「女性ってエンジニアに向いていないのでは?」
「エンジニアってまだまだ男性が多くて働きづらそう」
働きやすい企業を探している方のなかには、エンジニアへ上記のようなイメージを持ち、勤務先の選択肢から外してしまっている人も少なからずいるのではないでしょうか? あるいはエンジニアとして働いてみたいけど、「未経験だから」と踏み出すことをためらっている人もいるかもしれません。
今回、お話を伺った鳥井雪さんは、“ひょんなこと”からエンジニアとして働きはじめることになったそう。現在は子育てをしながら、女性がプログラミングを学ぶ機会をサポートしているコミュニティRails Girls Japanのメンバーとしても活動しています。
そんな鳥井さんに、プログラミングの魅力や女性がエンジニアとして働くことのメリットをお聞きしました。
文系の学生だったのにエンジニアの仕事をやることになった
――現在どういったお仕事を、どのような勤務形態で働いているのか教えてください。
株式会社万葉の技術開発部でITエンジニアとして働いています。仕事内容としては、取引先が作りたいことの要望を聞きながら、そこにいる技術者の方と協力してシステムを作っています。取引先の現場に行って、エンジニアとして技術力を提供していると言ってもいいかもしれません。
1歳4ヶ月になる子どもがいることもあって、週1日は取引先、週1日は万葉、週3日は家で在宅勤務をしています。保育園は18時までしか預けられないですし、子どもって早起きで5時とかに起きちゃうんですね。なので、そのサイクルに合わせて、8:30〜17:00くらいまでの時間帯で働いています。
――もともとエンジニアという職業に興味はありましたか?
もともと興味があったわけではなくて、ひょんなことからエンジニアの仕事をやることになったんです。(笑)
――ひょんなこと?
そもそも私は文系の学生で、大学では美術史学とかを学んでいたんです。当時は本屋でバイトをしていて、コンピューターをしっかり触ったこともなかった。
就活の時に、自分は接客が好きだから、営業が向いていると思って、とあるベンチャー企業の営業職に応募したんですね。
その企業の社長との面接で、「営業に向いてないんじゃないか?」って遠回しに言われて、面接の相手が社長からCTOに変わったんです。その場で「語学が得意なんでしょう? 語学が得意ならプログラミングやってみたらいいよ」と言われて、そのまま採用されて。よくこんなんで採用されたなって思うんですけど(笑)
――そこからエンジニアとして働いてみて、語学とプログラミングで通ずるものってありましたか?
はい。プログラミングって人間のやりたいことがあって、その形を整理して、コンピューターがわかる言葉に翻訳する仕事だと思うんです。
すでに動いているコードを読んで、書いた人が「何をやりたかったのか、どういうふうに動いていて、どんな気持ちで作られているのか」を読み解く仕事でもあるので、語学と通ずるものはあると思いました。
女性や子どもがプログラミングを体験する機会を増やしたい
▲Rails Girls日本語版のWebサイト。Rails Girlsの概要やプログラミングのワークショップを開催する際の手や解説が載っている。
――そうしてエンジニアとして働いていくなかでRails Girlsに携わるようになったのですね。あらためてRails Girlsがどのような団体なのか教えてください。
そもそも団体じゃないんです。創始者は「ルビィのぼうけん こんにちは!プログラミング」の作者であるリンダ・リカウスです。女性がWebプログラミングを経験できるワークショップを開いて、テクノロジーの力を体感することで、活躍して欲しい、自由になって欲しいという趣旨を持つコミュニティです。私は、Rails Girls Japanのメンバーです。
Rails Girlsのおもしろいところであり、世界中に広まった理由は、その活動のノウハウをWeb上で公開しているところです。公開されているもの使って「全世界どこでもワークショップをやっていいですよ」という形になっています。なので、ワークショップを開きたいと思ったら、 Webフォームで宣言することでワークショップを開くことができます。
――そもそも鳥井さんはなぜRails Girlsに携わるようになったのですか?
Rails Girlsがはじめて日本で開かれるときに、ワークショプ内で参加者をサポートするコーチを公募していて、手を挙げました。
――どうして応募しようと思ったのですか?
当時、エンジニアとして働いていて、この業界の女性が今以上に少なかったんです。エンジニア向けの勉強会に行っても男性ばかりで、下ネタ寄りの発表があったりとか、内輪ネタで盛りが上っていたりとか、女性が入りづらい空気がある、という意見を聞くこともありました。
そこに違和感があったし、そもそもどうして女性が少ないんだろうって考えて。プログラミングに触れる機会がないからだと思ったんです。だったら女性や子どもがプログラミングを体験する機会を増やしたいし、サポートしたいと思って応募しました。参加者にプログラミングの楽しいところ、楽しくないところ、実際にやってみて向いているのか、向いていないのか、そういったことを気軽に体験してもらえたらいいなと。
一つの問題を解決するために、いろんなアプローチを考えることで考え方の視点が増える
――鳥井さんが思うプログラミングの魅力ってなんでしょうか?
いくつかあるんですけど。
ひとつは、この世になかったものが、プログラミングを書くことによって動くようになり、それで少し人が幸せになる。たとえば、仕事が早く終わったり、データをまとめるのが楽になったり。自分の力でものが作れて、それが人の役に立つことが実感できるのは魅力だと思います。
次に、新しくものを作りたいと言っている人がいたときに、「その人の本当にやりたいことはなにか、それを実現できる形はなにか」を言葉や図でコミュニケーションしながら、やりとりしていくことも大変だけどおもしろいです。
また、コードを読むと、書いた人が考えていたことがわかる。小説を読んでいる気持ちになることがありますし、自分がコードを書いていても小説を書いている気持ちになります。
最後に、プログラミングにおいて、一つの問題を解決するのにもいろんなアプローチを考えられることですね。問題を解決できる、ということの上に様々な考え方や評価軸がある。書いたコードを第三者が見たときに読みやすくてメンテナンスしやすい方がいいとか、膨大のデータを効率よく扱えるものがいいとか、その問題や現場に合わせた「いいコード」がある。そういうことを勉強していく考え方の視点が増える。また現場にあった「いいコード」をチームとコミュニケーションして模索できるのも魅力かもしれません。
ITエンジニアは給与も高く、男女関係なく携われる仕事
――女性がエンジニアとして働くことのメリットってなんでしょうか?
女性に限らない話なんですが、場所と時間に縛られないことですかね。私の場合は自宅勤務ができることで、仕事が終わってすぐ食事の準備に取りかかれたり、子供が病院に行かなければならい時にも柔軟に対応できたり、とかなり助かっています。
ただ自宅勤務していると運動不足になることは不安ですけど。(笑)
それにエンジニアとして技術があると会社に縛られなくなると思うんです。今働いている会社の働き方に自分の生き方があっていたとしても、これから自分の人生がどうなるかわからないじゃないですか? 今は結婚を考えていなかったとしても、突然結婚することになるかもしれない。そうなったときに、エンジニアとしての技術、手に職を持っていることで、働く場所の選択肢を持ちやすいと思うんです。
また男性と女性の違いって体力の部分が大きいと思うんですけど、エンジニアって体力はあまり関係ないですよね。ITエンジニアは給与も高いですし、男女関係なく携われる仕事です。だから女性がエンジニアに向いてないと思ってしまうことで高給取りの仕事を選ぶ機会が奪われていくのはもったいない。
それにITエンジニア業界だけの話ではなく、これから社会をコンピューターがコントロールする領域が多くなってくると思うんです。そう考えるといろんな立場の人間がプログラミングを作っていかないといけない。
男性だけがプログラミングしていくと、違う立場でしかわからない都合が取り入れられないまま、システムが組まれて偏りができてしまいます。いろんな立場の人がプログラミングに関わることが大事です。
女性が働くことや子育てすることを自分ごとと思ってくれる人がいるかどうか
――女性にとって働きやすい環境を選ぶポイントはなんなのでしょうか?
そうですね。その企業に女性エンジニアが働いているかどうかと、いる場合は働いている女性に話を聞いてみるがいいかもしれません。あとはその企業に女性が働くことや子育てすることを自分事と思ってくれる人がいるかどうかも重要だと思います。
子育てと仕事を両立している人がいることで、一緒に働く人にとってデメリットになることはあります。同僚の子供が突然熱を出して早引けしなければならない、というのは、現場にとってはマイナスです。ただデメリットをできるだけ小さくする工夫はできるし、協力することもできる。一緒に働く人がそのことに前向きに取り組む姿勢を打ち出してくれる環境かどうか。
工夫したことで、子育て世代ではない、女性ではない働き手にも、メリットになると思うんです。自分が病気になることだってあるし、役所が空いている時間に気軽に行けたりしたら、誰だってうれしいですよね。
女性が働きにくいことの理由には、男性に長い勤務時間が求められて、女性が家事を負担しなければ家庭が立ち行かなかったり、と、男性の置かれた状況の問題でもある。誰もが本当は当事者なんだ、という感覚はとても大事だと思っています。
私が働いている万葉は社長も専務も女性で、お子さんもいて、他人事じゃなく制度を気にしてくれているので、働きやすいです。
――どういう人がエンジニアに向いていると思いますか?
わからないことを素直に聞ける人は強いと思います。最初はじめたときは技術力なんてないわけじゃないですか、それを恥ずかしがらずに聞けて、人からのアドバイスを取り入れられる人は、技術を身につけるのも早い。あとは、とりあえずでもいいから自分でものを作りきれる人。とりあえず作ってみちゃう行動力のある人は強いですね。
――エンジニアに興味を持った人は、なにからはじめたらいいんでしょうか?
はじめ方はなんでもいいと思うんです。本でもいいし、プログラミング教室に通ってもいい、それこそRails Girls Japanみたいなコミュニティに参加してもいい。大事なのは、実践していって疑問があったときに、疑問を聞ける場所を持つことだと思います。
エンジニアは、勉強したことが無駄になることがないですし、積み重ねていけば仕事になります。できるだけとりあえず飛び込んでみてほしいです。仕事にするのではなくても、どういうふうにコンピューターが動いて、どういう考え方をして作られているのかを知るだけで、世界の見え方も違います。そういった知識は他でもいかせると思うので、興味があれば、とりあえずやってみてほしいです。
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鳥井さんが翻訳を担当した絵本『ルビィのぼうけん』に関するインタビューはこちら。
→絵本を通じて、子どもにプログラミング教育を。『ルビィのぼうけん』翻訳者は、宝石色の夢を編む
取材協力:Rails Girls Japan,株式会社万葉