「PRIDE」という独自のシステム開発方法論を持ち、データ中心アプローチをとる株式会社プライドは、エンタープライズシステム開発の老舗コンサルタント集団です。同社の北村充晴さんは、代表取締役社長となった今でも現場の最前線を支援する現役コンサルタントとしての一面を持っています。
数々の失敗を経たからこそ今の自分があると言う北村さんは、伝統あるものの価値を見つめ直すべきだと主張します。また、プログラマ、SE、コンサルタントと一貫してエンタープライズシステム開発畑を歩んできた北村さんは、「エンジニアは目的志向になるべきだ」とも述べておられます。
北村さんが指摘する目的志向とは何なのか、話を伺います。
独学でBASICを覚えた学生時代
――初めに、IT業界を志した理由を教えてください。
北村:大学の経済政策原理というゼミで、様々な経済指標をマクロ的に分析する研究で統計処理が必須だったんです。コンピュータを多少は使っていましたが、手入力をしたり電卓を使ったりといった作業があって、すごく手間がかかっていました。
何か良い方法はないかと探していたら、大学にFORTRUNやBASICを勉強できる環境があったんです。これらのプログラミング言語を組み合わせて自動化したり、いろんなアルゴリズムを実装したり、そうしたことに没頭するうちにこの仕事は面白いなと思うようになったんです。
――なぜFORTRUNやBASICを使えたんですか?
北村:FORTRUNは大学の授業で習いました。BASICはマニュアルを見ながら独学で学びました。興味はなかったんですが、手段として仕方なく始めたんです。だけどプログラムをいろいろ組んでいるうちに没頭しちゃいましたね。
当時、今から30年くらい前ですが、僕が就職する頃はバブル期だったので、みんな金融に就職したり大手メーカーに行ったりするのが普通でした。当時、プログラマには「35歳定年説」があったんです。「やめておけ」とアドバイスをくれる人もいたんですが、面白く、将来性を感じたんです。まあ、若気の至りですね。
35歳定年説のあったプログラミングの世界へ
――最初はどういった会社に就職したんですか?
北村:プログラマとして独立系のシステム開発会社(SIer)に就職しました。新人の頃は自分のもとに届く仕様書のとおりにコードを書いていました。そのうち制御系のシステムを構築することになり、OSに近いところに関わりました。ただ、途中で制御系に進むのかアプリ開発をするのかという選択に迫られ、アプリ開発を選んだんです。やはりユーザーに対して何かを提案するほうが好きだったからです。
そして要件定義や設計というより上流の工程に携わるようになり、上流に強く、独自の開発方法論を持つ株式会社プライドに移ることにしました。今から20年くらい前のことで、当時はデータを中心として科学的にシステムを構築しようという潮流があり、その担い手がプライドだったんです。
――プライドに入社してから、特に印象深いプロジェクトはありましたか?
北村:やはり、最初にやった仕事ですね。近畿地方の製造業のお客さんのところに行って、初めて方法論をベースとしたコンサルティングをやることになり、自分の親くらい年配の先輩コンサルタントに、叱られながら何とかやり抜きました。
前職でいろいろ経験してきたつもりだったんですが、やはり考えていることの幅や理屈がまったく違うし、お客さんをちゃんとコントロールできないといけないので、そのへんの力はまったく足りないという感触がありましたね。
数々の失敗が今の自分をつくった
――仕事で失敗したことはありますか?
北村:たくさんあります。大風呂敷を広げすぎたりして、お客さんに無駄な調査をさせてしまったことも多々あります。反省すべきところはたくさんあると思っています。
もっとわかりやすい大失敗もあります。鉄道会社の自動改札機を止めて、朝、長蛇の列をつくってしまいました。謝りながら手作業でリカバリーするのは辛かったですね。試行だったのですが、どれだけ謝っても済まないだろうなと思いながらの作業でした。
――ひと通り失敗はされているんですね。今の若い人は失敗を恐れないとか、逆に委縮してしまいやすいとか、そういう傾向はありますか?
北村:上下関係を超えて、無礼講で議論する機会が減ったかもしれませんね。僕らが若いときは、先輩のコンサルタントが何か言っても、「違う」と思ったら議論をふっかけたり、お客さんがOKだったら先輩の意見を無視したりとか平気でやっていました。そういうのが今はないですね。ないほうがいいんでしょうが、全然ないのもどうかなと思いますね。
――もう少し自我を出してほしいという感じですか?
北村:そうですね、仕事は自己実現の場なので。自分なりに責任を持つ代わりに「衝突してでもやる」という気概はあってもいいと思います。見ている範囲が狭いので何とも言えないですが、もうちょっと自分の思うようにやったらどうかなという感じはあります。僕らも失敗したことをごちゃごちゃ言いすぎてはダメですよね。
エンジニアは目的志向になれ
――数々の経験を重ねていらしたわけですが、エンジニアにはどんな考え方が必要だと思いますか?
北村:言われたことをやっていてはダメです。相手の問題を現実のこととして捉え、IT以上の高い視点から考えて解決に導くんです。理論に基づいて解決策を導き出すのがエンジニアだと思います。どうしても大事なのは、問題を解決できる発想力です。
G.M.ワインバーグに『ライト、ついてますか』という著書があります。そこに出てくるエピソードで、エレベータを制御する仕組みをつくったときに、「このエレベータには待ち時間が長い」という苦情が出たというものがあります。そこで、台数を増やしたり制御の方法を変えたりしてコストを比較するんですが、結局何がいちばん効果的だったかと言えば、エレベータの隣に鏡を置いたことです。みんな鏡を見るので待つ時間を忘れ、ストレス解消につながったんです。その人の課題や目的を、視点を上げて高座から見ることが大事なんですね。ひと言で言えば「目的志向」になることです。何の目的でそれをやるのかを常に意識するのです。
それから、言われたことをやるというのは、やはり自我がないんです。問題に対して自分の裁量でアイデアを出したり、自分なりのストーリーで解決策を出したりしていくことが、仕事では絶対に必要な要素だと思います。自分の考えを述べる以上は責任が生じるんですが、そうした自立心がエンジニアにとっては重要です。
――仕事をするにあたって大切にしている信条やこだわりがあれば教えてください。
北村:昔、日経新聞の社説に出ていたんですが「真理であり、かつ自明でないこと」を求めるようにしています。自然科学系の学者から見ると、社会科学系の学者の発言は、正しいのだけれど自明なことばかりだと言うんです。僕らの仕事にも似たようなことがあって、「これは正しい」ということを前提としなければならないんですが、あまりに誰もが言うような当たり前のことをやってもしょうがないんです。独自の視点からみんなが「それいいね」ということを言わなければならない。
今のIT業界は「こんなソリューションがあります」と言うと、そのまま導入してしまったりしますよね。「世間で正しいと言われているんだからやる」というかたちです。そこには客観性もチャレンジもありません。やはり客観性を持ち、加えて独自の解決策を出していってほしいと思います。
確固たる理論を見直すべき
――北村さんの夢を教えてください。
北村:エンジニアには何かの理論に基づいて問題を解決していってほしいと思います。でも、IT業界にはどうもその理論が少ない。確固としたものがあまりなくて、みんな様々なことを言います。先ほど例示したワインバーグの話は30年以上も前のことです。そうした確立されたものをきちんと掘り起こして今用にアレンジし、確かな方法論として提供していくことが我々の使命だと思っています。
――エンジニアを目指す人に対してメッセージをお願いします。
北村:すぐにできることではすぐに誰かに負けると思うんです。そうではなく、やはり自分なりのテーマを持って時間をかけてコツコツ積み上げることが大事ですね。加えて、その積み上げたものを現場の問題解決につなげていってほしいと思います。
新しい技術ができるとすぐにそっちに乗り換える人がいます。はじめのうちはちやほやされるんですが、同じ技術を持つ人はすぐに増え、競争優位をなくします。そういったことを繰り返しています。だから確固たるものをちゃんと見て身につけていってほしいと思います。
――伝統のあるものには、それだけの理由があるということですね。
北村:そうですね。良いものなのに、見方を間違えて使わなかったら損です。それに、一般的に応用できる理論というのは、このIT業界だけではなく、ものづくりの世界に広く応用できるものが多いんです。古くからある製造業の生産管理手法などが代表例ですね。そうしたものを吸収して積み上げていってほしいんです。本当はそういう道筋は僕らの世代が作らないといけないんですが、とにかく若い人には高い視点をもってステップアップしていってほしいと思います。
取材協力:株式会社プライド