こんにちは。ヨッピーです。
猛吹雪の中、失礼します。
突然ですが、皆さんはこちらの動画を見たことがありますでしょうか?
俺の卒業制作
— K / $ᴜᴢᴜᴋɪ (@BellTreeNursing) 2016年2月7日
書き時計 pic.twitter.com/NSBi45Lj77
リツイート数が18万弱(2017年2月現在)と、今まで見たこともないような数字になっております。
この「書き時計」は1年前の2016年2月に投稿され、瞬く間に全世界でバズりまくり、テレビ、雑誌、新聞など、様々なメディアで取り上げられました。
▼天才か!卒業制作「書き時計」に驚嘆の声 時計に時間を書かせる発想
http://withne.ws/1nX5TP1
▼「日本の大学生は天才か…」卒業制作『書き時計』に対する海外の反応いろいろ
http://labaq.com/archives/51864478.html
こちらのYouTubeの動画は、なんと再生回数100万超え!
そして、これらの反響を見た僕はふと思いました。
「バズると人生どうなんの!?」
いや、ほんとに。
当時、学生だった鈴木さんは現在社会人になられているということですが、やっぱりこういった有名な作品を残したことで企業から好待遇で出迎えられるとか、ある日いきなり街中で逆ナンされまくってモテるようになったとか、作品を2000万円で売っぱらったとか、そういう景気の良い話があったりするのでしょうか。
そんなわけで今日は、そのあたりの事情を聞くために、
山形県にある「東北芸術工科大学」にやって参りました。猛吹雪で死ぬかと思った。
バズって人生どうなった!?
こちらが、書き時計の作者・鈴木完吾さん。
今日は複数のメディアからの取材依頼もあって、卒業制作展中の母校に来ているとのこと。
今日はよろしくお願いします。ちなみに、書き時計を作った時の反響ってどうでした? 取材依頼とかいっぱい来ましたよね?
そうですね。数えてないので詳しい数字はわかりませんが、30社くらいかな……? たぶんそれぐらいです。
周囲の反響がすごかったとか、人生が変わったとか、そういうのがあったのかなって思ったんですけど。
うーん、別にそんなに変化はありませんでしたけど、なぜか周りの人から「先生!」って呼ばれるようになりました。
友達から呼ばれるんですか?
いや、近所のラーメン屋さんの大将からです。「先生! ウチにも時計、作ってくださいよ!」とか。
ラーメン屋の大将かよ! ちなみに鈴木さんは今、大学を卒業して社会人になってるんですよね。書き時計を見た企業からスカウトされて入社したとか?
いや、今は製品設計の会社で働いているんですが、書き時計を公開した時はもう既に今の会社で内定をいただいていて。そこに決めて就活は終わりにしたので、スカウトされて入社したわけではないですね。
へーー。あれを見たどこかの社長とかからばんばんスカウトされたのかと思ってた。「ウチに入りませんか!?」みたいな誘いってありませんでした? 時計のメーカーとか。
時計メーカーは書き時計を公開する前に面接を受けましたが、サクッと落ちました。
公開後に受けてたら、通ってたかもしれないですね。その会社、もったいないことしたな……!
時計メーカーではありませんが、●●(某有名企業)の方がわざわざ会いに来てくれて「ウチ、どう?」って誘ってくれたことはありましたね。今の会社で入社の約束をしてたからお断りしましたけど……。
おお……! やっぱりスカウトはあるのか……!
あとはなんかこう、ゲスい話ですけどお金がもうかったとか、そういう話があったりします? 書き時計を売ってくれなんて、言われませんでした?
書き時計を展示している時に、いかにもお金持ってそうなパリッとした老紳士が来て「これを譲っていただけないか」って聞かれたことはあります。ただ、書き時計はベータ版と言いますか、動作が不安定な部分もあって売り物にはできないと思ってお断りしました。
書き時計は全て手作業かつ木製ということもあって、かなり繊細でちょっとした湿度の変化で挙動が変わったりするらしい。
なぜ、書き時計を作ろうと思ったのか
こちらは鈴木さんの作品の第2弾。文字書き計時器「time castle」。
背面のレバーを押すと機構が動き出し、前面の磁気ボードに「0」を筆記する。1分経過すると「0」が消されて「1」を筆記、同じように、2分経ったら「2」、3分経ったら「3」を筆記して「3分」を計測できるタイマーとなっている。カップラーメンを作る時に便利!
手作業だと限界があるので、CNCフライス【※】を使って精度を上げたり、ところどころ金属を利用したりして動作を安定させました。書き時計の改良品と言いますか、完成度はかなり高いです。
【※】CNCフライス……数値制御 (Numerical Control) 装置を取り付けたフライス盤(工作機械)。コンピューターで数値をコントロールし、ほぼ自動的に切削加工を行うことができる。
おお……! 社会人をやりながらこれを作ったのか……。製作期間は?
5カ月くらいですかね。
やっぱり、こういうのを作るのが好きなんですね。
そうですね。もともと変な物を作るのが好きだったんですよ。
こちらは、2mmのシャーペンの芯をチェーン状に加工したもの。鈴木さんが手作業で作っている。
「ルパン三世」の消しゴムはんこ。再現度がすごい。
ちょっと前までは、こういうのを作って友達に見せて「わー、すごいねー」って言われるっていう、ただそれだけだったんですけれども、大学に入ってから先輩の梅村卓実さん【※】の作品を見て、衝撃を受けまして。僕もこういうの作りたい!と思って。
【※】梅村卓実さんの収穫 - 東北芸術工科大学
(http://www.tuad.ac.jp/sotsuten/2013/whatssotsuten/iv02.html)
梅村卓実さんの作品、木製振子時計「gismo」。
文字盤の機能のほか、時報の鐘も鳴るこの作品は、歯車一枚一枚すべてが手作りだそうです。これはかっこいい……!
これを見て、一から勉強していろいろと覚えたんですよ。「書く」っていう機構については前例がなかったので、試行錯誤して、考えて、やっとできたって感じでしたね。
歯車は面白い!
でね、歯車って、面白いんですよ。動きを計算して作って組み立てて、ちゃんと動いた時が楽しいんです。
うおー! 本当だ! すげぇ複雑な動きしてる! 確かにこれは面白い!
あとはこれとか。
この中心部分が逆回転しないよう周りに4つのストッパーが付いてるんですが、これは磁石の反発力を利用しているんですね。ネオジム磁石という強力なものを使っているんです。
事前に調べたところ、反発力が常に発生している状態だと磁力が弱まるらしいんですが、今のところ全然問題ないですね。
あとはこんな歯車や、
こんなのもある!
うおー! 楽しい!
でしょ。歯車って面白いんですよ……!
僕、YouTubeとかでアップされてる、ビー玉が延々流れてる動画が大好きなんですよ……! あれと同じような面白さがありますね。動きの面白さと言いますか。
ああ、「Marble Machine(マーブルマシン)」ですよね! わかります!
こちらが「マーブルマシン」。2000個のビー玉がレールの上を転がり、それが鉄琴の音板などに落ちることで音楽を奏でる。2017年2月時点で、再生回数3700万回。えげつないくらい再生されている。
そう! ピタゴラスイッチとかもそうですけど、こんなのってもうアートの領域じゃないですか! こういう動きのある作品をガーッと集めた展示会みたいなのってないんですかね!?
うーん。からくり人形を集めた展示会みたいなのはあった気がしますが、そういうのは見たことがないですね……。
ちょっと! やってくださいよ! 鈴木さんの作品があって、ピタゴラスイッチがあって、こういうマーブルマシンとかもあって、っていう歯車バリバリの動きのあるアート展! 絶対流行ると思います! 僕は見たいもん!
いやー、僕に言われても……!
いやー、これ、カネの匂いがするな……! 「大からくり展」みたいな名前でね、歯車バリバリの、動きの楽しい作品集めてね、おみやげコーナーでさっきの歯車を1000円くらいで売ればもうかるはず。僕1000円なら買っちゃいますもん。ぜひやってください!
いやほんと、僕に言われても……! 僕も、こういうのだけ作って生活できるようになればいいな、とは思ってますが。
そんな鈴木さんは現在、クラウドファンディングでパトロンを募集中!
▼からくり好き?俺は好き!鈴木完吾の製作奮闘記
https://camp-fire.jp/projects/view/22216
パトロンになると月に1回、製作物のアイデアや鈴木さんの生活についての報告書が届く。また、支援金額によっては、組み合わせると“いいもの”が完成するという謎の部品が送られてくる予定。
いやー、この“からくり”の世界、突き詰めていって欲しいなぁ……!
この歯車の美しさを見よ。
そんなわけで「バズってどうなるの!?」という問いに関しては「別にそんなに生活は変わらなかった」ということでしたが、バズったことによって、歯車に対する情熱がより深まったことは間違いなさそうです。
鈴木さんが言うには「書き時計は確かに一瞬でバズったけど、そこに至るまでは地味な作業と試行錯誤を繰り返したので、やっぱり毎日の積み重ねです」とのこと。
やっぱり、超絶な技術の裏には、たゆまぬ努力や情熱、膨大な時間の投資なんかが必要不可欠なのかもしれない。
皆さんも、鈴木さんに負けずにがんばってくれぇ~~~!
【取材・文】
ヨッピー + ノオト
ヨッピー
フリーライター。平日毎日更新のおばかサイト「オモコロ」にて体を張った実験記事を執筆。ほかにも「ジモコロ」「トゥギャッチ」などで連載中。ブログ「ヨッピーのブログ(仮)」 TwitterID「@yoppymodel」