パラレルキャリアだからこそ生まれた価値。プログラマ兼漫画家ビタワンさんが語る新しい働きかた

『いきのこれ! 社畜ちゃん』という漫画をご存知でしょうか?

ちょっとブラックなIT企業で働く社畜ちゃんを主人公とし、業界のあるあるネタをテーマに展開するこの漫画。元々は、Twitter上にアップロードされていた『社畜ちゃん日記』という4コマ漫画からスタートしたものです。これがネットで大きな話題となり、今では書籍化されるほどの人気作品となりました。

同作品は、原作担当のビタワンさん、作画担当の結うき。(ゆうき)さんという2名のタッグによって制作されています。そして、今回の主人公は原作担当であるビタワンさん。なんと“プログラマ兼漫画家”というパラレルキャリアで活動する、異色の経歴の持ち主です。

その兼業スタイルはどこから生まれたのか?そして『社畜ちゃん』の誕生秘話とは?秘密に迫りました!

ZUNさんというカリスマに憧れた大学時代。同じ頃、『社畜ちゃん』のデザインも産声をあげた

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▲『社畜ちゃん』最初期の、ビタワンさん自身が絵を描いていた頃の4コマ漫画。味のあるタッチが愛らしい。

―ビタワンさんは、いつ頃から漫画を描かれるようになったんですか?

ビタワン: 元々、大学時代に創作系サークルで同人活動をしていたんです。同人誌などに触れるうちに、東方Project(※)に興味を持ち始めてドハマリしました。それで、コンピューターを使ってゲーム音楽を編曲したり、そのCDを例大祭やコミケで販売したりしていて。でも作家さんと交流するうちに「自分も描いてみたい!」という思いを持つようになり、ペンタブを買って絵を描き始めたんです。

※ 同人サークル「上海アリス幻樂団」によって作られる弾幕系シューティングを中心としたゲームや音楽CD、書籍などの作品群。

―当時はまさに東方バブル全盛期で、人気がすごかったとお聞きしました。

ビタワン:そうなんです。実は、プログラマになりたいと思ったのも、東方シリーズの作者であるZUNさんの影響で。ZUNさん自身、曲を作って絵を描いて、プログラムもすべてやっていて、本当にマルチな方です。「自分もそういうふうに複数の分野で活躍できたらなあ」という憧れがありました。

―ビタワンさんが体現されているパラレルキャリアのルーツはそこにあったんですね。

ビタワン:はい。ちなみにルーツという意味で言うと、『社畜ちゃん』のデザインの元になったものも大学時代に作られているんですよ。

―えっ!そのエピソード、ぜひ聞かせてほしいです。

ビタワン:大学時代からプログラミングを学んでいて、その一環でHTMLを勉強するためのアプリを作ったんです。そこに、正解か不正解かで表情が変わる学生キャラクターを登場させたくて、東方の関係で付き合いがあった結うき。さんにデザインをお願いしました。その頃には「絵のことは何でも彼に頼もう」という感じになっていて。せっかくデザインしてもらったし、気に入っていたので、その後もブログや日記漫画に使うようになったんです。

たまに『社畜ちゃん』の服が、学生服っぽいといわれることがありますが、当時のキャラクターをそのまま強引にサラリーマンのキャラに流用したから当然のことなんです(笑)。

パラレルキャリアだからこそできる、“100%趣味全開”のスタイル

―『社畜ちゃん』の人気が出てきたな、と感じたのはいつ頃でしたか?

ビタワン:株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークスさんから、単行本を出しませんかと連絡が来たときですね。「これはとんでもないことになったぞ」と思いました(笑)。プログラミングのあるある話を日記にして、Twitterにアップして楽しめればいいくらいの気持ちだったので。

私はTwitter大好き人間なので、『社畜ちゃん』のネタも「Twitterでウケるかどうか」をベースに考えているところがあります。ファンの方が喜んでくれることが嬉しくて。いろんな人から応援のコメントをいただけたりすると、「もっとがんばろう!」とモチベーションが湧いてくるんです。

―すごくファンを大切にされているんですね。

ビタワン:フォロワーさんや、二次創作をしてくださる方、そして自分自身も含めて「作品を作りあげているコミュニティーの一員」という意識が強いんです。こういう意識も、きっと大学時代の同人活動の影響。本当にZUNさんの影響を受けていますね。

―まさに憧れの存在ですね。憧れといえば、CodeIQで連載されている『はしれ!コード学園』という漫画で、同じくエンジニア兼漫画家である、ちょまどさんとのコラボ企画を実現されていましたね。

ビタワン:『はしれ!コード学園』が大好きで、1話からずっと読んでいたんです。『社畜ちゃん』もIT系の話なので、「いつか声がかからないかなぁ」と思っていたところに、今の担当者さんから連絡をいただきました。

『コード学園』はパロディネタがおもしろい漫画なので、コラボでも何かしたくて、Twitterで人気のあるラーメン三銃士のネタ(漫画『美味しんぼ』の登場キャラクターのパロディ)を入れました。自分自身もファンなので、読者の1人として読んで楽しめるものを描きたいなぁと。

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▲これがそのパロディネタのシーン。「自分が大好きな漫画で、このネタをやれたのは感慨深かったです」とビタワンさんは語る。

『社畜ちゃん』書籍化もそうですが、ファンにどう楽しんでもらえるかを一番に考えています。お金は二の次というか。本業だとそうはいかないですよね。やはり元々が趣味なので好きなことに集中できるんです。

―まさに「パラレルキャリアだからこその選択肢」という感じですね(笑)。

ビタワン:ちょっと話が飛びますが、好きな小説家である西尾維新さんの作品『化物語』の表紙に「100%趣味で書かれた本です」というメッセージが書かれています。まさに『社畜ちゃん』も同じ。しんどい時があっても続けられるのは、何よりも好きなことだからですね。

「プログラマ兼漫画家」だからこそできた。スキルのかけ算で生まれるオリジナリティ

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▲『いきのこれ!社畜ちゃん』は、株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークス無料デジタルコミック『@vitamin(アット ビタミン)http://dc.dengeki.com/vitamin/』にて好評連載中。今年の5月に発売された単行本第1巻(http://dc.dengeki.com/newreleases/978-4-04-865907-9/)の売れ行きも好調だという。

―近年、パラレルキャリアがもてはやされている風潮についてどう思われますか?

ビタワン:両方のキャリアでさまざまなことを経験できるので、単純に楽しさが2倍になるというのはメリットです。

それから、スキルの掛け合わせで希少価値が生まれると思うんです。たとえば、自分はプログラマとしても、漫画家としても、どちらか一方の分野において突出したスキルを持っているわけではありません。でも、それらを両方やっている人って、なかなかいないじゃないですか。

―そこに相乗効果が生まれるわけですね。反対にデメリットと感じる部分は?

ビタワン:プログラマとしても漫画家としても、少し中途半端になってしまうところでしょうか。だから、どちらか1本でがんばっている人に会うと、時には負い目を感じてしまうこともあります。それから、本業が忙しくて『社畜ちゃん』のイベントや企画などを断らなくてはいけないときもあるから、それが大変ですね。

でも、パラレルキャリアという働き方があるからこそ、今こうなれたんだと思います。こうした働き方なしには、絶対に実現できなかったことです。

―パラレルキャリアを目指している人に向けて、どんなアドバイスをしたいですか?

ビタワン:自分が好きなことを副業に、ですね。それが本業にも良い影響をもたらします。やりたくないことを副業にしたら、絶対に辛いと思うんです。それに、売上を度外視にして、楽しいこと、おもしろそうなことに集中できるのは本業があるからかなと。

これからもファンの方と一緒に『社畜ちゃん』を盛り上げていけたら、それに勝る喜びはないですね。

ヒットの裏側に見えてきたのは、ひたむきに作品を愛する作者の姿だった

人気が出ても、けして驕(おご)ることなく、とにかく謙虚な姿が印象的だったビタワンさん。そこには打算などなく、純粋に作品を愛し、ファンを大切にする姿がありました。そのひたむきな姿勢が作品をより魅力的にして、多くの人に愛されるのでしょう。ここまでできるのもやはり“パラレルキャリアだからこそ”なのかもしれません。

取材協力:株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークス

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