『「進撃の巨人展」360°体験シアター“哮”』や、『ヤフートレンドコースター』などの体験型プロダクトを生み出している株式会社 dot by dot 。
近年、Oculus社が販売しているVRヘッドセット『Oculus Rift』を用いた体験型プロダクトが増えてきていますが、dot by dot 社はその先駆け的存在であり、生み出した体験型プロダクトはSNS上でも話題になり多くの反響を集めました。
▲『「進撃の巨人展」360°体験シアター“哮”』(©諫山創・講談社/「進撃の巨人展HMD」製作委員会)を体験している様子
私も実際に『「進撃の巨人展」360°体験シアター“哮”』を体験させていただいたのですが、まるで『進撃の巨人』の世界に飛び込んでしまったかのような感覚に陥ります。
360度どこを見回しても巨人が追っかけてくるので、「わっ!」と声が漏れてしまうほど。
どのようにしてこのような体験型プロダクトが生まれたのでしょうか?
今回はdot by dot社にお邪魔し、CEO/プランナーの富永様と、CCO/クリエイティブディレクターの谷口様、CTOのSaqoosha様にインタビューを行いました。
体験型プロダクトを作り出そうと考えたキッカケとは?
▲左からCTOのSaqoosha様、CEO/プランナーの富永様、CCO/クリエイティブディレクターの谷口様、富永様が抱っこしているワンちゃんはマスコットのネロちゃん
—『「進撃の巨人展」360°体験シアター“哮”』や、『ヤフートレンドコースター』などの体験型プロダクトを作り出そうと考えたキッカケをお聞かせください。
谷口様:進撃の巨人に関しては電通さんからVR(バーチャルリアリティ)、すなわち『Oculus Rift』を用いた体験型のコンテンツを作れないかという依頼があったんです。
それまでに『ヤフートレンドコースター』をやっていたのと、進撃の巨人に関するプロジェクトに関わっていたことがあったので、「進撃の巨人+Oculus Rift」といったところでチャレンジさせていただきました。
—『ヤフートレンドコースター』が貴社にとって初めてのVRを用いたコンテンツだった、ということでしょうか??
富永様:そうですね。実は前職時代にYahoo! JAPAN(以下ヤフー)様から『ヤフートレンドコースター』のご依頼を頂く前に、『さわれる検索』というものを手がけていたんです。
ヤフー様には検索やメディアで培った様々なAPIやBIGDATAがあるんで、それらを上手く使いながら、BtoCにヤフーの魅力を訴求しつつ、BtoBに対してもヤフーの広告価値を感じてもらえるようにしようと、博報堂ケトルさんと考えたのが『さわれる検索』なんです。
「見る・聞く」以外にインターネットの可能性を拡げられないかと考えた時に、3Dプリンターと検索エンジンを連動させるアイデアが生まれました。「キリン」と言葉を発すると実際にキリンが3Dプリンターで出力されて『触れる』。音声検索と3Dプリンターを連動させることによって、ネットで使える五感を拡張させるというコンセプトです。
盲学校に試験的に置かせていただいたのですが、盲学校には『触察』といって「触って形を学ぶ」教育方法があるんです。スカイツリーや鳥居って大きすぎて触れないので、形がわからないじゃないですか。「検索エンジン」と「3Dプリンター」を掛け合わせることで、どのような形なのかを触って知ることができますよね。
盲学校に通う学生の方々に喜んで頂けたのと同時に、ヤフー様としては広告枠の拡大に繋がる試みとなりました。例えば映画のプロモーションでキャラクターをプリントアウトできたり、新車の発表会で車のモデルがプリントアウトできたりってことですね。
—その後に依頼があったのが『ヤフートレンドコースター』なのですか??
富永様:そうですね、課題としては一緒で「BtoC・BtoBにおいてのヤフーのプレゼンスを高めて欲しい」ということでした。ただ、『さわれる検索』でいわゆるソーシャルグッド的なことをしたので、もっと笑わせてほしいと(笑)。
「エンターテインメントやってくぞ!!」ってことで作ったのが『ヤフートレンドコースター』でした。
—『ヤフートレンドコースター』という体験型のコンテンツを作るにあたり、苦労はありましたか??
Saqoosha様:色んなことが複雑に絡み合ってるので、そこの調整がとても大変でしたね。ヤフー様の検索システムと、ライド(乗り物)、Oculus Rift、LEDや扇風機など色々な要素が絡み合っているんです。
Saqoosha様:こちらは『ヤフートレンドコースター』のシステム全体の構成図です。全体の設計は私が行いました。体験を順番で説明すると、
1:iPadでキーワードを音声入力
2:Webサーバーに送信して各種APIをつかって情報をまとめる
3:Unityでまとめた情報をもとにコースター形状を生成
4:Unityで物理計算した上でコースターを走らせる。その際、速度や加速度に応じてシミュレータ・Oculus Rift・ファン・LED・炭酸ガス装置といったものを連動して動かす
5:体験中の映像を録画。体験後にWebサーバーに自動的にアップロード
といった流れになります。
個々の機能は(ファンを動かす・LEDを点滅させるなど)それほど難しいものではないのですが、全体が統一していい感じに動くようにまとめるところが一番苦労した点ですね。
自分でシミュレータに乗りながらプログラムをいじってファンの強さを調整したりしました。 必要なところは自分で実装して、足りないところは依頼して、という流れで三ヶ月程で作り上げました。残念ながら今はもう体験できる場所はないのですが……。
富永様:『ヤフートレンドコースター』を始めた当初は、まだVRとシミュレーター(乗り物)を連動させたコンテンツってなかったんですよね。そのあと、遊園地系の会社から「一緒に作ろう」って言われたり、「売ってくれ」って言われたりしました。
嬉しいお話なのですが、「うちは遊園地の乗り物メーカーではないんで……」と断って回りましたね(笑)。
—先程、『「進撃の巨人展」360°体験シアター“哮”』を体験させて頂きました! リアルさにとても驚いたのですが、どのようなコンセプトで生まれたコンテンツなのでしょうか??
Saqoosha様:リアルを目指しているわけではなくて、皆様が思っている『進撃の巨人』の世界を再現するっていうことがその時は重要でした。『アニメの世界の中に入る』というのが最大のコンセプトだったんです。
富永様:言ってしまえば、CGってもっとリアルに近づける事はできるんですよね。もっとリアルにできるんだけれども、求められているのはそこではないので。テレビで見ているあの『進撃の巨人』の世界に入りこむ、というところを特に意識しました。
「アニメの世界に入りこんでもらう」という目的を達成するために、通常のCGというよりも『トゥーンシェーディング』という技術を用いて、アニメの様な感じにするのを注意して作ったんです。
アイデアは「クライアントの課題」から生まれる
—『Oculus Rift』を用いるアイデアはどのようなところから湧いてきたのでしょうか??
谷口様:クライアントワークではありますので、クライアント様が抱えている課題をどのように解決するのかっていうのを常に考えています。その結果生まれるのがアイデアなんです。
技術を当て込もうという風に考えているわけではなくて、『ヤフートレンドコースター』の際は「どうやって体験を深くお客様に体感していただけるか」と考えた時にVRだっただけで、最初からそれを使いたいっていうのはなかったですね。
富永様:僕たちはメディアアーティストっぽいんじゃないかって思われたりするんですけど、意外とそうではないんですよ。普通に広告コンテンツを作成することももちろんあります。
弊社にはテクノロジーに明るい人がメンバーに多いので、クライアント様が望んでいたり、「エンドユーザーがこうなんじゃないか」という考察を経て、テクノロジーを用いた提案をすることはあります。でもなかには全くノンテクノロジーで開発するものももちろんあります。
あくまでも「クライアントが抱える課題に対してどのような答えを出すか」というのを考えぬく。この点はチーム全員で行っていますね。
—最後に、貴社にとってのテクノロジーとは?? また、テクノロジーを通して実現したいことをお聞かせください
Saqoosha様:プログラミングはただのツールなので、馬鹿な企画にも使えるし、『さわれる検索』のように人を助けるようなこともできるので、使いようだと思います。
谷口様:テクノロジーを通して人にワクワクしてもらいたいですし、僕達もワクワクしたい。楽しく仕事できればそれでいいかなと思いますね。
技術は”課題を解決するための手段”
今回のインタビューを通して感じたのは、dot by dot社にとっての『技術』とは「課題を解決するための手段」であるということ。単なる『技術集団』ではなく『技術を活かせる企画集団』といったほうが的を得ているかもしれません。次はどんな施策で私達を”ワクワク”させてくれるのでしょうか。