2015年4月1日、エイプリルフールに突如公開された不気味なWebサイト。
暗闇に包まれた画面をスクロールするとあらわれる、警告文、不気味な蜘蛛、包丁を手に立ちすくむ女性……。
次々に発生する演出の数々は、Webサイトを利用した新しい恐怖体験として、ネット上で大きな話題を呼びました。
このWebサイトを作ったのは、”ホラー✕テクノロジー『ホラテク』で、新しい恐怖体験を作り出す”をコンセプトに、さまざまなホラーコンテンツを開発する株式会社闇。
コーポレートサイトの登場から約2年が経過し、「株式会社闇コーポレートサイトver.1」の他、NTT西日本×MBS×五味弘文氏※とコラボした梅田お化け屋敷 「呪い指輪の家」「ふたご霊」、ドワンゴ×株式会社闇で開発した「ニコニコ町会議 全国ツアー2016町VRホラーカー」などなど、これまでに25件のホラーコンテンツを開発してきました。
※五味弘文氏
お化け屋敷の参加者に「役割、ミッション」を与え、ストーリー性のある新しいお化け屋敷の楽しみ方を確立したお化け屋敷プロデューサー。
多種多様なテクノロジーを利用した「ホラテク」は、どのようにして生み出されているのか?
株式会社闇が目指す「ホラーコンテンツ」とはどのようなものなのか?
プランニング、ディレクション、デザインを担当する代表の頓花聖太郎さんとソフトウェア開発、インスタレーション装置、ロボットの開発など、さまざまな技術を兼ね備えたテクニカル・ディレクターの久保田健二さんのお二人に、詳しく伺いました。
阿吽(あうん)の呼吸が生み出す「ホラテク」
▲手前 頓花聖太郎さん 奥 久保田健二さん
株式会社闇の業務は「多彩な恐怖演出で魅せるWeb制作」と「お化け屋敷などのホラーイベントの世界観を拡張するシステム開発」の2つ。
プランナー・デザイナーとしてプロジェクト全体を描く頓花さんと、それを形にしていくエンジニアたちの相乗効果によって、ひとつひとつの「ホラテク」が作られています。
最近のプロジェクトYahoo! JAPAN✕バイオハザード7とのコラボ「狂怖の館」では、通常ではあまり見られない、動画シークを利用したWEB表現で、臨場感と切迫感を演出しました。
「狂怖の館は、いわくつきの館に連れ込まれた男性が、その館の住人に命を狙われるという設定でした。当初は、闇のコーポレートサイトみたいなものを作って欲しいという依頼だったんですが、闇のサイトはざっくりいうと紙芝居のように、スクロールに合わせて静止画が切り替わる構造になっています。それだけだと、追われる切迫感や臨場感を演出しにくいんです。それを解消するために、全編動画シークで開発するという方法を採用しました」
狂怖の館では、プロローグで表示される文章など、普通はHTMLで書かれるものも動画で表現。さらにスマホの動きに合わせて画面が揺れる手ブレを実装して、リアリティを追求しました。
「株式会社闇コーポレートサイトver.2のようにスクロールして楽しむ機能はそのまま、システムに動画を組み込むというのが開発のネックでした。当初は次々に現れるバグで開発が難航しましたが、なんとか完成させることができました。クライアントにも喜んでいただき、ユーザーからも『バイオハザードのおもしろさをスマホで手軽に体感できる』といった、嬉しい声を聞くことができましたね」。
「ホラテク」の開発現場では、コンテンツを「より怖く」表現するため、発想ベースで開発が進むことが多いとのこと。開発に負荷がかかる反面、発想をベースにした開発はエンジニアとしてのやりがいやおもしろさに繋がっていると久保田さん。
「技術ベースで開発してしまうと、どうしても表現が制限されてしまいます。頓花さんが描いている全体像を表現するにはどのような技術か必要か?と考える方が、知識も技術も向上しますし、作品もどんどん良くなっていきます。緊張感のある現場ではありますが、やりがいは強く感じますね」
「ホラテク」の開発現場では、プランナー・デザイナー・エンジニアがお互いを高め合いながら、新しい恐怖体験の創出に挑戦し続けています。
技術と知識で頓花さんの発想を形にしていくエンジニアたちは、頓花さんにとってかけがえのない存在。
「閃いたことを実現できるかどうか、久保田さんによく相談に行くんですよ。「こういうのをやりたい」とか「もっとこうしたい」っていうのを伝えると、こうすればできるっていうのを丁寧に説明してくれる。また社外パートナーとして池田航成さんという優秀なエンジニアがいて、僕のさまざまな発想を形にしてくれます。ホラテクの品質は、優秀なエンジニアたちに支えられているんです」
作品全体をプロデュースする頓花さんとエンジニアたちの阿吽の呼吸。
プロジェクトごとに新しい技術や知識を必要とする緊張感が、「ホラテク」のオリジナリティとクオリティを生み出しています。
執念でつかんだ「ホラテク」事業
コンテンツの細部の細部まで妥協を許さない頓花さんのスタイルは、会社設立に至ったエピソードからも垣間見れます。
株式会社闇は、親会社である株式会社スターリーワークス※の新事業として始まったプロジェクト。
それまでスターリーワークスでアートディレクターとして働いていた頓花さんが、会社の新事業として「ホラテク」のコンセプトを打ち出し、社長に直談判したことからスタートしました。
※株式会社スターリーワークス
スタリッシュなデザインと高い技術力で、Web、グラフィック、アプリ、インスタレーション、アニメーションなど、さまざまな作品を発表する制作会社。
「社内で新事業を始めようという話があって、社長に「ホラテク」をプレゼンしたんです。個人的には絶対にイケるって確信があったんですが、あまり響かなかったんですよね。それならば現物を見せるしか無いと、社員旅行でテクノロジーを駆使した肝試しイベントを企画したんです」
頓花さんは、「スマートフォンにメールで送られる謎を解きながらゴールを目指す」という謎解き×肝試しを企画。
▲GPSによるナビゲートシステム
▲メッセージにはスマホを使った謎解きを実装
企画、ストーリー構成、システム開発、肝試しのルートの設定を含めて、1週間という短期間ですべてを用意。数名の部下とともに夜通しで作業を行いました。
「旅行当日もシステム開発やルートの確認で、社員とは別行動ばかりでしたね(笑)。旅行の和を乱していると社員に叱られながらも、「ホラテクイベント」の開発に全力を注ぎました。そうしたら、想像以上に社員にウケたんです。社長にもすごく気に入っていただけて「ホラテク」の魅力を体感してもらうことに成功しました」
一度は事業化に失敗した「ホラテク」は、頓花さんの並々ならぬ熱量によって事業化を実現。
当初はスターリーワークスでの事業化が検討されていましたが、既存の事業との棲み分けのため分社化し、株式会社闇が生まれました。
頓花さんと久保田さんの他、映像制作を行うスタッフ、プロジェクトごとに参加する社外メンバーなど、それぞれが職種を横断しながら「ホラテク」を作り続けています。
恐怖を使ったエンターテイメントで感動を生み出す
「ホラテク」の開発において、頓花さんが大切しているのが「恐怖心だけでなく楽しんでもらう」ということ。
恐怖を使ったエンターテイメントで、ユーザーに楽しんでもらう、感動してもらうことを目的にしているといいます。
そのために意識しているのが、1人よりも複数人でワイワイ楽しめるシステム。
闇の「ホラテク」には、随所にコミュニケーションが楽しめる仕掛けが用意されています。
「株式会社闇コーポレートサイトのver.2では、途中でライン通知っぽい画面になるんですが、通知メッセージをカスタムして友達に送ることができるんですよ。1人ではなく、別の誰かと共有して楽しめる仕組みを取り入れています」
また、恐怖を共有できるシステムを取り入れているのは、リアルイベントでも同様。
梅田お化け屋敷 「呪い指輪の家」「ふたご霊」では、ビビり度を計測し、自分が体感した恐怖を共有・拡散できるシステムをNTT西日本とともに開発しました。
▲梅田お化け屋敷 「呪い指輪の家」の公開当時。
「バイタルセンサーで心拍数などを測って「ビビり度」として表示、その瞬間を動画で撮影してYouTubeにアップするシステムを開発しました。お化け屋敷の体験が終わった後に、自分の動画が貼り付けられたビビり度診断の結果ページをスマホで見ることができます。驚いた場面を見ながら、参加者同士やSNSなどで結果を楽しむことができるんです」
▲お化け屋敷を楽しんだ後、自分達の映像を選択して確認。
これまではWebサイトやリアルイベントでのプロジェクトが多かったものの、恐怖を共有するのが難しいVRホラーを開発したいと久保田さん。
「VRはゴーグルをつけるため、体験がどうしても個人に偏ってしまいます。これまでもVRを使ったコンテンツをいくつか作ってきましたが、複数人で楽しむっていう意味ではまだまだ弱かった。今年は、複数人で同時に楽しめるVRホラーの開発に力を注ぎたいと思っています」
これまでにも、プロジェクトの核となるシステムをいくつも作り上げてきた久保田さん。
頓花さんの独創的な発想力と、それを着実に形にする久保田さんの技術力があれば、インパクト抜群なVRホラーが生まれていくでしょう。
テクノロジーを使った新しいホラーイベントの開発
株式会社闇の今後の目標は、まずは「闇」というブランディングを完成させること。
どんな方からもホラーコンテンツなら「闇」!といわれるように認知を広げていきたいと頓花さん。
今年の4月には、東京オフィスがオープン。
より大きなフィールドで「ホラテク」開発を推し進めます。
ブランディングが完成すれば、次の目標は新しいホラーイベントの開発。
「もっと通年で楽しめる、新しいホラーイベントを開発したいと思っています。お化け屋敷っていうフォーマットがどうしても季節限定のイベントになりがちなので、季節に関係なく気軽に楽しめる新しい恐怖体験を作り上げたいですね。まだ実現は先ですが、今までにないホラーイベントを立ち上げることが、株式会社闇の大きな目標です」
ハーフミラー・照明制御・赤外線LED・加速度センサー・遠隔制御・VRなどなど、多種多様なテクノロジーを使って、ホラーコンテンツの新しい見せ方を追求してきた闇。
頓花さんの頭の中に浮かぶ「新しいホラーイベント」とはどのようなものなのか?
そこで私たちが体感する「新しい恐怖体験」とはどのようなものなのか?
株式会社闇のこれからに注目しましょう。