出産後、どのような形で仕事を続けていくか?
これは、働く母親たちにとって重要なテーマです。そのため、多くの企業が「ママが働きやすい職場」を実現すべく、社内制度の整備に努めています。
そんな中、子育てと仕事の両立をサポートするため、社内に託児スペースを開所したIT企業があることをご存知でしょうか。その企業こそ、2017年版「働きがいのある会社」ランキング(従業員1000名以上の部門)で第1位に選出された株式会社ワークスアプリケーションズです。
託児スペース「WithKids」はどのような経緯でオープンし、社員の生活をどういった形で支えているのでしょうか。「WithKids」のプロジェクトマネジャーである谷口裕香さんに話を聞きました。
働く女性を大切にする企業文化
──「WithKids」は2016年12月に開所したそうですが、それまでの経緯を教えてください。
谷口:「WithKids」設立のきっかけは、2016年の3月にCEOの牧野が「社内に託児スペースを設置してはどうだろうか?」というアイデアを社員に投げかけたことです。当社は女性が働きやすい環境づくりに力を入れており、その一環として託児スペースの設立が提案されました。
――「WithKids」以外には、「女性が働きやすい環境づくり」としてどのような制度があるのでしょうか?
谷口:「ワークスミルククラブ」という制度があります。これは、2004年にスタートした出産・育児支援制度です。育児休業を3歳まで延長できる。妊娠が判明した時点で申請すれば休暇が取得できる。時短勤務を子どもが小学校卒業するまで継続できる。年棒の15%が育児休業から復帰する際に支給される(復帰ボーナス)といった内容になっています。
――非常に充実していますね。つまり、もともとワークスアプリケーションズは「働く女性を大切にする」企業文化を持っていたのですね。
谷口:そうなんです。「ワークスミルククラブ」は、育休の延長をはじめ、どちらかというと「休むこと」を支援する制度であったため、より「働くこと」を支援する制度として「WithKids」が提唱されました。両方の制度があることで、自社で働く女性社員に対して手厚いサポートが実現できるんです。
子どもをすぐ迎えに行けるのは、“社内”だからこそ
――託児スペースが社内にあることにより、どのような利点が生まれますか?
谷口:たとえば、まだ卒乳していない子どもを預けることができます。仕事の合間に、女性社員が「WithKids」を訪れて授乳できるからです。
もし社外の保育園・幼稚園に子どもを預けていたら、「仕事の合間に授乳」というのはきっと難しいでしょう。また、母の日イベントや夏祭りなどといった託児スペースで催すさまざまな行事にも、社内で行うからこそ親も参加しやすいですよね。
また、社外の施設に子どもを預ける場合には、送り迎えの時間が決まっていて、施設に合わせた働き方をしなければいけないケースが多いと思います。
「WithKids」は延長保育の概念を設けていないので、予定していたお迎えの時間を過ぎても延長保育料はかかりません。今日はめいっぱい働きたい、早めに仕事を切り上げて子どもとお出かけしたい、など社員のニーズに応じて託児スペースを利用できるので、働き方の制約がかなり少なくなるんです。
――子どもを持つ母親にとって、それは本当にありがたいですね。他に「WithKids」の良いところはありますか?
谷口:昼食に加えて夕飯も「WithKids」内で親子一緒に同じメニューを食べられます。「WithKids」では保育士だけではなく管理栄養士も働いており、そのスタッフがキッチンで手料理をつくるため、栄養満点の出来立てのご飯が提供できるんです。これによって、帰宅後のお母さんの家事負担を軽減し、子どもとゆっくり過ごす時間を確保できるようになります。
また、自社運営だからこそ、職場復帰したい女性社員がどれぐらいいるのか、いつごろ復帰したいのかをヒアリングしながら子どもの受け入れ態勢を整えるといったことが可能になります。さらに参観日などの行事を企画する際も、運営側が企業や親の繁忙期を把握しているので、仕事の状況に合わせた日程調整ができるんです。社内で行うから参加もしやすいですよね。
――それほど至れり尽くせりの制度は、なぜ実現できたのでしょうか?
谷口:当社には「まずは理想から考える」というポリシーがあります。それは業務においてはもちろん、社内イベントや制度などについても同様です。
「WithKids」も例外ではなく、「ワークスアプリケーションズ社員の働き方に合った理想の託児スペースは何か?」を社員みんなで徹底的に考え、それを叶えるために制度を整えていきました。その姿勢を貫いたからこそ、利便性の高い託児スペースが実現できたんです。
――その「徹底的に考える姿勢」が伝わるようなエピソードはありますか?
谷口:企業内に託児スペースを設置する場合、運営は外部業者に委託するケースが多いと思います。けれど、当社ではその運営を全て自社で賄うことにしました。保育士や管理栄養士、看護師などのスタッフを社員として雇用しているんです。
親子で過ごす時間を確保するため、親にも食事を提供する。通勤の負担をなくすため、着替えやオムツなどの保育グッズは施設で用意する。働き方に応じて、保育時間を自由に選択できるようにする。そして、保育スタッフを社員として迎え入れることで、彼らにも気持ちよく働いてもらえる環境をつくる。
保育の事情ありきの働き方ではなく、保育スタッフも含めた「社員全員が働きやすい環境」を妥協せずに実現するため、このような形態になったんです。
大切なのは、子どもを預けたくなる託児スペースをつくること
――「WithKids」を利用している女性社員からは、どのような声が上がっていますか?
谷口:「これまでは、やはり待機児童問題といわれるように、妊娠・出産してからすぐに職場復帰するのは難しかった。でも、『WithKids』のおかげで、自分が希望するタイミングで職場復帰できるようになった。本当に嬉しい」という意見が数多く届いています。
昨今は、女性活躍推進が叫ばれていますが、ライフイベントとキャリアのジレンマに挟まれている女性はまだ多いのではないでしょうか。それを個人の問題として片付けるのではなく、会社が先陣をきって社員の子育てを支援して、女性が無理なく仕事と育児を両立できる環境を整えることは大きな意義があると思うんです。
――その通りですね。最後に聞きたいのですが、「WithKids」のようにIT企業が社内に託児スペースを設置する際、どのようなことに気をつければ“良い施設”になると思いますか?
谷口:「子どもを預けたくなる託児スペースをつくること」が何よりも大切だと思います。もし自社内に託児スペースを設けたとしても、使い勝手が悪かったり、働き方のスタイルと施設の方針が合わなかったりすれば、結局すぐに利用されなくなってしまいますから。
そして、そうした理想の託児スペースをつくるには、各社員からの声を拾い上げて制度に反映させることが重要です。当社でも、「WithKids」設立の際には子どもを持つ既婚の社員だけではなく、その社員と一緒に働く未婚の社員が集う社内プロジェクトが発足しました。それがあったからこそ、社員みんなが満足してくれる制度になったんだと考えています。
私自身も子どもを持つ母であり、どうすれば育児と仕事を両立できるかずっと悩み続けてきました。だからこそ、こうした施設を設置する会社や利用する人が増え、より女性が働きやすい社会になっていくことを願っています。
取材協力:株式会社ワークスアプリケーションズ