※この「キニレポ!」は、“気になるテック系イベント”に参加して、ざっくり概要をまとめてレポートしていく企画です。
こんにちは、レポーターのマサです。
皆さんは転職の経験がありますか?
「人生100年時代」と言われる昨今ですが、企業そのものの寿命は短くなってきており、「終身雇用」などという考え方はもはや崩壊しているといえるでしょう。
一つの会社に一生勤め続けることなんて難しいのではないでしょうか。
そうなると、ひとり一人が転職も含め「変化」していかなければならないですよね。
では、人生100年時代に、どう変わっていけばいいのでしょうか。そんなことを考えさせられるイベントがありましたので、参加してまいりました。
「ライフシフト」が示す未来
参加したのは、経済メディアNewsPicksが主催する「仕事2.0 ~人生100年時代の“変身力”~」というタイトルのイベントです。
登壇されていたのは、NewsPicks編集部副編集長の佐藤留美さんと、産業医の大室正志さん。佐藤留美さんが『仕事2.0』という書籍を出版したのを記念して開催され、その内容に基づく話が展開していきました。
NewsPicksのサイトより抜粋
まずは、現状の日本についての話から。
日本という国は長寿化が進んでいます。
いま日本で生まれる子供は、50%を上回る確率で105歳以上生きると言われており、平均寿命は10年に2年のペースで延びてきているのだとか。
ベストセラー『LIFE SHIFT』の著者であるリンダ・グラットン氏は、人生100年時代を迎えるにあたり、既存の「教育・仕事・引退」という3ステージの生き方は通用しなくなる、と書籍の中でも指摘しています。
確かに、老後の年金もなかなか期待できないなかで100歳まで生きるとしたら、「定年退職して引退できる日は来るのか?」と不安になりますよね。どうしても「仕事」というステージが長くなってしまうことになるでしょう。定年退職が80歳になる日も来るのかも知れません。
そして、定年後も100歳近くまで生きることを前提とした人生計画を立てざるを得ないわけです。寿命が来る前に手元資金が枯渇すると、路頭に迷うことになってしまいますからね。
さあ、私たちは会社で働き続けられるのでしょうか。
老後の資金をしっかりと貯めることはできるのでしょうか。
そもそも、働く=会社に勤めること、という常識は戦後に作られ、高度経済成長期に確立したモデルです。この“日本型雇用”とも呼ぶべきモデルと、近年の「人生100年時代」という考え方は相性としてあまり良くないと言えるのかも知れません。
“100年人生”を生き抜く働き方
では、100年人生を生きていくうえで仕事の時間が長くなるとして、私たちは何をしなければいけないのでしょうか。
仕事というものは時代によって変わっていくものですから、仕事をし続けるためには常に学びを続けなければなりません。
そもそも学びには3種類あると佐藤さんは言います。
・Learn(ラーン:学ぶ)
・Un-Learn(アンラーン:一旦捨てる)
・Re-Learn(リラーン:学び直す)
そして、このなかでも大人にとって大切なのは、Un-Learn(アンラーン)だとか。
仕事というものは時代によって変わっていくと書きましたが、現代は「知識」が短命化しているわけです。ですから、過去の経験にすがるのではなくて新しい情報や知識を学習するサイクルを速めることが必須になるというのです。
そして、新しい技能を身につけるためには過去に学んだ多くを忘れてしまわなくてはならない局面も大いにあります。
特に、過去にやって上手くいった成功体験。
これに縛られて、変化が起きても対応できない人が多いと言うわけです。
さらに、自身の能力開発につながる働き方としては「振り返りが重要だ」と佐藤さんは続けます。「学びとなる経験の総量を増やし、今の自分を振り返ることが大事だ」ということですね。
新しい経験をして、そこから何らかのフィードバックを得て知識や技術を血肉化してくこと。それこそが、能力開発に直結する働き方だと言うのです。
裏を返せば、大人が一番成長しない状態と言うのは、フィードバックが得られず、自分を振り返ることができない状態。
周囲の人が自分の発言にやたらと頷いたり、上司にダメだしされなくなったりすると劣化してきているということ。意識的に経験を増やしていくことが大事なのだそうです。
様々な舞台に上がること
経験を増やしていくという意味で重要な働き方の1つとして挙げられるのが、「様々な舞台に上がること」が有効だといいます。
舞台と言うのは、たとえば社内横断型のプロジェクトに参加して他部門の人の目に晒されてみたり、業界のセミナーに登壇したりすること。
厳しい観客の目を介してフィードバックを受ける仕事をすることで、徐々に成長していくというわけです。
また、他流試合も効果的だといいます。他流試合と言うのは、専門分野とは異なる講演会や勉強会です。
エンジニアの皆さんは自分の仕事に関連するプログラミング言語のセミナーや勉強会には行くかと思いますが、たまには専門分野とは異なる講演会や勉強会に行ってみてはどうでしょう。
そこで自分の専門と「新しい何か」を掛け算したら面白いかもしれない、と着想してみるわけです。
専門分野とは異なる場所というのは居心地が良くないかもしれません。しかし、居心地の良くない場所にこそ、新たな知識や研究のヒント、自分のオリジナリティが眠っている可能性があるのです。
また、自分をアウェーな状況に追い込むことは、時には恥をかくことであり、ある意味で痛みを伴うことでもあります。しかし、何度か書いている「フィードバック」というのは「耳に痛いことを聞いて、自分を立て直すこと」が本来の意味です。
筋肉が「筋肉痛」という痛みを経て大きく成長するように、耳に痛いフィードバックをたくさん受けられる環境に身を置くのが、自らの成長に繋がるというわけですね。
と、ここで追加のゲストが登場しました。
ワンキャリアの執行役員で『転職の思考法』の著者、北野唯我さんです。
上司を見るか、マーケットを見るか
働き方において重要なこととして北野唯我さんは、著書の中でも「マーケットを見るか、上司を見るかで人生が変わる」と書いていました。この考え方は、日本の会社員のあるべき変化を端的に表しているというのです。
これは具体的にどういうことかというと、次の通りです。
・上司を見る・・・上司の顔色をうかがいながら仕事する考え方
・マーケットを見る・・・自分のキャリアを自分で決めるという考え方
ビジネスのスピードが激しく、一方で人間の寿命が延びている昨今、人は生涯で2~3回転職するのは普通になります。転職が当たり前の時代を生き抜くには、“マーケットを見て仕事をすること”が欠かせないのです。
誰しも働きはじめると上司を意識してしまいますが、「初めての転職」というのが苦しく感じるのは、「マーケットを見る働き方に変えるのが大変だから」とも北野さんは指摘しています。
確かに、社会人としての経験が浅いと、業界の将来性などマーケットは見えづらいものです。その一方で、毎日一緒にいる上司の反応は見えやすいわけですから、上司の顔色をうかがっていれば仕事を続けられるかも知れません。
この点に関して、「今の世の中で起きている不祥事も、ほとんどが“上司を見るか、マーケットを見るか”という問題に集約される気がしますね」と佐藤さんが仰っていたのが印象的でした。
確かに、会社組織=自分の人生だと思い込んでしまって「ノー」という声をあげられない人は多くいるのではないでしょうか。北野さんも、「問題の根源は一緒だと思います。特に部活を一生懸命に頑張ってきた学生ほど、組織=人生という思い込みが強く、転職なんて考えつかなくなってしまいます」と続けていました。
「お前、そんなことで会社をやめていたら、どこに行っても通用しないよ」と口に出して言ってくる上司も少なくないですが、自分をしっかり持つのがポイントかも知れません。仕事は確かに大事ですが、仕事=自分自身ではないという考え方を持つべきなのでしょうね。
マーケットバリューの3要素
転職に関して、「市場価値」や「マーケットバリュー」という言葉を最近よく耳にしますが、北野さんの著書ではこのマーケットバリューを示されていました。
皆さんは自分の「マーケットバリュー」について考えたことがあるでしょうか? 難しいのは、日々働いていると自分の“価値”がどのように決まるのか分からないことです。
北野さんも仰っていたのですが、ロールプレイングゲームでは新しいステージに進めるかどうかは強さ・防御力・HPなどで測れますが、ビジネスパーソンの難しいところは何を基準にしていいか分からないわけです。
そこで次の3つの要素に整理するのを推奨しているようです。
・「技術資産」・・・専門性。マーケティングやファイナンスの能力、あとはリーダーシップや事業開発の経験などが当たります。
・「人的資産」・・・社内でどれぐらい信頼されているか、あるいは社外で「この人に仕事をお願いしたい」と思ってくれている人がどれだけいるかになります。
・「業界の生産性」・・・その業界がどれだけ価値があるか、ということです。
業界の生産性について「一番見落としがちですが非常に重要な要素です」と北野さんは仰っていました。
例えば自分の子どもに圧倒的なスポーツの才能があったときに、「どのスポーツをやらせるか」と考えるべきだと。
お金のことだけを考えた場合、日本であればまず野球で、サッカーでも微妙です。お金だけを考えた場合は、バスケは選ばない。ところが、場所が変わってアメリカとなれば、サッカーよりもバスケやアメリカンフットボールの方が大金を稼げる可能性が高くなったりするわけです。
どれだけ才能を持っていたとしても、業界によってある程度の“相場”が設定されている、ということですね。
マイノリティは大きなチャンス
才能という話になると「私の才能なんて、マイノリティだからマーケットバリューと言われてもなあ」という人もいるかも知れません。
しかし、北野さんはマイノリティこそ大きなチャンスだと言います。
例えば大企業で働いている時に辞めて飛び出してしまうのは誰しも不安でしょう。北野さんも20代の頃に博報堂を辞めたりBCGを辞めたりするたびに「なんで辞めちゃうの?」と周囲から聞かれたそうです。
転職した時には実際に年収も半分になり、「もう北野は終わった」「転職するなんて裏切り者だ」などと間接的に言われたこともあるのだとか。
最終的に転職したのは5人くらいの小さな会社ですから、まさにマイノリティですね。「博報堂やBCGを辞めて、なんでそんなところに…」とも言われたそうですが、そんなときこそが実は大きなチャンスでもある、といいます。
なぜなら、自分のなかで理屈が通っていても「なんでそんなことやっているの?」と言われる場合は、「世界の解像度が自分だけ高い」という状態でもあるからだと言います。先ほどのマーケットバリューを意識してさえいれば、誰かの論理に縛られる必要はないのです。
そして、「なんで辞めちゃうの?」という周囲の声については大室さんが「イソップ寓話にある“酸っぱい葡萄”の話にも通じる」と指摘していました。
「酸っぱい葡萄」というのは、キツネが葡萄の木についたおいしそうな実を見つけながらも、いくら跳び上がっても届かない悔しさから「どうせあんな葡萄は酸っぱくてマズイに違いない」と決めつけるという話です。
大企業に残る周囲の人も、そのキツネと似た心理を持っている場合が多そうですね。
キツネが“木になっているのは酸っぱい葡萄であってほしい”と願うように、「アイツはうまくいっていないに決まっている」と思い込むわけです。そして彼らは、その対象が本当に失敗したら、「ほら、やっぱり俺は転職しないで良かったんだ」と胸をなでおろす、というわけです。
「あんな葡萄、酸っぱいに決まっている」
そんな周囲の声には惑わされず、マーケットを常に意識していきましょう。そして、アンラーンしながら様々な舞台に上がり続け、自分の資産を高めていくべきなのでしょう。
ぜひとも変身を続けながら、「人生100年時代」を楽しく突き進んでいきたいものですね。
それではまた!
取材+文:プラスドライブ