかして被災地の方々の力になりたい」と思ったのではないでしょうか。今回ご登場いただく関治之さんも、そう思い、実際に行動に移したエンジニアの1人です。

彼は東日本大震災発生後、被災地周辺情報を収集し公開するためのプラットフォーム「sinsai.info」の立ち上げに携わりました。そして現在は、市民参加型のコミュニティ運営を通じ、テクノロジーを活用して地域の課題を解決する非営利団体「Code for Japan」の代表理事を務めています。

実は、Code for Japanの活動には、彼が震災時に経験したことが大きく影響しているのだといいます。その経験とは果たして何なのでしょうか? そして、彼が実現しようとしている未来とは?

「エンジニアリングで人助けをしたい」と思っている方にこそ、読んでいただきたいストーリーです。

東日本大震災。現地に足を運んだからこそ、わかったこと

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――関さんは東日本大震災の発生後、「sinsai.info」の立ち上げに携わりました。このサイトは多くの方に利用され、話題にもなりましたが、このサービスを作り上げたことによる“達成感”のようなものは感じましたか?

関:いえ。それは感じませんでした。

――えっ!? それはなぜでしょうか?

関:sinsai.infoは、多くの方からの反響があったことは確かです。でも、「このサービスは、地震の被害が大きい地域の方々にとって、実は役に立っていないのではないだろうか」という考えを私は持っていました。なぜなら、被災者は当時インターネットも使えないような状況だったわけで、sinsai.infoに集められた情報を見ることができなかったと思うんです。

それこそ、食料を少しでも多く現地に運んでいったり、泥かきみたいな肉体労働をしたりする方がよっぽど役に立ったでしょう。エンジニアって、こういう時になんて無力なんだろうと痛感しました。

――そうだったのですか……。エンジニアとして、震災の被害にどう向き合っていくか、すごく葛藤があったのですね。

関:そうなんです。だからこそ私は、実際に被災地を訪れてみることにしました。すると、被害の大きな地域は、やはりITで課題を解決するのは難しかったです。けれど一方で、被災地支援を行う人が各地から集まるボランティアセンターには、ITで解決できる課題がたくさんあることもわかりました。

例えば、Webサイトを更新したいとか、ボランティアの名簿管理が上手くいっていないので整理したいとか。こうした課題を解決するために、エンジニアとして手助けをしたらすごく喜んでもらえました。

――その経験から、どのようなことを学びましたか?

関:現場のニーズに寄り添って、どういうことに困っているのかを理解しなければ、本当の意味で人の役に立つものは作れないと痛感しました。独りよがりに「きっと、こういうものが必要だろう」と考えて作っても、それはやっぱり使われない。人にちゃんと話を聞きにいくとか、ニーズを当事者と一緒に考えるといったことをしなければダメだと身をもって理解できたんです。その意識が、私が代表理事を務めるCode for Japanの設立につながってきます。

「ITを活用していくには、行政との連携が欠かせない」

――Code for Japanの設立にまつわるエピソード、ぜひ聞かせてほしいです。

関:被災地でさまざまな活動を続けていく中で、「ITを活用していくには、行政との連携が欠かせない」と感じるようになったんです。それができていなければ、ボランティアがいくら一生懸命に何かを作っても、なかなか運用できないしデータも集まらないという事態は頻繁に起こります。だからこそ、今度同じような震災が起きたときに備えるには、行政と連携できるエコシステムを作り上げる必要があると考えました。

そう考えていたある日、アメリカの各自治体にボランティアのITエンジニアを送りこんで手助けをするCode for Americaという団体を見つけたんです。それを知って、「民間の人々が団体を作り、行政との協力体制を作ることもできるんだ」と思いました。だったら自分もやってみよういうことで、Code for Japanを立ち上げたんです。

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▲Code for Japan公式WebサイトのABOUT USページ(http://code4japan.org/aboutus)より画像引用。

――現在では、日本各地にCode for 〇〇と呼ばれるコミュニティができていますが、Code for Japanはそれらを統括する役割をしているのでしょうか?

関:いえ、統括するというのはちょっと違いますね。全国各地のCode for 〇〇は独立して動いています。基本的に私たちは指示を出さず、各地の活動を「つなげている」という感じです。

1つひとつの活動は単体だと力が弱いものでも、協力し合えば大きな力になります。Code for Americaから仕入れた情報を拡散したり、イベントを開催してメンバーのみんなが事例を発表する場を作ったり。各団体の活動がよりやりやすくなるように手助けをしています。

――全国各地で生まれている面白い事例は、何かありますか?

関:Code for Kanazawaが良い例かもしれません。金沢市は行政がITにとても理解があり、いろいろなオープンデータを提供してくれるので非常にコミュニティが盛り上がっています。有名になったのは、「5374(ゴミナシ)」というアプリケーション。これはゴミの日とジャンルを優れたUIで表示してくれるもので、その便利さが認められて徐々に各地へ普及しています。

あとは、「のとノットアローン」というアプリケーションも生み出しています。これは、ママたちが持つ「子育てイベントや子育てについて相談する場所をもっと知りたい」という課題を解決するため、Code for Kanazawaの方々がママたちと一緒にディスカッションして企画を出し、開発しました。

このように、市民自身がテクノロジーを活用して地域の課題を解決することを、私たちは「シビックテック」と呼んでいます。この概念が、もっと多くの人たちに広がっていけばいいなと考えています。

――今後、シビックテックをより広げていくために、具体的にはどのような活動をしていきたいですか?

関:全国各地にCode for ○○という団体は少しずつ増えてきたので、今後は各団体の活動がより活性化できるように手助けをしていきたいです。

行政や地域NPOとの連携を強化したり、より刷新的な課題解決をしていったり。地域創生の活動の中心に、全国各地のCode for 〇〇がいる状態が実現できたら嬉しいですね。

加えて、行政のITリテラシーを向上させることも大切だと思っています。テクノロジーの価値や使い方を行政に理解してもらえなければ、エンジニアがどんなに良いものを作っても意味がないですから。それを実現するために、私たちは「フェローシップ」という、外部人材を自治体に送るというプログラムを実施しています。この活動も少しずつ広まってきているので、より活発化していきたいです。

全ては、“Will”のために

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――関さんのように、エンジニアが「地域の課題」に貢献していくためには、どのような働き方をしていけばいいのでしょうか?

関:いきなり会社を辞めてこういった活動をするのは無理があると思うので、まずは「二本足になる」ということが大事だと思います。つまり、本業とは別にもう1つ、自分の心が動き、社会にも貢献できるような活動を見つけてほしいです。

色々な軸を作っておくと、人生の選択肢も増えますし、エンジニアとしてのスキルも上がります。そうした生き方をすればエンジニア自身も幸せになりますし、地域の課題もよりスムーズに解決できるようになるのではないでしょうか。

先ほど話に出てきたCode for Americaが素晴らしいなあと思うのが、同団体のフェローシップに参加する人って、元NASAとか、元Googleとかの優秀なエンジニアたちが仕事をいったん辞めて来ている場合が多いんですよ。みんな純粋に「地域の課題を解決したい」というエネルギーを持って参加しているんだそうです。それってすごいことじゃないですか。

会社に雇われて、働いてご飯を食べていくためだけに仕事をするのではなく、“Will”のためにエンジニアのスキルを使う。それって本当に価値のあることだと私は思っています。

Will × テクノロジー = “無限の可能性”

かつて、東日本大震災をきっかけに、エンジニアとしての存在意義を自問自答した関さん。彼が導き出した答えはやがて「シビックテック」という概念とつながり、その想いに賛同した多くの人々によって、活動の規模は広がり続けています。

「困っている人を助けたい」
「地域の課題を解決したい」

こうした情熱を持ったエンジニアが、人助けのためにそのスキルを発揮するからこそ、誰もが想像できなかったような無限の可能性が生まれていくのではないでしょうか。

取材協力:Code for Japan

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