【NFTとは】 ITエンジニア参加のポイントやメリットを徹底解説!

ブロックチェーン技術を使ったNFTへの注目が高まっている昨今。アートやゲーム分野では多くのユーザーが参加し、作品の売買が活発化しています。同時に、さまざまな企業が 新たなサービスの開発を進めているようです。

一方、多くのITエンジニアもNFT領域に興味関心を持っているものの、開発に関わる機会はまだ少ないようです。そこで、早い段階からNFTに注目し、現在は関連サービスの開発・運営を手掛ける先駆者2人にインタビュー。ゲームとシェアリングエコノミーの異なる分野で活躍する2人の視点で、NFTの現状や今後の展望、ITエンジニアとして活躍するためのスキルや将来性などを語っていただきました。

上野 広伸
double jump.tokyo株式会社 代表取締役/CEO
株式会社野村総合研究所にて数々の金融システムの基盤構築に参画。前職の株式会社モブキャストにて執行役員、技術フェローを歴任し、プラットフォーム及びゲームサーバーの設計・開発、スマートフォンゲームの開発基盤の構築を指揮。2018年4月にdouble jump.tokyoを創業。
https://www.doublejump.tokyo/
https://twitter.com/h2ueno/

峯 荒夢
株式会社ガイアックス 開発部部長
ガイアックスのエンジニア部門を率い、個人としてはシェアリングエコノミーを支える最も重要な技術としてブロックチェーンに注力。中間者搾取が排除され、フェアで不正の無い世の中を実現できる技術と信じ取り組んでいる。ブロックチェーンの国際標準化を検討するTC307/ISO国内検討委員にも名を連ねている。
https://www.gaiax.co.jp/
https://twitter.com/aramsan/

サービスやコンテンツに新たな価値をもたらすNFT

――本日はよろしくお願いします。近年、NFTゲームやNFTアートに関する話題をよく耳にするようになりました。そもそもNFTはどういった起源で生まれたのでしょうか。

上野:2017年末に、ブロックチェーン技術、正確にはイーサリアムを使い『CryptoKitties(クリプトキティーズ)』という、仮想の猫を購入、販売、収集、育成するオンラインゲームが作られました。これが、NFTが広く普及した起源です。

:それまでは、ブロックチェーン技術は、ビットコインに代表される仮想通貨などに活用されることがほとんどでした。そこに、デジタル上で“もの”を表現すると同時に、価値を生み出す概念や仕様が生まれたわけです。次第に「NFT(Non Fungible Token)」、つまり非代替性トークンと呼ばれるようになっていきました。

――NFTは、唯一無二の価値をデジタル上で証明する概念・機能(技術)であると?

:そうです。そして、『CryptoKitties』が興味深かったのは、猫の所有者が台帳によって管理・証明されるだけでなく、仮想通貨と同じように猫を取引できること。さらに、猫をかけ合わせると子猫が生まれるのですが、その子猫にまでも価値がついたことです。

――リアルな世界と同じくデジタル世界で、“もの”の所有者や取引の記録を管理にするために必要な技術=NFTというわけですね。お2人は、どういったきっかけでNFTに興味を持つようになったのでしょうか。

上野:私は、長年ソーシャルゲーム業界で働いてきましたが、近年は業界全体が飽和状態であると感じていました。10億円以上の開発コストをかけて新たなゲームを開発しても、ヒットする確立は数パーセント。ヒットすれば大きい事業ですが、リスクの大きなビジネスになっていたのです。

そんな時に出会ったのが、『CryptoKitties』。実際に触ってみたら楽しかった、というのが最初の印象です。ゲームではありますが架空の世界ではなく、デジタル空間にしっかりと“猫の存在”を感じました。ビジネス的な視点でも可能性を感じたことから、2018年末にブロックチェーン技術を用いたゲーム開発会社double jump.tokyoを設立。日本初のNFTゲームとして『My Crypto Heroes』を開発・リリースしました。

『My Crypto Heroes』のビジュアル

上野:『My Crypto Heroes』は、著名な歴史上の偉人がヒーローアセットとして登場し、アセットを所有して他人とバトルするゲームです。ゲームに登場するアイテムなどをマーケットプレイスで取引でき、ゲームの通貨は現実に受け取ることもできます。手前味噌ですが、『My Crypto Heroes』は一時期、イーサリアムの取引量などで世界一を獲得することができました。

――日本のNFTゲーム業界にとても大きな影響を与えたんですね! では、峯さんがNFTに興味を持つようなったきっかけを教えてください。

:私が所属している企業(ガイアックス)が、シェアリングエコノミーに取り組み出したことが始まりです。当時、シェアリングエコノミーの検討を進めていたなかで、赤の他人を信用できることではじめてシェアが成り立つことがわかりました。そして、ブロックチェーンが信用できるプラットフォームであり、シェアリングエコノミーを進化させる技術として認識し、注力し始めました。

イーサリアムの開発者が集まるカンファレンス「Devcon(デブコン)」にも、2015年の第1回から参加するなどして、技術的な知見や業界関係者との人脈なども構築していきました。その2年後に登場したのが、『CryptoKitties』。

それまでは、どこか実態のない価値であった暗号資産に対し、実態のある“もの”が開発できる技術であることが証明され、興奮したことを思い出します。

人やものの価値・尺度をデジタル上で明確化できる

――お2人とも、早い段階からNFTに注目していたのですね。昨今は特にその話題を聞くようになりましたが、どのようにして一般層に広まったのでしょうか。

上野:2017年の出来事に、私たちのようなイノベーター層は敏感に反応しましたが、その後、マジョリティとして広まるようなことはありませんでした。ところが、2021年に転機が訪れます。

Beeple(ビープル)のNFT作品『Everydays - The First 5000 Days』(Ascannio - stock.adobe.com)

上野:Beeple(ビープル)と呼ばれるアーティストのデジタル(NFT)作品『Everydays - The First 5000 Days』が、大手オークションハウス(競売会社)のChristie’s(クリスティーズ)で、時価約75億円で落札されたんです。リアルの作品も含め、存命アーティストの中で落札金額歴代3位という価格でもありました。

その結果、「NFT」という言葉が広まると同時に、その概念や技術が注目されるようになり、知名度の高まるとともに市場も広がっていきました。以降、一気に盛り上がり、さまざまなプロダクトを開発する動きが加速していきます。

――具体的にどんなプロダクトが開発されているのでしょうか。

:世界的なビジネス誌フォーブスが、デジタル記事の閲覧において、NFTの会員証を持っていれば、広告が非表示になるといったサービスを展開しています。

弊社はNFTを通じたチャリティ・支援のサービス「Ribbo(リボ)」というサービスを開発しています。NPO団体の活動資金などに、ピンクリボン運動などを行うことがありますよね。その仕組みをNFTで実現しようというものです。

――シェアハウスの運営をNFTで行うプロジェクトにも取り組まれているそうですね。

:はい。シェアハウスをはじめ、これまでの不動産はある特定の管理者が管理を行う中央集権的な体制でした。私たちが始めた『Roopt神楽坂 DAO』は、まさしくブロックチェーンの概念を用いて、シェアハウスの居住権を持つ人たちが主体となり、自分たちの理想の場所を実現するために、自律的に運営をしていきます。このように運営の主体となる人や団体がいなくても、サービス利用者が相互に加担しあって理想のサービスを自律分散的に作っていく組織を「DAO(Decentralized Autonomous Organization)、自律分散型組織と言います。

※巻組…賃貸住宅の管理運営(シェアハウス、ゲストハウスの運営等)、建物の設計施工、クリエイティブ人材の育成支援などを行う、株式会社巻組。

――まさにシェアリングエコノミーの世界観を具現化した取り組みですね。

:はい。そして、シェアリングエコノミーにおける重要な要素として、ユーザーの評価があります。この面で、私が特に注目しているのはシェアハウスにも関連しますが、所有しているNFTが人となりを表す指標となること。

通常、所有者は、ビットコインなどのように所有しているNFTを自由に移転することができます。しかし最近、イーサリアムの考案者であるヴィタリック氏が、移転できないNFTとしてSBT(Soulbound Token)を提唱しました。移転できないという特徴がデジタル空間におけるその人のアイデンティティとして蓄積。また、現実世界の人間と直接紐づくことなく、このアイディンティティが確立されることも注目しているポイントです。そのアカウントの人格が、保有しているトークンでかたちづくられる、とも言えるでしょう。

――メタバースの世界観そのものと言えますね。

上野:はい。アート作品のように転売による取引が注目されがちですが、峯さんが説明されたように、人やものの価値・尺度をデジタル上で明確化できる。この点こそがNFTのポイントです。そして、さまざまな領域で応用できる。そのため世界中のエンジニアや起業家が一旗あげようと、今、躍起になっている状況なんです。

そのなかでも、私が注目しているのは、ゲームはもちろん、漫画やアニメといった日本が強いコンテンツ領域です。作品の閲覧や所有に活用するのはもちろん、会員証のようなNFTを発行すれば、特定コミュニティへのパスとしても活用できますし、仲間同士のコミュニケーションの材料にもなるでしょう。

もうひとつ、サブスクの台頭などで所有感が乏しくなった音楽や映画といったコンテンツにも、NFTを使えば再びアナログ時代の“所有感”が再興するのではないかと、期待しています。ジャケ買いなどの感覚も復活するのではないでしょうか。

:NFTの魅力は、応用範囲が広いこと。そのため、アイデア次第でまだまだ新しいサービスやコンテンツが開発できますし、実際、私たちも日々取り組んでいます。

今ならNFT技術の本質を学べる

――NFTによって、既存のサービスやコンテンツに新しい価値、楽しみ方が追加されるのですね。では、エンジニアの視点で、今、NFT領域に参加することのメリットを教えてください。

上野:今の話の裏返しにもなりますが、現時点ではブロックチェーンでできることはまだ乏しい状況です。これは、技術的な意味合いも含みます。言語、開発環境などが、Webアプリケーションなどと比べると、シンプルで発展途上段階だからです。

そのため、装飾的な技術を必要とせず、“本質”に触れることができる。今からブロックチェーンやNFTのスキルを身に付けたいと考えているエンジニアにとっては、学ぶべき技術が明確なので、絶好のタイミングと言えるでしょうね。

――開発環境や言語はどのようなものでしょうか。

:NFTアプリケーションの開発では、Webアプリケーション開発の代名詞でもある、JavaScriptがよく使われています。ただし、そこからブロックチェーンの特徴であり、プラットフォームでもある自動実行システム「スマートコントラクト」を設計する必要があります。

スマートコントラクトの設計では、イーサリアムのプラットフォームであれば、EVM(Ethereum Virtual Machine)という、バーチャルマシンに認識させる必要があります。そのため、SolidityというJavaに近い言語で記述する必要があります。

ただし、イーサリアム以外のブロックチェーンプラットフォームでは、Rustで書くものなども出てきています。

――サービスやコンテンツによって、開発環境の特徴や違いはありますか。

上野:スマートコントラクトは、ブロックチェーンプラットフォームにデプロイ(配置・展開)するための独自フローですが、それ以外の言語や技術、開発環境やフローなどにおいては、通常のソフトウェア開発と特に変わりはありません。

:ただ、Solidityは癖があるので、慣れるのに多少時間がかかります。一方、JavaScriptの知識があるなど、Webエンジニアのスキルをお持ちの方であれば、NFT自体は1日で発行することができます。つまり、技術的なハードルは決して高くありません。そのためブロックチェーンの入門題材としても、適していると言えるでしょう。

――そうなんですね。一方で、NFTに取り組むエンジニアはそれほど多くないとの声も聞きます。それはなぜだと思いますか。

上野:企業のプロジェクト事例が少ない、というのが原因でしょうね。コミュニティや教材は多くあるので、個人的にNFTを学んでみたいという方にとっては、アクションを起こせる環境はすでに整っていると思います。

:メジャーな教材としては、CryptoZombiesがあります。それ以外でもTechpitやUdemyといったオンライン学習プラットフォームで各種講座が用意されています。さらに、YouTubeなどの動画配信プラットフォームにも、NFTを学べるコンテンツは各種アップされています。

新しい技術やカルチャーに柔軟なエンジニアが向いている

――お2人が所属する日本ブロックチェーン協会でも、NFTに関するさまざまな取り組みを行っているようですね。

:若手人材育成という分科会の中で、個人、会社員問わず、ブロックチェーンの技術を学びたいエンジニアやビジネスパーソンに対し、アイデアソンやハッカソンといったイベントを実施しています。技術やサービスの普及はもちろんですが、未来のブロックチェーン業界を担う人材育成が目的です。

上野:実際、私も登壇したりしています。また、NFTに特化したNFT分科会もあります。こちらでは企業での実例を増やすべく、先行している企業さんなどを招き、具体的事例を伝えるような活動をしています。

――協会の活動や企業でのサービス開発・運営でさまざまなエンジニアと接する機会があると思いますが、NFT領域の開発ではどんな思考やスキルが必要とされるのでしょうか。

上野:フロー自体は既存の開発と同じだと説明しましたが、スマートコントラクトの概念など、ブロックチェーンならではのルールやカルチャーを理解する必要があります。つまり、新しい技術や概念を受け入れることがスムーズなエンジニアは、フィットすると言えるでしょう。

:逆に、従来の開発フローや概念に執着している人は、フィットするのが難しいかもしれませんね。

――スマートコントラクトも含め、一般的なWeb開発との違いや苦労するポイントを教えてください。

:昨今のソフトウェア開発のトレンドは、リーン(ムダを排除する考え方)でアジャイル(大きな単位でシステムを区切るのではなく、小単位で実装とテストを繰り返して行う開発手法)。

一方で、スマートコントラクトは、一度デプロイするとその後の変更ができません。そのため事前のテストをかなり入念に行う必要があります。そこのギャップで戸惑う人が出るかもしれませんね。

上野:スマートコントラクトの設計こそ、NFTの肝とも言えるでしょう。アップ後に脆弱性などが見つかっても変更できませんから、まずはエンジニアが不備のないプログラムを書くことが求められます。

また変更できないことは、ビジネスにおいての長所、欠点、成否にも直結していきます。そのため、BizDev(事業開発)的な思考を持つエンジニアでないと、的確なスマートコントラクトを書くことはできないと考えています。

技術的なハードルは高くないですが、このような背景から、エンジニアが二の足を踏んでしまうのではないでしょうか。しかし、自分の事業のアイデアをコードによって直接表現できるところに、ブロックチェーンエンジニアの魅力があります。

:BizDev的な思考を鍛えるには、現場での実践しかありません。一方で、実プロジェクトが少ないのが現状です。そのため上野さんの会社や当社にも、ブロックチェーンをより深く学びたいという考えを持つエンジニアが、集まってきています。

今後はブロックチェーンエンジニアが一般的に

――本日はありがとうございました。最後に、ブロックチェーンやNFTに興味を持つエンジニアに、これからの業界の展望も踏まえたメッセージをいただけますか。

上野:今年から来年にかけてはNFTに取り組む企業は一気に増えるでしょう。つまり、先行事例をつくりたい企業にとっては今がチャンスであり、業界で働きたいエンジニアにとっても、同じことが言えます。

:現時点では、ようやくブロックチェーンエンジニアという言葉が浸透してきたフェーズ。しかし数年後には、SREエンジニアやデザインエンジニアのように、求人でも見かけるような職種になっている可能性は大いにあると思っています。

上野:当社でも、現時点ではブロックチェーンエンジニアが少しずつ増えてきています。今後は、エンジニアリングに強いエンジニア。BizDevに強いメンバーと、それぞれ役割が細分化される可能性もあると考えています。

ビジネス寄りの人は当然ドメイン知識が高いですから、特定業界に所属するようになっていく。一方で、エンジニアは先のように幅広い業界で引き手数多になるでしょうから、フリーランスとして活躍するケースも大いにあると考えています。

取材+文:杉山 忠義
撮影:長野竜成
編集:LIG

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