※この「キニレポ!」は、“気になるテック系イベント”に参加して、ざっくりと概要をまとめてレポートしていく企画です。
こんにちは、レポーターのマサです。
皆さんは「10年後には今ある職種の約半分がなくなる」といった話を耳にしたことがないでしょうか。
実はこの話、2013年にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が書いた論文『雇用の未来』をきっかけに世界中で騒がれるようになったのだといいます。
そして今回、そのマイケル・A・オズボーン准教授が来日されてイベントに登壇するというので、行ってまいりました。
参加したのは東京・天王洲で開催されたこちらのイベントです。
AI時代を生き抜く!大人が身につけるべきFuture Skill
<登壇者>
オックスフォード大学 マイケル・A・オズボーン 准教授
早稲田大学ビジネススクール 入山章栄 教授
モデレーター エクサウィザーズ 石山洸 代表取締役
残念ながら写真撮影は禁止だったため登壇している様子の画像はありませんが、手元のメモをもとにレポートさせていただきます。
イベントはまず、オズボーン先生の話から始まりました。
「仕事の消滅」はすでに始まっている
2013年にオズポーン先生が発表した論文『雇用の未来~コンピューター化によって仕事は失われるのか~』では、コンピューターによる自動化が進むことにより、20年後の将来には47%の仕事がなくなるという結論を導き出していました。
しかし、それはあくまで「なくなる可能性が高い」という予測だったわけですが、あれから6年が経った現在、実際に何が起きているかという具体的な話をいくつか挙げていました。
例えば、中国では既に多くのメーカーが「自動化」の結果として労働力を最大40%も削減しているそうです。過去10年間で、200~300人の組立ラインの労働力をわずか数人に削減した企業もあると、イギリスのフィナンシャル・タイムズの記事を出しながら解説されていました。
<参考>China’s AI push raises fears over widespread job cuts
そして、「ファッションモデルの世界でもCGのモデルが活躍し始めている」と続けます。
オズポーン先生がスクリーンに表示したのは、とあるモデルさんのインスタグラムだったのですが、これが「imma(イマ)」という名のバーチャルモデル。頭部だけがCGでできているのだそうですが、人間と同じように人気を集めているとのことでした。
また、例に挙げたような工場の仕事やモデルの仕事などの「仕事」に限らず、「人間がやらなくていいこと」もAIに代替する動きがあるといいます。
例えば、お店への予約電話。
美容院や飲食店などのお店に予約をする、ということは皆さんもよくあると思いますが、Google Assistantが人間に変わってお店に予約電話をしてくれる「Google Duplex」というサービスも開発が進んでいるのだとか。
普段、自分の身の周りだけを見ているとあまり変化は感じないかも知れませんが、世界ではどんどんロボット化、AI化が進んでいるのだなと感じさせられました。
しかしオズボーン先生は「テクノロジーが進化しても、仕事そのものが消えてしまうわけではありません。失業率が47%になるわけでもありません」と続けます。
これはどういうことかと言うと、「テクノロジーが進化することで『人対人』のサービスへのニーズも増えていきます」ということ。
確かに、考えてみると身の周りの全てが機械に置き換わるというのは考えにくいのかも知れません。オズボーン先生はこんな話もしていました。「昔は皆が農業をやっていましたが、今は農業の割合は2%になっています。ですから、社会の就労数が減るのではなく、仕事が変化していく。そして、仕事に求められるスキルが変化していくのです」と。
この部分、これからは「仕事」が変化していき、そして「仕事に求められるスキル」も変化していく、というのが大きなポイントですね。
ここから、一緒に登壇されていた入山教授のお話に続いていきます。
仕事が変化するなかで考えるべきことは?
では仕事が変化する時代のなかで考えなければならないことは何なのでしょうか。
入山教授は『イノベーション』がキーワードだと言います。
イノベーションというと少しフワッとした表現に感じますが、要は“今まで通りではなく何かを変えなければいけない”ということですね。
変えるといっても、新しいことを考えたり生み出したりするのはとても難しいことのように感じますが、入山先生は「イノベーションの源泉の1つは『知と知の組み合せ』です」と仰っていました。
つまり、自分が持っている「知」に、どこかから「別の知」を持ってきて組み合わせることで、新しいビジネスモデルや商品・サービスを生み出していくわけです。そのためには色々な知の組み合せを試せた方がいいですから、私たちは常に「知の範囲」を広げていかなければいけない、と。
こういった動きを世界の経営学では「Exploration(知の探索)」と呼ぶのだそうです。
そして、知が生み出されたら今度は当然ながら収益を生み出すことが求められます。そのためには継続して深めていかなければならないわけですが、それは「Exploitation(知の深化)」と呼ぶのだとか。
「Exploration(知の探索)」・・・知の範囲を広げていく動き
「Exploitation(知の深化)」・・・知の深さを深めていく動き
ただ、現実には目先で成果を出すために今やっていることの「深化」ばかりをやっている人がはるかに多い、と入山先生は指摘します。
たしかに知の範囲を広げていく「知の探索」は、手間やコストがかかりそうなわりに収益に結びつくかどうかが不確実ですよね。だから及び腰になってしまっているのかも知れません。
ですから、イノベーションを目指すにあたっては「知の深化」は継続しつつも、一方で「知の探索」を怠らないようにしなければならないというわけです。
知の探索は、先ほども言ったように「別の知」を持ってくること。ですから、普段の“認知の外”に出なければなりません。
同じ会社、同じ学校といった同一の属性の人とばかりつるまない。
「こんな人に会ったことがない」というほど多様性のある人のところに飛び込んでいく。
そうやって、自らが持つ常識に捉われないよう多くの「知」を得ていくことが重要なのだと語っていました。
これからの時代を生き抜くためのスキルとは?
では、イノベーションを起こすためにより具体的にどのようなスキルを身につけるべきなのでしょうか。
オズボーン教授は次のようなスキルをバランスよく身につけるべきだといいます。
・戦略的学習力
・指導力
・社会的洞察力
・伝達力
・アクティブラーニング
先頭に挙げている『戦略的学習力』というのは、つまり「新しいことを学ぶためのスキル」。たとえば「効率のよいノートの取り方を知っている」などもそうですし、「専門家の知り合いが数多くいる」というのもそうです。とにかくシステマティックに新しいことを学べる力があるということ。
新しいことがどんどん増えてくる時代ですから、こういったものが重要だと言うのも非常に理解できました。
続いて入山教授は次のような話をされました。
「これからの時代、『知の深化』のなかでおこなわれる「ムダを省く」とか「確実に物事をこなす」という動きはRPAやAIに置き換わっていきます。ですから、わたしたちは『知の探索』のほうに力をいれるべきなのです」と。
そして、その『知の探索』をするうえでも重要なこととして「失敗をしまくること」と仰っていました。たとえばスティーブジョブズは、iPhoneを生み出した素晴らしいイノベーターとして知られていますが、音楽SNSの「Ping」や、「iPodシャッフル」など今はもう誰も使っていないような「失敗作」もたくさん生み出しているといいます。
確かに、もう使っている人を見かけません……
そして、仕事に限らず興味を持ったことは少しずつ色々とかじっていくことが大事だと続けます。“個人内多様性”とでも言うべきか、その人を表す“タグ”が多く、「何者か分からない」ような人になるべきだと。
そのためには、少しでも興味を持ったことに徹底的にパッションを持つことだと言います。AIにはパッションを持つことができないからです。
パッションに関連して、「これからの時代のグローバルプロトコル」についてもお話くださいました。「これからの時代のグローバルプロトコル」は、英語と数学。そしてさらには、表情に力をもつことだと。
なぜなら、肉体はロボットに置き換わり、頭脳はAIに置き換わるから。しかし、感情は人間にしかありませんから、「感情豊かな人間を目指そう」ということです。これも本当に仰る通りですね。
そして最後にお二人ともお話されていたのは、やはり「教育の段階から変えていかなければいけない」ということでした。義務教育で“AIができるようなこと”をやっていてはいけない、と。
興味を持ったことを徹底的に
具体的にどういった教育が良いかと言うと、一例として『モンテッソーリ教育』をあげていました。
『モンテッソーリ教育』というのは、医師であり教育家であったマリア・モンテッソーリ博士が考案した教育法です。
「子どもには自分を育てる力が備わっている」という「自己教育力」の存在がモンテッソーリ教育の前提となっています。
子どもは歩くことを教えなくても歩こうとします。積極的に環境に関わりながら様々な事柄を吸収していくわけです。こういった、子どもに内在する力を存分に発揮できる環境を用意してあげるのが『モンテッソーリ教育』だというわけです。
いま世界で活躍する、元Googleのラリー・ペイジ、Amazonのジェフ・ベゾス、Facebookのマーク・ザッカーバーグなども幼少期にこの教育を受けていたといいます。つまり、「興味を持ったことを徹底的にやらせてもらっていた」ということですね。
今回、お二人のお話を聞いて、大人でも「興味を持つことの重要性」を考えさせられました。
失敗を恐れず、興味を持ったことにパッションを持って取り組んでいく。そして、新しいことを学び続ける力をを持つ。そんな人の存在がこれからの時代は重要になっていくのだなと感じました。
皆さんもぜひ、学び続けていきましょう!
それではまた!
取材+文:プラスドライブ