2020年冬、
横浜港で大きな掛け声と共に夢が動き出す。
「ガンダム起動!!!」
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※動画を再生すると大きな音が出る場合がございます。
(以下すべて ©創通・サンライズ)
1979年にTVアニメとして登場して以来様々なシリーズが放映され、ガンプラには多くの人が熱中してきました。プラモデルを組み立てながら、「ガンダムが動いたら……」そんな想像をした人も多いのではないでしょうか。2009年には実物大18mの『RX-78-2 ガンダム Ver.G30th』がお台場の潮風公園に立ち、その期待が一層高まりました。
そして2014年、ガンダムを「動かす」ことを目指して始まった『ガンダム GLOBAL CHALLENGE』プロジェクト。
長年の人々の夢がGUNDAM FACTORY YOKOHAMAにて、ついに実現します! 今回は、そのプロジェクトの模様を追いかけながら製作者の言葉を交え、その裏側に迫っていきます。
製作の裏側①〜日本の技術が集結〜
『ガンダム GLOBAL CHALLENGE』は、アニメ『機動戦士ガンダム』原作・総監督富野由悠季氏を中心とした5名のLEADERSによって理念が集結。そして、3名のDIRECTORが現場で設計・製作を主導してきました。
しかし、彼らだけの努力でガンダムが動くわけではありません。
“動くガンダム”は1社ではつくることができず、テクニカルパートナーとして9社もの企業が参加。日本の最先端の技術が集結し、すべてがMADE IN JAPANで作られているのです。
①乃村工藝社…本体デザイン・演出、フレーム・外装パーツの製作、演出を担当
②住友重機械搬送システム株式会社…ガンダムを上下・前後移動させるG-CARRIRの設計・製作を担当
③安川電機…関節部分のモータや制御装置を担当
④アステラック…制御システム、モーションプログラムを担当
⑤ココロ…ガンダムの手の製作を担当
⑥三笠製作所…本体の電気配線を担当
⑦川田工業…GUNDAM-DOCKやGUNDAN-LABの建設施工を担当
⑧ナブテスコ…関節部に設置されている本体減速機を製作を担当
⑨前田建設工業…試験施設・試験技術を担当
これらの企業は自分たちの技術を生かすべく自ら手を挙げて参加したケース、製作を進める上で課題を解決すべくプロジェクト側から依頼があり参加したケースがあります。誰も作ったことがないものゆえ“誰と作るのか”にも試行錯誤があったようです。
製作の裏側②〜“動くガンダム”の構造の秘密〜
ここで、“動くガンダム”の構造を紹介。
モデルとなったのは、『機動戦士ガンダム』に登場した「RX-78-2 ガンダム」です。
全高は18mでビルの約6階建てに相当し、重量が約25tもあり乗用車約20台分の重さに相当。外装パーツにはFRP(繊維強化プラスチック)が使われ、ボディ内部の骨格となる可動フレームには鋼鉄が使われています。
ガンダムの背中腰部分には、全体を支える支持フレームが設置されています。このおかげで転倒せずに動くことが可能。また、支持フレームの上には、ボディの前傾運動の動きにつながる電動シリンダが付けられています。
そして、手首・指を除いて22の関節があり、それぞれの関節には、モーターと減速機が付属。この関節は、動くために重要な役割を果たしています。
製作の裏側③〜“歩く”ことの凄さ〜
ガンダムの動きで注目したいのが歩行シーン。
体重をコントロールして足を踏み出す、この動作の繰り返しが歩行です。人間は赤ん坊の頃に失敗をしながら感覚として歩行を身に付けていきますが、ロボットはそうはいきません。
歩行時に倒れないためには、バランス=重心のコントロールがとても大切。足が地面に付いている時は重心をコントロールできますが、床から足が離れると、コントロールできるタイミングが途切れてしまう。ロボットにとって、重心のコントロールをするのは、コンピューターであり、コンピューターに歩き方を教えるのがとても難しいのです。
また、歩く上で、重要な役割を果たしているのが関節です。関節を動かすにはモーターが必要であり、モーターは元々回転は得意としていますが、パワーを生み出すことは得意ではありません。そこで、モーターの回転速度を落として大きなパワーに変換する『減速機』を使用しています。良いモーターに合わせて、減速機を設計することから始まっており、歩くうえでも技術と苦労が詰まっているのです。
製作の裏側④〜ガンダムの外装ができるまで〜
”動くガンダム”は、内部の仕組みだけでなく外側にも様々な工夫が施されています。 外装は部位によって素材が使い分けがされ、腕と脚は軽さのある炭素繊維が含まれたCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を使用。頭部とボディには形状の自由度が高いガラス繊維が含まれたGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)が使われています。
また、外装パーツを作る際いきなり実物を作っていくわけではありません。初めはPCの3D CADで設計をし、イメージを具体的なデータに変換。次に、3Dプリンタで1/30の模型を作り、形状などを確認していきます。その後、より大きな1/10の模型を作り細部の意匠をチェックし、CFRP・GFRPを用いて実物大のパーツが製作されていくのです。
作り手たちがガンダムに込めた思い
ここまで紹介してきた“動くガンダム”の構造や仕組み、デザインは3名のDIRECTORの指揮によって進められてきました。多くの工夫や苦労によって実現した今回のプロジェクトは、彼らなしには語れません。そこで、それぞれの製作に対する思いを聞いてみました。
石井 啓範(いしい あきのり)
テクニカルディレクター。小学生の時にガンプラブームを経験し、ガンダム開発を夢見る。早稲田大学/大学院在学中に等身大ヒューマノイドロボットWABIANの研究に従事。1999年に日立建機株式会社に入社し、双腕作業機アスタコ、四脚クローラ式移動機構をはじめとする建機ロボット化の研究開発に従事。2018年からGGCにテクニカルディレクターとして参加(専任)。
ーーー今回のプロジェクトではどのような役割をされているのですか?
技術開発のとりまとめ、内部のメカ設計を担当しています。 フレーム設計やモーター選定等を行い、組み立て現場では協力各社への割り当てや調整などの旗振り役にもなりました。
ーーー具体的にどんな流れで設計作業が進んでいったのですか?
まず、ガンダムに何をさせるか、どんな動きやポーズをさせるか決めます。
それを実現させるための動きの稼働範囲やスピードを決め、テクニカルパートナーとして参加してくださっている会社さんへ落とし込みをしていきました。
各パーツには重さの制限があって、例えば手であれば重さ約200kgと決めたら、それを動かすために腕の長さ、肘や肩のトルク、外装のデータなどを揃え、計算・解析を繰り返しながら最適値を探り設計していきます。
ーーー苦労した点はどんなところですか?
各パートナー会社さんはとても成熟した技術を持っています。ガンダムとしてそれらの技術をどう組み合わせるか、がとても難しかったところです。しかし、どの会社さんも動かすことに積極的になって取り組んでくださいました。課題があれば、その度に解決策を提案し合い前向きにつくることができました。
ーーー設計するにあたり、元々のガンダムの動きをそのまま再現したのでしょうか?
すでにあるガンダムのデザインは動かすことを想定されていないため、そのまま動かすことはできないんです。そのため、内部のメカや外装デザインを変更する必要がありました。 しかし、ガンダムとして守るべきラインがある。それを実現させるためいろんな苦労と工夫がありました。
例えば、肩にはモーターが入っています。 本来ガンダムのこの部位にホイール形状の外装はありませんが、動かす上で必要なため意匠として新たに追加し,関節部にうまく納めています。
また、足首としてすねの中央部分にもモーターを入れています。ガンダムのすねはシュッとしたデザインでありとても重要な部分なので、モーターが外にはみ出ることですねのデザインラインを崩さないよう,フレームの形状を工夫しています。
ーーー今回の見所を教えてください。
“動くガンダム”を正面から、間近で見ていただきたいですね。動く瞬間のリアルさ、迫力を感じていただけると思います。
吉崎 航
システムディレクター。ロボット制御システム「V-Sido」開発者。2009年、IPAが実施した「未踏IT人材発掘・育成事業」の成果により、経産省から「スーパークリエータ」に認定。水道橋重工の「クラタス」など、数多くのロボット制御に携わり、2013年にアスラテック株式会社の立ち上げに参画。2014年から翌2015年にかけ、政府の有識者会議「ロボット革命実現会議」の委員として任命。
ーーープロジェクトでの担当と制作の上でのこだわりを教えてください。
動くための仕組み、動きそのものを担当しています。 普段は、小型のロボットからパワーショベルの遠隔まで幅広く制御を担当していますが、今回はそのどれとも違うシステムです。いかに、滑らかに有機的に、人間のように動かすか、という前提の元ではじまりました。”動くガンダム”で実現させたいポーズに合わせて、関節の数から決めていきました。
ーーー関節部分が重要になるんですね。
はい、事前に関節位置と動きを製作スタッフと共有するために、シュミレーターなどをイチから開発しました。そこから、必要な関節数やモーターの力を石井さんと協力しながら導き出し、滑らかに動かすためのどんなモーターや減速機が良いのか、またそれらの設定条件を詰めていきました。
ーーー製作時の工夫を教えてください。
新しいロボット工学、メカ設計、デザインとの組み合わせから最適値を探っていくようになります。
ガンプラと比べると、手足の割合は小さくて、頭はちょっと大きいんです。”動くガンダム”の関節や見た目のデザインには全て意味があるんです。
例えば、手先が軽い方が腕が早く動く、膝の位置が低い方が滑らかに脚が動くなど。
ガンダムから大きく外れてはいけない、でもガンダムに合わせようとして動きが悪くなってもいけない。そのために、デザイン・動き・メカのバランスが重要になっています。
ーーーガンダムの動く時、操作されているのですか?
ガンダム本体は、事前に決められたモーションに従って動くため操縦することはできませんが、手だけは外からの指令で動かせるんです。ちなみに、手の指はそれぞれ独立して動かすことができ、いろんな表現ができますよ。
ーーー苦労した点はどんなところですか?
メーカー同士の技術をつなぎ合わせることです。
手に使っているモーター、腕に使っているモーター、組み立て作業などそれぞれ担当しているメーカーが全て異なり、業界も様々です。そのため、話をまとめるのが一番苦労しましたね。しかし、世の中で誰もしてこなかった組み合わせでつくることで、全く新しいものができました。
ーーーそれぞれのメーカーの良さがあったからこそ、できたものなんですね。
その通りです。1社だけでできることではなく、メーカー同士が揃っただけでできるわけでもない。繋げることがとても大変なんです。すり合わせをしっかり行わないと、メーカー同士の技術は繋がらないんです。例えば“振動に強いけれど滑らかに動かない”というメーカーの技術と“振動に弱いけれど滑らかに動くメーカー”を組み合わせると、“振動に弱くて、滑らかに動かない”という結果になることもある。お互いの利点を活かすことができた結果、この“動くガンダム”ができたんです。
川原正毅
クリエイティブディレクター。乃村工藝社 クリエイティブ本部 NOC/NOTORA クリエイティブディレクター。エンターテイメント施設やキャラクターコンテンツを活用した集客空間づくりを主に手掛ける。映像・造形・照明など様々な演出手法を複合的に組み合わせたコンテンツ主体の空間を、企画プランニングからデザイン、クオリティ管理までトータルディレクションする。
ーーーガンダムとの出会いを教えてください。
1979年に始まったTV放映のガンダムをリアルタイムで見ていました。 当時、出たばかりのガンダムのプラモデルをよく作っていましたし、改造もよくしていましたね。
ーーーその頃の体験が、現在の活動に繋がっているのですね。
そうですね、当時の体験は、立体デザインの世界に入っていくきっかけにもなったと思います。現在は商業施設や博物館、テーマパークなどの企画や内装デザインを行っている乃村工芸社でクリエィティブディレクターを担当しており、これまでもガンダムの様々なプロジェクトに携わってきました。お台場潮風公園の実物大ガンダム立像も同様のポジションで担当していました。
ーーー今回のプロジェクトでの具体的にどんなところを担当していますか?
ガンダムのデザイン・演出全般を担当しています。
2009年の潮風公園の実物大ガンダム立像にも関わっており、当時多くの人からガンダムを動かして欲しいとの声をいただいていたため、今回それが実現してとても嬉しいです。
ーーー製作段階での印象的な場面を教えてください。
私は初期からディレクターとして参加していますが、石井さん・吉崎さんが加わり3名体制になったことがとても大きかった。それまで、どういう方と組んでどう進めていくか、悩ましい時期がありましたが、2人のおかげで物事が加速して動き出しました。国内でも“動くガンダム”を実現させるスキルとモチベーションを持った人たちはなかなかいなかったですから。
ーーー苦労した点はどんなところですか?
デザインをして、メカやモーターをつける際、それぞれの機械のトルク・パワーが決まってくるのですが、同時に制限も出てきます。その制限の中でどうやってデザインを成立させていくかがとても苦労しました。
ーーーどのように解決していきましたか?
軽量化ですね。軽くしないと、ものが作れない、動かせないことに繋がってくる。軽量化するための素材・デザインのあり方を探っていきました。現在のカタチに落ち着くまでに石井さんと1年ほどやりとりを重ねましたね。
ーーーそんな苦労や工夫を経て、初めてガンダムが動いた時、どんな思いでしたか?
動く前提で作っていたので予め想像はしていましたが、 足を踏み出す瞬間を見たときに、思っていた以上にスムーズでびっくりしました。 こんなに滑らかなのかと。
ーーーこれからガンダムを通じて、行っていきたいこと・野望を教えてください。
海外で次のガンダム立像プロジェクトが進んでいます。世界中にガンダムが広がり、世界中の子供たち・若い世代の人たちがものづくりに関わるきっかけになっていくと嬉しいですね。
いよいよ、ガンダムが動く!!
今回のプロジェクトの製作背景を知ったところで、ガンダムが動く瞬間に。
18mものロボットが立っているだけでもすごいことですが、どう動いていくのか、
間近で見るととても想像ができません。
アナウンスが流れ始め、ゲートが開く。
指令とコクピットによる掛け合いやBGMが流れ、自然と気持ちが高まっていきます。
ゲートが全て開くと、ガンダムが前方に1歩踏み出す。
ロボットの動きというとカクカクとしたイメージでしたが、滑らかでスムーズな動きに感動。
腕が少しずつ上がり、上半身を少しかがめるような体制に。
この大きさからは想像がつかない、上半身の細かい動きに目を奪われます。
両膝を曲げて、発進体制に!
一連の動きを見ていると本当にここから飛び出していくようです。
“動くガンダム”はGUNDAM FACTORY YOKOHAMAで
今回紹介した“動くガンダム”は2020年12月19日(土)〜2022年3月31日の期間、『GUNDAM FACTORY YOKOHAMA』で見ることができます。
本記事でも紹介した開発の裏側は、施設内の『ACADEMY』にも詳しく展示がされています。その他にも、オリジナルガンプラを中心に、横浜とのコラボ商品、オフィシャルブックなどを展開する『THE GUNDAM BASE YOKOHAMA Satellite』。横浜ならではのご当地グルメやオリジナルメニューを味わえる『GUNDAM Café YOKOHAMA Satellite』など見所が満載!
GUNDAM FACTORY YOKOHAMA
開催期間:2020年12月19日(土)〜2022年3月31日(木)
住所:横浜・山下ふ頭(神奈川県横浜市中区山下町279番25)
営業時間:10:00〜21:00(20:00最終入場)
入場料金:大人(13歳以上)1,650円(税込)、小人(7歳以上12歳以下)1,100円(税込)
GUNDAM-DOCK TOWER観覧料金:大人/小人(7歳以上)3,300円(税込)
https://gundam-factory.net/
※本記事で紹介している“動くガンダム“について、オープン時とは一部異なる特別仕様の演出になっています。
まとめ
登場から約40年を経て、動き出したガンダム。
「巨大ロボットが動く」その光景の裏側には、とても多く日本の技術と人々の情熱・苦労が詰まっています。一つの目標に向かい皆が協力して作り上げることで、日本のモノづくりが一歩前へ進みました。そして、見る人に感動や希望をもたらしてくれます。
まだ見ぬものを作っていくことは、成果以上に様々なものを生み出し、未来へと導いてくれるのです。
取材+文:LIG
撮影:長野 竜成