※この「エンビジ!」では、エンジニアに役立つであろうビジネス書をご紹介しつつ、著者の方にもお話を聞いていきます。
さて、今回のテーマは「勉強の習慣」です。エンジニアの世界は変化が激しいので、常にインプットが必要。資格試験に挑戦する人も多いので勉強は欠かせません。皆さんは日常的に習慣として「勉強」をしているでしょうか?
今回は忙しいなかでもラクに勉強ができる方法についてお話を聞いていこうと思います。
お話を聞くのは『東大No.1頭脳が教える 頭を鍛える5つの習慣』(三笠書房)という本の著者であり、TBS系クイズ番組『東大王』にもリーダーとして出演中の水上颯さんです。
――こんにちは、よろしくお願いします。
はい、よろしくお願いします。
何時間やったかではなく、どれだけ力をつけたか
――早速ですが、勉強のコツとして「チェックポイントをつくっておく」(第1章 勉強の習慣より)ということが書かれていますが、具体的にはどういったチェックポイントを設定されているのでしょうか。
僕は“理解”というものの概念として、4段階を想定しています。
――理解が4段階。
ええ、1段階は「何も知らない」状態で、2段階は「触ったことがある」状態。3段階は「ある程度理解している」状態で、4段階は「人に教えることができる」という状態です。
――なるほど。
何かを覚える時もそれに準じています。新しい分野に挑戦する際に、いきなり3段階にはいかないわけです。ですから、まずは触ったことがある状態から入って、どんなものがあるかを把握していきます。
――最初のチェックポイントとして「まず触ったことがある状態」を目指すということですか。
そうですね。たとえば、先日『世界遺産検定2級』を受けたんですけど、参考書をまず1回サラッと読みました。それで全体像を掴むわけですね。
――いきなり頭に入れようとしてはいけない、と。
はい。世界遺産が全体でどのくらいあるのか、どんな場所があるのか、フワッと参考書全体に触るんです。2級では世界遺産を300個覚える必要があるんですけど、日本のものだったりヴェルサイユ宮殿みたいな有名な世界遺産だったり、半分くらいは知っている世界遺産だったので、まあそれくらいなら全部覚えられるかな、と。
――そこからどうしたんですか?
試験自体は選択式のマークシートなので、3段階目までを達成目標とすることとして、次は参考書の文面を「問われるであろう文章」に変換しながら、もう一度通読していきました。
――つまり頭の中で問題文に作り変える、ということですか?
そういうことです。こういった資格試験の場合は、テキストの中に「答えとして問われる場所」があるわけですから、それがどこであるか、またどのような問題文で問われるだろうか? と意識しながら読みといていく。いわゆる“点を取るための努力”をしたわけですね。
――それで3段階目の「ある程度理解している」状態に持っていったわけですか。何だかすごく効率的ですね。
東大生ってすごく時間をかけて勉強しているように思われますけど、意外とそうでもなくて……。僕自身については長時間勉強するのがむしろかなり不得手で、「勉強をしない」ほうが得意なんですよ。
――勉強をしないのが得意?
ええ、のんびり屋なもので、どうやったらなるべく努力せずになんとか生きていけるかをいつも考えています。努力をすることって本来不自然な行為だと思うんですよ。自分から苦労したい人なんて滅多にいないですからね。だからこそ、努力は素晴らしく尊いものだと思うんですけどね。
――ああ、この本にも『「時間」より「成果」重視』って書いてますものね。
そう、大事なのは何時間やったかではなくどれだけ力をつけたかです。生まれてから死ぬまでの時間は有限なので、1日1日を大切にしたいですよね。
――それは仰る通りですね。ちなみに世界遺産検定2級はどのくらい勉強されたんですか?
参考書を前日に買ったという体たらくで、ほとんど勉強時間は1日だけみたいな状態でした。
――前日ですか(笑)
買おう買おうと思って、買いそびれてたんですよ。さすがに焦りましたけどね(笑)
「ジャンル変え読書」をしよう
――あと、読書に関して、「ジャンル変え読書」(第2章 読書の習慣より)というのを推奨されていますが、これはどういった読み方でしょうか。
先ほどのような資格試験の対策では1つの参考書を読み倒すわけですが、人生における勉強というのは資格試験に限った話ではないですよね。
――そうですね。人とのコミュニケーションのためにも教養をつけることが大事です。
僕自身も人とのコミュニケーションで重要視しているのは、“相手の知識とどれだけ合わせられるか”ということです。
――その相手というのは多いほどいいわけですよね。
ええ、渋谷の女子高生でも新橋のサラリーマンでも、色んな人と会話できるようになるといいですよね。人はどうしても食わず嫌いするものがあって、その部分は空白になってしまいます。どうせなら様々な文化を享楽したいじゃないですか。
――そのためにもジャンルを変えて読書をする、ということですか。
そうです。例えば僕はスポーツ観戦に全く興味がなくて、会話の中で野球の話が出てきても「ふーん」という感じだったんですが、たまたま野球の小説を手に取ったら急に興味が湧いたんですよね。まあ、いきなり別ジャンルを読むのは難しいと思うので興味のあるところから徐々に広げていくと良いと思いますよ。
――自分が少しでも興味を持ったテーマの本に手を伸ばしてみる、と。
ええ、それも紙の本がいいですね。本に書き込みをすることも多いですが、書くことで記憶の能率がよくなるんです。もちろんタブレットでも読むんですが、紙の本が一番好きですね。
――ちなみにジャンルの違う情報を集めるのは、ネットじゃダメなんでしょうか。
ネットだと「欲しい情報」しか手に入らないんですよね。
――というと?
情報を得ようとする時に自分で能動的に情報を探すので、人間の嗜好性をネットが補っている感じなんですよ。属性が大体同じような人が自分の身の周りにいると、入ってくる情報も同じになりますし偏りがあるんです。
――なるほど、能動的ではなく、偏りのない情報を得るためにも読書が重要だと。
はい、そういうことですね。
使用用途を絞ったデバイスを持つ
――ただ、読書をするにも“時間”が必要になってくるのですが、水上さんは読書時間をどう確保しているんでしょうか。
毎日の通学時間が“スキマ時間”になるんですけど、そこで読書をしていますね。紙の本ももちろんですけど、スマホとiPadも持ち歩いていますので。
――通学時間に読書をする際のコツとかあるんですか?
iPadのほうはネットに繋げていなくて本を読むくらいしか使用用途がないのですが、それが大事だと思っています。スマホで問題集をといていたりすると、ついLINEをいじってしまったりするので。
――ああ、確かに。スマホだと集中できないですよね。
だから、使用用途を絞ったデバイスを持っているといいですよね。イヤホンでニュースを聞くこともよくやりますが、何でもできるデバイスは逆にデメリットになってしまいますので手に持っておかないほうが良いと思います。
――他に日々の時間で意識していることはありますか?
この本でも「ルーティーンの中から隠れたムダを探す(第4章 時間の習慣より)」ということを書きましたが、毎日服を決めるために悩む時間もムダだと思うので、どの服にどれを合わせるかを予め決めるようにしていますね。
――わあ、発想がスティーブ・ジョブズと一緒ですね。
あとルーティーンといえば、必ず同じ時間に寝るようにしています。もともと寝つきが悪くて寝たくても寝れないことが多いので、寝る時間を決めてしまって「それまでにやるべきことをやる」と決めているんです。
――ちなみに、睡眠時間はどのくらいなんですか?
8時間ですね。この時間を確保することを最優先にしています。
――東大生というと寝ないで勉強しているイメージがありましたけどね。
いえいえ、睡眠が6時間を切ると判断力が落ちてしまうことが医学的にも分かっています。試験前には一夜漬けをしたほうが成績は伸びる、という話もまた正しいのですが、一回の試験ならともかく、マクロに見て過集中による勉強量のブーストはそう何日も続けられないと思うんですよね。持続可能性を考えたら、自分の体を大事にすることが一番ですからね。
――先ほど仰っていた「努力せずに効率的に勉強する」という意味でも、睡眠が大事だということですね。
ええ、ラクに生きることに命をかけていますからね(笑)
好きな勉強法で経験値を積む
――学びを成果に繋げていくために「相手目線で発信を」(第5章 アウトプットの習慣より)と書かれていますが、これは具体的にどういうことでしょうか。
ただテキストを読むだけでなく、友達と“教え合い”をするということですね。
――教え合いというと、誰かに問題を出す、ということですか。これはクイズ番組対策ということで?
いえ、学校の試験とかでもそうです。そのほうが覚えやすいんですよね。相手が知っているのに自分が知らないというのは悔しいですから、記憶にも残ります。
――なるほど、ただインプットするより楽しそうですね。
参考書を読んでいても、「相手にどう問題を出すか」と発信用に組み換えてみたりするわけです。そして、人に問題を出して答えられなかったら解説までする。
――会社でも教える立場になると覚えるってよく言いますからね。
相手と問題を出し合うと得るものが多いと思いますから、やってみて欲しいですね。
――あと、物ごとを記憶する際には「経験値をためる」(第3章 記憶の習慣より)ということも書かれていますが、これはどういうことでしょうか。
本を読んでいると、大事なところもあれば大事じゃないところもあるじゃないですか。
――確かに全てが重要というわけではないですよね。
頭の中にある情報というのも等価だと使いきれないわけですが、経験することで情報に重みが付いていくんです。
――情報に重みがつく。
ええ、情報って平板なものですけども、経験によって立体になる。例えば先日学んだ世界遺産でも、ここの遺跡の景色が綺麗だと言われてもよく分からないわけです。でも、実際にそこに行って触ってみることで、得るものがはるかに大きくなるわけです。
――確かに、文字で読むより体験するほうが記憶にも残りますよね。
それが本質的な理解というものかなと思います。
――水上さんはものすごく机に向かって勉強しているイメージでしたけど、今回のお話では全然違いましたね。
僕、基本的に勉強嫌いですからね(笑) せっかく勉強をするなら好きな勉強法で経験値を積んでいきたいと思っています。
なるほど。今回のお話はほんの一部でしたが、水上さん流の「頭を鍛える5つの習慣」は他にもたくさんあるので、詳しく知りたい方はぜひとも書籍をご覧くださいませ。
『東大No.1頭脳が教える 頭を鍛える5つの習慣』(三笠書房)
https://www.amazon.co.jp/dp/4837928005
水上颯さん、ありがとうございました!