話題先行の「非実在型」も コロナ禍で増加傾向、ネット炎上について知っておきたいこと

Twitterのトレンドやネットニュースで、日々目にする「炎上」。SNSで無防備につぶやいた一言が、あれよあれよと広がり、批判や誹謗中傷があちこちから届くように……と、小さな火種が大炎上になるケースも少なくありません。

さらに企業や有名人だけでなく、一般人まで炎上の対象はさまざま。なんだか最近、さらにネットが殺伐としてきたような気さえします。ネット炎上は、なにがきっかけで、どういうプロセスで広がっていくのでしょうか?

そこで、『ネット炎上の研究』『炎上と口コミの経済学』等の著書がある山口真一さんに、炎上が広がるメカニズムや、炎上に加担するのはどんな人か、そして炎上しない情報発信の心がけまで、じっくりお聞きました。


山口 真一(やまぐち しんいち)さん
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。
博士(経済学)。専門は計量経済学。研究分野は、ネットメディア論、情報社会のビジネス論、プラットフォーム戦略など。「あさイチ」「クローズアップ現代+」(NHK)や日本経済新聞をはじめとして、メディアにも多数出演・掲載。組織学会高宮賞受賞(2017年)、情報通信学会論文賞受賞(2017年・2018年)、電気通信普及財団賞受賞(2018年)。主な著作に『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)、『ネット炎上の研究』(勁草書房)などがある。

ネット炎上が大規模化するきっかけは、ネットではない!?

――ネット炎上は、時間と共にみるみる火の手が回っていく印象があります。一般的に、炎上はどのような流れで広がっていくのでしょうか?

山口さん:ケースによってさまざまですが、90%以上の炎上の発端はTwitterのようです。何らかの発信に対して批判的な内容のツイートがされ、火種となる。この時、批判の対象はTwitterの発信に限らず、テレビ番組や広告など様々なパターンがあります。そこに次第にネガティブなツイートがついていき、やがてそのツイートをインフルエンサーやTwitterをまとめるサイトが取り上げることで、一気に話題が広がっていくイメージです。

その次に起こるのが、ネットメディアによる記事化です。ネットメディアには月間1億PVを越えるものもありますから、「○○が炎上!」と記事になることで、炎上が大規模化してしまうんですね

山口さん:そして、炎上の最終段階にあるのが、テレビなどのマスメディアです。

――テレビ? ネット炎上の話なのに、ネットの外に出てしまいましたが……。

山口さん:実は、ネット炎上を知るきっかけは、テレビが最も多いんです。帝京大学の吉野ヒロ子先生の研究によると、ネット炎上の認知経路として最も多かったのは「テレビのバラエティ番組(情報番組含む)」で58.8パーセント。Twitterは23.2パーセントに留まります。

メディアで炎上を知った人が、さらにネットで炎上を拡げ、再びメディアが話題にする。言わば、マスメディアとネットの「共振現象」によって、炎上は雪だるま式に大きくなり、超大規模化してしまうのです。

――なるほど……。「ネット炎上」といっても、マスメディアが炎上を拡げているわけですね。

山口さん:そうですね。シエンプレ デジタル・クラシス総合研究所の調査では、ネット炎上の9割以上がなにかしらのメディアに取り上げられていることがわかっています。「ほとんどのネット炎上が、何らかのメディアによって拡散されている」と言っていいでしょう。

特にネットメディアは、訪問者の数が収益に直結しますので、積極的に炎上を取り上げる傾向があります。Twitterのトレンド経由で炎上を知るケースも増えているので、「いかにトレンドに乗るか」という工夫もしているようですね。

一方、テレビや新聞については、炎上を取り上げる量は以前より減っているように思います。「自分たちが拡声器になってしまう」という理解が進んでいるのかもしれません。

――メディアを通じて炎上が大規模に拡散されてしまうと、収束にもそれなりに時間がかかりそうです。

山口さん:いや、かなり大規模な炎上でも、だいたい1週間くらいで収束します。普通は2、3日で終わってしまいますね。

――え、そんなもんですか!?

山口さん:2021年は、年間1700件以上のネット炎上が発生しています。1日あたり約5件の炎上が起き、今日も誰かが燃えている。そうなると新しい話題が次々と生まれるので、1つの炎上が長引かないんですね。謝罪の仕方などで下手を打つと、もうちょっと持続してしまいますが。

――そんなに短いサイクルで炎上が生まれているとは……。同じくらい、ポジティブな話題も広まってくれたらいいんですが。

山口さん:ポジティブな話題が拡散される「バズる」と呼ばれる現象も、実は炎上と同じ構造です。ネットで火がついて、メディアが拡散する。バズと炎上は、コインの表と裏なんですね。

ですが、SNS上で最も広まりやすい感情は「怒り」です。怒りが伝播する力のほうが、はるかに強い。なので、炎上を取り上げるメディアは怒りに訴える記事やコンテンツを作り、「許せない」という感情をかき立てる。もはや炎上は「商売」になっていると言えるでしょう。

火の無いところに煙を立てる「非実在型炎上」

――Twitterから炎上するケースは以前からありましたが、最近特に増えたような気がします。なんだか、より殺伐としてきたというか……。

山口さん:その体感はまさに正解で、データの上でもコロナ禍に入ってから炎上が増えたことがわかっているんですよ。先ほど、「2021年は年間1700件以上の炎上が発生した」と言いましたが、2019年はまだ年間1200件強だったんです。

理由は2つ考えられます。1つは、コロナ禍において自粛生活でSNSの利用時間が増えたこと。家で過ごす時間が増えたことで、SNSを利用する時間が世界的に増加しました。SNSに触れる時間が長くなるほど、不快な情報に出会う確率も高まりますし、批判や誹謗中傷を書き込む頻度も増えます。受信と発信の両面から、炎上が起こりやすくなるわけです。

――ずっとSNSに貼り付いているせいで、炎上を目にする人が増えたと。タッチポイントが増えれば、単純に加担する人も増える、ということですね。

山口さん:そうです。そして、もう1つの理由は、社会全体が不安に包まれたこと。災害などで不安が広がると、「悪者」を作って攻撃することで、その不安を解消しようとする人が現れます。これが炎上につながってしまう。

例えば、コロナ感染者が県境をまたいで里帰りしたことがニュースになり、「あいつが悪い」と一斉にバッシングされたことがありました。叩く側は正義感からバッシングしているので、叩くことが気持ち良くなり、炎上が加速してしまうんです。さらに、感染症なので同調圧力や監視も強く、より一層バッシングが起こりやすい環境になっています。

――確かに「自粛警察」や「県外ナンバー狩り」など、コロナ禍ならではの炎上もたくさんありました。

山口さん:ちなみに、その「県外ナンバー狩り」については、またちょっと毛色が違っていて。あれは最近増えてきた「非実在型炎上」のケースでもあるんですね。

――非実在型炎上……ですか?

山口さん:実際に批判をしている人は少数なのに、「○○が炎上!」とメディアが取り上げ、それをきっかけに炎上してしまう事例です。最近特に増えている炎上パターンでもあります。

実は、2020年4月に大手メディアが「Twitterで『#東京脱出』が話題」と報じたことがあります。「コロナ禍で話題になっているが、そんなことをしたら地方に迷惑がかかってしまう」という内容だったんですが……記事が配信された時点で「#東京脱出」を付けたツイートは28件しかなかったんです(※)。

※ 山口さんの著書『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社新書)P81より

――全然話題になってないじゃないですか!

山口さん:しかし、記事になった結果「けしからん!」という読者の怒りを招き、#東京脱出はその1日だけで1万5千件以上も投稿・拡散されました(※)。県外からの来訪者を警戒する動きが生まれたのは、その後です。もちろん「#東京脱出」の影響だけではないと思いますが、「県外ナンバー狩り」にメディアが加担してしまったのは事実ではないでしょうか。

※ 同書より

――そうしたニュース記事をうっかりリツイートすると、意図せず炎上に加担しまうかもしれませんね……。

山口さん:そうですね。「非実在型」の他にも、トレンドブログをはじめフェイクニュースを目にする機会もまだまだたくさんあります。「フェイクニュースに騙されるのはネットやSNSをよく利用する若者」というイメージがあるかもしれませんが、私の調査では年齢問わず多くの人がフェイクニュースに騙されていることが分かっています。むしろ、中高年以上の方が騙されやすい傾向が見られたくらいです。月並みな言い方になりますが、老若男女問わず、リテラシーを高めていくことが大事だと思います。

極端な意見が「ネットでの反応」になってしまう理由

――1日約5件も炎上していると聞くと、なんだかネットで発信するのが怖くなってきました。たいまつを持って待ち構えられているような気さえします。

山口さん:そこまで恐れなくても大丈夫ですよ。実際、積極的に炎上に加担する人は本当にごく一部しかいないんです。最近の研究で分かったのですが、炎上1件に対し、Twitterでネガティブな書き込みをする人は、ネットユーザー全体の0.00025パーセントしかいません。約40万人に1人くらいですね。

ただ、これはあくまでTwitterに限定した数字です。超大規模な炎上になると分母も増えますが、それでも1万~2万人ほどでしょうか。

――1万人に叩かれるのはやっぱり怖いですが……。とはいえ、「ネット全体から責め立てられている!」というわけではないと。

山口さん:はい。さらに、ネットは「聞かれたから答える」といった受動的な場ではなく、「言いたいことがあるから言う」という能動的な場です。つまり、極端で強い意見を持つ人ほどSNSに書き込む傾向があります

以前、憲法改正をテーマに「自分が持っている意見」と「その話題についてSNSに書き込んだ回数」についてアンケート調査をしたことがあります。選択肢を「非常に賛成」から「非常に反対」まで7段階用意して、「憲法改正に賛成か反対か」を聞いたものです。

アンケートの結果、「自分の意見」の分布は「賛成とも反対とも言えない」を頂点とした山型になりました。「非常に賛成」「非常に反対」と答えた人は、それぞれ7パーセント(計14パーセント)しかいませんでした。

――「どちらとも言えない」人が一番多く、賛成反対問わず、その意思が強くなるごとに人が減っている状態ですね。

山口さん:しかし、「SNSに書き込んだ回数」の分布は、「非常に賛成」と「非常に反対」の両端を頂点とした谷型になったんです。「非常に賛成」「非常に反対」の人の投稿数は、全体の46パーセントを占めています。現実では14パーセントの意見が、ネットでは半数近くに見えてしまうわけです。

――そのネットに現れた一部の意見をもって「○○が炎上!」と話題にするから、非実在型炎上が生まれたりするわけですね。これは逆に言うと、「賛成とも反対ともいえない」の人はあまりネットに意見を書き込まない、ということですか?

山口さん:その通りです。中庸的な意見の人は、もともと発信するモチベーションがあまりないうえに、いざ発信すると極端な人から攻撃を受けることもあるんですね

特に政治やジェンダー、安全保障などは極端な人から攻撃を受けがちです。「この話題に触れると揉める」という認知が広まれば、発信する人はどんどん減っていきます。一方、極端な人は発信をやめません。なぜなら、攻撃を受けても「あいつらは何もわかってない」で終わりで、強い思いを持っているからです。その結果、本来議論をすべき内容でも、ネットでは両極端の人が意見するだけになってしまう

この現象は、私としてはとてももったいないことだと思っています。議論を深めるときは、ネットでは発言をしない人の「中庸的な意見」が一番大事なはずですから。

――では勇気を出して炎上している話題に触れたとして……。それがたとえ建設的な批判であっても、「炎上した話題を広めた」という意味では、炎上を加速させてしまったことになりませんか?

山口さん:「話題を広めた」という意味ではその通りです。でも、私は書き込むこと自体が悪いとは思いません。炎上に言及することは、間違ったことではない。間違っているのは、個人情報をさらしあげたり、誹謗中傷をしたりすることでしょう。

こうした攻撃を受け、萎縮してしまうと、できたはずの議論もできなくなってしまいます。炎上による最も大きな社会的コストは「表現の萎縮」なのではないでしょうか。とはいえ、ネットの誹謗中傷で逮捕された人は「自分がしたのは誹謗中傷ではなく、批判だ」と主張するようです。その両者を区別するのも意外と難しいんですよね。

大切なのは「正しく怖がり、過剰に萎縮しない」こと

――企業にとっても炎上は大きなリスクです。SNSでは極端な人の意見が強いとなると、「SNSでプロモーションするのやめようかな……」と思う企業も出てくるのではないでしょうか?

山口さん:そういう考え方もありますが……。SNSがビジネスで大きな役割を果たしている以上、企業がSNSを活用しない手はないかなと思います。炎上のリスクは認識しつつ、しっかり準備しておく。「正しく怖がり、過剰に萎縮しない」ことが求められるのではないでしょうか。

――「正しく怖がる」とは、具体的にどのような準備をすればよいでしょうか?

山口さん:基本的なことですが、著作権侵害など、やってはいけないことをきちんと認識すること。加えて情報発信やコンテンツ制作にあたっては、性別や年代など多様な人を集めることも大切です。単純に人を揃えるだけでなく、若手も「これはダメ」と発言できる、心理的安全性の確保も欠かせません

とは言え、炎上のリスクはゼロにはできません。炎上が起きてしまったことを想定して、謝罪の仕方などをシミュレーションしておくことも大事でしょう。パニックになって発言を消したりすると「隠蔽だ!」と余計燃え広がりますから

――ツイートを消しても、スクリーンショットが出回ったりしますからね……(※)。

※ この「隠蔽したい情報を削除した結果、かえって目立ってしまう」現象は広く「ストライサンド効果」と呼ばれるが、日本では「消すと増える」でおなじみ

山口さん:また、政治やジェンダーといった炎上しやすい話題を避ける、という対策もあります。ただ、きちんと信念を持った発信ならば、批判されても動じることもなく、むしろその対応が称賛されることもあるんです。

記憶に新しいのは、2020年に作れられたナイキのCMです。アスリートへの差別やいじめを描いたもので、賛同の声が挙がる一方、「日本で差別などない」「日本人皆が差別をしているように見えて不快」などのものすごい量の批判や心ないコメントがつきました。でもナイキはCMを取り下げなかったんです。恐らく、批判されることは最初から織り込み済みで、信念を曲げずに残し続けたのだと思います

――まさに「過剰に萎縮しない」ということですね。それにしても、そもそも過剰な批判をする人がいなくなれば、こうした炎上自体起きないような気もしますが……。

山口さん:そうですね、厳罰化の議論もありますが……。それだけでなく、仕組みで解決できることも、まだまだたくさんあると思っています。

例えばTwitterの英語版では、侮辱的なリプライをしようとすると、AIが内容を分析して「本当にそれを投稿しますか?」という警告が出るんです。その結果、警告が表示されたユーザーの34パーセントが投稿を思いとどまり、さらに11パーセントはその後もそうした投稿をしなくなった、というデータもあります。

――「怒りに任せて思わず書いてしまった」みたいなことが、やっぱりあるんですね。

山口さん:そうですね。Yahoo!ニュースのコメント欄にも、誹謗中傷のコメントが自動的に削除される仕組みがあります。ただこれには限界があって、現状は例えば「誹謗中傷レベルが10段階のうち9以上なら削除している」状態なんです(数字は想像)。これを「8」や「7」まで基準を下げると、誹謗中傷ではないコメントも自動的に消してしまう可能性もある。それは表現の自由に反してしまうので、なかなか基準を下げられないと。

でも人によっては、「6以上のものは見たくない」かもしれませんよね。それなら、受け手側が「私は5以下だけを見る」「私は8まで全部見る」など、見るものを最初から選択して、表示されるコメントをフィルタリングしてもいいと思います。

――なるほど。炎上が見えなければ、意図せず加担することもなくなります。

山口さん:見たくないものを見ない自由を確保する、発信の際に気づかせる、そうした工夫はまだまだ考えられると思っています。こうした工夫を積み重ねることで、自由に議論ができる「理想のSNS」に近づくことを期待したいですね。

文=井上マサキ/図版とイラスト=藤田倫央/編集=伊藤 駿(ノオト

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