この記事では、Pythonを使いこなしているエンジニアに活用方法や学びかたのコツについて話を聞いていきます。
普通の会社員でも手に取るようになったプログラミング本
――今回のパイセンは、編集プロダクションのリブロワークスさんです。まずは代表の小山さんに伺っていきましょう。リブロワークスさんというのはどういった会社なのでしょうか?
はい、弊社は“プロダクション”ですので、「本を作る」仕事を一通りやります。原稿の依頼や場合によっては内部で執筆し、編集、デザイン、DTPという工程を経て、印刷所にデータを入稿する。そこまでやっています。
リブロワークス代表の小山さん
――出版社とは違うんでしょうか?
出版社は「取次」と呼ばれる問屋を通して書店に本を流通させることができますが、当社はその直前までですね。出版社から依頼を受けて編集制作を行ってデータを納品する、という部分です。
――なるほど、出版社だけが本を作っているわけじゃないんですね。
もちろん出版社の中で完結するケースもありますが、それだけでは足りないので制作の部分をお手伝いしているのが編集プロダクションというわけです。
――ある出版社から出ている本の中身を、実はリブロワークスさんが作っている、ということが多々あるわけですね。
ええ、同じようなケースとしてテレビ局の番組制作があります。テレビ局は放送する免許を持っていて番組を作って放送します。でも、実際に番組を作るのは制作プロダクションなんですよね。それの出版バージョンと思っていただければ。
リブロワークスさんのホームページ
――じゃあ、多くの出版社と繋がっているのですね。
常時お仕事をしているのは10社前後ですね。
――どういった出版社が多いのでしょうか?
当社はIT系を得意としていますので、そういった技術書を出している出版社さんですね。IT系といってもWindowsの使い方とか、Excelの入門書とか、スマホアプリの作り方とか、フォトショップやWebデザインなど様々です。
――それにしてもIT系の本って増えていますよね。
いえ、増えてはいないですが減ってもいない感じです。出版業界は厳しいと言われますが、新しいIT技術はどんどん出てきますので需要は絶えません。だから、出版業界の中ではいい方かなと思います。ハードやアプリケーションのバージョンアップはあるし、プログラミングも新しい技術がどんどん出てきますし。
――そうか、iPhoneもどんどん新しいものが出てきますしね。
ええ、例えば「料理」っていうカテゴリは新しい食材が出てくることはほとんど無いですよね。でも、ITの世界ではあるわけです。ただ、同じジャンルの出版社さんも多いので過当競争気味でもあるんですけどね。
――なるほど、では読者層の広がりという面ではいかがでしょうか。最近は小学生もプログラミングをやる、と聞きますし。
まさに子ども向けのプログラミング本の依頼も最近増えはじめました。ただし、そこは競合も多いです。競合というのは本に限らず、プログラミング教室とか通信講座とかもそう。ですから、課題は親御さんにどうアプローチするかですね。本というのは総じてリーズナブルですから、勝算はあると思っています。
――プログラミングの本って、昔はゴリゴリのプログラマーが買っていたイメージですけども。
確かに。でも今は普通の会社員でもプログラミングの本を買いますね。仕事におけるスキルの1つとして見ていたり、業務を円滑にするために理解しようとしていたり。私たちも特定の層だけに出すのではなく裾野を広げたいとは思っています。
――プログラマーの人たちは昔も今も「最初は本で学ぶ」と言いますよね。
そうですね。その中でも最近はPythonが注目されているというわけです。
Python本の作り方はどのように変わってきたのか
――では、続いて制作を担当されている大津さんに伺っていきます。書籍を制作する立場からPythonという言語についてどう感じていますか?
まずPythonは「読みやすさ」を重視して設計されているのが特徴ですね。他の言語は書く人によってスタイルの違いが出てくることも多いのですが、Pythonは誰が書いてもバラつきにくいです。ですから入門者向けの書籍でも、かなり解説しやすいです。それから、ドキュメントが充実していますね。
制作を担当されている大津さん
――ドキュメントといいますと?
ドキュメントはプログラムの仕様が書かれたもので、公式的な資料と考えてください。例えばJavaScriptのドキュメントはMozillaのサイトやGoogleのサイトなどに情報が点在しているのですが、Pythonは公式サイトに情報が全てまとまっているので学びやすいですよね。
――なるほど、これまで色々な言語の本を制作されていますが、反響はどうですか?
JavaScriptについてはDTP・Web・スマホアプリなど色々使えるので定番人気ですし、VBAも手堅い人気です。でも今はやっぱりPythonが人気ですね。
――では実際にリブロワークスさんが制作に携わったPython本について教えてください。
はい、まずはこちら『12歳からはじめるゼロからのPython』ですね。3刷までいって好評です。
――これは萌えますねぇ。
このシリーズは当初は萌え系ではなかったのですが、出版社側からの提案でこうなりました。イラストレーターさんが頑張ってキャラクター設定まで考えてくれたので、なかなか楽しい本になっています。
――「12歳からはじめる」と書いていますが、実際は12歳の人だけが買うわけではないですよね。
そうですね。「子どもでも分かるぐらいなんだな」というニュアンスです。実際には大学生とか30歳~40歳くらいまで幅広くお読みいただいてます。
――Pythonでゲームプログラミングの本というのはあまり無いのでは?
Pythonでゲームを作るというのはあまり一般的ではないんですよね。ただ、ゲームは初めての人でもモチベーションを保ちやすい題材ですし、実用アプリの開発にも使われるTkinterを使用してバランスを取りました。
――続いてこちら、『いちばんやさしいPythonの教本』ですね。これはどういった特徴でしょうか。
「人気講師が教える」というコンセプト通り、セミナーの講師など他人に教える経験をお持ちの方に執筆をお願いしています。著者の皆さんは現場で活躍する開発者でもあるので、やさしいだけでなく、実践的なアドバイスも盛り込まれています。それに加えて、紙面も見開き完結で読みやすくして、図版も増やして、要点はフキダシコメントで入れて……と盛りだくさんの内容になっています。
――なるほど。手間がかかった一冊なんですね。あ、この本開きやすいですね。
そこは出版社さんのこだわりですね。プログラミングをしながらこの本を隣に置いて、開いたまま学ぶことができますからね。
「ふりがな」でPythonを学ぶとは、どういうことなのか
――そして最新の書籍がこちらですね。『スラスラ読めるPythonふりがなプログラミング』。
はい。「分かりやすさ」を追求していった末にできました。他の本でも分かりやすさは追及していましたが、「ふりがな」をつけるというのが今までにないアプローチです。
――これ、どういった経緯で「ふりがな」をつけることになったんでしょうか。
今までの本は、当社が担当したかどうかに関わらず、たいてい「サンプルコード」があって、本文で解説して、ときどきコード内のコメント文でも解説する……といった構成になっています。ところが、「細かい解説がない」という声が絶えないんですね。で、調べて見ると、本当に解説してないこともあるんですが、数ページ前でちゃんと解説していることが多い。前に解説していても、それが身に付いてないうちに読み進めてしまうので、結局わからなくなってしまうようなのです。
――なるほど、一度説明しただけでは足りないということですね。
そうですね。プログラムをはじめてやる人だと、「最初に説明したから後で言わなくても分かるよね」が通用しなくても不思議はありません。だからといって、全ページで毎回同じことをイチから説明していたら紙面がいくらあっても足りません。説明がくどくなって、かえってわかりにくくなってしまう危険もありますし。
――それはかなりゴチャゴチャしそうですね。
なので、「説明をふりがなという形で全てに付ける」というルールを決めてしまったわけです。そうすれば、毎回説明ができるじゃないか、と。
――なるほど、それで「ふりがな」にたどり着いたわけですか。
今までに色々とプログラミング書を作ってきた経験から出てきた視点ですね。「ふりがな」というのは。思いつきのアイデアだけでポンと生まれたわけではなくて、過去の蓄積から生まれた企画です。 ちなみに、「ふりがなじゃなくてルビでは?」という意見もときどき聞きますが、企画書の段階から「ふりがなプログラミング」と決めていました。ルビだと専門用語っぽいですし。
実際の企画書を拝見させてもらった
――おお、本当ですね。ふりがな以外にはどのような特徴がありますか?
ふりがな付きのサンプルコードは紙面のスペースを取るので、1ページあたり10行前後しか載せられません。それが結果的に解説のペースを落としていて、ゆっくり説明するというスタイルにつながっています。
――では、読んで欲しい人はやはり初心者ですよね。
もちろんそうですね。一般的な入門書の入り口部分で終わっていますので、まさに1冊目として手に取ってもらうと非常に良いと思います。言語習得の第一歩として踏み出しやすい本ですね。
――そして、一般的な入門書に進むと入りやすい、と。
そうですね。そうして入門書を手に取ったら、あとは実践を積みながら学び続けてもらうと良いかと思います。何でもそうですが、例えば泳ぎ方の本を読んだだけでは泳げるようにならなのと同じで、実践しながら学ぶのが一番ですからね。
――確かに。「ふりがな」は発売されたばかりですが、反響はいかがでしょうか。
商業、同人を問わず、プログラミング系の本を作っている方からの反響はものすごくありましたね。「これはすごい!」とか「やられた!」みたいなツイートもよく見かけます。プログラマーの方から「プログラマーがコードをどう理解しているかが言語化されている」という評価もありました。
――批判とかはないのでしょうか。
「ただ訳しただけじゃないの」というコメントは見かけました。実際にやってみればわかりますが、プログラミング言語を英語のつもりで訳しても意味は通じません。ですので、「どうふりがなを振るか」はかなり悩みながら決めています。そこは声を大にして言いたいですね。
プログラミングの本によって、努力をラクにさせてあげたい
――では再び代表の小山さんにもお聞きします。小山さんはこの「ふりがな」の企画についてどのように思われますか?
英語にしても漢文にしても、最初は文章の構造を理解するところから入るわけです。だからプログラミングもまず文章の構造を理解するところから入ってみよう、という考え方ですよね。全部に「ふりがな」が付いていますから、途中で休んでも復活しやすいのが特徴かと思います。イメージとしては自転車における補助輪ですよね。
――自転車の補助輪?
転ぶ心配をせずに乗る訓練ができるってことですね。補助輪が外せるようになるまでお手伝いする、という感じ。
――なるほど!この「ふりがなプログラミング」はプロからも評価が高いということですが、それはなぜだと分析されますか?
そうですね、我々は編集者でもあり著者でもありますので、今の時代にどういう本が最適なのかが分かりやすいというメリットがあるかな、と思います。現場に近いというのもありますし、20年くらい色んな出版社から初心者向けのプログラミング本を出していますので、その実績から分かることもありますし。
――評価だけでなく、実際に売れ方の反応としてはいかがでしょうか。
お陰様で、発売前に増刷も決まりましたし、紀伊國屋書店のIT書ランキングでは「ふりがな」のJavaが2位に、「ふりがな」のPythonは4位に入りました。
――おお、それはすごいですね!
ちなみに1位に入ったExcel本も当社が手掛けているんですけどね。
――わあ、ランキング独占しちゃってるじゃないですか!
いえいえ、まあ「ふりがな」は今までの蓄積があってこそですし、コンセプトが分かりやすいのが良かったのかも知れませんね。
――では、プログラマーに向けてこれからどんな本を作っていきたいとお考えですか?
そうですね。今までは、“難しくても試行錯誤しながら食らいついていく”ことで使いこなせるようになった人がプログラマーになっていました。ただ、これからは、それ以外の人たちでもプログラミングが必要となる時代になっていきます。ですから、可能な限りそのハードルを下げる助けになりたい。そんな本を提供できるよう、これからも努力を続けていきたいと思います。
――なるほど、リブロワークスの小山さん、大津さん、どうもありがとうございました!