CTOですけど、脚本や編集の本も愛読書です。クリエイターエージェント企業「コルク」の萬田大作さんの本棚をのぞいてみよう

漫画家や小説家といったクリエイターたちのエージェント事業を行っている株式会社コルク。従来の出版社や編プロと違うのが、その手法。

たとえば『さくらん』『働きマン』の作者である安野モヨコさんが描いた「おいらん」の原画を、アメリカ・ホノルル美術館のパーマネントコレクションに加える交渉をしたり。本以外のカタチで作家の頭の中にある世界をパブリッシュするという、ありそうでなかった事業を展開しています。

そんな同社で、2016年10月に大きな出来事が起こりました。それは、取締役CTOである萬田大作(@daisakku)さんの就任。ナビタイムでの経路エンジンの研究開発、フューチャーでのITコンサルタント業務、リクルートでの新規事業の立ち上げなど、華々しいキャリアを持ったエンジニアです。

実は、萬田さん、無類の本好き。彼のキャリアや経歴を語る上で、「本」というキーワードを外すことはできないと言います。コルクへの入社を決めた理由も、本と作家への想いが大きく関係しているそうです。

今回は、萬田さんが同社へCTOとして就任したきっかけ。そして、萬田さんが影響を受けた4冊の書籍を紹介していきます。

無類の本好きが故、コルクに入社することは必然だった

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―萬田さんは、何をきっかけにしてコルクのCTOとして就任することを決めたのでしょうか?

萬田:インテリジェンスが主催する「dots. Conference spring 2016」というイベントに参加した際に、そこで講演していたコルクの代表取締役社長である佐渡島を知人に紹介されたことがきっかけです。彼はちょうどCTOになってくれそうな人材を探していたので、僕の経歴に興味をもって声をかけてくれました。当時、他にもスタートアップに誘っていただいていたのですが、コルクがやっている事業と、CTOという役職に面白さを感じて入社を決心したんです。

― いくつか誘われていた中から、コルクに行くことを決めた理由は?

萬田:まずは、佐渡島の持っていた熱い志に胸を打たれたこと。話を聞いているうちに、この事業には可能性があふれていると思うようになりました。

それから、コルクの事業内容を聞いたとき「そういえば、自分は昔から本が大好きだった」と気づかされたんです。本やその作家を支援できる仕事に携われることは、ものすごく魅力的だと感じて。

作品を創るクリエイターたちは天才です、僕たちと違って。コルクで言えば、三田紀房さんみたいにドラゴン桜の着想はそもそも得られないし、小山宙哉さんみたいに宇宙兄弟の美しい世界観を描けない。安野モヨコさんなんて、言わずもがな(笑)。

そんな天才たちを、僕が培ってきたテクノロジーの力でサポートできるって素敵じゃないですか。そう思ったからこそ、「作家の才能を最大化する」というコルクのマインドに心を動かされて働くことを決めたんです。

―本を愛していたからこそ、コルクへの入社を決めた……。萬田さんにとって、本は無くてはならない存在なのですね。これまで読んできた書籍の中で、オススメのものをご紹介して頂くことはできますか?

萬田:もちろんです!それでは、ご紹介していきましょうか。

エンジニアの仕事って格好いい。キャリアの方向性を決定づけた『闘うプログラマー』

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―1冊目は、G.パスカル・ザカリーの『闘うプログラマー』。これはどういった本なのでしょうか?

萬田:ビル・ゲイツの夢を実現するために、マイクロソフトに引き抜かれた伝説のプログラマー「デビッド・カトラー」のキャリアが描かれている本です。彼は、Microsoft Windows NTというOSの開発設計者。Windows OSの基礎を作りあげた人物といっても過言ではありません。

―この本のどういった部分に魅力を感じたのですか?

萬田:この本には、「プロダクトを作りあげて、世の中に良いものを提供する」という“戦うエンジニア像”が描かれており、本当に格好よかったんです。それに憧れて「自分もこういう仕事をやってみたい」と強く思うようになりました。エンジニアの思考や行動特性を、非常によく表現している本です。

―それをきっかけとして、萬田さんはエンジニアとしてのキャリアをスタートさせたのですね。

萬田:その通りです。この本と出会うまで、IT業界に就職したいという漠然とした想いはあったのですが、「〇〇になりたい」という明確な目標はありませんでした。その出会いがあったからこそ、今の自分のキャリアがあると思っています。

忙しい中でも読書を続けるために、「本を編集しながら読む」ことを学んだ『多読術』

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―松岡正剛さんの『多読術』。これはどのような本なのでしょうか?

萬田:効率的に読書をする方法を紹介している本です。これと出会った当時、僕はITコンサルタントの仕事をしていたのですが、毎日本当に忙しくてなかなか読書の時間が取れずにいました。僕は年間100~150冊くらい本を読むので、その状況がストレスになっていて……。そんな頃に、この書籍と出会ったのです。

―具体的には、どのような方法が書かれているのですか?

萬田:「本を編集しながら読む」ということが提唱されています。どういうことかというと、重要な文章に線を引いたり、丸で囲んだりして、本をノートのように使うのです。例えばこのような感じに。

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―確かに、紙面に線や丸がたくさん書きこまれていますね。

萬田:こうすることで、本の中でどの箇所が重要なのかクリアになり、読書を効率化できます。この手法と出会ったおかげで、本を読む量を減らさずに済みました。忙しかった自分を救ってくれたこの書籍には、本当に感謝しています。

経営とスクラム開発は似ている。組織運営のあり方を示す『流れを経営する―持続的イノベーション企業の動態理論』

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萬田:次は、遠山亮子さん、平田透さん、野中郁次郎さん共著の『流れを経営する ―持続的イノベーション企業の動態理論』です。この本は、経営という分野において「どうすれば各人の持つ知恵が、組織の中で上手く伝搬されるのか」にフォーカスを当てて解説しています。

―エンジニアとして働くだけならば、経営の本を読む必要はあまりないかと思います。なぜこのような本に興味を持たれたのでしょうか?

萬田:この本を読んでいた当時、実は「起業したい」という気持ちを持っていたのです。だからこそ、経営に関する書籍に強く興味がありました。この本を読んで、僕は経営とスクラム開発が非常に似ていることに気づきまして。

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―経営とスクラム開発が似ている……ですか。全く異なる分野に思えるのですが。

萬田:この本には、「短い期間で少人数のチームで知恵を生み出せば、より効率良くそれが伝搬できる」という考え方が、事例とともに書かれているんです。つまり、経営において組織を上手く運営していくには、改善のサイクルを回し続けられるコンパクトな体制が望ましいということ。これってスクラム開発と考え方は同じですよね。

だから僕は、普段からスクラム開発の体制下で仕事をしているエンジニアの人たちは、経営もできると思っています。一見すると全く別物のように思える経営とスクラム開発ですが、その根幹にある“真理”は共通しているんです。

最後にコルクっぽい本も紹介!コンテンツ制作の“型”を学べる『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと』

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―最後は、映画の脚本制作に関する本。シド・フィールドの『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと』ですか。

萬田:はい。これはぜひ、コルクに入社する人に読んでおいてもらいたい本です。映画という分野では「良いシナリオのパターン」のようなものが定型化されているのですが、その型が解説されています。この本は、映画に限らずあらゆるコンテンツを作る人にとって基本になるので、読んでおいて損はありません。

―なるほど。それは参考になりそうです。改めて、今回ご紹介して頂いた本を振り返ってみると、そのジャンルは本当に多岐に渡っていますね。

萬田:そうですね。自分でもこうして俯瞰してみると、時系列に沿って読む本が随分変化しているように感じます。昔は、エンジニアリングに関するもの、効率良い読書法など、「自分のための」本を読んでいました。

ですが次第に、会社経営の本であったり、クリエイター視点に立った本であったりと「他の人のための」本を読むようになったような気がします。

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▲コルクでマネジメントを行っている作家の中でも、萬田さんの一押しは漫画家の羽賀翔一さん(@hagashoichi)だという。描いた漫画が、メジャーリーガーのダルビッシュ有選手(@faridyu)のTwitterアイコンにも使用されるほどの人気作家だ。

萬田:才能あふれるクリエイターの方々のために仕事ができるのは本当に幸せなことだと思っています。僕はまだコルクに入って間もないですが、彼らがより良いものを生み出せる環境を整えるため、CTOとしてシステム面から、また経営の面からも支えていきたいです。それが、自分の果たすべき役割ですから。

「エンジニアリング×クリエイターの才能」が、まだ見ぬクリエイティブの未来を創り出す

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本に大きな影響を受け、自らのキャリアや価値観を形成してきた萬田さん。そんな彼は、エンジニアとしての能力を、これまで自身を育ててきた本の“作り手”のために捧げることを決めました。

エンジニアリングを通じて、クリエイターの価値を最大化する。

他ならぬ萬田さん自身が、その未来が実現することを一番心待ちにしているのではないでしょうか。

取材協力:株式会社コルク
CTO 萬田大作(@daisakku

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